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第八部:遺跡と遺産
フェリクスと地下牢
しおりを挟む「ほほう、それはお前がエルスカインに口をきいてくれるって意味にとっていいのかい?」
「ああ、エルスカインは俺の意志を尊重するからな」
「なぜだ?」
「うるさいぞ貴様! あまり舐めた態度を取っていると、我が配下にする前に消し去るからな!」
うーん・・・手勢として引き連れてきた大量のワイバーンの姿が周囲に見えず、さらに防護結界に閉じ込められてるこの状況で、まだ自分が逆転できると思い込んでる、と言うか、主導権を握れてると思い込んでるのか?
いっちゃあ悪いけど、ホンモノの馬鹿のような気がする・・・これまで聞いてきたフェリクスのプロファイルにはピッタリ一致してるけどね。
「シンシア、いまの中継装置の状態は分かるか?」
あそこの転移門を開いたってことは、今頃は膨大な量の海水がそこに流れ込んでいるハズだな。
もしそこがエルダンやソブリンのように、物理的に『地下』に造られている施設だとしたら逃げ道はないだろう。
支配されている魔獣達も道連れなのは少々心が痛むけど、こればかりは仕方ないもんなぁ・・・
リリアちゃんの件はイレギュラーだったみたいだから、まさかそこにアンスロープやエルセリアがいたりはしないと思うし、仮にいても攻撃用の魔獣と一緒に外に出されてここへ送り込まれるはずは無い。
凍結ガラスの箱の中にいれば水中だろうがなんだろうが、危険は無いだろう。
「はい御兄様。先ほどから中継装置が稼働し始めた信号が届いています」
「じゃあ海に?」
「です!」
「今頃は水浸しって訳だ...」
「正直に言って、そんな生やさしい状態では無いと思いますよ?」
それもそうか。
部屋の扉が開いたら向こう側が海の中だったって話だ。
つまり完全な水中・・・それなりの圧力が掛かって、相当な勢いで海水が流れ込んで来ていることだろうな。
中継装置が動き出してシンシアがちょっと嬉しそうな雰囲気だったことには気付かないフリをしよう。
「ちょっとした疑問なんだけど、中継装置ってシンシアが自由に止めたり動かしたり出来るのかな?」
「勿論です。でないと、さすがに海中に放り込む訳には...」
「だよねー」
魔石から供給される魔力が続く限り海水をどこぞに流し込み続けたら、とんでもないところに塩水の湖が出来かねない。
シンシアがそういったことに気を回してないはずもないよね。
「貴様ら、一体何を話している! 敵わぬと分かったなら早く俺をここから解放するのだ。態度いかんでは命までは取らんと約束しよう」
状況を飲み込めないフェリクスが口から泡を飛ばして喚き続ける。
さすがに細かな部分の尋問は、後回しにするしかないかな・・・
フェリクスの態度を見る限り、エルスカインへの忠誠とかカケラも無いっぽいし、宣誓魔法で縛られている感じもしないんだが。
とりあえず地下牢に放り込んでおいても大丈夫そうだ。
「いやフェリクス、もうお前に切り札は無いし、新しい身体を手に入れるチャンスも無い。大人しく地下牢に入ってろ」
「貴様! これ以上俺に向かってなめた口をきいてると許さんぞ! ワイバーンの炎で消し炭にしてくれる!」
「はいはい。パルレア、ちょっとコイツ黙らせてくれるか?」
「はーい!」
パルレアがフェリクスに向かって手をかざすと、即座に首をうなだれる。
もちろん気を失わせただけで害は与えていないから、俺が殴って気絶させるよりも遙かに人道的ってヤツだ。
「パトリック王、オブラン卿、コイツをここで喚かせ続けても仕方が無いですから、ちょっと地下牢に放り込んできますよ。この前見せて貰った場所です」
「承知しました勇者さま」
「恥ずかしながら我が息子とは言え、そやつの心根はとうの昔に人の範疇を外れておる。くれぐれもお気をつけ下され勇者殿」
「ええ、油断はしません」
防護結界を掛けたままで、気を失ったフェリクス王子を掴み上げて転移門に立ち、地下牢へと跳ぶ。
仮にフェリクスに鍵を壊す能力があったとしても、魔法を封じられているこの空間の中ではどうすることも出来ないだろう。
フェリクスを床に放り投げてから自分だけ通路に出ると、俺に放り投げられた衝撃で彼は目を覚ました。
「ここは...」
「王宮の地下牢だよ。お前はしょっちゅう気を失ってるよな」
