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第六部:いにしえの遺構
放置は放棄にあらず
しおりを挟む「しっかし、チンケな城砦の地下にこんな広い空間があったとは! これなら俺がドラゴン姿で入れるよなあ...」
「エスメトリスだって入れそうな広さだろ。多分ここは、今回の罠のために慌てて掘ったとかじゃ無くて、ずっと前から用意されてた空間だと思うけど。しかもドラゴンの大きさなら出入り出来るのは転移門だけだ」
「それって、ゾッとするな...」
アプレイスの感想はもっともだ。
なぜなら、牧場の罠が設置される以前から、この大広間に出入りするドラゴンは『これから支配される』か、『すでに支配されてる』かだけのハズだったって事だからな。
「ここが元々ドラ籠の安置されてた場所だったとしても驚かないよ」
「だよなあ! でもドラ籠...って嫌な呼び名だな! あのオリカルクムの檻の残骸とかはここには見当たらなかったのか?」
「一通り見たけど無かったな。アレなしでもドラゴンを押さえ込める自信があったって言うか、他の術があったんだろうけど」
「そうか...」
「ただ、エルスカインがそんなに昔からドラ籠を持ってたとすれば、牧場の罠で使わなかったことは、やっぱり不思議なんだけどね?」
「そう言えばそうだな。あの時は何かの理由で使えなかったのか、一個しか無くて他の場所で使おうとしてたのか...」
「その可能性もあるな」
ドラ籠は間違いなく古代の遺物だからね。
あっちの倉庫に並んでいる無数のガラス箱と同様に、どこかで数千年を超えて保管されてきたんだろうけど、精霊爆弾が炸裂した時にここに置いていなかったのはエルスカインにとって幸いだったんだろう。
ん? そう言えば・・・
自分で言ってから気が付いたけど、エルスカインは未だにココを吹き飛ばしたシンシアの精霊爆弾の正体を全く掴んでないのだ。
何しろ、吹き飛ばされた現場を見ることさえ出来てないのだから。
エルスカインは高原の牧場に罠を張り、その一度目の作動ではドラゴンが掛からずにパルミュナの身体を持っていく事になった。
そして二度目に起動した時には、あのホールの中にいたものの全てが吹き飛んだのだ。
どこか離れた場所で指示を出していたエルスカインにとっては、何の前触れも無しに突然、部下が音信不通になったという状況だから、罠が失敗してダメージを被ったとしか考えられないだろう。
でも、何がダメージをもたらしたのか、その正体は分からないまま・・・
もしかしたら、『ドラゴンを取り込むのに成功したモノの、そのドラゴンが暴れた時に押さえ込めずに反撃され、エルダンの基地を破壊された...』と、エルスカインが考えても不自然じゃ無いよな?
そうなら、南部大森林に現れたドラゴンを『エルダンの基地を破壊して逃走したドラゴンと同一個体』だと考えるのは、むしろ地理的にも頃合い的にも妥当な判断だと言える。
それで、エルダンと同じ轍を踏まないために、自前の魔術で抑え込もうとするのは止めて、虎の子の『ドラ籠』を出してきたってコトかも知れない。
問題はモリエール男爵のところでドラ籠に仕掛けた精霊爆弾が、エルスカインの拠点で吹き飛んだのか、なんらかの手段で爆発を抑え込まれて鹵獲されたかだ。
もしも鹵獲されていたら、解析されて対抗手段を講じられる可能性はあるからな・・・
++++++++++
とりあえず階段下の転移門は消しておき、四人で大広間を出て『ガラス箱倉庫』に向かう。
長い通路を歩きながら、ここに来てからパルレアと話してまとめた考えを掻い摘まんでシンシアとアプレイスに説明した。
急いで説明したからかなり端折ったけれど、シンシアの理解力をもってすれば十分だったようだ。
「で、これも想像なんだけどなシンシア、エルスカインは自力では動けない状態なのかも知れないって思うんだ。だから、アイツ自身は...どんな奴かは知らないけど、転移門の無い場所に来ることはない。来られないんだと思う」
「動けないと仰るのはどういう?」
「そのままの意味さ。まあ病気で寝たきりとか老衰で身体が弱ってるとかじゃなくて、何か魔法的な制約があるのかも知れないけど、とにかく転移門以外の方法じゃあ自分の居場所から出られないんじゃ無いかって思う」
