なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第八部:遺跡と遺産

王と一緒に現地確認

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御三方とヴァレリアン卿、アロイス卿がじっと見守る中で、シンシアがサクッとその場に転移門を開いた。

「おおっ!」

魔法陣が浮かび上がると同時に、五人の感嘆の声が見事にハモる。

シンシアは自前の魔法とメダルに組み込んだ魔法を上手く組み合わせ、丸く並べられた椅子ごと全員を防護結界と不可視結界で包み込むと、前回、俺が慰霊碑の裏に開いておいた転移門を見つけてそのまま跳んだ。
さすがシンシア、微塵の躊躇いも無いね。

「こ、これは!」

御三方が椅子に座ったまま、首を捻って周囲を見回す。
黒い凝結壁の壁と、同じく黒い石碑の背面とに挟まれた空間だ。
ヴァレリアン卿とアロイス卿は、これで二回目の転移だから落ち着いて座っているね。

「大精霊の力を借りた転移魔法です。どうか内密にお願いしますね」
「か、かしこまりましたぞ...」
「ここに来たのは、年に一度の慰霊祭の時以来だなユベール」
「ええ」
「いま俺たちの姿は不可視の結界に包まれているから周囲の人間には声も姿も分かりません。仮に見回りの衛士が慰霊碑の前を通っても気が付かないから、どうぞ安心してください」

「まさか転移魔法とは! スゴいですなぁ勇者さま方のお力は!」

そう言ってジャン=ジャック氏が椅子に座ったままで『驚きのポーズ』を取った。
生まれて初めてだろうに、転移したことに大して衝撃を受けてないとは・・・ふざけた態度ではあるけど、実は相当に肝の据わってる人物だ。

「それでは稀代の魔法使い、シンシアさまの頬に御礼のキスを!」

そう言ってジャン=ジャック氏が笑いながら椅子から腰を浮かせる。
彼がおどけているのは分かってるから俺はなにも言わなかったけど、シンシアが顔をしかめると同時にアプレイスがボソッと口を挟んだ。

「アンタ死ぬぞ、ジャン=ジャック殿」
「え?」
「シンシア殿に手を触れたらライノが黙ってないよ。燃えカスも残らないって覚悟しといた方がいいね」

なんの感情も交えずに淡々と言うアプレイスの口調が、かえって怖いよ。

「おぉーいアプレイス。そういう大袈裟なことを言うなってば!」
「いや大袈裟じゃ無いだろ?」
「だよな。俺も前にライノの口から『シンシア殿に手を出す奴がいたら灰も残さない』って聞かされたぜ?」
「スライ...」
「アタシも知ってるー!」
「あのなあ...いまはそんな冗談を言ってる場合じゃあないだろ...」
「冗談?」
「あー、もう分かったから! 謝るから! 暴力的なことを言ってゴメンなさいっ!」
「いえ御兄様。私は嬉しいので構いません」
「シンシアまで...」

だけど、一応はサラサス国王の前なんだぞ? 身内でフザケあってる状況じゃ無いだろ・・・

恐らくジャン=ジャック氏は、『見た目のまるで似てない三兄妹』の関係性を確かめるつもりもあって、ワザとシンシアにちょっかいを出すフリをしたような気がする。
そう言うことって、チョットした感情の動きに現れたりもするからね・・・
とにかく、もう話題を変えようと口を開き掛けたら、その前にマリタンの声が響いた。

「兄者殿、さすがに助け船を出した方がいいのかしらね?」

「おぉ、話題を変えるには最善のタイミングだなマリタン!」
「身も蓋もないわねぇ」
「いやマジで有り難いと思ってる」
「そう? でも、実際にここに来て色々と分かった気がするわ...」

「あの勇者殿、いまの声は?...」

「シンシアが肩から下げている分厚い魔導書が見えるでしょう? 彼女の名がマリタンで、古代の魔法で産み出された『意志を持つ魔導書』なんですよ。見た目は本ですけど、中身は人と同じだと思ってください」

「なんとっ!!!」

再び御三方が、今度はジャン=ジャック殿も一緒に仰け反った。

「マリタンですわ皆様。こんな見てくれなのでとっつきにくいとは存じますけど、どうか以降お見知りおきを、ね」

「いや驚きましたぞマリタン殿。儂がサラサス王、パトリック・メシアン三世だ」
「ええ、ええ。私めはサラサスの宰相、ユベール・オブランです」
「ジャン=ジャック・パキエです」

