なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

文字の大きさ
上 下
703 / 922
第八部:遺跡と遺産

会見の後

しおりを挟む

あの会見の後の俺達は、謁見の間で上級貴族達に揉みくちゃに・・・物理的にでは無く精神的に・・・されていた。

人払いで部屋から追い出されていた貴族や官吏の人々との会話は多岐に渡ったけれど、その全てを一言で言い表すことが出来る。
つまり、『不毛』ってヤツだ。
本当なら片っ端から、フェリクス王子と魔獣による襲撃事件とか王家の谷のこととかを知ってる人を探して小一時間ほど問い詰めたい・・・もとい、話を聞きたいところだけど、俺たちの訪問内容を秘密にする以上はそうもいかない。

軍船を借りる件はどのみち噂を広げることが前提なので、『勇者さまはサラサスへ何をしに来たのか?』としつこく聞いてくる相手には、『南洋を探索する必要が出たので長期航海が出来る船を借りに来た。何を探すのかはまだ言えない』と、それ一辺倒で押し通した。

それでも、すぐ脇にパトリック国王とオブラン宰相が一緒にいてくれたからこそ、浮ついた話を求めてウルサい貴族達も詮索を控えめにしてくれたんだろう。

それに少しでも調子に乗った発言をすると、即座にジャン=ジャック氏にバッサリとやられてたし・・・
あれはキツい。
恐らくほとんどの分野において、彼の前で『知ったかぶり』をするのは自殺行為だな!

ジャン=ジャック氏の快刀乱麻ぶりは、側で見ているだけでも居たたまれなくなることが時々あったけど、『勇者の妹で美少女魔法使い』なシンシアになんとか近づこうとする阿呆貴族たちを蹴散らしてくれていたのもジャン=ジャック氏だから、俺としては有り難く感じてもいる。

あの連中、もしもシンシアの『貴族的な意味での正体』を知ったら、どういう態度をとるんだろうな?
大国ミルシュラントの大公の一人娘で、かつ伯爵家の跡取り、つまり次の当主だ。
それでもなんとか自分の息子に引き合わせようとかするのなら、その度胸と思い切りの良さには敬意を払うが・・・

それはともかく、高慢ちきな上級貴族達を平然と衆人環視の中でコケにするジャン=ジャック氏は大勢の恨みを買っているんだろうけど、本人は何処吹く風。
からかわれたことに苛ついた貴族が迂闊に反撃しようとすると、更に倍くらいになって戻ってくる感じだな。

でも将来、年上のパトリック国王が崩御することがあったら、その日のうちにどっか外国へでも亡命した方がいいと思うよ?
ミルシュラントで良ければ、俺とシンシアがジュリアス卿に口添えするからさ・・・

++++++++++

興味津々の貴族達からようやく解放されたあと、俺たちは賓客として王宮内の客間をあてがわれていた。
ここは城壁と一体化している部分では無く、内側に向けて別棟として延びているウイングだけど、一室だけでなくフロア全体と上下の階も貸し切りだ。

上下は別にいらないだろ? って思ったんだけど、オブラン宰相いわく『緊急時の秘密の通路がごにょごにょ...』とかで、保安上の都合らしい。
要は、客間からコッソリと出入りが出来る『秘密の通路』が、あらかじめ作られているってコトだな。
そのことが後で俺達に露呈して不興を買うよりも、先に教えといてしまおうってことのようだ。

そもそも俺たちには結界があるし、王宮なんて、どんな秘密の構造があっても別に驚かないけどね・・・

俺たちの借りた部屋は、それぞれにソファやダイニングテーブルのある居間と、二つのベッドがある寝室と、さらに独立したバスルームも付いている三つの客間が続き部屋になっていて、客間同士を区切る壁に付いている扉を両側から開け放てば、廊下に出ることなく互いの部屋を往き来できる。

大勢の家族や家臣を連れて訪れた貴賓なんかに対応するための仕組みだろう。

ヴァレリアン卿とアロイス卿、スライも同じ棟の別部屋だけど、こことは作りが違っていた。
念のためにパルレアと一緒に各部屋を回り、室内外に妙な気配が無いかを確認してから結界を張っておく。

「で、ライノ。これからどうする?」

アプレイスがソファに寝転がったまま、窓に顔を向けて空を見上げている。
さすがに彼もチョット疲れてるな。
シンシアもゲンナリしているけど、パルレアとマリタンは元気だ。
だってパルレアは人々が押し寄せてくると同時に革袋に飛び込んじゃったし、マリタンはずっと普通の本のフリをして黙ってたからね。

いや、マリタンに対して『元気』とか『疲れてる』って言う尺度を当て嵌める方が不自然かな?

