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第八部:遺跡と遺産
空から見た王宮
しおりを挟むそして一晩が明けて・・・
実のところ、昨晩に続いて『朝食会』にでも引っ張り出されるんじゃ無いかと恐れていたんだけど、普通にメイドの方々が部屋に朝食を持ってきてくれたので、ちょっとホッとする。
もっとも、朝食時に今日の段取りをオブラン宰相と確認しようと思っていたから、そこは当てが外れた形だ。
廊下に控えている人達に伝言を頼むと、きっと本人を呼びつけちゃうことになるだろうし・・・食後に訪ねていけばいいかな?
とりあえず担当メイドさんに頼んで、朝食はスライの分も含めて真ん中の部屋にまとめてセッティングして貰い、ついでに部屋からスライを呼んできて貰う。
きっとスライは父上殿や兄上殿と一緒に酒でも飲むんじゃ無いかと思って昨夜は声を掛けなかったので、まだ彼にはアーブルに行く話をしてなかったのだ。
そしてみんなで一緒に朝食を摂りつつ、昨夜オブラン宰相と打ち合わせた今日の段取りを説明した。
「と言う訳でスライ、この後はアーブルに行くことになったんだよ」
「俺も一緒にか?」
「その方がいいと思う。ぶっちゃけ、ここでやることが有るんなら別だけどね。爵位関係の手続きとか相談とかさ?」
「それはどうでもいい」
「ま、そっちは急ぐことでもないだろうけど」
「って言うか俺の意見なんてどのみち関係ねぇんだから、俺がココにいてもいなくても変わらねえよ? 後で結果だけ教えて貰えりゃそれでいいさ」
「そっか。じゃあスライも一緒にってことで」
「相談なんだけどライノ、親父殿と兄上も連れてっていいか?」
「ん、もちろんだ」
「わりぃ。あの二人だけをココに残しとくのも、いろんな意味でチョイ心配でな...俺はこの後、親父殿と兄上に話をしに行くから、出掛ける間際に声を掛けてくれ」
「了解だ。出来るだけ固まって動こう」
エルスカインや、ひょっとしたら生き延びているフェリクス元王子が動き始めるとすれば、ヴァレリアン卿やアロイス卿をターゲットにする可能性もなくはない。
そうで無くても、彼等は上位貴族達からの誘いを断りづらいだろうから、根掘り葉掘り聞こうと、色々な連中に追い回されるかも知れないしな。
スライも口では色々言いつつも、親兄弟のことをちゃんと心配してるじゃ無いか・・・俺もちょっと安心したよ。
朝食が済んでスライが自分の部屋に戻り、メイドさん達にテーブルを片付けて貰った直後に、またオブラン宰相が部屋を訪ねてきた。
コッチとしても話したかったから有り難いんだけど、ひょっとして俺たちの朝食が済むのを近くで待っていたりしたんじゃ無いだろうな?
だとしたら重い。
「勇者さま、アーブルの練兵場には、馬場を使わずに空けておくようにと連絡済みです。アヴァンテュリエ号の警護体制も昨夜から整えてございまして、特に問題はございません」
昨夜から? あの顔合わせの後すぐに準備して出発して、夜中に現地に着いたらそのまま警備に当たってくれているのか・・・
なんて言うか、申し訳なくて頭が下がる思いだ。
「勇者さま方は、いつ頃アーブルへご出発なさいますか?」
「パトリック王やオブラン宰相に特に俺たちへの御用がないんでしたら、この後しばらく部屋で休んでから出ようと思います」
「畏まりました」
「それと、一応アプレイスには、王宮の中庭では無く、正門から城壁の外へ出てドラゴンに戻って貰います。万が一にも宮殿内の人に怪我をさせたりしたくありませんからね」
「お気遣い痛み入ります勇者さま。それでは後ほど...」
オブラン宰相が退室していった後、早速シンシアが小箱から銀ジョッキと『覗き窓の魔道具本体』を取り出した。
ヴィオデボラ以来だから見るのも久しぶりなのだけど、俺の記憶とはだいぶ形が違ってる気がするな・・・
「シンシア、なんだか操作台も大きくなってないか?」
「はい御兄様、銀ジョッキの『改二号』は覗き窓の本体側にも、さらに改良を施してあります」
「と言うと?」
「前回、ソブリンの離宮の地下やウルベディヴィオラの地下水道を探った時には、御兄様から『写し絵が暗い』という感想を頂きましたので、その点を中心に改良しました」
「あー、言ったかも...」
「そこで、マリタンさんの協力でプライバシーガラスの一部機能を取り込んだ、『ガラス画面』の魔道具を制作しました」
「画面?」
「はい、銀ジョッキから送られてくる写し絵は空中では無く、このガラス板の表面に映し出されます。銀ジョッキ側の『覗き力』も向上しましたし、今度の写し絵はもっとクッキリ見えるはずです」
「マジか!」
「マジです」
「なにから何まで凄いなシンシアはっ!」
「え、えへっ?」
どうして、そこで『えへっ』が疑問形なんだシンシア?
