なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第八部:遺跡と遺産

王宮の建つ場所には

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「それは確かですが...ジャン=ジャック殿ご自身でしたら、服装が派手な男と自分が勇者だと叫んでいる男と、街中で出会ったらどちらを信用されますか?」

「ははっ、これは一本取られましたな勇者さま!」

そう言ってヒョコヒョコと壇上から降りてくる。
さすがにこれほど派手な服装の人物がバルコニーにいたら見えていたと思うけど、覚えが無いな。

「俺たちが空から降りてきた時、ジャン=ジャック殿はバルコニーに出ていませんでしたよね?」
「そりゃあ、皆さん揃ってこの謁見の間から出てってしまいましたからねぇ。ここぞとばかりに、主のいなくなった玉座の座り心地を堪能していましたよ!」

その『主』の前で大胆な発言だな。

みんながバルコニーに出て行った後でも謁見の間の守護騎士達は残っていただろうに・・・そもそもジャン=ジャック氏は、パトリック国王からそういう振る舞いを許されている人物だってコトなんだろう。

パトリック国王は微笑みながら俺とジャン=ジャック氏のやり取りを眺めていたが、オブラン宰相が口を挟んだ。

「ジャン=ジャック殿、どうかお手柔らかに頼みますぞ。勇者さまの不興を買うのはサラサスにとって得策とは言えませんからな?」

「いやいや宰相殿、そんなつもりは毛頭ございませんとも。それにワタクシめの見るところ勇者さまは、そもそも世俗の権威や称号などは、気にもかけない御方のようですからな?」
「それでも、です。ジャン=ジャック殿」

「まあ了解したとお答えしましょう」

そう言いつつ、ジャン=ジャック氏は『降参』という感じで、オブラン宰相に向けて両手を少し上に持ち上げる。
それを見てオブラン宰相がワザとらしく溜息をつくけど、本気で嫌そうな感じはしていない。
彼もジャン=ジャック氏のことを信頼しているのだろうね。

「さて勇者クライス殿、これで話をお聞かせ頂けますかな?」
「ええ、もちろんです」
「ねぇ陛下、その前に座りませんか? どうせ長話になるんでしょ」

話の口火を切ろうとしたパトリック国王の出鼻を、初っぱなからジャン=ジャック氏がくじく。
国王相手に、ホントにいつもこんな芸風だったら凄いな。

「私が椅子を並べます!」
「僕もやるよ!」

即座にアロイス卿がそう言うとヴァレリアン卿と一緒に壁際へ椅子を取りに行き、スライもその後を追う。
まあ、たったの十人分だから大した手間は掛からない。
広い謁見の間のど真ん中に円陣を組むような形で十脚の椅子を並べ、銘々がそこに座った。

ちなみに九脚では無く十脚なのは、ちゃんとパルレア用の椅子も置いて貰えたからだけど、パルレアも椅子を置いてくれたアロイス卿に気を遣ったのか、俺の肩から降りて隣の椅子にちょこんと鎮座ましましている。

身内の贔屓目かもだけど、なんか可愛い!

俺の両隣はシンシアとパルレア、更にその隣にはアプレイスとスライが各々座る。
正面にはパトリック国王がいて、無論、国王の両脇には宰相とジャン=ジャック氏だ。
全員でぐるりと円環を描いて座っているから、何処が上席でも無く、十人が互いに向かい合う形式になる。
しかも真ん中に会議テーブルがあるわけじゃ無いから、ちょっと不思議な感じだな。
周囲の空間が余りまくってるし・・・

「では早速ですがパトリック王、俺が相談したい問題は『王家の谷』についてなんです」
「王家の谷?」
「その...王家の谷と言いますと、まさか王族の墓所についてなのですかな?」

「ええ。ですが、あそこはただの墓所でも記念碑でも無いのです。人払いをして貰った理由は、あの場所に、この国を滅ぼしかねないほどの秘密が眠っているからなんですよ」
「誠でございますか!?」
「なんとっ!?」
「恐らくは古代の、世界戦争の時代に造られたと思われる殺戮兵器です。それは今でも動く可能性があるし、動けばこの王宮一帯のみならずルリオンの街も滅び去るでしょう」
「まさか...」
「いやいや、あそこは墓所なのですぞ?」

