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第七部:古き者たちの都
中央制御管理室とは
しおりを挟む「シンシア、その杖に何を仕込んだ? 怒らないから、お兄ちゃんに正直に言ってごらん?」
「え、えっと...その...かみ、です」
「かみ?」
「あの、御兄様が横で眠っていらっしゃる時に髪の毛を数本頂きまして...それを『形代の魔法』の芯に...」
「待てシンシア。形代の魔法って要はスケープゴートのコトじゃないのか?」
「ええまあ、ハイ」
「ハイじゃないが...それって俺に向けられた攻撃を身代わりに受ける魔法だったりしないよな? まさか、そのために俺の髪の毛を『依代』にしてあるなんて言わないよな?」
「その...そうですが、御兄様の代わりに攻撃を受けるのは、あくまでも『杖』です。防護結界もありますし、私自身が攻撃を受け止める訳ではないので危険性はそれほどでは...」
「却下だっー!!!」
「ダメですか?」
「防護結界があるのはみんな同じだぞ!」
「ですが...」
ホント、とんでもないことをしてやがる。
アプレイスと対峙した時といい、パルレアを顕現させた時といい、今回といい、シンシアは自分を大切にしなさすぎるよ。
マジ不安!
「可愛く上目遣いで言ってもダメだぞシンシア! 絶対にダメだ! ダメ、ゼッタイ! 攻撃を受けるのは杖の方だって言っても、それは術者が持ってる杖だからだろうが。その杖をポイッと地面に転がしてても身替わりになるのか?」
「それは少し有効性が下がるかと...」
「相手の魔法の種類によっては、シンシアが攻撃を受けるのと大して変わらんぞ? いいかシンシア、俺はお前が身替わりになって怪我を負ったりしたら泣くに泣けん。って言うかどうしていいか分からん。もしもの事とか有ったりしたら取り乱して後を追うかもしれん」
「そんな...」
「だからそういうのは絶対に禁止だ! 俺たちはみんなで協力し合ってエルスカインに勝つ。だれかが犠牲を引き受けるなんて絶対にナシだ。もしそれをやるとしたら俺だけだ。いいなシンシア?」
「は...はい...」
「よし! 分かってくれたらならいいんだ。それと約束通り、俺は怒っていないぞ? シンシアが俺を大切に思ってくれる気持ち、それ自体は本当に嬉しいんだからな?」
「はい御兄様...」
やれやれ、パルミュナが俺を助けるために身代わりになって『ちびっ子化』した時のことを思い出すよ。
あんな気持ちをもう一度味わうくらいなら、真面目に『自分が死んだ方がマシ』だからな・・・パルレアもそれを分かってくれているからか、俺とシンシアのやり取りに口を挟んでこない。
とにかくシンシアには昇降機に乗っている間に、杖に掛けた『形代の魔法』を解呪させた。
俺のためを思ってくれてたことは痛いほど分かるけど、いきなり突っ走る傾向があるのは姫様の娘というか、『リンスワルド家の血』なのか・・・
あの嫋やかなエマーニュさんでさえ、血塗れのドレスを部屋に飾って周囲にドン引きされていたのだ。
思い込んだら、ちょっと周りが見えなくなるって感じは共通してるよな。
++++++++++
身体に感じる加速度からすると昇降機は・・・昇降機という名前はともかく、下に降りるだけでなく途中では横にもかなり進んでいるようだったが、どれくらい昇降機の箱の中にいるのか時間の感覚が怪しくなってきた頃、ようやく動きが止まって扉が開いた。
そして昇降機を出た先には別の大きな扉があった。
「御兄様、扉の脇にある表示名が先ほどの案内板と同じですから、ここが『中央制御管理室』ですね」
「その名前からするとヴィオデボラ島全体をどうのこうの出来そうに思えるけど、どんなもんなんだろうな?」
「恐らくですけど、ここは島を動かすと言うよりも、島に供給する魔動力を制御している場所のような気がします」
「つまり『ヴィオデボラ島っていう魔道具』自体の起動や停止とか?」
「ええ、各所の設備はそれぞれの場所で制御しないと意味を成さないでしょうから、中央で一括して出来ることと言えば、魔力...魔動力そのものの制御や分配のような気がするんです。究極は、御兄様の言う通り『起動と停止』だけかもしれません」
「ふーん、シンシア殿、つまりココは心臓部ってことになるワケか」
「あらドラゴン、『心臓』は魔動力源そのものだから、ここは心臓を止めたり動かしたりの指示を出す場所ってことになるわ、ね」
「細かいなぁマリタン!」
「だって本ですもの」
「どうだか。最近、俺にはお前が『四角い箱族』っていう、口うるさい新種に見え始めてるぞ?」
「まあ失礼しちゃうわ!」
そう言いつつもマリタンに全く怒った気配が無いのはいつも通りだ。
仲いいよね君たち。
「とにかく中に入ってみるか」
「はい!」
「おーっ!」
中央制御管理室の扉は、やはり銀箱くんとペンダントをかざすだけで開いた。
正直、俺は『中央制御管理室』っていう言葉に対して大きな船の『操舵室』みたいなのを想像していて、果たして中にはどんな複雑怪奇な魔導機構が置かれているのかと身構えていたんだけど、特に操作するようなモノは何も見当たらない。
有る意味で拍子抜け?
