なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第六部:いにしえの遺構

ガラス箱の刻印

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しかしまあ、この場所自体をエルスカインが作ったんじゃ無いとしても、どうしてこんな広い空間が地下に作れるのか分からないって位の広さだ。
ちゃんと一定間隔で柱を残しながらウォームに掘らせたのか?
だったらホントに魔獣職人だよな!

ともかく一番奥のガラス箱に辿り着くまでに、一体どれくらいの時間が掛かるのやら・・・あまり時間を食うのも良くない気がするんだけど。

「じゃあライノ、手分けしてやるとするか? 俺はシンシア殿やパルレア殿みたいに魔道具には詳しくないから、先にガラス箱の中を覗いて回ろうか?」

「お、じゃあそっちは頼めるかアプレイス」

「いいぜ。とりあえず魔獣じゃないって言うか、人族の姿をしているものやワケ分からないモノなんかが押し込められていれば、それを教えればいいんだな?」
「そんな感じだな」
「了解だ」
「俺は壁の右側から調べるからアプレイスは左側から頼む。お互いに真ん中に向かって調べながら一列ずつ奥へ進んでいこう」

さっそく二手に分かれて中身を見て回ろうと歩き出した途端、さっきのガラス箱に取り付いていたシンシアが声を上げて俺を呼んだ。

「御兄様! ちょっと宜しいですか?」
「どうしたシンシア?」

急いで近寄ると、シンシアがガラスをはめ込んである金属の枠を指差した。

「ここを見て下さい」

そう言えば、この鈍い銀色に輝く金属が魔銀じゃ無いのは確かなんだけど、ただの鉄や錫、銀や白銅なんかだとも思えない。
でもその素材が何かは良く分からないけどね。
金属だから表面処理のせいなのかも知れないけど、あまり見覚えのない気がする、ちょっと不思議な質感だ。

「ここです。薄らと文字が刻印されているのがお分かりですか?」
「おお、なんか文字っぽいな!」
「と言うか文字です。ガラス箱の内側は時間が経過しなくても、外側まではそうも行かないようですね。ここに置かれている長い年月の間にインクが腐食して読みにくくなってしまったのだと思います」

「へぇー古代のインクか」

どうでもいいけど、どんなものでも『古代の』って頭に付けると、なんとなく凄そうに思えるよな!
『古代の剣』とか『古代の魔石』とかみたいに、『古代のサンダル』とか『古代のフライパン』なんてのでも同じくらい凄いイメージが付きそう。

いや、ひょっとしたらコレは本当に凄いインクかも?
実際に数千年経ってるはずなのに、金属の表面に書かれた文字が少し掠れてる程度だもんな・・・

「あ、でもインクで文字が書けるって事は、この枠組みの金属はオリカルクムとかじゃ無いのか」
「違いますね。これはティターンじゃないかと思いますけど」
「なにそれ?」
知らない単語だった。

「とても軽くて、しかも堅くて錆びない金属です。ただオリカルクムと較べると強度も自己浄化力も全然低い割には扱いが難しいので、使われる用途が限られていたそうですが」
「へぇー」
「逆にオリカルクムほど浄化力が強くないせいで、さかずきや食器なんかに仕立てた時には食べ物の味を変えないから好まれたそうですよ。

「さすがシンシア、良く知ってるなあ、そんなこと!」

「いえ、ラファレリアの王宮には色々なティターン製品があったんです。最初、知らずに鉄製品だと思って手に持った時は軽くてビックリしました!」

でも次の瞬間、無邪気にそう喋ったシンシアの表情に、ほんの僅かな影が射したのを俺は見逃さなかった。

エルスカインと闇エルフの一族がなんらかの秘技で『エルセリアに変容せずに』生き延び、その血族がアルファニア王家の元となったのでは無いかという、いつぞやの推測を思い出したのだろう。
王宮にティターン製品が沢山あったことを、その傍証だとでも感じたかな?
俺にしてみれば考えすぎだと思うけどね。

「まあ、古代の技術はポルミサリア中で使われてたんだから、その遺物が何処にあっても不思議は無いよね。アルファニアや北部連合みたいに歴史の古い国々じゃないと散逸しちゃってるんだと思うけど」
「そうですね! アルファニア貴族は特に骨董品や古い伝統を大切にする人達でしたから...」

「それに俺たちだって魔石サイロを発見したことを考えると、エンジュの森のコリガン達が、なにかの拍子に地面の下から掘り出したティターン製品をフツーに使ってても驚かないな!」
「アハッ! 確かにそうですよね!」

よし、少し表情が明るくなったな!

