なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第七部:古き者たちの都

発掘現場

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映し出されている大量の資材を眺めながら師匠との懐かしい船旅を思い出していると、銀ジョッキを操作し続けていたシンシアが声を上げた。

「御兄様、奥の部屋へ続く廊下がありました!」
「よし、出来るだけ深く入ってみてくれ。可能なら連中が発掘作業をしてる場所まで辿り着きたい」
「ええ、頑張ります!」

シンシアが銀ジョッキをさらに廊下の奥へと進ませていくのを見ながら、さっき思い出していた船旅のことがなぜか頭を離れない。
俺は、なにが気になってるんだろう・・・?

部下の失態を見つけた水夫長ボースンの怒鳴り声と、裏腹に機嫌が良い時の豪快な笑い声・・・
航海士オフィサーのスマートな振る舞いと冷静な口調・・・
顔に深い皺を刻んだ寡黙な船長の厳正な態度と厳しい表情、そして時折見せる部下達への優しさ・・・

そうだよ『船長』だよ!
船の中でのことは一切合切を船長が取り仕切る。
でも発掘現場は船とは違うだろう? 
発掘作業を取り仕切っているヤツ・・・そして捜し物が何かを知っているヤツが、最前線にいるはずだ。

「シンシア、船長や航海士はアクトロス号から降りてないよな?」
「私が見ていた限りでは、あの立派な服を着た方々は荷役作業でも船から下りていないと思います」

「だったら発掘現場じゃ、他の誰かが船員や作業員達の監督や指示出しをしているはずだな」
「そうか、現場監督は必要だよなライノ?」
「ああ。奥にもっと発掘作業員達がいるのか、この船員達が兼務させられてるのかは分からないけど、どちらにしても監督はいるだろ。逆らうとかサボるとかじゃなくて、『何をどう掘ればいいか』を分かってるヤツが必要だからな」

「御兄様、それは獣人達を支配している側、つまりエルスカイン直属の部下と言うことですね?」
「多分『ホムンクルスの魔法使い』だろう。ひょっとしたらウルベディヴィオラの桟橋で荷役作業を見張ってたローブの男かもしれないな」
「どうしますか? とりあえず、ここから銀ジョッキでその魔法使いを探しますか?」

「いや...俺たちもどこかから中に入ってみよう。発掘現場と魔法使いを見つけても、結局はそこまで自分で行かなきゃダメだろうし」
「そうですね。侵入できる場所を探しましょう」
「銀ジョッキはどうすればいいかな?」
「姿を消したままで、いまいる廊下の天井に張り付かせておきます。よほどのことがない限り発見されなと思いますし、魔力切れになるまではそのままにしておけますから」
「よし、そうしよう。きっと銀ジョッキには後でまた探って貰うことになる」

「しかしライノ、闇雲に歩いても仕方ないと思うぞ。何処に行けばいいのかサッパリだし、いくら姿を消してても、奴らの通った道を玄関からそのまま辿ってくワケにはいかないだろう?」

「まあ島の地図が有る訳じゃあ無いしなあ...どうやって別ルートを見つけるかは問題だな」
「何を探しに行くかもだろ?」
「それはエルスカインの手下達に気付かれないように出来るだけ近づくしかないよアプレイス。『奴らが探してるモノ』が俺たちの探すべきモノだ」

「それもそうか...次にどうするかは見つけてから考えるってコトだな」

「もし奴らが先に見つけたら、ソレを俺たちが横から奪うことになるだろうね」
「お兄ちゃんって盗賊みたーい!」
「やかましいわ。って言うかこの会話、ソブリンでもやったよな?」

「御兄様、方向については諦めて、とにかく奥へと進んでみましょう。浮遊桟橋の発着場所はここから見て左手の方だったと思いますし、二刻も掛けずに島を横断できるはずです」

「逆に、それほどの大きさで人造物ってのが驚愕だよ」
「良く作ったよねー!」
「本当に古代の魔導技術は計り知れませんね。現代とは建築の概念が全く違っていたのだと思いますけど」
「そうそう、元の発想から違うよね...」

飛翔するか跳躍すればアクトロス号に辿り着くのはそれほど手間の掛かる話でもないのだけど、今はとにかく物理的にも魔法的にも目立たないことを優先して徒歩で密林の奥へと進んでみることにする。
下草が生い茂ってツタの絡まるジャングルの中を進むには、ガオケルムの脇差が最高に役立つ・・・って、最近は立ち回りじゃ無くてこんな役割ばかりだな!

