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第八部:遺跡と遺産
Part-3:マディアルグ王 〜 シンシアの名付け
しおりを挟む十数分後、後ろ手に縛られたティリルが男達に連れられフラフラと現れた。
目元は黒い布で巻かれ視界が塞がれていた。
駆け寄ろうとしたバリラとフラウットに蝙蝠少女ミューズが二人の足元へナイフを投擲して制する。
「会わせるとは言ったけど接触は許可してないわよ」
「……わかったよ!わかったから」
小剣をティリルの首に突き付けるミューズの目は酷く冷たく、無感情のまま殺せるのだと思い知らせていた。
レオニードとガルディは静観して成り行きを見守っている。
「バリラ、フラ。逸っても好転しない落ち着け」
「う、うん。わかってる」
レオニードに肩を掴まれたバリラは深く呼吸をすると、極力抑えた声でティリルへ話しかけた。
「ティル、無事で良かった。必ず助けるから!どうか辛抱強く待っていて!ね、お願い!」
哀願するように声をかける親友に元王女ティリルは微動だにせず、連れて来られたままそこに佇んでいる。
もう一度声を掛けようとバリラが口を開きかけた時、ミューズが黒い目隠しを解いた。
「ほら、なんか言ってやりなさいよ。お友達なんでしょ?」
憎らしい笑みを浮かべてミューズは解いた黒い布切れを指で弄びながら煽る。
ティリルはゆっくりと閉じていた瞳を開いてやっと口を動かす。
「……私は何も言いませんわ」
「ティル!?」
友人の口から放たれた言葉にバリラは固まる。
あまりの素っ気なさに愕然としてしまったのだ。
そしてティリルの瞳はどこか濁っていて、視界も定まっていない様子だった。
レオニード側は、人質ティリルが何らかの制裁を受けたのではと危惧した。
思わず咆えそうになるバリラだったが、友人の無事のため耐えるしかないと口をきつく噛む。
それから、ミューズ側は”話は終わっただろう”とばかりに侮蔑の視線を寄越すと洞窟の方へと去って行った。
連れ去られるティリルの背中を、バリラは暗がりに消えるまで見つめていたが仲間の声に我に返る。
「ごめん、私は冷静でいられたかな?」
「うん、だいじょうぶ。バリラは頑張ってたよ。必ずまた会えるから」
少し背の高いバリラの頭を、背伸びして撫でるフラウットは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と声をかけて歩いた。
***
敵国と対峙して半時。
ガルディ王とレオニード達は国境付近に移動して、野営の準備をしていた。
交渉時の緊張と数度の転移魔法で疲弊した一行は酷い倦怠感に襲われていた。
彼らは食事も碌に摂らず、軽く水分を口にして寝入ることにした。
さすがの獣人フラウットも寝ず番は交代することを願いでた。
何回目かの交代で起きたレオニードは、雲に見え隠れする星空を仰ぎ見て冷たい夜の空気を吸い込む。
「冬の空は澄むというけれど、本当だな……」
「錯覚だというのに……バカだな」
今にも落ちてきそうな星々は、手で掴めそうな距離に見えてレオニードは少し苦笑いした。
「何がおかしいのさ」
「!……バリラか」
きゅうに声を掛けられたレオニードは少々驚いた。小さな焚火を挟むように彼女は坐る。
「声かけくらいでビビッてどうすんの、寝ず番の意味ないだろ」
「悪かったよ、交代したばかりで寝ぼけ気味だったんだ」
「ふん」
バリラは火にかけたヤカンから湯を注いでフゥーフゥーと飲む、しかし、どこかもの足りそうな顔をした。
そういえば夕飯を摂っていないとレオニードも自分の腹を摩る。
魔法鞄を漁ると少し欠けたビスケットとフワフワな何かが指に触れた。
「……取って置きだけど仕方ないか」
レオニードは焚き木用の小枝を数本集めて拭うとアルモノを刺して地面に突き立てた。
バリラは眠そうな目を擦りそれをボンヤリ観察していた。
「なにをやってんだコイツって顔だな」
「ふん、だって何をやってるか意味不明だし。眠いしどうでもいいや」
バリラは寝ず番でもないのに起きてきて損したとテントへ戻ろうと立ち上がる。
だが、炙られたそれがプクリと焦げ香ばしい煙に引き止められる。
「なんだこの匂い!?甘くて良い香がする!」
「焼きマシュマロだよ、キャンプの御馳走のひとつさ」
パンパンに膨れ上がったソレを、レオニードはニヤニヤしながらバリラへと突き出してやる。
バリラは迷わずそれを受け取るとドカリと隣に座るやいなや食み始めた。
「アチチチッ!」
「はは、落ち着いて食え逃げないからさ」
蕩けて伸びてアツアツの焼きマシュマロはあっと言う間にバリラを虜にしていった。
「なにこれ!すんげぇ美味い!マシュマロってフワフワなだけじゃないのかよ!」
「はい、これも食べてみな」
焼きマシュマロのビスケットサンドがバリラを益々喜ばせていく。
かつてストロ村ダンジョンでフラウットと秘密のオヤツを食べたことをとうとう暴露した。
「んだよもう!ずっるいじゃんか!……はぁティルはご飯たべたかな。あの子にも分けてやりたいな」
「……」
急にしょ気たバリラにレオニードが言う。
「だいじょうぶってフラに言われたろ?」
「うん……」
「信じてやろうぜ」
「……うん」
「それにアレはティルじゃないしな。平気さ」
「……うん。……うっ!うん!?ど、どういうことさ!どういう意味なんだ!こら!」