「うるさい!」
まあ本当は、気を失ったのは彼のせいでは無いけれどね。
「あのなあフェリクス、お前が居室に隠していた転移門は、とっくの昔に発見して対策済みなんだよ。あの丸テーブルに仕込んであった転移門は海の中に繋がるように加工しておいたから、今頃は魔獣置き場も水浸しで、魔獣も魔法使いもみんな溺れてるよ」
「馬鹿なっ! 嘘をつくな!」
「嘘をつく意味が無いな。ここで何日待っていようと王宮に魔獣が現れることは無いから、すぐにお前にも分かる。それよりもフェリクス、さっき俺がホムンクルスを造っている場所は魔獣置き場と別のことかと聞いた理由がこれだ。その意味が分かるか?」
「はあ? 何を言ってる貴様?」
「もしも同じ場所なら、そこに保管してるお前の予備のホムンクルスの体も、新しい身体を作る魔道具も全部、なだれ込んできた海水に叩き壊されてるだろう。お前の人生は、その身体が老いると共に終わる」
まあ寿命が来る前に今度こそ本当に『死刑』になって、その身体が土埃になって蒸発するまで見届けられるだろうって気もするけど、そこはスルーだ。
俺はエルスカイン一味と戦っているのであって、サラサスの法に照らしての処遇は管轄外だからな。
「だがフェリクス、ホムンクルスがあるのは別の場所だと言うんなら、そっちは無事だろうな。俺たちにとっては潰さなきゃいけない場所が増えて面倒な話だが、幾つあろうとお前たちの拠点は全部潰すさ」
俺がそういった瞬間、フェリクスの顔がわずかに緩んだ。
ニヤリとしたとまでは言わないけど、明らかにホッとしたことが分かる。
こいつ・・・表情に出さないってことすら出来ないのか?
いや、俺だってスライから『ライノは顔に出る』って言われたから、あんまり人のことを言えないけどさ。
「ふん、あそこがそう易々と見つけられるモノか! 仮に探し出してワザワザ飛び込んできたところで、罠に掛かって返り討ちだ!」
おおっ、ホムンクルスの製造拠点が魔獣置き場とは離れてるってことまで、ちゃんと教えてくれた!
あと、罠も設置されてると・・・フムフム。
やっぱりエルスカインは、『本当に恐ろしいのは強靱な敵では無く、身内にいる愚か者だ』っていう格言を真摯に受け止めた方がいいぞ?
「どれだけ喚いたところで、お前は無力な捕虜だフェリクス。ここでエルスカインが助けに来てくれるのを待つ以外に出来ることは無いんだよ」
「それで十分だ。エルスカインがここを諦めることは無いからな。ここから解放された後でお前らの死体を探して回るのが楽しみだぞ!」
さすが自己顕示欲が強いってだけ有って、よく喋るなぁ・・・でも『自分には救援される価値がある』と確信しているとも言える。
それに、『島流し』にされた時と同じようにエルスカインの手で救援されるって希望が有るんだったら、ここで自殺する心配は無いよな?
フェリクスが妥当な判断を出来てるかどうかは分からないけど、バカだからと言って甘く見たのではこっちも同類だ。
なにか俺たちの知らない裏があると考えて用心するに越したことはないし、答えてくれるかどうかは別として、次に質問するのは少し状況を考えさせてからの方がいいだろう。
「言っておくけど、もしも『獅子の咆哮』が動いてヒュドラの毒ガスが王家の谷から噴き出した時には、地下に有るココは一番に毒ガスが充満する場所になるってことを忘れるなよ」
「なに!」
「こんな魔力の弱い場所で、ホムンクルスの身体もそうは保たないだろうな。アレが動くことが無いように祈ってろ」
「ふん、アレの動かし方が貴様らに分かる訳がない! 貴様らもそれを踏まえた上で俺の扱いを考えるんだな!」
「いや? 『獅子の咆哮』の動かし方はもう俺たちも知ってるよ」
「嘘をつくなっ!」
「だから嘘じゃ無いって。『物見櫓の高さ』をお前に聞く必要も無いんだ」
俺がそう言うと、フェリクスの顔色がサッと変わった。
わかりやすい!
「エルスカインも知ってるだろうし、アレがどうなるかは俺たちとエルスカインの行動次第だな。なんにせよ、もう、お前にはどうにも出来ないんだよ」
俺の煽りに、フェリクスが怒りに目を剥いて叫び声を上げた。
すでに情報的な要素は一欠片も無くてただの罵声だ。
黙って聞いていても仕方が無いので、無視して慰霊碑裏に戻ることにする。
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