642 / 922
第七部:古き者たちの都
移住者の痕跡
しおりを挟む「それはションティさんも凄いですね!...って、いや、あの沼地に魚がいるんですか!?」
「おりますよ。小川にも小魚が泳いどりますしね! 実は前回この島に寄った時に沼地の池で姿を見とったんで、ションティも張り切って糸と釣り針もって釣りに行ったんでさあ。ここは人の住んどらん島ですから、ブリームもこんな大きくなるまで獲られずにいたワケで!」
そういって両手を肩幅ほどに広げてションティさんが釣ってきたブリームの大きさを示してみせる。
うん、それは確かにブリームとしては大きいな!
いやいやいや、待てよ俺。
それよりも大事な問題は、どうして『孤島の沼地』に川魚のブリームが住んでるんだってコトだ。
俺が知ってる限りブリームとかの『鯉の仲間』は海に住んでない・・・はず。
それとも海にも住んでる種類がいるのかな?
「メスナーさん、ブリームって海にもいるんですか?」
「どうでしょうねぇ? 魚なんて似たような姿をしてんのが多いですから探せばいるんかも知れませんが。まあ、ションティが釣ってきたのは正真正銘、池に住んどるブリームでさぁ」
でかい川なら海の魚が河口付近に住んでたり、時には上流まで登ってくることもあるって言うけど、ココの小川でそれは無いだろう。
うん、決まりだな!
この島には、誰か人が住んでたことがある。
しかも、ビーチローズの苗木や生きた川魚まで持ち込んでるんだから、相当に本格的って言うか大規模な移住者達だ。
普通なら、海のど真ん中の島にわざわざ川魚を持ち込んで養殖しようなんて思わないぞ?
「えっと...御兄様の口調と表情でなんとなく察してしまいましたけれど、このスープに入っているお魚は、本来この島にいるはずがないものだ、と言うことですよね?」
「そうだな。きっと人の手で持ち込まれたものだろうね」
「お兄ちゃん、ブリームってさー、リンスワルド家の養魚場で育て始めたヤツじゃなかったっけー?」
「おお、よく覚えてたな!」
「だってアタシ、あれで魚醤焼きが好きになったしー!」
「惜しいぞ! お前が食べた魚醤焼きはパーチだ。ブリームは俺が頼んだ揚げ物の方だよ」
「そっかー。でも、どっちも美味しかったからいーの!」
「まあな。どっちも白身の魚だし」
「いずれにしても確定ですよね、御兄様?」
「そうなるな。この島には大規模な移住集団がいたはずだ。トウヒやオークの苗木にビーチローズもそうだろうし、養殖するための川魚まで持ち込んでる。船長の話だと、北部ポルミサリアからでも南方大陸からでも、この島に来るだけでも大変なはずだ。生半可な集団じゃ無いよ」
「小舟一艘って規模じゃねえ訳か」
「だろうな。でもそこまでの規模で移住しておきながら、どうしていなくなったのか...ここの森にもカルデラの盆地にも、人が住んでた痕跡が見当たらないのはどうしてか、それが謎だな」
「火山の噴火でー!」
「物騒な事言うなよパルレア。それに、もしも噴火で滅んでたんならトウヒの森だって残ってないよ」
「そっかー」
「人里も埋め尽くされるほどの大噴火だったら、ビーチローズや沼の魚が生き延びれたか怪しいですし、森もここまで育ってない気がしますね。それこそ南部大森林みたいな不安定な育ち方になってるんじゃ無いでしょうか?」
「だよなあ...」
「そうなると御兄様...」
「だよな?」
「ですよね?」
「ってコトはシンシア殿、移住者はイークリプシャンか!」
「ええ、彼らなら大量の資材や人員をこの島まで運び込むことも容易だったと思います。それこそ、移住すると言うよりも『別荘を作る』くらいの気持ちだったかも知れませんよ?」
いやはや『別荘』とは・・・シンシアの言い様が面白いけど腑に落ちる。
なにしろイークリプシャンは、ヴィオデボラほど巨大な人造浮島を作れる魔導技術を持っていた連中なのだ。
リンスワルド家の王都別邸の庭くらいのノリで、無人島を好みの環境に改造して住んでいたとしても不思議は無いよな?
