なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

文字の大きさ
上 下
672 / 922
第七部:古き者たちの都

遺跡の様子

しおりを挟む

その遺跡に窓や扉が一切無いって言うのも、実は建物全体が深い砂の下に埋もれていると考えれば理解出来る。
あの、南部大森林の魔石サイロのようにだ・・・

とは言え、さすがに南方大陸の砂漠となると今は確かめようもない。
オベール氏が言葉を続ける。

「ただ、僕はアレを本当の遺跡だと思いますね。ところこどろの表面に直線的な線が掘られていたり...地元の人は盗掘しようとした跡だって言うんですけど...そもそも自然石で、あんな円筒みたいな形の群落が自然に出来る可能性はまずないですよ」
「円筒ですか?」
「ええ。ストーンと真っ直ぐな円筒が立ってるような感じです。でも古代の魔導技術なら境目の無い岩壁の加工も出来たでしょうからね」

その通りだ。
オベール氏の推測は正しいと思う。

「それに、アレと同じようなものは他でも見た事がありますからね。もしも自然のモノだったら、土地の様子が全く異なる場所に同じ見た目のものが生まれたりはしませんよ」
「え? 同じ遺跡を他の場所で見たんですか?」
「いえ、円筒形の建物ではなくって、同じ質感の岩壁いわかべを、ですね。黒くて滑らかな岩壁です」
「ちなみに何処で?」

そう尋ねつつも背筋がゾワッとする。
見つけたくないものを見つけてしまいそうな予感だ。

「ほら、スライも知ってるだろ? ルリオンの北にある『王家の谷』だよ」
「あー、あれか...」
「なんだいスライ、その『王家の谷』って言うのは?」

「サラサスの王都『ルリオン』の北に王族の墓所があってな。一般人は立ち入り禁止なんだけど年に一度だけ慰霊祭があって、その時には参列者が中に入る事が出来るんだよ」
「僕とスライは子供の頃に家族と一緒に王都に出ててね、ちょうど慰霊祭の時期に当たって物見遊山の気分で参列した事があるんです」

「そこにも黒い壁が?」

「ええ。建国の戦いで命を落とした者たちを慰める石碑があるんですけど、その背後に黒い岩壁がそびえているんですよ」
「確かに黒い壁があったな」
「サラサス建国の頃の王家が造ったもので、誰も由来なんか気にしてないし、僕も南方大陸でその遺跡を見るまでは、それを思い出しすらしませんでしたけどね」

スライは凝結壁の実物を目にした事がない。
俺も詳しく説明した事はないし、言葉で聞いてもピンと来なかっただろうね。

だが・・・サラサス王家の墓所に凝結壁で造られた何かがあるとすれば、エルスカインが王族に手を出そうとした事も納得が行く。
そりゃあ王家の墓所を掘り返すとなったら、王族を支配下に収めるしかないだろうからな。
そして、エルスカイン流の時間感覚で言えば、十年ほど前に失敗したところで諦めているはずはなく、今は次の仕込みの準備中ってことに過ぎないはずだ。

「スライ、さっきの話だけど、やっぱり手を引いてるはずはないよ」
「だよなぁ、これが理由かライノ?」
「多分ね」

オベール氏は俺とスライが何について会話しているのか分からずにキョトンとしているけど、スライとの約束のせいか何も聞いてこない。
でもまぁ、オベール氏はスライの親友で子供の頃からの幼馴染みなのだ。
信用出来る相手だって事は間違いないだろう。

「スライ、オベール殿にも話して構わないよ?」
「いいのか?」
「スライの親友だろ」
「すまん。これで俺も気が楽になる」
「いいさ」

結局スライがアラン・オベール氏に俺の正体をバラして、さっきと同じようなやり取りをもう一度繰り返す事になった。
とりあえず、『敬語とか様づけはやめてね』と言うことで・・・

++++++++++

実に満足度の高い晩餐と思いがけぬ俺の正体の暴露が終わった後、みなで談話室に移動して移動して話を続ける。

「では勇者殿、やはりあの黒い壁は古代の遺物で間違いない訳ですね?」

「そうなりますね。それとオベール殿、俺の事はライノと呼んで下さい。お互いにスライの友人なんですから」
「承知しましたライノ殿。では、私の事はぜひアランと」
「ええ」
「で、話を戻しますが、タチアナ嬢をあやめようとしたフェリクス王子の黒幕がそのエルスカインという存在で、そいつは古代の闇エルフの系譜であると?」

「詳しい事はまだ分かっていませんが、そう間違ってもいないはずです」

「それにしても王家の墓所を掘り返そうとは...何が埋もれているのか分かりませんが、よほど価値のあるものでしょうか?」

「それは金銭的価値よりも、戦略的価値でしょうね」
「戦略?」
「アラン殿、エルスカインは一つの王家とか国とか生易しいことではなく、何らかの手法で世界全体に大きな影響を与えようとしているんですよ。俺が勇者としてエルスカインと対峙しているのはソレが理由です。この戦いは国家間の政治や勢力争いとは無関係なんです」

