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第七部:古き者たちの都
予備のホムンクルス
しおりを挟む図書室を出て五つ目の部屋に向かったが、ここも鍵が掛かっていたので、さっきと同じように極細魔石ランプを利用した跳躍で侵入した。
これまでで一番広い部屋だけど、今度は図書室じゃ無くて錬金室のような雰囲気で、良く分からない器具のようなモノが沢山置いてある。
< 人目があるから世代交代がむずかしーんだったら、やっぱり家族揃ってホムンクルスになるほーが良くない? >
< いや。俺の想像だけど、ルースランド王家の一族でホムンクルスになってるのは『王自身だけ』じゃ無いかな? >
< 子供はー? >
< 子供が育って大人になったら、定期的にホムンクルスの体を造っておく >
< んー? >
< 入れ換えるんだよ。年取って衰えた自分の身体から魂を抜き取って、まだ若い息子や孫の『身体の一部』を使って、あらかじめ作っておいたホムンクルスの体にな? >
< えぇーっ! >
< それはっ! >
シンシアも、思わず声を上げた感じだ。
< 王族が崩御の前をこの離宮で過ごしてたってのは、ホムンクルスを作る時間じゃなくて、魂の入れ換え準備ってところだろう >
嫌な想像だけど、ソレを躊躇するヤツだったらそもそもホムンクルスになったりしないだろうな。
指先に明かりを灯して広い錬金室の奥へと進みながら目当てのモノを探す。
果たして俺の予想通りかどうか・・・
< ですが御兄様、魂を入れるためのホムンクルスは本来ニセモノです。元になった本物の子息殿はずっと生きているままなのでは? >
< じゃー、見た目は双子? >
< いや。本物が生きてちゃマズいだろ。『入れ代わった自分』が王位を継承しないといけないんだから >
< そんなっ! >
シンシアが絶句した。
無理もない、自分が延命を繰り返すために子供を作り、いざ老齢になったら成長した我が子を殺して入れ代わる・・・そして何食わぬ顔で、また次の世代のホムンクルスを作るための子供を妻に産ませ、いや、『息子の妻』に産ませて、自分の身体の予備を造るのだ。
おぞましい。
爵位が欲しくて親殺しをしたモリエール男爵が、ただの愚者に見えてくるほどおぞましい話だ。
気持ち悪すぎる。
< 証拠は無いけど、エルスカインには出来そうな気がする。シンシア、ホムンクルスの体は対象の肉体が一部でもあれば作れるんだろう? >
< それは...はい。元素材が少ないほど時間は掛かると思いますが、制作する事自体は出来るはずです >
< アトルの森でタルスさんが『これまでの国王と王妃もみな崩御の直前は離宮で過ごした』って言ってただろ? >
< ええ... >
< あの時は聞き流したけど後で思ったんだ。人は簡単に死ぬ。事故や病気で突然死ぬ。そういう時に、それからホムンクルスを造り始めても間に合わないんじゃ無いかってな? だったら、いつでも入れ換えられるように準備してあるはずだ。もちろん自分の体で作ったホムンクルスでもいいんだけど、ついでに若返る方が手っ取り早いだろ? >
< あー、それもそっかー...>
そんな話を三人で交わしながら歩きついた部屋の最後部の壁に沿って、俺が探していたモノが並んでいた。
コレが俺の予想していたものだ。
ガラスの筒に入れられたホムンクルスの体が複数。
『肉体』としてはもう出来上がっていて、後は『魂を移す』だけの状態になっているものだ。
中年男性、青年男性、それに少年と呼べるほど若い身体もあるのは、孫か、それとも実子がまだ幼い頃に造ったホムンクルスを何かの目的で保管してあるのか・・・あるいはエルスカインのことだ、ホムンクルスを保管状態のまま成長させるワザでもあるのかも知れない。
どうでもあっておぞましさは変わらないが、もし必要な時にはこれらの身体に魂を入れないまま、『ニセモノ』のホムンクルスとしてエルスカインが操り人形に出来るのだったら保管しておく意味も分かるな。
いや、そもそも『最初の王様の魂』は今でも健在なんだろうかね?・・・
< シンシア、今どこだ? >
< 外の廊下を見張っています >
< 部屋の中に入ってきてくれ。一番奥の壁際にいるから >
< わかりました >
< シンシアにはちょっとショックを受ける光景かも知れないからね。あらかじめ言っておくよ >
< はい? は、はい! >
エルダンでガラス箱を見せた時もそう言ったっけ。
ただまあ、ここのガラス筒に入ってるのは魔獣でもなければ、粘土で作ったパン種みたいな素体でも無くて、完成してる人族男性の裸体だからな。
パルレアは動じる気配も無いけど、シンシアに後で『とんでもないモノを見せられた!』と文句を言われないためにも前振りは必要だ。
< 御兄様が見えました >
< 俺たちの前にあるモノがなにか分かるかシンシア? >
< あぁっ! ここにもホムンクルスの製造装置があったんですねっ! >
そこかシンシア!