レオニードの言葉に荒れに荒れたバリラの怒号が、惰眠を貪っていた連中を叩き起こしたのは言うまでもない。
目元は黒い布で巻かれ視界が塞がれていた。
駆け寄ろうとしたバリラとフラウットに蝙蝠少女ミューズが二人の足元へナイフを投擲して制する。
「会わせるとは言ったけど接触は許可してないわよ」
「……わかったよ!わかったから」
小剣をティリルの首に突き付けるミューズの目は酷く冷たく、無感情のまま殺せるのだと思い知らせていた。
レオニードとガルディは静観して成り行きを見守っている。
「バリラ、フラ。逸っても好転しない落ち着け」
「う、うん。わかってる」
レオニードに肩を掴まれたバリラは深く呼吸をすると、極力抑えた声でティリルへ話しかけた。
「ティル、無事で良かった。必ず助けるから!どうか辛抱強く待っていて!ね、お願い!」
哀願するように声をかける親友に元王女ティリルは微動だにせず、連れて来られたままそこに佇んでいる。
もう一度声を掛けようとバリラが口を開きかけた時、ミューズが黒い目隠しを解いた。
「ほら、なんか言ってやりなさいよ。お友達なんでしょ?」
憎らしい笑みを浮かべてミューズは解いた黒い布切れを指で弄びながら煽る。
ティリルはゆっくりと閉じていた瞳を開いてやっと口を動かす。
「……私は何も言いませんわ」
「ティル!?」
友人の口から放たれた言葉にバリラは固まる。
あまりの素っ気なさに愕然としてしまったのだ。
そしてティリルの瞳はどこか濁っていて、視界も定まっていない様子だった。
レオニード側は、人質ティリルが何らかの制裁を受けたのではと危惧した。
思わず咆えそうになるバリラだったが、友人の無事のため耐えるしかないと口をきつく噛む。
それから、ミューズ側は”話は終わっただろう”とばかりに侮蔑の視線を寄越すと洞窟の方へと去って行った。
連れ去られるティリルの背中を、バリラは暗がりに消えるまで見つめていたが仲間の声に我に返る。
「ごめん、私は冷静でいられたかな?」
「うん、だいじょうぶ。バリラは頑張ってたよ。必ずまた会えるから」
少し背の高いバリラの頭を、背伸びして撫でるフラウットは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と声をかけて歩いた。
***
敵国と対峙して半時。
ガルディ王とレオニード達は国境付近に移動して、野営の準備をしていた。
交渉時の緊張と数度の転移魔法で疲弊した一行は酷い倦怠感に襲われていた。
彼らは食事も碌に摂らず、軽く水分を口にして寝入ることにした。
さすがの獣人フラウットも寝ず番は交代することを願いでた。
何回目かの交代で起きたレオニードは、雲に見え隠れする星空を仰ぎ見て冷たい夜の空気を吸い込む。
「冬の空は澄むというけれど、本当だな……」
「錯覚だというのに……バカだな」
今にも落ちてきそうな星々は、手で掴めそうな距離に見えてレオニードは少し苦笑いした。
「何がおかしいのさ」
「!……バリラか」
きゅうに声を掛けられたレオニードは少々驚いた。小さな焚火を挟むように彼女は坐る。
「声かけくらいでビビッてどうすんの、寝ず番の意味ないだろ」
「悪かったよ、交代したばかりで寝ぼけ気味だったんだ」
「ふん」
バリラは火にかけたヤカンから湯を注いでフゥーフゥーと飲む、しかし、どこかもの足りそうな顔をした。
そういえば夕飯を摂っていないとレオニードも自分の腹を摩る。
魔法鞄を漁ると少し欠けたビスケットとフワフワな何かが指に触れた。
「……取って置きだけど仕方ないか」
レオニードは焚き木用の小枝を数本集めて拭うとアルモノを刺して地面に突き立てた。
バリラは眠そうな目を擦りそれをボンヤリ観察していた。
「なにをやってんだコイツって顔だな」
「ふん、だって何をやってるか意味不明だし。眠いしどうでもいいや」
バリラは寝ず番でもないのに起きてきて損したとテントへ戻ろうと立ち上がる。
だが、炙られたそれがプクリと焦げ香ばしい煙に引き止められる。
「なんだこの匂い!?甘くて良い香がする!」
「焼きマシュマロだよ、キャンプの御馳走のひとつさ」
パンパンに膨れ上がったソレを、レオニードはニヤニヤしながらバリラへと突き出してやる。
バリラは迷わずそれを受け取るとドカリと隣に座るやいなや食み始めた。
「アチチチッ!」
「はは、落ち着いて食え逃げないからさ」
蕩けて伸びてアツアツの焼きマシュマロはあっと言う間にバリラを虜にしていった。
「なにこれ!すんげぇ美味い!マシュマロってフワフワなだけじゃないのかよ!」
「はい、これも食べてみな」
焼きマシュマロのビスケットサンドがバリラを益々喜ばせていく。
かつてストロ村ダンジョンでフラウットと秘密のオヤツを食べたことをとうとう暴露した。
「んだよもう!ずっるいじゃんか!……はぁティルはご飯たべたかな。あの子にも分けてやりたいな」
「……」
急にしょ気たバリラにレオニードが言う。
「だいじょうぶってフラに言われたろ?」
「うん……」
「信じてやろうぜ」
「……うん」
「それにアレはティルじゃないしな。平気さ」
「……うん。……うっ!うん!?ど、どういうことさ!どういう意味なんだ!こら!」
レオニードの言葉に荒れに荒れたバリラの怒号が、惰眠を貪っていた連中を叩き起こしたのは言うまでもない。
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