「で、この文字は何なのかな?」
「あ、これは恐らくガラス箱が造られた工房の名前か所在地と、作られた時を記しているのだと思います」

「ほお...なんて書いてる?」

「書体が特殊ですけど、文字そのものは大きく変わりませんね。読み方が正しいかは別として左の文字列は『ポンテス』、真ん中の文字列は『ヴィオデボラ』と読める気がします。ポンテス・ヴィオデボラと続けて読めば人名のような雰囲気もありますし...ただ、右端の数字と記号の方は年号だとしても記述方式が現代と全く違うので、正直まるで分かりません」

「まあ、もし読めたところで古代とはこよみが断絶してるから『いつ』なんて分からないよね」
「そうですね。それでも古代の記録がもっと残っていたなら推測できたのかも知れませんが...」

苛烈を極めたという世界戦争のせいなのか、その後の荒廃が長く続いたせいなのか、その両方か・・・理由はともかくとして古代から現代まで引き継がれている記録や技術は非常に少ない。
ホムンクルスや転移門といった特殊な魔法は別格としても、オリカルクム鋼の製造方法なんてのも失われた技術の最たるモノだろう。
なにしろ元になってる原材料さえ不明なのだから。

「それこそ考えても詮無せんない事って奴さ。それよりも『ヴィオデボラ』だっけ?...そっちが気になるな」

「御兄様は、なにか心当たりがありますか?」

「タダの偶然の一致で大外れかも知れないけどね...ポルセト王国の南岸に『ウルベディヴィオラ』って言う舌を噛みそうな名前の港町があるんだよ。同じ貿易港でもミレーナ王国のロレンタほどは賑わってない小さな港だけど、昔から南方大陸に向かう船も出てる古い街だよ」

「ポルセト!...」

シンシアがハッとした顔をして俺を見る。
俺も言いたいことは分かるって言うか、自分自身も以前に思い浮かべたことだからね。
リリアちゃんの家名らしい『バシュラール』って、ポルセトから来てたシーベル家の魔道士三人組みたいに南岸地方っぽい名前だよなあって・・・

「ポルセトやミレーナの辺りなら、いまでもバシュラールっていう苗字がいそうだよな?」

「ええ! もしも『ヴィオデボラ』が、現代の『ウルベディヴィオラ?』の事でしたら、『ポンテス』というのが工房の名前で、ヴィオデボラはその所在地を示しているのかもしれません!」
「確率は高いな」
「ですね!」

ちなみにミルシュラント公国に運び込まれる南方大陸の産物は、その多くがロレンタかエドヴァルのヨーリントンから荷揚げされるそうだ。
まあ最近じゃあミルシュラント西岸のスラバスまで直接向かう船もいるってスライが言ってたけどね。

それに対して、アルファニア王国やその周辺国家に送られる輸入品はウルベディヴィオラをはじめとするポルセトの港に荷揚げされることが多い。
理由は簡単で、圧倒的にアルファニアとの距離が短いからだ・・・そこにも繋がりを感じないでも無い、か?

「よし、全部じゃ無くていいけど他の箱も少し調べてみてくれ。できれば離れた場所に置いてる奴がいい」
「どうしてですか?」
「このガラス箱が、どこかの工房で同じ時期に造ったモノだったら、これだけの数を一カ所で作れたのか分からない。もしも違う工房や違う街で造ったモノも混ざっているなら、少し時間差がついて収められた可能性が高いだろ?」

「あ、確かに! 納品時期が同じモノはまとまって置かれてる可能性が高いですよね。それに、ガラス箱を作れる工房が唯一無二だったら、わざわざ名前や制作年を書いておく必要もない気がします」

「だね。チョットずつ離れたところをいくつか見てみて、全部同じならそれはそれで。もしも別の名前が入っていたらヒントになるかも知れない」
「はい!」
元気よく返事をしたシンシアが、いそいそと部屋の奥へ向かっていく。

この場所のガラス箱は全部同じ工房で造られてるって可能性も高いし、それならそれで仕方ない。
だけど、ああいう風にでも言わないと生真面目なシンシアはここに並んでいる全てのガラス箱の刻印を端から一つずつ虱潰しに調べて行きかねないからな・・・そこまで時間を掛けるほどのことじゃないだろう。
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