足下が少し悪いので、シンシアも俺が作った『杖』を出して使い始めた。
もはや俺が作ったのは芯になっている『棒』だけで、ビジュアル的には完全にシンシアの手による工芸作品だけど。

「それにしても、ちょっと面白い地面だよな、ココ」
「どうしてですか?」
「木の根がゴツゴツうねってて歩きにくいけど、地面自体は平坦だ。自然の地形みたいな上り下りとかデコボコが全くない」
「確かに! 言われてみれば勾配も起伏もないですね」

密林の中ではけたたましい鳥の鳴き声はするモノの、人にとって危険性がある獣が住んでいるような気配や痕跡は全くない。
まあ、もしも『庭』として人工的に作られた場所なら、海鳥や渡り鳥以外は、すべて人の手によって持ち込まれた生物のハズだ。
そうそう危険な野獣や魔獣なんて放し飼いにする訳もないしな。

「空から見た時にも思ったけど、この島の上面は最初から『庭園』みたいな意図で平らに作られてたんじゃ無いかなって感じるんだ。土もたっぷり深くて、自然に溜まったっていうよりはどっかの大地から持ってきたものじゃ無いかな?」

「庭園ですか?」
「言うなれば王宮の庭みたいなモノかもな」
「そうですね...キュリス・サングリアの王宮庭園も、人が住まなくなって数千年も経てばこうなってしまうのかも知れません」

先日、エルスカインの戦い方について話した時にシンシアは、『私たちは歴史を繰り返しているだけかも知れない』と言った。
今のセリフも、ちょっとソレが尾を引いている感じだな・・・
だけど俺にしてみれば、むしろ『歴史を繰り返そうとしているエルスカイン』を止める戦いだって印象がある。

王都キュリス・サングリアが・・・つまり、事実上はポルミサリアが・・・人っ子一人いない死の世界なんかにならないように、何があろうと頑張るしか無いよ。

++++++++++

しばらく黙々と歩き続けた後、生い茂る木立の向こう側が明るく見えている気がして咄嗟に足を止めた。
みんなにも手で合図をしていったん停まって貰い、そこから姿勢を低くしてそろそろと進んでいくと、予想通りに、少し先の方で密林が切り開かれて浮遊桟橋の発着場へと続いていた。

「おお、見事に到着だなライノ!」
「アクトロス号がいるな。なんだか地面の上に大型船が置いてあるのって変な感じだよ」
「まるで飾りの置物みたいですね」
「ああ、それそれ!」
「どうする? 問題はアクトロス号からの荷物の運び先って言うか、この遺跡の入り口を見つけることだよな?」

「建物らしきものも沢山あるし、こんなデカい島の施設に一カ所しか入り口がないって事はありえないからな。出来ればエルスカインの手下達とは違う出入口を見つけて中に入り込みたいんだけど...マリタン、なにか良いアイデアかヒントは無いか?」

「無茶振り、ね、兄者殿。ワタシには街の記憶なんて無いのよ?」
「まあなんでも適当な思いつきでいいよ」

マリタンが生活魔法を蓄えているってコトは、つまり『古代の生活』に役立つ知識を持っていると言うことだ。
さっきの浮遊桟橋・・・マリタン的には家庭用の小型ボートのドックか・・・のコトもそう言う知識の延長だろう。
だったら、一般家屋に関する知識の延長で、この島の設備を探れたりとか出来ないかな?

「えっと兄者殿、あの凝結壁のカケラを見つけた森で『地下を探る方法』について話した事があったわよね? 覚えてらっしゃる?」

「もちろんだマリタン」

「ワタシの知ってるそれって、地面に埋めてある『パイプ』を掘り返さずに見つけ出す魔法なのよ、ね」
「パイプ? なんで?」
「上水や下水よ。大都市ならそう言うモノは家庭ごとに処理したりせずに、街全体でやるモノらしいわ」

アスワン屋敷では誰も何もしなくても、常に水瓶には綺麗で冷たくて美味しい水が湛えられている。

それですっかり忘れていたけど、そもそも、どの家庭にでも魔法が使える人がいる訳じゃないと言うか、そんなにドコにでもいるワケじゃないので、飲み水は川や井戸から汲んで来るものだ。
汚れた水を浄化するのも同様で、街中なら下水道に流すだろう。

だけど、マリタンの言い方だと排水溝を掘るのでは無く、水を流すパイプを地中に埋めてるように聞こえるんだが?
マジで?
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