なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

文字の大きさ
上 下
514 / 922
第六部:いにしえの遺構

放置は放棄にあらず

しおりを挟む

「しっかし、チンケな城砦の地下にこんな広い空間があったとは! これなら俺がドラゴン姿で入れるよなあ...」

「エスメトリスだって入れそうな広さだろ。多分ここは、今回の罠のために慌てて掘ったとかじゃ無くて、ずっと前から用意されてた空間だと思うけど。しかもドラゴンの大きさなら出入り出来るのは転移門だけだ」

「それって、ゾッとするな...」

アプレイスの感想はもっともだ。

なぜなら、牧場の罠が設置される以前から、この大広間に出入りするドラゴンは『これから支配される』か、『すでに支配されてる』かだけのハズだったって事だからな。

「ここが元々ドラ籠の安置されてた場所だったとしても驚かないよ」

「だよなあ! でもドラ籠...って嫌な呼び名だな! あのオリカルクムの檻の残骸とかはここには見当たらなかったのか?」

「一通り見たけど無かったな。アレなしでもドラゴンを押さえ込める自信があったって言うか、他の術があったんだろうけど」
「そうか...」
「ただ、エルスカインがそんなに昔からドラ籠を持ってたとすれば、牧場の罠で使わなかったことは、やっぱり不思議なんだけどね?」

「そう言えばそうだな。あの時は何かの理由で使えなかったのか、一個しか無くて他の場所で使おうとしてたのか...」

「その可能性もあるな」

ドラ籠は間違いなく古代の遺物だからね。
あっちの倉庫に並んでいる無数のガラス箱と同様に、どこかで数千年を超えて保管されてきたんだろうけど、精霊爆弾が炸裂した時にここに置いていなかったのはエルスカインにとって幸いだったんだろう。

ん? そう言えば・・・

自分で言ってから気が付いたけど、エルスカインは未だにココを吹き飛ばしたシンシアの精霊爆弾の正体を全く掴んでないのだ。
何しろ、吹き飛ばされた現場を見ることさえ出来てないのだから。

エルスカインは高原の牧場に罠を張り、その一度目の作動ではドラゴンが掛からずにパルミュナの身体を持っていく事になった。
そして二度目に起動した時には、あのホールの中にいたものの全てが吹き飛んだのだ。
どこか離れた場所で指示を出していたエルスカインにとっては、何の前触れも無しに突然、部下が音信不通になったという状況だから、罠が失敗してダメージを被ったとしか考えられないだろう。

でも、何がダメージをもたらしたのか、その正体は分からないまま・・・

もしかしたら、『ドラゴンを取り込むのに成功したモノの、そのドラゴンが暴れた時に押さえ込めずに反撃され、エルダンの基地を破壊された...』と、エルスカインが考えても不自然じゃ無いよな?
そうなら、南部大森林に現れたドラゴンを『エルダンの基地を破壊して逃走したドラゴンと同一個体』だと考えるのは、むしろ地理的にも頃合い的にも妥当な判断だと言える。

それで、エルダンと同じわだちを踏まないために、自前の魔術で抑え込もうとするのは止めて、虎の子の『ドラ籠』を出してきたってコトかも知れない。

問題はモリエール男爵のところでドラ籠に仕掛けた精霊爆弾が、エルスカインの拠点で吹き飛んだのか、なんらかの手段で爆発を抑え込まれて鹵獲されたかだ。
もしも鹵獲されていたら、解析されて対抗手段を講じられる可能性はあるからな・・・

++++++++++

とりあえず階段下の転移門は消しておき、四人で大広間を出て『ガラス箱倉庫』に向かう。

長い通路を歩きながら、ここに来てからパルレアと話してまとめた考えを掻い摘まんでシンシアとアプレイスに説明した。
急いで説明したからかなり端折ったけれど、シンシアの理解力をもってすれば十分だったようだ。

「で、これも想像なんだけどなシンシア、エルスカインは自力では動けない状態なのかも知れないって思うんだ。だから、アイツ自身は...どんな奴かは知らないけど、転移門の無い場所に来ることはない。来られないんだと思う」

「動けないと仰るのはどういう?」

「そのままの意味さ。まあ病気で寝たきりとか老衰で身体が弱ってるとかじゃなくて、何か魔法的な制約があるのかも知れないけど、とにかく転移門以外の方法じゃあ自分の居場所から出られないんじゃ無いかって思う」

「もしもそうだとすると...あの高原の牧場で罠を吹き飛ばして以降、つまり、このエルダンの地下設備を破壊して以降、エルスカインの動きが明らかにギクシャクしていることに説明が付きますね!」

シンシアってどうしてこう理解が早いって言うか、洞察力が高いって言うか・・・

「そうだ。だからエルスカインはあれ以降、この場所を訪れていないと思う。ここを動かしていた配下の魔法使いのホムンクルスは爆発に巻き込まれて消えたから、新しい転移門を張るためには誰かがエルスカインに派遣されてここまで来なきゃいけない。馬車に乗って遙々はるばるとかね」