注目するのはそこなのか!
< いや、むしろこっちが本丸だろう。エルダンに一個だけあるのは、後から持ち込んだものだと思う >
< それはどうしてですか? >
< 考えてみればさ、古代の世界戦争時代には『魔獣の捕獲基地で保管庫』だったらしいエルダンで、ホムンクルスを造る必然性が無いだろ? >
< なるほど...確かにそうかも知れません >
< ホムンクルス...特に『ニセモノ』の方は一度に沢山を『操れない』のは確実だ。だから沢山造っても意味は無い。だけど、『造れない』訳じゃ無いって事だろうな。時間は掛かるから一度に沢山は無理だけど、こうやって長期間かけて造って、それを保管しておく事は出来るんだから >
< そうですね...エルスカインの姿勢って、基本的に消費型ですよね >
< 消費型? >
< ええ、良い道具を大切に使っていくというよりも、手軽で同じモノを沢山用意しておいて、少し傷んだらすぐに破棄して次のモノと取り替えるとか...そんな感じです >
< ああ、確かにエルスカインは何でも使い捨てにするヤツだと思うよ。人でも魔獣でもね >
< ただ...それって大規模な戦争のスタイルだと思うんです >
< 戦争かい? >
< はい、お父様からの受け売りなのですが、昔の戦争では『英雄』つまり御兄様のような方が、どちらの味方についているかで勝敗が決まりました。つまり、個人の力がとても大きかったそうなんです >
えーっとシンシア、俺は英雄じゃ無いと思うよ?
勇者と英雄は似て非なるモノだからね。
むしろ無関係。
< まあ、豪傑の逸話とかお伽話は沢山あるものな? >
< ええ、ですが数百年前から様子が変わってきて、兵士の数や軍隊の動かし方、それに武器の量と質などで勝敗が決まるようになったそうです。言い方は不道徳ですけど、より強い『戦争の仕組み』を構築できた勢力が勝つようになった、と >
< なるほどね。それは良く分かる。俺も昔、師匠から『普通は数の差が勝負の分かれ目になる』って聞かされてたよ >
< そう言う話ですね。結局は数量、物量が決め手という事なんでしょう。それで、エルスカインはそういう...数で勝負して武器は使い捨て、そういう『近代戦争』のスタイルなんだなって思ったんです >
< それはシンシア、逆にエルスカインが古代の世界戦争を戦ってきたヤツだからじゃ無いかな? きっと古代の戦争は魔法も技術も武器も何もかも、現代よりも進んでただろうって思うからね >
< 確かにそうですね。私たちは歴史を繰り返しているだけかも知れません >
< そうかもな...まあとにかく俺が予想していたモノって言うか、目的のモノは見る事が出来たよ。撤収しようパルレア。ここで銀ジョッキを結界で包んで『次元のズレ』を解消できるか? >
< やってみるー! >
< 御姉様、銀ジョッキを正面に位置させました。五歩離れたところです >
< ありがとー >
パルレアが自分の真正面に向けて両手を突き出した。
透明だけど、わずかに結晶のような模様が見える球形の結界がその向こうに発生し、おそらく銀ジョッキがいるはずの空間を包み込む。
つづいてパルレアの両手から紡ぎ出された『光の綿毛』の様なモノがその中心部に入っていくと、なにかに絡みついた。
ああ、ボンヤリとした姿だけど、あれは銀ジョッキの輪郭だな。
パルレアが光の綿毛を自分のこちらに引き戻して俺の前に持ってくる。
すぐに手を出して光の綿毛を掴もうとしたけど、手がすり抜けて掴めない。
ピンと来て、今度は両手をお盆のように捧げて、そのまま綿毛を下から支えるように保持した。
< じゃー出すねー? >
< よし、いいぞ! >
そして光の綿毛が消えると、同時に俺の手には銀ジョッキがあった。
自分の手に持ったのは初めてだけど、本当に新品でピカピカの錫製ジョッキみたいだ。
そのまま革袋に押し当てるとスルッと収納できた。
< よし、銀ジョッキの回収も完了だ! >
< さーっそく脱出ーっ! >
< はい! >
即座にパルレアが部屋の中に転移門を張り、シンシア達が待つ宿屋へと転移する。
なんとか無事に切り抜けたし、成果も予想しないほど大きかったけど、本当に密度の濃い一日だったよな・・・
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