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第七部:古き者たちの都
転移門を『捕獲』する
しおりを挟む「うるさいわ二人とも。で、パルレアの『固める』ってアイデアはどういう意味なんだ?」
「えっとねー、あのガラス箱から連想したんだけど、魔法陣が起動しなきゃいいってのは結局、転移門が働かなきゃいいって事でしょー?」
「それ同じ意味じゃ無いのかパルレア殿」
「うーん、チョット違う?」
「お前ら、つい最近も似たような会話してたよな?」
「まずさー、魔法陣は素早くマリタンから抜き取って起動させちゃうワケ」
俺のツッコミはスルーしてパルレアが説明を続ける。
「ワザと動かすのか?」
「だってさー、動かさなくても魔法陣の解析は写し絵である程度出来るでしょーけど、それが全部って保証はないじゃん? 転移門の向こう側に連動する仕掛けがあっても分からないし」
「ああ、それもそうか...むしろ、魔法使いを対象にした罠だったら、見えないように色々仕組んでるだろうな」
「でしょー?」
「結局、あの紙に書かれた罠の全容を確認するためには、何らかの形で魔法陣を展開して起動させるしか無い、そういうことですよね、御姉様」
「そーなの! でねー、解析と転移門の向こう側の観察? それが終わるまではずーっと魔力を流しっぱなしって言うか、実質動いてる転移門をそれ以上の魔力で包んでるような感じなるワケー! エルダンじゃムリだったけど、ここなら出来ると思う。だって、アスワンの張った結界の中だしさー。地下の転移門の真ん中でやれば、魔石を使わなくても魔力の供給とか関係なくない?」
「当然、地下室で魔法陣が罠を動かし始めるよな?」
「そー。だけど、その転移門は動き始めるけど動き終わらないの!」
「んんん?」
「魔法陣が起動して転移門が開いたら直ぐに、その周りを現世の時間から切り離しちゃうワケよー。ただ完全に止めるのはむずかしーから、あくまでも時間の流れを遅くするってゆーか、引き延ばす感じ?」
「具体的にどうなるのかはサッパリ分からんけど、パルレアの言いたいことは何となく分かる」
「さすがお兄ちゃーん!」
「いや俺って雰囲気で馴染んでるだけで、理屈は分かってないからな? 要はガラス箱の中の魔獣と同じように、魔法陣から飛び出そうとする転移門を『捕獲』する訳だよな?」
「大当ったりー! やっぱりさすがお兄ちゃん!」
「ありがと。でもパルレア、あのガラス箱の理屈が分かったからって、直ぐに再現できる訳じゃ無いだろ? そもそもアレって人族の魔法だし、魔法ガラスとかティターンとかの素材も無いしな」
「もっちろん、そんなのムリだから精霊魔法でナントカするの! この屋敷ならアスワンの結界の中だし、地価の魔法陣があるから奔流の魔力も使いホーダイでしょー?」
「そりゃたしかに」
「御姉様、理屈は良く分かりませんが、とにかく転移門が動き出したところで凍らせてしまう、そういう風に考えれば良いのですか?」
「それー!」
「だけどそれって、かなり危険だよな? 凍らせるって言っても、罠自体はいったん起動させる訳だし...あと、時間を引き延ばしてる間に転移先を調べたり出来たとしても最後はどうなるんだ? そのまま何事も無かったように畳めるモノなのか?」
「いつかは動き出すかなー?」
「オイ!」
「だって、コレって『永遠に引き延ばし続けるか、いつか開放するか』の二択だもん!」
「なるほど、開放したら、その時点で罠の続きが動く訳だ...」
「でもダイジョーブ。前にさー、この屋敷全体が精霊の『箱』みたいなモノだって言ったじゃん?」
「ああ、そうだったな」
「箱ですか?」
「シンシア、お前の小箱や俺の革袋は、もともとアスワンが現世に色々なモノを送り込むために用意してくれてた『箱』っていう魔道具の応用らしくってな。周囲の空間や時間とは隔絶してるけど、パルレアの部屋や砂糖菓子のように、なにがしかのカタチで精霊界と繋がってるんだ」
シンシアの顔は明らかに『もっと知りたい! 詳細な説明を!』と喉まで口に出かかっているって表情だけど、ココでその話をし始めると目前の課題解決が進まないから我慢してくれ。
