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第八部:遺跡と遺産
ついでにシンシアも暴露
しおりを挟む「...と言う訳で、拿捕というか鹵獲というか、ともかく乗組員の全員一致で俺の仲間になってくれたセイリオス号の改修のために、スライと一緒にアルティントを訪れる流れになったんです。それが無ければ、いま俺たちはここに来ていなかったでしょうね」
エルスカインという強大な謎の存在と戦っているという予備知識が無ければ、『荒唐無稽』と言いたくなるほどの冒険譚だ。
さすがのジャン=ジャック氏すら、途中一言も口を挟んでこなかった。
それはエスメトリスが俺の横にいるせいかもしれないけどね。
「左様でございましたか...偶然とは凄いモノですなぁ...いや、人知に分からぬ事だからこその偶然でありましょうか」
「ですね」
「あの、御兄様...」
「なんだいシンシア?」
一通り話し終えたところで、ふいにシンシアから呼びかけられたけど、続く言葉が無い。
でも、シンシアの表情で彼女が何を言いたいのかは分かった。
「シンシアの出自の事も、もう話して構わないよな?」
「はい」
「パトリック王、先入観を持たれてはいけないと思ったので黙っていたのですが...」
そこまで俺が言うと、シンシアが言葉を引き継いだ。
「実は私は、ミルシュラント公国の君主、ジュリアス・スターリング大公の嫡子なのです」
「なんとっ!」
「誠にございますかシンシア殿!」
シンシアの突然の告白には、さすがにパトリック王たち三人が一斉に仰け反った。
「はい...隠していて申し訳ございません。勇者の行いに世俗の立場は無関係ですが、今回はパトリック・メシアン三世陛下に直接お目に掛かるという事もありまして、先入観を抱かれたくないという思いから伏せておりました。重ねてお詫び申し上げます」
「いやはや、これは驚きましたぞ...それにスターリング大公はまだ独身だと思っておりました」
「私の母は、リンスワルド伯爵家当主のレティシア・ノルテモリア・リンスワルドです。色々な事情がありまして、これまで正式に結婚していなかったのですが、ようやく母も大公妃となることに同意いたしましたので、まもなく公式に発表される予定です」
「重ね重ね、驚きですな...追求する気持ちはございませんが、リンスワルド伯爵殿はエルフ族だと聞き及んでおりますし、スターリング大公閣下は人間族のはず。きっと難しい問題もあったのでございましょう」
おぉうさすがパトリック王は、さりげなく鋭いな。
遠く離れたミルシュラント公国の一貴族に過ぎない姫様がエルフ族だってことも把握してたし・・・
まあミルシュラントみたいな大国の動向を常日頃から把握しておくことは、ポルミサリア諸国の君主にとっても必須なんだろう。
すでに姫様が日常的にキュリス・サングリアの王城で暮らしているってことも把握しているのかもしれない。
「しかし嫡子と仰るのならば、シンシア殿はいずれ大公位を継がれるお立場でしょうかな?」
「いえ、それは絶対にありません。私は一人娘の嫡子ですが、大公位を継ぐ気は一欠片もありませんし、父上も母上も私の気持ちを理解し尊重してくれています。恐らく後継者は親族から養子を取ることになるでしょう。それに...」
「それに?」
「私が勇者の妹というのは心持ちの話というか対外的な位置づけという面もございまして...本当は婚約者なのです」
「なんと! 左様でございましたか。なるほど、どうりで...いや、このパトリックも納得ですぞ」
「諸々お伝えしておらず、すみません...」
「なんの、なんの。気にされることはありませんぞシンシア殿」
なにがどう、『なるほど』とか『どうりで』なのかは良く分からないけど、迎賓館での一件以来、シンシアは機会さえあれば俺の婚約者だと吹聴し始めてる気がする・・・
もちろん俺にとっても嬉しいというかモヤモヤしてた肩の荷が下りたという感じだから問題ないけどさ。
「ですのでパトリック陛下。どうか私とミルシュラント公国、そしてスターリング大公家との繋がりは気にしないでいただきたいのです。あくまでも私は勇者の妹で将来の妻...ですので、国家間の関係には一切関わらず、勇者の一行として必要なことのみに専念すると誓います」
「もちろん信じますともシンシア殿。どうか気になさらぬよう」
「有り難うございます!」
「いや、礼を言うのはこちら側ですからな」
パトリック王は中々に奥深い御仁ではあるけれど、権力欲にまみれて権謀術策をこねくり回すタイプの君主では無いと思える。
まだ短い付き合いながら、そこは主君の人柄を映し出しているオブラン卿やジャン=ジャック氏を見ていても同様だ。
むしろシンシアがジュリアス卿の愛娘だと分かったことで、ミルシュラント公国からの侵略を心配する必要が無いどころか、場合によっては後ろ盾を得られる可能性を考えているんじゃ無いかな?