広い部屋の中央にはガラスのように艶やかな表面を持つ一枚の黒い板が立てられていて、その土台には見覚えのある模様、いや『文字』が並んでいた。
見覚えも何も、いま俺が抱えている銀箱くんに装着してあるペンダントに刻まれているのと全く同じ文字列だ。
つまりリリアちゃんと言うかバシュラール家の家訓と推測された言葉、『風と戯れる者に幸いあれ』・・・それが黒いガラス板の立つ台座に大きく刻まれている。
「カリ・ティヒ・セオ・スゥシュ・ペゾン・メトナ・アネモ...」
不意にシンシアが聞いたことも無い言葉を呟いたのでギョッとした。
「今なんて言ったんだシンシア?」
「その台座とペンダントに刻まれている言葉です。正しい発音かどうかは分かりませんけど、古語でそのまま喋るとこんな感じだと思います」
「へぇー、そうなのか...しかし本当にバシュラール家はヴィオデボラの所有者だったな...」
「御兄様の推測通りでしたね」
「むしろシンシアの推測通りだろう? 海の上に居城を築くほどの一族だからな。帆船じゃ無いにしても船や海上貿易と関わりが深くないと、こうはならないって気がするよ」
「保全用通路の扉が開いた時から予想はしていましたけど、やっぱり感慨深いです。バシュラール家が王家か上級貴族かは分かりませんけど、なんて言うかパズルのピースがきっちり合ったような感じで」
「わかるよシンシア...それにしても、この黒いガラス板はなんなんだろうな? 中央制御管理室って言うからには、一族のモニュメントを飾っておく場所じゃないだろうし」
台座も全体がつるりとしていて、なにか操作するための機構は見当たらない。
敢えて較べるならば、シンシアの作った銀ジョッキの『本体の箱』の方が、色々と細かな操作の仕組みが付いてると言えるほどだ。
これがエルダンのガラス箱と同じ種類かどうかは別として、この島は魔法ガラス生産の一大拠点だったりしたのだろうか?
「シンシア様、見た目からしてコレは画面装置だと思いますわ」
「画面って?」
「写し絵を出す魔道具ですわ兄者殿。つまり、魔帳や案内板の壁と同じような仕掛けではないかと...動かせば何かガラスの上に表示されるのではないかと思うのよね」
「動かし方は分からないかい?」
「ごめんなさいね兄者殿、この黒いガラス板への表示方法が魔帳と同じ系列の魔導技術だという予想は付くのだけど、仕組みや動かし方までは分からないわ」
「そうか」
「御兄様、なんとなく...そこの台座の『窪み』がペンダントの大きさと同じでは有りませんか?」
「ん?」
シンシアに言われて改めて観察すると、確かにペンダントがキッチリと嵌まり込みそうな窪みがある。
鎖の部分の逃げ場まで有るから間違いないだろうね。
「凄いぞシンシア、きっとこれが『鍵穴』だな!」
「ですね御兄様。これでヴィオデボラ島を再起動させられるかも知れません!」
大急ぎで銀箱くんからペンダントを外して台座の窪みにセットしようとした時、アプレイスがぽつりと呟いた。
「なあライノ、いまさら聞くなよって言うかもしれないけどな?」
「なんだアプレイス?」
「そもそも再起動していいのか、このヴィオデボラ島を?」
「あ...」
「俺は魔導技術のことはさっぱり分からないけど、エルスカインが狙ってる何かがこの島に眠ってるんだろ? その『目当てのモノ』とか言うのがな。だったら島を再起動させてしまうと逆にエルスカインを助けることになったり...とか、しないのか?」
「おおぉぅ...」
自分たちの推測が当たっていたことに有頂天になってて、その影響をアプレイスから指摘されるまで忘れていたよ・・・超反省だ。
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