なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第七部:古き者たちの都

どこかにある扉

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「それも大衆演劇で仕入れたネタか、アプレイス?」
「まあな...」

「だろうな...まあ山賊共が根城にしてたのは、そんな大層なお屋敷じゃ無かったけどね。本来は秘密の通路で馬小屋の中に出られたらしいけど半壊して塞がってたし、警邏隊が引き上げるまで壁の奥で息を潜めて潜んでる算段だったらしいよ」

「ホント地味だよな...もうちょっとこう『悪人の親玉』らしく振る舞えと言いたいぞ?」
「いざとなったら誰でも命が惜しいモノなんだよ」
「つまんねー」

あの時、警邏隊の隊長が諦めずに探し続けたのは、事前に得ていた情報から『館の中にいないはずがない』という信念があったからこそだな。
じゃあバシュラール家の一族の場合、もしもの場合にこの別荘からどこかへ『逃げる必要』があったのか?
あるいは『逃げていける場所』があったのか?

そう考えると、ちょいと不自然な感じがするぞ。

ヒュドラへ対抗する『予備の手段』を放棄して逃げ出すなら、そもそもこの島に置いておく意味が無さそうだし、王家というか自分たちの住まう国家そのものを相手にして戦う時に、どこに逃げ出すっていうんだろう?

常識的には対立陣営の国へ『亡命』するしか無いだろうけど、そうなればヒュドラ対策の手段を捨てていくか、それを相手国へ持って行くかという二択になるだろうけど、どちらも望ましい解決方法とは言い難い気がする。

そうなると、どちらでも無い解決方法はシンプルに『やり過ごす』ってコトだ。

もしも王家との対立が決定的になった場合はヴィオデボラはもちろん、このヒップ島にも国軍は踏み込んできて別荘はもとより島中を徹底的に捜索することは自明だけど、その時に探す対象は恐らくバシュラール家の『誰か』だったはず・・・
必ずしも脱出しなくても、敵が諦めて引き上げるまで潜んでいられる場所があるなら、あの山賊の親玉みたいに『逃げたフリ』をする事も出来ただろう。

国軍側も、どんなに探しても痕跡が見つからないとなれば、襲撃を察知して事前に逃げ出したか、なんらかの方法で魔力を探知されずに橋を架ける転移門ブリッジゲートを動かして逃げたと考えるのが順当じゃ無いか?

ドゥアルテ卿がヒュドラ対策の予備をヒップ島に隠していたとしても、それを王家に教えるはずが無いし、そんなモノの存在を知らない王家は、ヴィオデボラを再起動させるための、あるいは人質に出来るような血縁者が残っていないかを探しただろうと思う。

だが、ドゥアルテ卿の言葉通りであれば、一族郎党は王家のヴィオデボラ侵攻時に全滅している。

そして経緯はともかくとして、王家はリリアちゃんがドゥアルテ卿の娘だということに気が付かないまま、何らかの理由で乳母と一緒にエルダンのガラス箱に監禁した。
そうなると国軍が侵攻してきた時に逃げ出す必要のある人物はそもそも、『実はこの島にはいなかった』と言うことにならないだろうか?・・・

「えっと、御兄様が仰りたいのは、『逃げたのでは無く隠れていただけ』だと、そういうコトですか?」
「さすがシンシア! 鋭いな」
「いえ...」

もしも例の『さすがシンシア』スタンプを作っていたら、間違いなくそこら中の壁に押してたぞ。

「ドゥアルテ卿が守り抜きたかったのは、リリアちゃんを別とすればヒュドラの首と対抗手段だ。コレも『守る』って言いうよりは『王家に渡さない』って言う方が適切だろうけどな」
「ですね。正直、そのために一族を道連れにって言うのは酷すぎますけど」

「そこまでさせる何かが王家にはあったんだろうね。いったん王家と対立したら、例え降伏してヒュドラの首を渡しても、その後で一族は皆殺しにされると思ってたとか?」
「もしもエルスカインが、イークリプシャン王家の意を受け継ぐ存在だったら分からなくもないですね...」

「だよな? リリアちゃんが三千年後に目覚めたんなら、エルスカインが五、六百年ほど早く目覚めてたとしても不思議は無いからな...『意志を継ぐ』どころか王家の生き残り自身だったとして納得するね」
「ええ...」
「で、ここに密かに保管されてた『ヒュドラ対抗手段』の予備は、王家に見つかりさえしなければ持ち出す必要は無かったはずだ。つまり、いつかリリアちゃんが訪れるまで隠しておければいい。もしもリリアちゃんが来ないなら、ヴィオデボラのヒュドラと一緒に眠り続けていればいい、ってコトだな」