「もしもそうだとすると...あの高原の牧場で罠を吹き飛ばして以降、つまり、このエルダンの地下設備を破壊して以降、エルスカインの動きが明らかにギクシャクしていることに説明が付きますね!」
シンシアってどうしてこう理解が早いって言うか、洞察力が高いって言うか・・・
「そうだ。だからエルスカインはあれ以降、この場所を訪れていないと思う。ここを動かしていた配下の魔法使いのホムンクルスは爆発に巻き込まれて消えたから、新しい転移門を張るためには誰かがエルスカインに派遣されてここまで来なきゃいけない。馬車に乗って遙々とかね」
「だったら、なんで新手を送ってこないんだライノ?」
「送れないって考えるのが妥当だろうな」
「ここのホムンクルスが消えたのなら代わりを出しても制御できるはずだろ。エルスカイン自身がどこに隠れてるかは知らないけど、馬車はともかく、使役してるグリフォンにでも乗ってくれば、それほどの日にちは掛からないんじゃないか?」
「俺が思いつく理由は二つだな」
「それは?」
「まず、さっき説明したようにここの設備が使えないから、ちゃんとしたホムンクルスを作れない。モリエール男爵とお付きの魔道士みたいな出来損ないになるだろう」
「あれかぁ...」
「それでも、あの魔道士は痩せても枯れても人間だった時から魔道士だったから、魔法を使わせられたんだ」
「つまり、エルスカインの手元にはマトモな魔法使いが残ってないし、適当に作ったホムンクルスを送り込んでも、魔法を使えないから転移門を開かせることが出来ないって訳か?」
「うん。それに人族の動かす『橋を架ける方式』の転移門は、魔力の消費が膨大なだけじゃ無くて転移門自体の消耗も激しい。だから使い続けるためには定期的にメンテナンスさせる必要がある訳だろ」
「そう言えば保守する専属要員が必要って話だったっけか。面倒だよな」
「だからこそエルスカインの手下はアチコチにホイホイ出てこれないんだよ。これまでの襲撃に使われた転移門もほとんど使い捨てだ」
襲撃場所を再訪して確認した訳じゃ無いけれど、これは間違いないと思う。
転移先に配下を置いてなきゃいけないとしたら、そうそう多くの場所に転移門を常設できないだろう。
手下の魔法使いはメンテナンスに大忙しで、しょっちゅう転移して回ることになってしまうよ。
「それともう一つ理由が思いつくかな。他の魔法使いがいても、ここに来させる手段自体が無いのかも知れない。グリフォンは手持ちの三頭を一気に使って品切れの可能性が高いし、仮にまだグリフォンが残ってたりワイバーンを持っていたりするとしても、不可視魔法が使えないと昼間っから飛ばせないだろう?」
「あー、それもそうか」
「確かに、エルスカイン側が不可視魔法を使ってきたことはないですね。男爵家で使われたドラゴンの檻も隠していたのでは無く、アプレイスさんの気配を探って転送されてきたようですから」
「あの時、檻の中に俺の姿が現れないって言って騒いでよなあ...」
「多分あの檻は、中に閉じ込めたドラゴンの魔法を阻害出来るんだろう。でないとブレスで焼かれて終わりだもの」
「で、エルスカイン自身は不可視魔法を持ってないと」
「多分ね。持ってれば使ってると思う。実際、もし使われていればヤバかったって状況は沢山あったよ」
「ですね。私もそう思います」
「俺が知る限り、ワイバーンやリントヴルム達は大きさや種類に関係なく不可視魔法を持ってない。多分グリフォンやヒュドラもだな。姿を隠せるのは俺たちドラゴン族だけだ」
不可視魔法が無ければエルスカインの配下が姿を消して動くのは難儀だな。
グリフォンに飛ばさせたとしても、仮に・・・本当に仮にだけど、アルファニア王国の王都ラファレリアにエルスカインの本拠があったとして、ここまで飛んでくるには何日も掛かるだろう。
その途中には多くの街があり、人気の無い荒野の上だけを飛んでくると言う訳にも行かない。
夜だけ飛ばすにしても、昼間はどこに隠れているというのか?
見つかれば大騒ぎ確定だよ。
「でしたら御兄様、ここは意図的に放棄されたのではなく、『まだ回復できてない』と言うことですね?」
鋭いね。
シンシアの言うとおり、エルスカインが『この拠点を諦めた』という確証はなにも無い。
いまは単に手を出せないでいると考えるべきだろう。
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