「だったら、なんで新手を送ってこないんだライノ?」
「送れないって考えるのが妥当だろうな」

「ここのホムンクルスが消えたのなら代わりを出しても制御できるはずだろ。エルスカイン自身がどこに隠れてるかは知らないけど、馬車はともかく、使役してるグリフォンにでも乗ってくれば、それほどの日にちは掛からないんじゃないか?」

「俺が思いつく理由は二つだな」

「それは?」
「まず、さっき説明したようにここの設備が使えないから、ちゃんとしたホムンクルスを作れない。モリエール男爵とお付きの魔道士みたいな出来損ないになるだろう」
「あれかぁ...」
「それでも、あの魔道士は痩せても枯れても人間だった時から魔道士だったから、魔法を使わせられたんだ」

「つまり、エルスカインの手元にはマトモな魔法使いが残ってないし、適当に作ったホムンクルスを送り込んでも、魔法を使えないから転移門を開かせることが出来ないって訳か?」

「うん。それに人族の動かす『橋を架ける方式』の転移門は、魔力の消費が膨大なだけじゃ無くて転移門自体の消耗も激しい。だから使い続けるためには定期的にメンテナンスさせる必要がある訳だろ」

「そう言えば保守する専属要員が必要って話だったっけか。面倒だよな」

「だからこそエルスカインの手下はアチコチにホイホイ出てこれないんだよ。これまでの襲撃に使われた転移門もほとんど使い捨てだ」

襲撃場所を再訪して確認した訳じゃ無いけれど、これは間違いないと思う。
転移先に配下を置いてなきゃいけないとしたら、そうそう多くの場所に転移門を常設できないだろう。

手下の魔法使いはメンテナンスに大忙しで、しょっちゅう転移して回ることになってしまうよ。

「それともう一つ理由が思いつくかな。他の魔法使いがいても、ここに来させる手段自体が無いのかも知れない。グリフォンは手持ちの三頭を一気に使って品切れの可能性が高いし、仮にまだグリフォンが残ってたりワイバーンを持っていたりするとしても、不可視魔法が使えないと昼間っから飛ばせないだろう?」

「あー、それもそうか」

「確かに、エルスカイン側が不可視魔法を使ってきたことはないですね。男爵家で使われたドラゴンの檻も隠していたのでは無く、アプレイスさんの気配を探って転送されてきたようですから」

「あの時、檻の中に俺の姿が現れないって言って騒いでよなあ...」

「多分あの檻は、中に閉じ込めたドラゴンの魔法を阻害出来るんだろう。でないとブレスで焼かれて終わりだもの」
「で、エルスカイン自身は不可視魔法を持ってないと」
「多分ね。持ってれば使ってると思う。実際、もし使われていればヤバかったって状況は沢山あったよ」
「ですね。私もそう思います」

「俺が知る限り、ワイバーンやリントヴルム達は大きさや種類に関係なく不可視魔法を持ってない。多分グリフォンやヒュドラもだな。姿を隠せるのは俺たちドラゴン族だけだ」

不可視魔法が無ければエルスカインの配下が姿を消して動くのは難儀だな。

グリフォンに飛ばさせたとしても、仮に・・・本当に仮にだけど、アルファニア王国の王都ラファレリアにエルスカインの本拠があったとして、ここまで飛んでくるには何日も掛かるだろう。
その途中には多くの街があり、人気の無い荒野の上だけを飛んでくると言う訳にも行かない。
夜だけ飛ばすにしても、昼間はどこに隠れているというのか?
見つかれば大騒ぎ確定だよ。

「でしたら御兄様、ここは意図的に放棄されたのではなく、『まだ回復できてない』と言うことですね?」

鋭いね。
シンシアの言うとおり、エルスカインが『この拠点を諦めた』という確証はなにも無い。
いまは単に手を出せないでいると考えるべきだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

妖刀使いがチートスキルをもって異世界放浪 ~生まれ持ったチートは最強!!~

創伽夢勾
ファンタジー
主人公の両親は事故によって死んだ。主人公は月影家に引き取られそこで剣の腕を磨いた。だがある日、謎の声によって両親の事故が意図的に行われたことを教えられる。  主人公は修行を続け、復讐のために道を踏み外しそうになった主人公は義父によって殺される。  死んだはずの主人公を待っていたのは、へんてこな神様だった。生まれながらにして黙示録というチートスキルを持っていた主人公は神様によって、異世界へと転移する。そこは魔物や魔法ありのファンタジー世界だった。そんな世界を主人公は黙示録と妖刀をもって冒険する。ただ、主人公が生まれ持ったチートは黙示録だけではなかった。 なろうで先行投稿している作品です。

レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜

優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、 戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。 本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、 皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、 剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。 彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...