「実際に、ヒュドラはエルスカインが手を出すまで三千年も眠り続けていましたし、ヴィオデボラもあのまま海を漂い続けた可能性はありますよね?」
「いっつか沈むんじゃ無ーい?」
「ですが御姉様、ヒュドラを抱えたまま深海に沈むのなら、ドゥアルテ卿としてはそれで構わなかったのでは?」
「そっかー」
「まあドゥアルテ卿は、深海に投棄しても安全とは断言できないみたいな事を言ってたから、投棄は維持できなくなった時の最後の手段だったろうな。ヴィオデボラが大洋の真っ只中に作られたのも、案外そんな理由かもしれん」

「それで御兄様は、このテラス前のリビングルームか外のテラスのどこかに隠している何かがあると、お考えなのですね?」
「ソレそのものか置いてある場所への入り口か、さっきのシンシアの場所選びからすると、この開放的だった場所にこそ何か有りそうな気がしてな...」

「でもお兄ちゃん、ここってガラス張りで外から丸見えよー?」
「だからこそ、だよ」

「その『裏をかく』って考え方は分かるけどなぁライノ。頑丈な門と扉のある屋敷の玄関ホールならいざ知らず、こんなガラス張りの部屋なんか奇襲されたら終わりじゃねえか?」
「割れてないだろ?」
「へ?」
「だから、テラスの大きな窓ガラスは一枚も割れてなかっただろ? ここにだって王家の軍隊は押し掛けてきたはずだと思うぞ?」

「...なのに、硝子も割れてなければ部屋も荒らされてない、と...そういうコトか?」
「ああ」
「そうですね御兄様、バシュラール家の者が残って隠れていないか探しに来たのに、鍵も掛けてない家の中にアッサリ入れて一通り検分すれば、もう逃げ出してここにはいない、と結論づけて不思議は無いと思います」

「バシュラール家は魔道具造りの老舗だったんだからな。それにドゥアルテ卿は逃げるつもりも無かったわけだし」

「でもライノ、結果としてはそうでも、こんな開けっぴろげな部屋に秘密の扉だの棚だのを隠す理由にはならないんじゃねえか?」
「プライバシーガラスだよ」
「あ。外からは見えないのか!」

「もし奇襲されても、中からは外の動きが見えてるけど外から中は見えない。隠れた後でガラスを透明にしておけば、開放的な空間の出来上がりだ。そんな丸見えの場所に、一番の秘密に辿り着く仕掛けを置くわけ無い、と...さっきアプレイスが思ったのもそういうことだろ?」

「うぅ...なぜか一杯食わされた気分だ...」
「なんだよソレ。まあ今度、ドラゴンの知り合いが宝の隠し場所に悩んでたら教えてやれ」
「ハハッ! 一番高価な物は洞窟の入り口に、ってか!」

そう言ってアプレイスが笑う。
『木を隠すなら森の中』みたいなセリフは良く聞くけれど、これもその一種かな?
見られたくないモノほど、あえて目立つところに置くってわけだ。

「で、ライノ。このリビングルームでドコが一番、明けっ広げなんだ? 隠してそうな場所じゃダメなんだろ?」
「常に目に入ってるような場所だな」
「なら、家具の裏とかカーペットの下はナシだ」
「無論だ。この部屋に入った瞬間から目に入ってるって言うと...床の上もそうだけど、後は壁か天井か窓か...」

「ですが御兄様。あまり特殊な場所だと、何も知らずにここに来るはずのリリアーシャ殿にも見つけられないですよ? 自然と分かる場所で無いと」
「ああ。そこでオーラとペンダントだな」

そう言いつつ、さっきアプレイスに言われて出しておいたペンダントと銀箱くんを掲げる。
もちろん、それだけではなにも起こらない。

「前にシンシアが言ってたよな。『オーラの鍵』でも、本人がその場にいれば勝手に開いてしまうより、別に鍵となるアイテムがあった方が色々と安全だって」

俺はソレがペンダントだと思ってたんだけど、よく考えたらペンダントは四六時中身に着けてるものだ。
本人のオーラと同じ場所にペンダントがあれば勝手に開いてしまう鍵だったら、オーラだけで開くのと大差ない。
というか、鍵にならない気がする。

だから、何かもう一つの要素が必要なはず・・・だよね?
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