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第七部:古き者たちの都
離宮の偵察方法
しおりを挟む「まるで転移門に吸い込まれたみたいです...」
「俺にもそう見えた。あれはどういうことなんだパルレア?」
「たぶんねー、エルダンに送りつけた罠の方が凍結から溶けて動き出しちゃったのよねー。それで、あの男達が開いていたシンシアちゃんの罠の方の転移門と重なっちゃって、振動し始めてさー...」
「うん、つまり?」
「完全に同じ場所って言うかー、『同一の門』に、二つの転移門が合わさるように重なって同時に開いちゃったからさー...チョット暴走?」
「具体的に今はどうなってるんだ?」
「たぶん、二つの橋が互いに繋がり合って、出口が消えちゃった状態?」
「はあっ?」
「御姉様、なんですかそれ?」
おぉう、シンシアにさえピンと来ないほど難解な状態なのか?
「つまりー...あの二人は次元の狭間に吸い込まれたってゆーか、輪っかみたいに繋がって始まりも終わりも無い橋を永遠に回り続ける感じ?」
「ええぇっ!」
「サラッと怖い事言うなよパルレア!」
「だって、ホントにそーなんだもん!」
「永遠って...」
「だから、送りつける事は出来るけど、不安定な状態だからどーなるか予測できないって言ったじゃん!」
「いやまあ聞いてたけどさ。それに、別にパルレアを責める気はサラッサラ無いから構わないんだけど、思ってたよりエグい結果になったと思ってな」
「ですね...アレが無限牢獄になるとか予想外でした...」
「永遠って言っても、あの状態のままで転移門が消滅させられたらって話でさー、どっちかの転移門の処に行って振動を止めればってゆーか、重なってる転移門を切り分けるよーなことをしてあげれば、出してあげられるよ?」
「そうなのか...」
「出さなかったら二人はどうなるんですか?」
「別にそのままー。時間と次元の狭間に掛かった橋を回り続けてるよーなモンだから、乱暴に言えばガラス箱に入れられてるのと同じよーな感じ?」
「やっぱりエグいなパルレア...」
「えーっ!」
パルレアが異議ありって感じで腰に両手を当ててむくれてみせる。
「いやいや、パルレアに対しての文句なんか一欠片も無いぞ? むしろ良くやったって感じだ」
「そー?」
「ああ。ちょっとやり過ぎたなってだけで」
まあ、どうせあの二人はホムンクルスだろうし敵なのだから、情けをかける気はこれっぽちも無いけどね。
「で、何がどうなったんだライノ?」
俺たちの沈黙の間をついて、ベッドの上に上半身を起こしたままのアプレイスが泰然とした様子で尋ねてきた。
「おお、すまんアプレイス。ちょっとドタバタしててな」
「ドタバタしてるのは見てて分かったよ。結果、どうだったんだい?」
「予想外の事もあったけど、概ね上手く行ったよ」
「予想外?」
「エルダンの大広間に復旧に来てた二人のローブの男が、シンシアの仕掛けた罠の転移門を開いたんだけどな、ちょっとした事故で転移門に吸い込まれて囚われてるんだ」
「事故か。あいつら敵なんだろ? 別に構わないんじゃ無いのか?」
「まあな。とにかく離宮に銀ジョッキを送り込む事には成功したから、侵入せずに偵察できるぞ」
「凄いな銀ジョッキ!」
「いや、凄いのは銀ジョッキを作ったシンシアとマリタンだよ」
「違いない」
「あら、ドラゴンはワタシも褒めてくれるの、ね?」
「当たり前だ。誰だろうと凄いモノは凄いからな」
「やっぱりチョット『一言余計』だわよ、ドラゴン」
「気にするなって。人じゃ無く、ドラゴンである俺にとっては『人族』も『本』も変わりは無いからな...心を持ってるならそれが全てだ」
「あら...そうなのね...」
マリタンの口調が急にしおらしくなる。
でも今の一言でアプレイスが妙にマリタンに絡んでいたというか、有る意味で気にかけていた理由がピンと来た。
アプレイスはマリタンの反応・・・心の動きが本物なのか、作り物なのかを見ていたような気がする。
もちろん『作り物』と言うなら、マリタンそのものが人の手で生み出された被造物って事になるんだけど、そこはあまり重要じゃ無い。
自分の心、自分の意思を持っているのか、それとも単に、あらかじめ設定されたとおりの反応を返しているだけなのか・・・俺にはサッパリ区別がつかないけど、たぶんアプレイスが見ていたのはそういうところだろうって気がする。
