なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第九部:大結界の中心

地下に眠る危険物

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とんでもないことを口にしたハーグルンド氏本人はいたって平然としている。

それほどの危険物が地下に埋まっていると分かっているのに、こんなデカい商館を構えて住み着いているくらいだから、よほど肝が据わっているのか、それとも実質的な危険は無いと考えているのか・・・
まぁ後者か。

「もし、その『魔力触媒』がいまだにラファレリアの地下に眠っているとしたら、ハーグルンドさんは恐ろしいとは思わないんですか?」
「いや?」
「なぜです?」
「もはやラファレリアは大都市です。埋まっている場所を特定するだけでも街を破壊し付くレベルで掘り返さなければならんでしょうな。それに、仮に見つけることが出来たとしても、魔力触媒を適切に利用する方法は分からないんですぞ? そんな危険物を誰が欲しがると言うのかと、そう思いますな」

「いや、錬金術師とか...」

「臨界量を超えさせずに『魔法ごとの適量』を見つけるためには、命が幾つあっても、いや、何人の錬金術師や魔法使いを犠牲にしないとならんのか、想像も付きませんな」
「ですが、魔道具に使う事とかは出来るんじゃ無いですか?」

「それは出来ましょうがねクライス殿。結局、どう扱えば安全かが分からんのです。魔法を使った術者が死ぬという話で無くとも、そこら中で魔道具が爆発し始めたりしたら目も当てられませんな」
「結局、危なくて使い道が無いから、誰も欲しがらないだろうと?」

「まあ、そういう事ですな。それに掘り出さなければ危険は無い。誰で有ろうと、さすがに街を壊してまで探そうとはしないと思いますぞ?」

いや違う。
常識的に考えればそうなんだろうけど、エルスカインは違う。

あの老錬金術師の話によれば、ヤツはそもそも、どこかの時点でラファレリアを破壊して住民を皆殺しにする予定らしいのだ。
躊躇する理由はカケラもないだろう。

とは言え、そんなことをハーグルンド氏に伝えてもなんの意味も無いよな。
それに少なくとも、恐ろしいほどの危険物が旧市街の地下に眠っていると分かっただけでも大収穫だ。

それにもしも・・・

もしもルリオンで、エルスカインの転移門からラファレリアに向けて、そうとは知らずに『精霊爆弾』を放り込んでいたらと思うとゾッとする。
ルリオンの『獅子の咆哮』を吹き飛ばすのも大災害を招いただろうけど、ここの地下も大概だ。
すでに大量の高純度魔石が集積されていて、恐らく『魔力触媒』も発掘されている場所で精霊爆弾が爆発したら、どれほどの悲劇が起きるのか想像も付かないし、ラファレリアという場所が地上から消滅したとしても不思議じゃ無いだろう。

それに、あの街区にいきなり飛び込んで暴れるって言うのも論外だな。
魔石矢はもちろん、普通に石つぶてを撃つことだって躊躇われるよ。
だけど、エルスカインの重要拠点にガオケルムを振るって飛び込んでいって、十分に戦えるんだろうか?

どうすればいいんだ?・・・

悩ましさに圧倒されそうになった時、それまで頭の中で考えていたこととは全く無関係に『なにかの知らせ』を急に感じた。
あれ?・・・
これってひょっとして?
初めて感じた感触だけど、それがなにかはすぐに理解できた。
誰かがガオケルムに近づいて、触れようとしている感覚だ。

「あっと、ハーグルンドさん。俺が階下のホールで預けた刀って、どこか別の場所に動かすように指示されてますか?」

「は? いや、そのようなことは」
「でもいま、誰かが俺の刀に触ってますよ?」
「なんですと?」
「なんだと!」

ハーグルンド氏とフィヨン氏の声がハモった。
その間にガオケルムに意識を繋ぐと、頭の中にガオケルムから『見た』周囲の情景が浮かんだ。
誰か見たことの無い男がガオケルムを握って台上から持ち上げようとしている。
男の視線は階段の方に向けられ、そちらには先ほどの執事番頭の男性が二階へ上がっていく後ろ姿が見える。

明らかにガオケルムを盗もうとしてるなコレ・・・じゃあ遠慮は無用か。

その時点でもう、ガオケルムを通じて何が出来るのかは俺にも分かっていた。
ガオケルムを通じて、握っている男の手に軽く衝撃を与えて麻痺させる。
気絶はしないけど、手足が痺れて動けなくなるくらいかな?