昨夜パルレアにあんなコト言われたからって、シンシアにはシンシアらしさがあるんだし、無理しなくてもいいんだぞ・・・
まあ、どんな言動でも俺にとっては可愛いけどな。
あと、コレは確かに『覗き窓の魔道具』として作り始めたものだけど、銀ジョッキの機能をストレートに『覗き力』って言うのはチョットどうかと思うので、他の言い方を考えたいところだ。
「とりあえずテストを兼ねて、一度ここで飛ばしてみますか?」
「そうだな。アーブルに行ってから慌てたくないし、ここですぐにヒントか何か見つかるんなら、その方がいい」
「はい、じゃあ銀ジョッキを不可視化して外に出します」
シンシアがそう言って本体の操作台を弄ると銀ジョッキが空中に浮かび上がり、そのままスゥッと姿が消える。
同時に、シンシアの前にある本体上の『画面』と言うガラス板には、室内にいる俺たちの姿が映っていた。
凄い、パルレアのちいさな顔の表情や、朝食を食べ終わった途端にソファで横になってるアプレイスの睫毛までハッキリ分かる鮮明さだ!
「おおっ、これが『改二号』の写し絵か! 前のより格段に鮮明になってるよなシンシア!」
「はい、銀ジョッキ側の『目と耳』、それに映し出す『画面』の両方が高品質になっていますから。それと今回の目と耳は、ガラス板の画面に映す途中で写し絵を記録することも出来ます」
「記録って...後から見直したり出来るってコト?」
「そうです!」
「そいつはきっと何かで役に立つぞ!」
「更にヴィオデボラでの船員さん達の避難誘導に手間取った教訓を踏まえて、発話装置も組み込みました。これで銀ジョッキを通じてこちらの声を聞かせることも出来ます」
「何から何までホントに凄いな! ヒップ島に着いてからも、まだそんなに日にちが経っている訳じゃ無いのに、アッと言う間にここまで改良するなんて、もうホントにホントにシンシアは凄いよ」
「ありがとうご...えへっ!」
そこはわざわざ言い直さなくていいんだよシンシア・・・
あと、『えへっ』は二回連続で使わない方がいいと思うぞ。
どこまで性能を高めていくのか、シンシアが操作する眼前の『ガラス画面』には、瞬く間に銀ジョッキが高度を上げて王宮全体を視野に収めていく様子が映し出されている。
真っ昼間・・・と言うよりも、まだ朝か。
明るい陽射しの中ではあるけれど、シンシアの不可視結界やマリタンの隠蔽魔法が王宮魔道士たちに見破られる恐れがあるとは、露ほども心配していない。
なにしろ、アクトレス号に乗り込んでいたホムンクルスの魔法使いにも見破られなかったんだからね。
それよりも心配すべきはエルスカイン側の作った『獅子の咆哮』の探知能力だけど、俺たちがアプレイスと一緒に慰霊碑の真ん前に降り立っても何の反応も無かったのだから、これまでの所は大丈夫そうだ。
もっとも、獅子の咆哮が本当に起動した後だったら分かんないケドな・・・
「どの位まで高く上げますか?」
「まず、城壁の円周が一望できるくらいまでだな。もう一度、全体の配置とかを見直したいんだ」
「わかりました」
銀ジョッキが更に高度を上げ、日頃アプレイスが飛んでいるような高さに近づく。
ただしアプレイスの背中から見下ろしている時との違いは、銀ジョッキの視野が何者にも邪魔されずに『真下』を向いていることだ。
アプレイスの背中からだと、どうしても翼や胴体を避けて斜めに見下ろす感じになってしまう。
銀ジョッキにはそれが無いから、自分が飛んでいる時と似たような感覚だな。
「本当に、まん丸ですね!」
シンシアが感嘆する。
なにしろ城壁の範囲がやたらと広いからね。
言葉で聞いていたのと、実際に目で見るのとは随分印象が違うだろう。
「だろ、シンシア。この広さでちゃんと真円を描いてるって事は、かなり精密に測量したんだろうな」
「ええ、数百年前と考えると大したモノだと思います。もっとも、それもエルスカインの手助けがあったのかも知れませんけど。そして中心に『獅子の咆哮』の小山があって...城壁の外側は草地なんですね」
「基本的に、城壁の外側には木々を茂らせないんだよ。森に敵が潜みやすくなるし、障害物が多いと迎撃しにくい。それに密偵が高い木を登って城壁を越えるかも知れないだろ?」
「あ、それで城壁の周りを、正門前みたいに開けた草地にしてるんですね」
「そうそう」
「逆に内側は木が多いですね。庭園と言うには広大過ぎる面積ですけど、ちゃんと木々も育てられているし、整然とした印象を受けます」
「配置が対称的でスッキリしてるよな!」
「対照?...あ、えっと御兄様...気のせいかも知れませんけど...」
「なんだい?」
「城壁内の様子を真上から見ると、なんだか昨夜の...マディアルグ家の紋章のように見えませんか?」
「えっ?」
シンシアにそう言われ、改めて銀ジョッキの写し絵をまじまじと観察する。
城壁の描く円が紋章の形って事か?
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