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第七部:古き者たちの都
光る案内板
しおりを挟む「実は、リリアーシャ親子が『いつ入れられたのか』は、はっきりと確認できていないんです。暦の断絶している数千年前ですし、他の魔獣達との日付の比較もほとんど無意味だったので」
「いや、それは当然だろうシンシア?」
「ただ...エルセリアなのだから戦後であると思い込んでいたんですけど、いまの話で『戦時中』である可能性も有ると思いました。もし、他の魔獣達と比較して『近い』時間軸の可能性があれば、それが分かるかも知れません」
「だけど、戦時中にガラス箱に入れられてたら、まだエルセリアになってないんじゃないか?」
「ええ、その時点では」
「...って言うと、リリアちゃん親子は八年前にガラス箱を出た時に変貌したのかもしれないと?」
「その可能性はあると思います」
「マジかシンシア」
それはかなり凄まじい話だ。
と言うか、戦時中にガラス箱に入れられていて、八年前になんらかの理由で箱を出た途端に自分がエルセリア化したとすれば、何が起こったのかを理解するのは不可能だろう。
ああそうか・・・シンシアは錬金術師ホムンクルスが脱走を手助けした可能性を考えたんだな。
それならまあ、事情の説明や脱走の手引きも不可能じゃない、か。
「うーん...リリアちゃんはこの島を所有していた一族で、だけど、何らかの理由で戦時中にエルスカインの一派に捕らえられてガラス箱に押し込まれた...だけど今でもヴィオデボラの仕掛けはリリアちゃんのオーラとペンダントで動く、と...」
「ええ、理屈はともかく、そういう状況です」
「シンシア、銀箱くんは俺が持っていよう。もう小箱には仕舞わない方がいいような気がする」
「そうですね、お願いします御兄様」
直感だけど、もしこのヴィオデボラ島の魔導機構がオーラとペンダントで『バシュラール家の血族』の存在を認識して扉の鍵を開けたのだとしたら、小箱にペンダントと銀箱くんを仕舞い込んだ途端に、その血族者が『行方不明』という判断になりかねない。
それはどうにもよろしくないような予感がしたのだ。
シンシアが帳簿のノートを確認し終わるのを待って、俺が受け取った銀箱くんを小脇に抱えたまま壁により掛かった時、不意に俺の真横で壁が光り始めた。
「おわっ、どうした?!」
「御兄様、動かないでくださいっ!」
「お、おぉ」
シンシアが杖を構えて光っている壁に向き合うけど、その表情からして攻撃を受ける可能性はないと考えているっぽい。
「銀箱くんを持っている御兄様が触れたことで、壁の一部がリリアーシャ殿のオーラとペンダントに反応したようですね。文字が現れてきました」
横目でチラリと見ると、確かに壁に現れた四角い枠の中にズラズラと文字っぽいモノが映し出されているようだ。
俺からは角度的に見えにくいけど、マリタンの記述と同じで文字としては読めるものが多い。
ただ、意味が分かるかというと微妙・・・分かるような分からないような・・・古語だな。
「御兄様、もう身体を壁から離しても大丈夫だと思います」
「一体なんだコレ?」
「そうですね...平たく言うと島内の『案内板』でしょうか?」
「案内板?」
「ええ。一行ずつに分けて大まかな目的地が記してあるようです。恐らく、それを選べば何らかの方法で行き方が示されるのでは無いかと思います」
「だとすればエルスカインの手下達より先に、この島の重要な場所に到達出来る可能性もあるな...よし、リリアちゃんがガラス箱に入れられた時期のことは後回しにして、まずは行けるところまで行ってみよう」
「はい。行き先はどうしましょうか?」
「どうやって選ぶんだ?」
「恐らくノートと同じだと思います。指で触れれば選択できるのではないかと」
「なるほどね...で、書かれているのはどんな内容なんだい?」
「上から五行目に書いてあるのは、『中央・制御・管理・室』という単語の組み合わせです。他にも色々ありますけど...見た感じでは、そこが一番重要な場所っぽいですね」
「ちなみに他には?」
「えっと...居館、動力区、植物園、居住区、錬金区、迎賓館、港、畜産区とか、単語的にはそんな感じですね」
ひょっとして、獣人族の作業員たちが資材を運び込んでいたのが迎賓館かな?