「特に予定は無いんだけど、オブラン卿は今日中に見張りの騎士達を選抜するって言ってたから、その顔検分をしないとだな」

「慰霊碑はこのまま放っておくのか?」

「あそこにはシンシアが探知結界を張ってくれているから、もし変な奴が近づいたら分かるよ」
「いつの間に?」
「謁見の間へ戻る間際にですアプレイスさん。方位魔法陣と組み合わせてあって、どちらから、どの程度の人数が近づいているかも分かります。まだ、あの周辺にエルスカインの転移門は設置されていないようですから、手下のホムンクルスが『橋を架ける転移門ブリッジゲート』を設置しに来れば、すぐに分かるでしょう」

「そりゃいいね。交代で見張らなきゃいけなくなるかと思ってたぜ」

もしもフェリクス王子が存命で、勇者の一行がルリオンを訪ねたって話が伝われば、すぐに動きが出るだろう。

「それにしても、一番大事な慰霊碑の裏にエルスカインが転移門を張ってないのはなんでだろうな?」
「もしものため、では無いでしょうか御兄様」
「ん?」
「橋を架ける転移門《ブリッジゲート》は双方向ですから。フェリクス王子と言う人が本当にうつけ者で、万が一にも毒ガスを放出し始めてからゲートで移動しようとしたら、転移先もタダでは済まないかと」

「あー、なるほどな...」

聞いた感じ、フェリクス王子の粗忽さだったら、ありえそうだよ。

「なるほどねぇ。まぁ騎士達のホムンクルスを見分けるのはライノとパルレア殿に任せた方がいいだろうし、あとは飯食って寝るだけか」

「アプレイスが食事を気にするなんて珍しいな!」

「いやなに、スライ殿が言ってたルリオン名物の『ワイン煮』ってやつか? どんなものなのか気になってな」
「へぇー」
「ねーお兄ちゃん、ワイン煮を食べながらワインの飲み比べとかしたらゼッタイにサイコーだって思わない?」
「いやパルレア、お前の趣味に合わせるなら、干し葡萄のタルトとワインだろ?」

「あーっ! それ食べたーい!」

「まあ、王宮の食事でメニューをリクエストする訳にも行かないし、それは街に行く事が出来てからな? それに、きっとここでも美味しいものが色々と出てくると思うぞ」
「うん!」
「しかし...俺達ドラゴンは魔力さえありゃ生きて行けるし、昔は肉の味なんて気にした事なかったんだけどなぁ...ライノと出会ってから色々変わったぜ」

そうは言うけど、元からアプレイスは面白い視座と考え方を持っていた奴だ。
俺達と一緒にいる事で、それがちょいと刺激されたって感じなんだろうな。

「まあ、食事が先でも顔検分が先でも、オブラン宰相の使いが呼びに来るのを待ってよう。なんならアプレイスは昼寝、いや午後寝でもしててくれ」

「言い直さなくていいぞライノ...」

「ところで御兄様、ここにも転移門を開いてしまって構わないですか? まだ時間の余裕があるのでしたら、いったんヒップ島に戻って、ここに持ってきたいものがあるんです」
「いいと思うよ。パルレアの結界も効いてるし、妙な探知に引っ掛かったりはしないと思う」
「へいきよー、シンシアちゃん」

「わかりました。では行ってきます」

シンシアがサクッと転移門を開いて跳ぶ。
これであの慰霊碑も隣の部屋にあるのと同じだな・・・全然嬉しく無いけど!

することもなく退屈を持て余したパルレアが再び革袋に飛び込み、俺もそのまま部屋でゴロゴロして居ると、しばらくしてドアがノックされた。
てっきり宰相の使いが来たかと思ったら、入ってきたのは謁見の間に居残りさせられていたスライだ。

パトリック国王はスライの叙爵を『肩書きだけ』の名誉貴族的なことにするつもりはなく、ちゃんと領地や王宮内の階位も与えるから、その相談と調整も必要って理由だった。
それに、叙爵の儀はもう済ませたことにしてしまったものの、他の上級貴族や官吏達にも経緯は教えておいた方が良いと言うコトだったんだけど・・・

なんで、そんなに疲労困憊してるんだよ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜

優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、 戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。 本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、 皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、 剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。 彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...