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第七部:古き者たちの都
海上を追う手段
しおりを挟むその後は結局パルレア案にしたがって『銀の梟亭』で適当な昼食とデザート、それにエールを多めに買い込んでからソブリンに戻った。
ソブリンの宿屋に着いてから食堂に降りて、部屋で食事が出来るかと聞いたら、食堂で出せるものなら運んでくれるそうなので、言い訳程度に酒と肉を中心に昼飯を頼んだ。
一日部屋にいるフリをするなら何も食べないのも不自然だ。
こっちは食べなくても革袋に仕舞い込んでおけばいいからね。
酒と肉なら、いつか必ずパルレアが消費する。
「さっきの話だけどなパルレア。水平線の影に隠れて追うってのは極端だとしても、ヴィオデボラがどの位遠くにあるのかさえ分かれば、船で追うことも出来なくは無いよなあ」
「お兄ちゃん、船って操れるの?」
「小舟なら経験があるけど、帆が三枚以上付いてるような船はムリだな。って言うか、そういう船は一人じゃ動かせないだろうし」
「そもそもダメじゃん!」
「あー、すまん...」
「大きい船って動かす人も沢山必要なんでしょー? 船を借りるって、要は船員さん含めて丸々ってコトだったら秘密なんて言ってられなくない?」
「まあそうだよな。それにウルベディヴィオラの港にいる船は、誰にどうエルスカインの息が掛かってるか分からないし、迂闊に話も出来ないか...」
「フォーフェンみたいな破邪衆寄り合い所を探して、船を貸してくれそうなトコを聞いてみたらー?」
「いやダメだ。俺自身も破邪って存在をそこまで潔癖だと考えてないからな。とっくに、一人くらいは買収されてないとも言い切れないよ」
「そっかー」
「とにかく、ヴィオデボラの場所を探す方法は根本的に考え直さないとダメっぽいな」
もの凄くガラス箱の秘密に近づいてる気がするのに、ここで『手掛かりの絡まった綱を手繰れなくなる』のはあまりにも悔しい。
とは言え、発掘現場らしき『島』が大海原の何処にあるかも分からないのに、小舟で追い掛けるなんてタダの自殺行為だしな・・・
もしもエルスカイン側の船がそこそこ大きかったら、漁師の小舟なんかじゃ比べものにならない速度が出せるだろう。
大型船の帆の数と大きさは伊達じゃないのだ。
って言うか、本当にヴィオデボラ島が『移動し続けてる』のだとしたら、そもそも小舟で追いつける相手なのか?
かなり難しそうな気がする。
そんな近場にある島なら、もっと沢山の遭遇談が出回っているはずだし。
なにか打開策は無いモノかと昼食後に考え込んでいたら、転移門が作動してシンシアが部屋に現れた。
「お、俺たちがここにいると分かってきたのかシンシア?」
「だって、御兄様がどちらの方向にいるかは分かるじゃありませんか? いまルースランド方面で御兄様がいる場所と言えばソブリンしかありません」
「そりゃそーか。跳ぶ前に見えるしな」
ダメだ、シンシアに休めだの根を詰めるなだの言っておきながら、俺の方が頭が回らなくなってきてる気がする・・・
「御兄様、銀ジョッキ『改』の試作パーツを持ってきたので見て下さい」
「えっもう! 早すぎるだろうシンシア!」
「まだパーツだけです。銀ジョッキ自体に組み込むのはこれからの作業なので。それに正直、マリタンさんの貢献が大きいですよ?」
「それにしてもだよ...」
「とにかく、銀ジョッキ改のコアパーツがコレです。高純度魔石をセットして魔力波の受け渡しと不可視結界の維持、それと浮遊回路に使います」
「浮遊回路?」
「あ、浮かぶ仕組みです。これは完全にマリタンさんの知識で出来ました」
「へぇー」
「それで御兄様に相談したかったのは、どの位の距離まで使えるようにするか? なんです。昨日お話ししたように、使う魔石の数を増やせば対応できるのですけど、その分だけ魔力波回路も重くなり、それを浮かせるための浮遊回路も大型になって...と、エスカレートしていくんです」
「なるほど。どこでバランスを取るかって事か...ところでシンシア、魔力波って地平線や水平線の向こう側、見えないところには届かないのかな?」
「いえ? 届きますよ。銀ジョッキが次元のズレに包まれていなくても、魔力波自体には壁も土も水も関係ありませんから。ただ遠くなったり障害物があると必要な魔力が増えるだけです」
「そーじゃないと覗き見には使えないモンねー!」
「え? えぇまあ」
「だったらいけるか...でも船をどうするかが問題だけどなあ」
「船とは?」
「ああ、説明するよ」
今朝、パルレアと二人でウルベディヴィオラで見たことと、そこから推測した『ヴィオデボラの正体』についてシンシアに説明する。
ヴィオデボラとは実は伝説の『彷徨う島』のことで、島そのものが古代の遺物なんじゃ無いかと考えている事を教えると、シンシアの興奮度がピークに達した。
「凄いです御兄様! アッと言う間にそこまで探り当てるなんて! 天才です!」
「いや偶然だけど?」
「そんなことありません! 『発掘現場が移動し続けてるから転移門を開けない』なんて、御兄様と御姉様じゃなかったら、そんなコトに気が付くのは絶対に不可能ですよ!」
「まー、アタシもお兄ちゃんもフツーの脳みそじゃ無いから!」
「ですよねっ!」
いやパルレア、シンシア、それってなんか違うくないか?