「港もあるのか?」
「ええ、ただ言葉としては港でも、本当に船が入る港なのか、さっきのアクトロス号が置かれている平地のことなのかはハッキリしませんけど」
「それはそうだな、どっちも有り得るか...」
「それと錬金区っていうのは工房のことかも知れませんね。『区』というのは街区と同じ意味なので、工房というには大規模な気もしますけど」
「島は閉鎖された土地だからね」
「狭い、という意味ですか?」
「いや、錬金術には危険な素材や魔法を扱うものも多いし、一般の生活空間とは切り分けてるんじゃないか? たぶん魔法ガラスの発掘現場はそこだろう」
「ですね! ただ、島全体の再起動を目指しているのであれば、本当の目標としては、『中央制御管理室』か『動力区』というところを目指している可能性も考えられるかと...」
「それがローブの男が言ってた、『目当てのモノ』なのかな?」
「可能性としては」
「結局、奴らが島の全体構造を理解してるかどうか次第だな。『発掘』っていう言葉遣いからすると微妙だって思うけどね。魔法ガラスは別枠だとも言ってたし、探索の途中で偶然見つけたって可能性も高いよな?」
「たしかにバシュラール家のオーラもペンダントもないのであれば、こんな案内装置の存在なんて気が付いてなさそうに思えます」
「俺もそう思うよ」
「では、私たちも『中央制御管理室』か『動力区』と呼ぶらしいところに行ってみますか?」
「まずは制御管理の方かな?」
「御兄様、上から五番目の文字の並びに触れてみてください」
シンシアに言われた通り、慎重に上から五番目の文字列を選んで指で触れてみると、その文字列が強く光った。
ちゃんと指に反応したらしい。
何が起きるかと固唾をのんで見ていると、壁に光る線の模様が浮き出てきた。
白い壁に青い光の線。
壁の表面はつるんとしていて魔石ランプの類いが埋め込まれている様子はないから、どうやって光らせているのかは謎だ。
「この線は...矢印だな」
「確かに、一方向に向けて尖っている感じですね。行く先表示ですか」
「だろうね。さっきの文字の並びが案内板だとしたら、これは俺たちが選んだ『中央制御管理室』への道順を示してくれてるんだと思うよ。とにかく、矢印の示す方に進んでみよう」
++++++++++
壁に浮き出てきた『青い光の矢印』は、俺たちの進む歩調にぴったりと合わせて少し先を進んでいる。
やはり、オーラ付きの銀箱くんによって存在を認識しているのだろう。
進む中でいくつかの扉を通り過ぎたけれど、それらも触れることすらなく、ただ近づいただけで音もなく開いた。
しばらく階段を降りたり廊下を進んだりを繰り返した後、最初に建物に入った時とは少し雰囲気の違う綺麗な廊下をしばらく歩き、その突き当たりで両開きの扉が開いた。
中は、とても狭い部屋だ。
部屋と言うよりも、いっそ箱と言ってもいい。
「ライノ、なんだよこのちっさい部屋は?」
「これは昇降機よドラゴン。この部屋ごと上下に移動できるのよ」
「そういうことか。ソブリンの離宮のみたいに床が動くんじゃ無くて、天井のある部屋自体を動かすんだな」
「ええ、たった一階分を上下するだけのアレに較べたら、つまりこれは移動する距離が長いってコト、ね」
「なるほどな...『中央制御管理室』なんてご大層な名前の割に、箱みたいな部屋に辿り着いたから何事かと思ったぜ」
「まあ、何処に連れて行かれるのかは乗ってみないと分からないし、入ってみよう」
とにかくみんなで箱の中に入ったら後ろで扉が勝手に閉まって、かすかな衝撃が足に響いた。
この箱があらかじめ『昇降機』だと知らされていなかったら罠に掛かったかと警戒するところだろうな。
箱の動きは下に降りていくように感じる。
つまり、より深く島の中心部へと向かっているのだろう。
そして、この『箱』が動き続けている限り、俺たちは自分の足で移動する必要が無い。
つまりボーッと立っているだけでヒマだ。
ずっと沈黙しているのもイヤなので、どこかに到着するまでの場つなぎとして、とりあえずさっきの『案内板』のところで感じたことをシンシアに話してみる。
「いやぁ、でもシンシアが俺の作った...って言うか、『元素材』を作った杖を大事にしてくれてるのは嬉しいねぇ。さっきなんか、咄嗟にあの杖を構えてたし」
「あ、いえ。まぁそれは、はい」
ん? 急にシンシアが挙動不審になったぞ・・・
あー、コレはなんか言いにくいことがある時のシンシアの態度だ。
目が泳いでるし、ホント分かりやすいよな!
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