パトリック国王とオブラン宰相は仰天しているけど、ジャン=ジャック氏は軽く眉を持ち上げただけだ。
それにしても会談の席で、王様の隣が宮廷道化師っていう違和感が凄い・・・

「まずはじめにお断りしておきたいんですが、俺たちは無辜むこの人々を滅ぼしかねない、おぞましい古代兵器を消滅させるために今日ここへ来たのであって、いかなる形であっても、その兵器をサラサス王国が利用することは容認できません」

俺がそう言うと、パトリック国王とオブラン宰相は訝しげな表情になる。
まあ無理もないな。
でも俺は今回、サラサス国王と会見すると決めた時点で、まっすぐに話をすると腹を括っているんだ。
それでダメなようなら、どのみち力技で乗り切るしか無いのだから。

彼等の反応を待っていると、まずオブラン宰相が口を開いた。

「勇者さま。失礼を承知の上で、この国の宰相である私めの立場から言わせていただきたい。我々がその『古代兵器』とやらについて不知であったとしても、王家の谷にある以上はサラサス王国の財産だと思うのですが...それを見つけても我らに引き渡すことは無いと?」

「ええ。それは、誰で有ろうと『人』が手中にしておくべきモノでは無いのです。ですが、これからお話しすることに耳を傾けて貰えば、きっと納得して頂けるものと信じています」
「承知しました。まずは勇者さまの話を伺わないことには、判断のしようもありませんな」

その言葉にパトリック国王も頷く。

「ではまず、パトリック王は王家の谷にある、サラサス建国の戦いで命を落とした者達を弔う慰霊碑の後ろ側に、いまは削り取られている碑文があったことはご存じですか?」

パトリック国王とオブラン宰相が顔を見合わせた。
二人の間に、『知ってるか?』『知りません!』って感じの視線が行き交う。
すぐにパトリック国王は反対側に顔を向けてジャン=ジャック氏の顔を見るが、彼もプルプルと首を横に振った。

「どうやら、我らは誰もそれについて存じぬようですな」

「これは推測ですけど、恐らく王家がメシアン家に代替わりした時に削り取られたのでは無いかと思います。随分昔の話でしょうから、伝わってないのも無理ないでしょう」
「では勇者殿は、それに何が刻まれていたかをご存じなので?」

「ええ。簡単に言ってしまえば古代兵器の『使用上の注意』みたいなモノですね」
「使用上の注意?」
「迂闊に使うと敵味方見境無く皆殺しにしてしまうぞという警告です。マディアルグの名も入っていましたから、初代王家が慰霊碑の建立時に彫らせた事は間違いないでしょう」
「それはなんとも...」

パルレアが黙って座っているから、パトリック国王とオブラン宰相がしらばっくれている訳じゃないのだろうし、あの削り取られた碑文のことを知らないのであれば、『獅子の咆哮』の使い方をマディアルグ家から譲り受けていない、と考えても良いはずだ。
とりあえず現王家はセーフかな?

「なぜ、そんなものが王家の谷にあるのか? 不思議に思われるはずですが、この話の発端は三千年ほど前に遡ります...」

++++++++++

とりあえず俺は古代のヒュドラという魔物の存在とその毒、それを使って良からぬことをたくらんでいるらしいエルスカインという存在について三人に話した。
ヴィオデボラとバシュラール家とか、大結界のアレコレとか、いまのところ彼らに無関係な部分は省いたけれど、おおよその流れは伝わったはずだ。

問題はここからだけど。

「で、そのヒュドラの毒が古代から受け継がれ、魔獣使いのエルスカインによって恐ろしい殺戮兵器が産み出されました。それがマディアルグ家の使った『獅子の咆哮』です」
「獅子の咆哮...」
「詳細は不明ですが、周囲に毒ガスを噴出する兵器のようですね」

「かつて、それが使われたと?」

「そうです。慰霊碑に奉られている人々は、剣と剣による戦いで死んだのでも無ければ、悲惨な疫病で亡くなられたのでもありません。サラサス建国の逸話に伝えられている『疫病』というのは、マディアルグ王が自らの所業を誤魔化すために広めた欺瞞なんです」

「なんですと?」

パトリック王たち御三方と、ヴァレリアン卿、アロイス卿の五人が驚愕の表情で固まった。
建国の戦いにおけるマディアルグ王の非道は想像を超えていた、って所だろうか?
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