褒めてくれてることは分かってるんだけど・・・
「とにかく、仮に俺たちの推測が正しくてヴィオデボラが海の上だとしたら、そこまでどうやって追っていくかが問題なんだ。もしも陸を離れて何日も掛かるような場所ならそれなりのサイズの船じゃ無いと無謀だ。けど、俺たちの中に大きな船を操れるのはいないし、そもそも人手が足りない。それにアプレイスに運んで貰うって訳にも行かないと思う」
「飛び疲れても、降りて休む場所なんてありませんものね」
「うん。で、いまは手詰まりってところ」
「なるほど...船さえあれば、敵の船に銀ジョッキを忍び込ませて後を追えるかもしれないのに...移動手段が欲しいですね...」
「でも、島まで何日かかるか分からないんだ。アイツらの会話からして何ヶ月ってことは無いだろうけど、ヴィオデボラにつく前に魔力切れで銀ジョッキが敵の船に鹵獲されたりしたら目も当てられないよ?」
「そこはなんとかします。例えば銀ジョッキに魔力の残量を図る機構を持たせて、残り少なくなったら海に飛び込ませるとか」
「うわあ、勿体ない!」
「ですが、現実的な解決だと思いますよ?」
「まあな...」
「とにかくエルスカインの手下の船を追い掛ける手段が必要ですね...それと銀ジョッキの位置を確認するための探知魔法の精度と到達距離も、もっと向上させた方がいいと思いますから、少し考えさせて下さい」
「ああ、俺も諦める前にもうちょっと頭を捻ってみるよ」
とは言ったものの、船を使わざるを得ないって言うのは大きな問題だ。
そもそも俺たちは誰も南岸諸国に伝手が無いからなあ・・・金の問題じゃ無くて、信用とか実績とか。
秘密保持云々を忘れたとしても、今日の明日ので、大きな船なんか借りられるワケが無いのだ。
++++++++++
屋敷に戻ってもシンシアに気を遣わせる心配は無くなったので、宿の女将さんには昼の器を返すついでに『昼を食べ過ぎたので夕食はいらない』と告げ、陽が傾いてきた頃、部屋からフォーフェンに転移した。
みんなの夕食は銀の梟亭で買い込むことにし、ここでも空いてる鍋や皿がいくつか溜まっていたので給仕のお姉さんに返しておく。
「あの...いつも持ち帰りの容器を綺麗にして頂いて有り難うございます。ですが...鍋でも皿でも、わざわざ洗って頂かなくても、そのままでお戻し頂いて構わないんですよ?」
「いやぁ、いつもすぐに返しに来れるとは限らないから、念のためにね?」
なんて、実際は汚れた皿と鍋はキッチンの洗い桶に突っ込んでおくだけで勝手にピカピカになっているので、俺の手間は全く掛からないのだけどね。
そのまま革袋に突っ込むと、状態としては『洗い立て』って感じになるから、お姉さんは、俺が毎回、返却の直前に洗っているか浄化魔法で綺麗にしていると思ったのだろう。
ともかく晩ご飯を適当に見繕って貰って屋敷に持ち帰る。
コクのあるエールが品切れだったのは残念だけど、今年一番の『早出しのワイン』が出来てきたと言うことで、それをたっぷり仕入れさせて貰った。
「パルレア、ちょっと早いけどシンシアに声を掛けて、晩ご飯をどうしたいか聞いてくれないか? 俺が部屋に顔を出すよりも、お前が聞きに行く方がいいだろうからな。俺は外にいるアプレイスを呼んでくるよ」
「わかったー!」
まだシンシアの部屋が散らかっている可能性は高いから、俺が顔を出すのは控えた方がいいだろうな。
作業に集中していてまだ食べたくないなら、あとで夜食を届けてもいいし・・・どうするかと思っていたら、すぐにパルレアと二人一緒で降りてきた。
いや、シンシアはマリタンを抱えているから三人か。
シンシアは昼を食べずに銀ジョッキの改良作業に没頭していたので、結構お腹が空いていたらしい。
つくづく、マリタンが一緒に食事をできないのが残念である。
代わりに魔石でも食べてて貰うかな。
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