「お兄ちゃんの革袋とシンシアちゃん小箱、それにこの屋敷全体、封じ込め方は色々あるし、どーしても最後まで動かす必要があったら、動いてる罠ごとどっかへ転移門で送っちゃえばー?」
「は?」
「えぇっと、動いてる転移門を転移門で送るのですか、御姉様?」
「そー! 本当は空間魔法を入れ子に重ねるのって良くない事が起きやすいんだけどねー。この場合はどーせ、まとめてポイってするだけだし、どっかブッ飛んでいい場所に送りつけちゃえばいーのよ!」
「マジですか御姉様!」
「まじー」
「よしパルレア、なにもかもさっぱり分からないけど凄いのは分かったぞ! 要は転移門で転移門を送っちまうワケだな! ドコへ危険物を送りつけるかは別としてだ!」
「エルダンでいーじゃん?」
「おお、それだ!」
「なんだか割とヒドイ事を話してるよなライノ? 罠を持ち帰って起動させて、調べ終わったら動かしたままで元の持ち主のところへポイって...」
「それは仕方ないよアプレイス」
「まあな」
「何なら、オマケに精霊爆弾も付けよー!」
「ダメだパルレア。まだガラス箱の中身が分かってないんだから」
「そうですよ御姉様、あの部屋の魔道具の調査も全然出来ていませんし」
まあシンシア的には、それもかなり重要だよな。
俺だって興味云々は抜きにして、もっとエルスカインの真実に近づくためのヒントが欲しいし、あの錬金室に置いてあるモノに関しては、ついさっき『マリタン』という仰天する存在に直面したばかりだ。
他にも何が出てくるか、正直、予想も付かない・・・
「ただそうなると、地下室の転移門はしばらく使えないか?」
「御兄様、それはステップストーンの新型転移門でカバーできると思います。どのみち私たち兄妹以外は、魔石を使って跳んでくる以外に無いのですから」
「それもそうか」
「手紙箱の振り分けはどうしましょう? 皆さんに配った手紙箱を全て回収して新式のステップストーン型に改造すれば、地下室の手紙ゴーレムがなくてもなんとかできると思うのですが、少々時間が掛かると思います」
「いやシンシア、さすがにそれは大変だし、そこまでやる必要も無いと思う」
「そーよ。みんなに手紙を出しとけばー? 当面は手紙を送るの止めて、自分自身で行き来しろって」
「あ、それもそうか。自分で跳ぶなら魔石とメダルで直接目的地にステップストーンが出来るもんな! 手紙箱が無くても大丈夫だ」
「でしょー? あと、しばらくの間、この屋敷に来る時は地下室じゃ無くってアプレースの昼寝場とかに跳んできてって伝えといてねー」
「昼寝場って...草地と言ってくれパルレア殿。あと、わざわざ外に出なくても上のホールや玄関前にも、一度ライノが転移門を張ってるからな?」
手紙箱を送る代わりに実際に『人が移動する』となったら周囲の目を誤魔化すのが格段に難しくなっちゃうけど、今回は非常事態というか特別な状況だ。
手紙箱とは考えを切り替えて、不要不急の連絡は減らすようにして貰えればなんとかなるだろう。
「あと、コリガン族とピクシー族に預けてる手紙箱はどうするかな?」
しばらくの間だから大丈夫だろう..なんて気を抜いた途端にそこで何かが起きるものなのだ。
俺はエルダン城から退去する間際、西門前にチラついている明かりを見た時に、『人目の法則』は絶対に無視しないと心に決めた。
「御兄様、でしたら私がエンジュの森にメダルと魔石を届けておきます。あの方々には手紙箱でメダルを送りつけるよりも、対面でお渡しして説明した方が良いと思いますから」
「いや俺が行くよ」
「いえ、ついでにあの岩場で確認したいこともあるのでいずれ行きたいと思っていたんです。それこそ転移すればいいんですから、向こうでキャランさんやラポトスさんに説明する時間を入れても往復で一刻も掛かりませんよ?」
あの岩場で確認したいことと言えば、南部大森林の魔石サイロの壁とエンジュの森に転がっている黒い岩が同じ由来の素材かどうか、だろうな。
確かに、それは俺も知りたいし、シンシアに確認して貰う方がいいか。
「それもそうか。じゃあ頼む」
パルレアの奇抜なアイデアで、罠の解析が一気に進みそうな予感がしてきた。
次はシンシアの造る魔道具で、転移門の繋がる先を覗いてみようじゃ無いか!
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