さすがドラゴン・・・
そして今のアプレイスの言葉から察するに、アプレイスはマリタンの『心』を本物だと判断したように思えるな。
「御兄様、これから銀ジョッキはどうしますか?」
誰もいなくなった部屋の中を一通り銀ジョッキに観察させていたシンシアがこちらを振り向いて尋ねてきた。
「あと、どの位の間動かせるのかな?」
「正直に言って分かりません」
「そうなのか?」
「御姉様の結界を通じた接続はいったん切れて、今は実空間で繋がっています。ただ、銀ジョッキの存在そのものは次元がズレたままなので、この本体からの魔力供給が機能するのか、それとも銀ジョッキが蓄えている魔力が切れたら動けなくなるのか不明なんです」
「それって、ズレてるけど同じ空間にいるってコト?」
「ええ。もしも銀ジョッキをこの部屋まで来させても、私たちにだって肉眼では見えませんよ? そこは存在がズレてますから。あくまでも魔道具の本体に送られてくる絵姿と音を通じて知覚できるだけなんです」
「面白いな...」
「さっすが、最強の『覗き道具』ねー! 市内のどこでも覗きホーダイ!」
「パルレア、その言い方はヤメロ。なんか非合法っていうか不道徳な感じがするからな!」
「でも非合法は事実じゃねえかライノ?」
「覗き行為が不道徳なのも、ね? 兄者殿」
「まあ、そうなんだけどさ...」
「それを言うなら、私たちがソブリン市内、いえルースランド国内にいる事自体が非合法で不道徳ですからね!」
もうシンシアまで・・・その通りだけどさ!
「ともかく...この状態でも、銀ジョッキを回収する事は可能なのかな?」
「はい恐らく大丈夫でしょう。銀ジョッキをここまで来させるか銀ジョッキのいる場所まで行って御姉様の結界で包み、次元のズレを解消させれば、そこで姿を現すと思います」
「このまま魔力切れになった場合は?」
「次元の狭間で消失します」
「それはもったいないなあ...」
「いえ、必要な時はまた作り直しますから大丈夫ですよ?」
そうなんだけど、シンシアが寝食を忘れて手作りした力作を使い捨てにするのは忍びない。
あの『銀箱くん』だって、俺は回収できてなんだか嬉しかったのだ。
実際、思いもかけない事で役に立ってくれたしな。
「なあシンシア、突拍子も無い考えだって事は分かってるんだけどな?」
「ホントよねー!」
「言う前から決めつけるなパルレア」
「だってお兄ちゃんが自分で、そー言ったし!」
「中身を聞いてから判断しろ。まあ、実際に突拍子も無いんだけどな...あの銀ジョッキが映し出している光景を見て、そこに『跳躍する』っていうのはヤッパリ不可能だよな?」
「えっ? 写し絵の向こう側に跳躍、ですか?!」
「うん...」
「やっぱり突拍子も無いじゃん!」
「わかっとるわ!」
「兄者殿、さすがにそれは、壁に掛かってる風景画の中に転移しようってモノじゃ無いのかしら、ね?」
「そうだとは思ったんだけどな」
「ええ、写し絵は実際に空間が繋がっている訳では無いので、その場所自体を見ている訳ではありません。あくまでも写し絵...いまマリタンさんが言ったように魔法で写し取られた『絵』に過ぎないんです」
「まあムリだよな。忘れてくれ」
「ずーっと覚えてよー!」
「やかましいわ! なんの嫌がらせだ」
「ですが...」
そう言ったシンシアがちょっと俯いて考えを巡らせ始めた。
『ですが』だと?
これは・・・ひょっとしたら、ひょっとするのか?!
「銀ジョッキが映し出している空間の『正確な座標』を知る方法があれば、それを目標にして跳ぶ事は不可能ではない気もします」
「おおっ?」
「ただ、それは見えているようで実は見えていない場所なので、目隠しをして転移するのと変わりません。銀ジョッキから得られた位置の情報に狂いがあったら...とんでもない場所に出る可能性もあります」
「でも不可能じゃ無いのか?」
「正確な位置さえ掴めれば、です。御兄様」
「いまの状態で銀ジョッキの位置を確定させる方法はあるのかい?」
「実はある事は、あるのですけれど...」
ちょっと奥歯にものの挟まったような言い方だな。
嘘をつくのが苦手なシンシアが、精一杯がんばってる感じ?
応援ありがとうございます!
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