「アラン、勇者は一つの国や勢力に肩入れしたりはしない。どちらの味方につくなんてこともない。いまの俺達はミルシュラント公国を中心に活動しているけど、それはエルスカインと戦う大儀に共感した大公陛下がライノに便宜を図ってくれてるだけで、逆じゃあ無いんだよ」
「そうか...」
「あり得ない話だけど、仮にジュリアス・スターリング大公陛下がエルスカインに取り込まれたとしたら、ライノはミルシュラント公国でも潰すぞ? そこはアランも理解しておいてくれ」

「わかった、と思う。でも潰せるのか?」
「楽勝で潰せるだろうね」

「大袈裟だぞスライ。それに俺は、個人としての友人関係を優先するよ? そこは勇者以前の問題だからな」
「知ってるさ。ともかく、さっきのアランの話を元にして考えると、このままにしておくのは気味が悪いな。とは言え、王家の墓所に手を出すのも難しそうだ」

「じゃあスライが王家にライノ殿を紹介してはどうかな? ラクロワ子爵家が仲介すれば国王陛下に謁見する事に問題ないだろう?」

「ダメだな。ライノは大精霊以外の誰の下にもつかない。陛下が即座にソレを理解するとは思えないね」
「まずは利用しようと考えると..」
「多分な。ミルシュラントは色々な経緯があったから今みたいになってるけど、それはレアケースだと考えた方が良いよアラン。普通の王族ってのは強欲なものさ」

「確かにそうだな。むしろ面倒くさい状況になりかねないか...」

「ともかく、そこに行ってみたいな。悪いけど案内してもらえないかスライ?」
「ああ、モチロンいいぜ」
「だったら王都まではオベール商会の船を出そうか。出来るだけ早く準備をさせるよ?」
「いや大丈夫ですよ、アラン殿」

「じゃあ、アプレイス殿にお願いするのか?」

「それが一番早いからね。俺がいったんヒップ島に戻って連れて来よう。ここからスライも一緒にアプレイスに乗って行ってくれ」
「わかった」
「スライ、話が見えないんだけど、ウチの船は必要無いのか?」

スライが俺の方をちらっと見る。
ココまで話しといて、今さら隠す必要もないだろうから黙って頷いた。

「アプレイス殿って言うのは、ライノの友人のドラゴンだ」
「ドラゴンっ!? 友人?!」
「ああ」
「...なんて言うか...さっきスライが、ライノ殿ならミルシュラント公国でも潰せるって言った理由が納得出来たよ。それにしてもライノ殿は、一体どうやってドラゴンと知己になった訳で?」

「あのなアラン、ライノはドラゴンと勝負して勝ったから認められたんだよ」
「ドラゴンに? 勝った?...」

アラン殿が目を真ん丸に見開いた。
最近、目を見開かれる事が多い気がするな。
あの頃の俺がアプレイスに勝てたのはシンシアの助けがあったからだけど、それを言うと説明が面倒なので黙っておく事にする。

「うーむ、私もスライから『もしもクライス殿と敵対したら、ラクロワ家の歴史が終わる』と釘を刺された理由が納得出来たぞ...」

うん、アロイス卿とヴァレリアン卿は、目を見開いてても風格があるな。
あとタチアナ嬢は目を見開くと、なぜか一層可愛くなる。

「ともかく、アプレイス殿に飛んでもらえば、王都ルリオンまで三日も掛からんだろうさ」
「スライ、王都までは馬車だと普通どのくらい掛かるんだ?」
「そうだな。まあ、十日ちょいくらいか?」
「だったらアプレイスの翼で一日だ」
「ケタ違いだな」
「そりゃドラゴンだもの」

結局、話の流れでラクロワ家の屋敷に一室を借りて転移門を開かせてもらい、そこからヒップ島との行き来をする事になった。
まだ屋敷の外は、たそがれの薄明かりが残っている時分だけど、これから夜中にルリオンまで飛んでも仕方がないし、パーキンス船長とスミスさんをオービニエさんのところに置きっぱなしと言う訳にも行かない。

そこでスライには明朝また迎えに来ると話して、今夜は家族三人で・・・それにアラン殿もかな?
ともかく水入らずの時間を過ごしてもらう事にしよう。

色々な偶然の重なった結果に過ぎないのだけれど、俺は今回、スライと一緒にアルティントに来る事が出来て本当に良かったと思ったね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王は貯金で世界を変える

らる鳥
ファンタジー
 人間と魔族の争う世界に、新たな魔王が降り立った。  けれどもその魔王に、魔族の女神より与えられしギフトは『貯金』。 「母様、流石に此れはなかろうよ……」  思わず自分を派遣した神に愚痴る魔王だったが、実はそのギフトには途轍もない力が……。  この小説は、小説家になろう様でも投稿しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...