「そんなことが分かんのかいクライスさん!」
「ええフィヨンさん、あの鍔の魔法陣にはそう言う役目もあるんですよ」
「すげぇーな!」

いや、感心してる場合じゃ無いんだけどね?
なんて思ってると、ノックの音に続いて、二階まで上がってきた執事番頭さんの声がドア越しに響いた。

「ハーグルンドさま、フィヨンさまの工房の方が、お連れの方の刀を預かりにいらっしゃいましたが、お預けしてよろしいのでしょうか?」

「はぁっ? 誰だソイツは!」

フィヨンさんが怒声を上げつつドアを開けると、吃驚した表情の執事番頭さんを押しのけて廊下へ走り出た。
俺とハーグルンドさんも急いで後を追って廊下に出る。
まあ、慌てる必要は無いのだけど、フィヨンさんが心配するからな。

階段まで来たところで、ホール壁際にある台の足下に一人の男が倒れているのが見えた。
ガオケルムは二本とも床に転がっていて、件の男はその横でピクピクと痙攣している。

「エミール、貴様なにしてやがるっ!」

フィヨンさんがそう叫んで階段を駆け下りる。
おっと、名前を知ってるってことは本当に工房のお弟子さんなのか?

俺とハーグルンド氏が階段を降りきる頃には、フィヨン氏はエミールと呼んだ男の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。
凄いなフィヨン氏、脱力してる成人男性を片手でほとんど持ち上げちゃってるよ。

「その男性が先ほどやって来まして、『お連れさまの刀の修理の用意が出来たら受け取って工房に運んでおくよう事前に指示を受けていた』と、そう仰いましたので、確認のためにお声掛けしたのです」

おお、そこの確認はちゃんとしようとしたんだな・・・なら、この執事番頭さんに落ち度は無いだろう。
このエミールという男は、むしろ確認のために執事番頭さんがホールを離れる隙を狙ってガオケルムを持ち去るつもりだったに違いない。

「どーいうことだっ? なんとか言いやがれエミール!」

そう言いながらフィヨン氏がエミールという男をブンブンと揺さぶる。
うーん、自分の工房の弟子が俺の刀を盗もうとしたって状況だよね、コレ。

ガオケルムがどう言うものかを良く理解してるフィヨン氏としては、『どうせ盗まれることは無い』と安穏としている俺とは違って、はらわたが煮えくり返っているに違いない。

「あ、あの、お、親方...す、すんませんっ!」

「なんでこんな事になってる! おめーはクライスさんの刀をドコに持ってくつもりだったんだよ、ああっ!」
「そ、その...」
「盗もうとしたのは分かってんだから言い訳はいらねぇ。どうしてそんな大それたコトしようなんて考えたんだっ?」
「え、え、と」
「とっとと喋りやがれ、このクソ野郎!」

おお、マジで怒り心頭に発しているって感じだよフィヨン氏。
フィヨン氏は胸ぐらを掴んでいたエミールをそのまま片手で壁際に向けて投げつけると、床に転がっている大小二本の刀をそっと拾い上げて、俺に向けて両手で差し出した。

「ウチのモンがこんなことやらかしちまって、本当に済まねぇクライスさん! この落とし前はどうにでも付けてくれ。なんならコイツは斬り捨ててもいいし、俺に出来ることならどんな詫びでもさせて貰う」
「いや、そこまでは」
「だけどよ、ソイツは....」
「まあ結果的に盗まれはしませんでしたからね。と言うかガオケルムは盗めないように出来てますし」

「そりゃー話が違うぜ。よりにもよって、ウチの弟子がそれを盗もうとしたことが問題なんだ」
「まあ確かに。でもそのお弟子さん、本当にコレを盗んでどうするつもりだったんでしょうね? 売り捌くアテでもあったのかな?」

「だよなぁ...これほどの逸品がコイツの手で売り捌けるハズぁねえんだ。かと言って、いったい誰が今日の今日で、こんなこと指図出来るってんだ?...おいエミール! 死にたくなきゃーとっとと喋りやがれ」

「おぉ、親方、俺はその...」

「いいかエミール良く聞け。どうしてこんな事をしたか洗いざらい喋るんだ。もし、お前の喋ったことに嘘を感じたら、俺はお前の両手を炉の中に突っ込んで手首から先が炭になるまで焼く。言い訳や言い逃れをしようとしやがったら、両足もくるぶしから下が炭になるまで焼いて道端に捨てるぞ? 分かったなっ!」

おお、これは怖い。
いっそ殺されるよりも怖い。
手首から先とかくるぶしから下とか、ちゃんと死なないように手加減するってところが逆に怖い。

いまのフィヨン氏の剣幕なら、本当にやりそうだもん・・・
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