++++++++++
俺とシンシアの怒濤の暴露タイムが一息ついたところで、パトリック王がしみじみと言う。
「ふーむ...改めて思うが、もしもスライ・ラクロワ子爵が勇者殿の友人で無かったなら、サラサス王家、いや、サラサスという国が終焉を見ていたやも知れませぬな...」
「それは分かりませんけど、今回の偶然は、お互いにとって幸運だったと思いますよ」
「ですな」
「まあライノ、逆にエルスカインにとって不幸なことに予想外、予定外の邪魔が入ったってコトだろうけどな!」
「そうだな。俺もエルスカインの動きが中途半端なのは、明らかに準備不足のせいだと思うよ」
ここに眠る『獅子の咆哮』がエルスカインにとってどれほど重要なのかは分からないけど、今回、フェリクスが自ら乗り込んできた...あるいはエルスカインに送り込まれてきたのかもしれないけど...それも連中の急ぎ過ぎを示しているように感じるのだ。
「もしそうならライノ、今が攻め時ってコトだろ? 幸い、姉上も来てくれたしワイバーンどもも使えるなら戦力的に不足はねえし」
「出来るならエスメトリスには手を貸して欲しいけど、ワイバーンはどうだろうな? あれだけの大群が一度は支配の魔法にやられてる訳だから、二度目も無いとは言い切れないよ」
「我が命じるだけでは無理かクライス?」
「俺は、あのワイバーン達は一頭ずつ支配の魔法を掛けられたとは思えないんだ。幾ら俺たちとは関係なく前々から準備を進めていたとしても、時間が掛かりすぎるだろ?」
「ふむ...」
「だから、何か俺たちの知らない魔道具で、群ごと一気に支配されたんじゃ無いかな?」
「じゃあ、アーブルで俺を囲んだワイバーンの背に乗ってた魔法使いが持ってたような魔道具かな?」
「あ! そう言えばそのワイバーンと魔法使い達はどうなったんだアプレイス?」
「焼いて海に落とした」
「おぉぅ...」
「俺は姉上ほど優しくないから、戦いながら海上へ誘導して一気にブレスで片付けたよ。まあ、パルレア殿が奴らの魔法から守ってくれたから出来た話だけどな」
「私はアプレイスさんも、エスメトリスさんと同じくらい優しいと思いますよ? 海の上でやっつけたのは、下手に捕獲しようとして街中に落とすと民に被害が出るからでしょう?」
「う、ストレートにそう言われると照れるなシンシア殿」
「ほほう、アプレイスもシンシアからの信頼を得ておるのか。実に喜ばしいことであるな」
「茶化さないで下さい姉上...」
「でも不思議だな...どうしてエルスカインの手下どもは、アプレイスがブレスで攻撃してくることを考えてなかったんだろ?」
「防げると思ってたんじゃねえか?」
「お前のブレスをか? 俺とシンシアと二人でも、防ぐのは結構いっぱいいっぱいだったぞ?」
「つっても実際に防げてたじゃねえか。髪の毛一本、燃えてねえだろ?」
「まあそうだけど...」
「ただ、奴らの俺に対する突っ込み方からすると、『ブレスを防げる』って言うよりも、俺に『ブレスを吐かせるのを事前に防ぐ』って意図だったような気がするけどな」
「んんん?」
「俺たちドラゴンがブレスを吐く時のクセって言うか間合いの事は、ライノも知ってたじゃねえか」
「そうだったな」
「だから、闇雲に突っ込んできたのは『ブレスを吐く前に支配して押さえる』そういう作戦だったと思うぜ」
「なるほどな...」
「支配の魔法を仕込んだ魔道具がかなり遠くまで使えるとすれば、アイツらが俺に向かって一気に突っ込んできた理由も、ワイバーンの群をまとめて支配できた理由も納得できるね」
なるほど。
ワイバーンを群ごと支配するのに成功してたから、連中にはアプレイスも遠距離から支配する自信があったんだろうな・・・
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