あれ? 
ジャン=ジャック氏が、なんの装飾もジョークも付け加えずに普通に挨拶した・・・ひょっとしてコレまでで一番戸惑ってる?
ドラゴンや勇者よりも、喋る魔導書の方が驚きだなんて意外だな。

「皆様、ご丁寧に有り難うございます。一介の魔導書風情としては、とても恐縮いたしますわ」

魔導書が自分で自分を『魔導書風情』とか言ってる段階で、もう『一介の』とは言い難いと思うけどな・・・

「早速だけどマリタン、気が付いたことってなんだい?」
「せっかちねぇ、兄者殿ったら」
「あまり時間をかけたくないからね。室外に追い出された連中が不審に思い始める前に謁見の間に戻らないと」

「もしも貴族達の中にエルスカインの手下が紛れ込んでおったら、謁見の間を覗き見ようとするかも知れませんな?」

「あ、それは大丈夫なんですオブラン卿。私があの部屋に結界を掛けておりますので、王宮魔道士の方々でも中を探ることは出来ないかと...」
「いつのまに...」
「さすがはシンシアさまですな!」

実を言うと、さっきここに転移する前に、シンシアが転移門と併せて『害意を弾く結界』の小型版を謁見の間に仕込んである。
誰かに危害を加えることは無いけど、稼働中はあらゆる覗き見や聞き耳が不可能になるし、妙な思惑を持った人物が入ってきたら居たたまれなくなるはずだ。

コイツは俺かパルレアかシンシアが有効範囲内にいる時しか稼働しないタイプだけど、念のための策としては十分だろう。

「ですが急いだ方がいいのは確かでしょう。マリタンさん、どうですか?」

「ええシンシア様。この地下を探ってみたら空洞があったわ。それと後ろの小山...黒い壁の向こう側にもね」
「やっぱりか!」
「隠されてる何かがあると言うことですねマリタンさん?」

「そうですわねシンシア様。かなり広い空間ですけど同時に複雑にも感じますね。つまり、中身が色々と詰まってるってコトかしら?」
「なるほど」
「掘ってみるかマリタン?」
「でも兄者殿、例の...微小な魔力波の検知は確かに動いているわ。いまも魔導装置として生きている以上は、めったやたらに乱暴なことはしない方がいいかもね。ちゃんと中身を探る方法を考えましょう?」

「分かった。迂闊なことをして起動させるとヤバいしな...ところでパトリック王、ここを見て下さい」

そう言って慰霊碑の裏面にある、削り取られた碑文のあたりを指差した。

「それは?」
「ここに、例の削られた碑文があるんですよ。昔のメシアン家が、マディアルグ家を讃える文章を消すためにやらせたんだと思いますけど」

そう言いつつ、削り後に近づいて魔力を流し込んでいく。
今回は二度目だから塩梅が分かっている。
スルスルと魔力を流し込んで、すぐに碑文の痕跡を浮かび上がらせることが出来た。
パルレアがそこに飛んできて浮かび上がった碑文を魔法で転写し、空中に大きく映し出してくれる。

「はーい、コレねー!」
「古文ですな。しかも南方大陸の文字が使われておる」

「陛下、日頃からマディアルグ家も南方に祖を持つと公言しておりましたから、その流れでございましょう」
「そうであろうな」
「おおよその意味は...『獅子の末裔マディアルグは、その咆哮により大地を焦がすであろう。その武威を知らしめ、吠えるべき時を知れ。広がる吐息は我らと彼らを等しく滅ぼすであろう』という感じですな」

おお、スライの翻訳とほとんど同じだ。
ちょっと感動。

「お兄ちゃん、写しとるから紙をちょーだい!」

慌てて革袋からラスティユ村製の紙を出すと、パルレアがそこに碑文を転写してくれた。
コレで、いつでも碑文を検証できるな。

「それでですねパトリック王、当時のメシアン家の誰かが、『獅子の末裔マディアルグ』ってフレーズを気に入らなかったんじゃ無いかと思ったんですが...」

「ふうむ。つまり、この碑文をメシアン家の先祖が削り取らせたのは、『獅子の末裔マディアルグ』という一文が、マディアルグ王を讃えているようで不愉快であったと、そういう理解ですかな勇者殿?」
「ええ、まあ」
「それも無いとは言わんのですが...少しばかり不思議でもありますな」

「と言いますと?」

「この『獅子の末裔』という言葉は、古いサラサスの民そのものを指しておるからですよ勇者殿」

え、ソレってどういうこと?・・・
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