「なあライノ、南部大森林やエンジュの森みたいに砂や溶岩に埋め尽くされたんじゃ無いなら、建物やなんやらの痕跡が無いのはなんでだ? 凝結壁なら何千年も崩れないほど丈夫だろう?」
「そうなんだよな...この島に誰かが住んでたかも知れないって話が出た時、俺もまっさきにイークリプシャンの可能性を考えたけど、それらしいモノが何も見当たらなかったから違うと思ったんだ」
「ええ、もし彼らの建物があったなら、ヴィオデボラの様に綺麗に残っていて不思議じゃないですからね」
「しかも木を植えるとか川魚を持ち込むってのは永続的な居住環境を整えるって前提だろ? 玄関に花を植えたりペットを連れてくるのとはワケが違うよ」
「うーん、じゃー建物は地下かなー?」
「なんで?」
「えー、咄嗟の思いつき! だから根拠は無いでーす」
「そんな面倒なことをする訳ないよパルレア」
「御兄様、リンスワルド家の王都別邸に『茶の部屋』を建てたことを覚えてらっしゃいますか?」
「おお、アレ結局ほとんど使わなくって姫様に申し訳なかったよな!」
「いえ、それはどうでもいいと思うのですけれど、『茶の部屋』を建てるまでは奥の庭には何も建物を置いていませんでした」
「そう言えばそうか。大きな池もあって、まるで自然の林みたいだったなあ」
「裏庭部分には小さな畑を作ったりしていましたけど、奥の庭に建物を一切置かなかったのは、いま御兄様が仰ったように『自然の林』のような風景にしたかったからだそうです」
「ん、つまり?」
「このヒップ島も、そう言う意図で別荘に使おうと考えたのであれば、住む人や訪れる人もごく少数で、そもそも村や街を作る必要など無かったのではありませんか?」
「なるほど別荘か! そうすると、あったのは小さな建物だけかも知れないし、場所も浜に近いとかの便利さよりも、眺めがいいとか雰囲気がいいとか、そう言う理由で選んでた可能性があるな?」
「ですね! 普通の移民の村の痕跡とは、探し方が変わると思います」
「もし彼らなら、船着き場すら必要無いだろうからなあ」
常識的に集落や開墾された畑の痕跡を探したからこそ、なにも見つからなかったのだとすれば、視点を変えることで何かを発見できる可能性はある。
それが見つけたいモノかどうかは別として・・・
まあ貴族や金持ちの別荘とかくらいなら別にいいんだけどね。
まあ、イークリプシャンの痕跡があるかもしれないと分かって、なお『見ないフリ』をする訳にも行かないだろう。
いっちょう探してみるか!
「シンシア、貴族というか金持ちの視点として、この島で別荘を建てるなら何処を選びそうかな?」
「やめて下さい御兄様。なんですかその質問は...」
「いやだってさ、俺は元々が貧乏な庶民だし、パルレアは...パルミュナは大精霊だしクレアは現代人じゃ無いし、アプレイスに至っては『自由奔放の塊』に更に翼を付けてるような存在だろ?」
「ヒドいなライノ! 俺が宿無しの浮浪者みたいじゃ無いか!」
「でもアプレースって宿無しってゆーより、そもそも宿なんかいらないじゃん?」
「そーゆー事じゃなくてだな...」
「まあとにかく。このメンツの中で別荘を持つとか、そういう貴族的な発想を持てるのはシンシアだけじゃ無いか? だからそう言う視点でアドヴァイスが欲しかっただけなんだよ」
「そう言う御兄様だって、本来はレスティーユ侯爵家の血筋じゃありませんか? 侯爵ですよ? 伯爵より上です!」
「それは俺自身の記憶に無いからノーカウントだよ」
「ライノ、お前がそう言う聞き方をするから悪い。金持ち云々と言うよりも、感性の問題だと思うぞ?」
「うっ、感性か...」
「感受性とか美意識とか審美眼とか。呼び方はどうあれ、それは金を持っているとか贅沢に慣れているとか関係なしに、モノを選ぶ時の見る目ってヤツだな。誰がどう見ても、お前よりシンシア殿の方が数段上質だぞ」
「無論その自覚はあるよ。だからこそシンシアに聞いたんだしな」
「いいえ御兄様! フォーフェンで御兄様に選んで頂いた服はとても素敵でした。それにあの杖の造形も素晴らしいものです。私の感性が御兄様より優れているなんて事はありません!」
あらら? 何故か急にシンシアが俺の肩を持ってくれた。
そこらの適当な木の枝を持ちやすく削っただけの杖で『造形』とか言われても混乱するし、アプレイスとパルレアが苦笑してるんだけど・・・俺、シンシアにからかわれてる訳じゃ無いよね?
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜
優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、
戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。
本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、
皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、
剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。
彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる