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第七部:古き者たちの都
転移門の使い道
しおりを挟む「それは俺たちに、シンシアの生みだしたブレークスルーが沢山あるからだよ。『跳躍門』なんて、その最たるワザだもんな! シンシアがあれを開発してなかったらエルダンの調査なんて、あれほど上手く行くはずなかったんだから。いや、それ以前に調査に入れたかどうかも疑わしいよ」
「あ、有り難うございます御兄様」
「いや本気、マジ。でもなシンシア。もしも旧ルマント村を移転させる段階で、いまみたいに『橋を架ける転移門』を自由に使える状況だったら、使ってたような気もするんだ」
あの時は高純度魔石の大量発見と併せて、シンシアが転移メダルの鋳造って言う新技術を開発したからなんとかなったのであって、そうでなければ予定通りに往復で数ヶ月がかりの大遠征を行い、幌馬車隊で村人全員を運んでいたはずだ。
でも、同じように高純度魔石をふんだんに使えたのなら、精霊の転移門じゃなくて『橋を架ける転移門』でも問題ないだろうって思うからな・・・
「あぁ、それはそうかもしれませんね。一度に沢山の人々や荷物をダーっと送り込むような時には...まさに移民なんて最適な用途だと思います。もちろん必要な魔石は凄まじい量ですけど」
「そうだな。それに精霊魔法での転移術を『普通の人がメダルに頼らずに』使えるようになったとしての話だけどね。だけど、アプレイスのところに向かう途中の森で、魔獣の大群に襲われただろ?」
「あの数は!...そうですね、数だけならルマント村の全人口と大差ないかも知れませんね」
「で、あれくらいの数を一気に送るなら人族のブリッジゲートでも精霊魔法の転移術でも、最終的に使う魔力の総量は変わらなくなったりしないか?」
「確かに...それは有り得ますね!」
大量輸送の場合は、使用する魔力の効率の点でも『橋を架ける転移門』の優位性が高まっていく。
そうなればどこかのポイントで、『魔力の採算分岐点』を超える可能性はあるんじゃ無いだろうか?
「まあ、あの時の襲撃はあくまでも一方通行で、魔獣達を回収する気は元から無かったと思うけど」
「そうですか?」
「ガラス箱から出したとすればね。また回収してガラス箱に収める手間と魔力を考えると、エルスカインが基本的に魔獣を使い捨てにしてきた理由が分かる気もするんだよ」
「なるほど...」
「ま、色々と考えると、無駄かどうかは使いどころ次第って感じかな?」
「ええ...太古の人々にとって、いつか魔石やオリカルクムが枯渇するっていう心配はなかったのでしょうね。もしも世界戦争が起きなければ、本当にそのまま古代の高度な文明がいまでも続いていたのかも知れませんけど」
もしも世界戦争が起きなければ、か。
それはどうかな?
案外、闇エルフの引き起こした戦争なんかなくても、予想外の魔石枯渇とか奔流の変化とかで、人の社会が壊滅的なダメージを被ってそうな気がするんだよね。
近所をうろつく魔獣の数が、ちょいと閾値を越えただけで、農作業や狩りが出来なくなって村を捨てざるを得なくなる。
ルマント村しかり、エンジュの森しかり・・・人の社会なんて、それほどに脆い存在なのだ。
「つまり御兄様は、人魔法の転移門に使いどころがあると考えているんですね?」
「まあハッキリとしたイメージはないけどね」
「良ければ、どんな使い道を思い浮かべているのか教えて頂けませんか?」
「いいよ。簡単に言えば『一時的な荷運び』かな?」
「荷運び?」
「うん、輸送とか配達とか? そう言う意味では人を送るんじゃなくて物流の一種なんだろうな」
「へぇー」
「もちろん高純度魔石のコストとか、送り先が遠くなるとどれくらい無駄が出るかとか、そもそもドコまで送れるのか、とか、そういう現実的な制約は全部無視してのことだけど」
「そこは、いまはまだなんとも言えませんね。マリタンさんの術式からだけでは消費する魔力を完全に予測することは出来ませんから」
「じゃあ例えばの話な? 東の果てには『砂漠』があるって言われてるんだけど知ってるかい?」
「東の果て...俗に言う『蛮族の土地』ですね?」
「そうだ。どこまで本当かは知らないけど、東に行けば行くほど雨が降らなくなって、乾いた土地になっていくって聞いたんだよ。で、とうとう最後は草の一本も生えてない、岩と砂だけの土地になるってな」
「それが『砂漠』ですか」
「俺も実際に南方大陸でそんな感じの地域は見たことがあるから、北部ポルミサリアにも砂漠があって不思議じゃ無いと思う」
「そこは降雨量次第ですよね。雨の多い土地か少ない土地かは、人にはどうすることも出来ませんから。私はアサム殿がノイルマント村の土地探しをする時に『水源の確保』に物凄く拘っていたって話を聞いて、とても納得したんです」
「だけど、その砂漠のどこかに『橋を架ける転移門』を開いて、それが繋がる先を大きな湖の水中とか、キャプラ川みたいな大河の底とかにしたらどうなるんだろう?」
「あっ!」
「門が開いてる間は水が流れ込み続ける訳だよな? 古代の社会みたいに転移門をずっと開いたままにしていられたぐらい魔力が潤沢なら、そうやって水を送り続けることだって出来るかも知れないよね?」
「ええ、出来ますね!」
「もしも出来たら、砂漠を麦畑に変えられるかも知れない。それがいいことか悪いことは別として、もしも出来たら面白いだろ?」
「面白いです御兄様!!!」
我ながらバカっぽい思いつきに、意外とシンシアが乗ってくれた。
いつもシンシアって優しいなあ・・・
もし? だったら?・・・
個人にとっても社会全体にとっても、世界戦争のように『過去の選択肢』を考えるのは詮無いことだけど、『これからのこと』だったら、考えるほどに面白いコトが出てきそうじゃないか?
++++++++++
転移門の話をシンシアと駄弁っていたら、ようやくパルレアとアプレイスとマリタンが屋敷に帰ってきた。
そう、ついさっきまで屋敷には俺とシンシアの二人きりで、他のみんなが揃って出掛けてしまっていたのだ。
なんでも、パルレアが『銀の梟亭』へデザートを仕入れに行くって話から、マリタンが自分の知らない数千年後の街を見てみたいと言うことになり、そこでパルレアがマリタンを抱えてフォーフェンの街を歩くのは無理があるって話が出て、マリタンの『お抱え輸送係』・・・まさに文字通りの・・・としてアプレイスが徴発されたそうだ。
ピクシー姿のパルレアが分厚い魔導書を抱えてフラフラしてるってのも異様というか街中の耳目を引き付けそうな光景だろうけど、だからと言ってコリガンサイズなら大丈夫かって言うと・・・
エルフの幼い少女が古い魔導書を抱えていたんじゃ、奇妙さには大差ないし、事情を知らない奴からすれば、マリタンは見るからに『高価な稀覯書』風の体裁だからね。
単純にアンティーク的な興味を持つ奴とか、表紙の文字が読めてしまうような奴から目を付けられたりしたら面倒臭いのは分かる。
「そこは防御とか迎撃とか、マリタン自身の魔法でなんとかならないのか?」
「ごめんなさい兄者殿。そういう『実用的』じゃない魔法って、ワタシの範疇じゃ無いの、よね?」
「実用的?」
「あ、御兄様、その...マリタンさんに書かれてる魔法って、基本的には社会的な実用性があるものと言うか、人々の暮らしに役立つものと言うか...」
「えっと、つまり?」
「平たく言えば『生活魔法』が主体なんですよ。汚れ物を綺麗にするとか濡れたものを乾かす、あるいは重いモノを運んだり、互いに連絡を取り合うとか遠くを見聞きするとか、色々な魔法素材の錬金方法とか...要は暮らしが便利になる魔法と錬金術なんです」
「なのよ、ね?」
「ですので、攻撃的な魔法とか武器とか呪いの類いとか、そういう知識はマリタンさんにはありません」
「あー、そういう...」
たしかにマリタンの元タイトルは『魔法と錬金の教養』だったよな・・・
攻撃とか破壊とか殲滅とかを『教養』とは言わないだろうから、間違っていない。
うん、タイトル通りだ。
予想外だったけど・・・
ともかく、マリタンに自衛方法がないのだったらアプレイスに抱えさせておくのは正解だったろう。
アプレイスに一睨みされたら、大抵の奴は目を逸らすだろうし。
しかし、マリタンがどうやってアプレイスを『ぶっ飛ばす』つもりだったのかは不明だな。
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