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第六部:いにしえの遺構
瓦礫の山
しおりを挟む「ねー、お兄ちゃん。本気で調べるならココに積み重なってる瓦礫をぜーんぶ取り除く必要があるのかなー?」
「いや、それは必要無いよ」
「でもさー、この瓦礫の真下が罠を張った転移魔法陣の中心でしょー?」
「だからこそ調べなくていいんだ」
「へ?」
「シンシアの精霊爆弾は転移門のど真ん中で爆発してる。だから、その時に魔法陣の内側にあったモノなんかや魔法陣そのものも全部最初に吹き飛ばされてるよ。瓦礫の下にあるのは転移魔法陣の残骸だけだな」
「あ、そっかー!」
「やっぱり細かいモノを探すのは後回しにして、とにかく繋がってる部屋って言うか空間を一通り探してみよう。敵が生き延びてるとは思わないけど、動作し続けてる魔道具とか自衛装置とか...そういう危険なものが無いかどうかをまず確認したいんだ」
「で、安全だったらシンシアちゃんを呼び寄せるの?」
「本当に安全と思えたらな」
「思えたらね!」
今回パルレアは、シンシアの身の安全をかなり意識しているっぽい。
アプレイスにどこまで運んで貰うかって相談をしていた時も、どっちかというと俺寄りの意見だったし、さっきも『戦闘になると思ったから残してきたかった』と明言している。
なんであれ姉として妹を可愛く思うのは良いことだから異論は無い。
「とにかく入れそうな場所には片っ端から踏み込んでみるぞ? 人がいなくても魔道具関係は何があるか分からんからな。防護結界はフル稼働しとけよ」
「りょーかい!」
「その前に...一応シンシアには、いま時点の状況を伝えとくか。きっと心配してヤキモキしてるような気がするし」
「いまはアプレースが一緒にいるからダイジョーブだけど、もしも一人だったら、私たちの戻りが遅いとゼーッタイに追い掛けてくると思う」
「だよなあ...」
とりあえず、指通信でシンシアを呼び出す。
< シンシア、俺だ。聞こえるか? >
< ご無事ですか御兄様っ!!! >
なんかシンシアの声っていうか脳内に響く心の言葉に、絶叫してる感があるぞ。
< ああ大丈夫だよ。地下は思った通りエルスカインの拠点だったけど、爆発で廃墟同然になってる。人もホムンクルスも魔獣も、今のところは動いてるモノは何もいないな。だから戦闘にもなってない >
< 良かったです!!! では私もすぐにそこへ! >
< いや待って待って。危険が残ってるかどうか、もう少し俺たちが調べてからにしてくれ。大丈夫だと思ったら転移門を開くよ >
< そうですか? でも私がいた方が、魔法仕掛けや魔道具の類いは探しやすいのではと思いますが? ダメですか? >
< ここ全体の様子が分かるまでは用心しておこう。パルレアの目で見て、長居しても問題ない場所だと思えたら、ちゃんと声を掛けるから >
< わかりました... >
かなり残念そうって言うかシュンとなったシンシアの雰囲気が伝わってくるけど、ここは安全第一だからね?
もうちょい我慢しててくれ。
シンシアとの通話を切った後、巨大な大広間を中心に、その周囲に繋がっている小部屋や廊下を順に調べていくけれど、ほとんどの場所にめぼしいモノは無い。
もちろんこの場合、『めぼしい』って言うのは価値のあるものとか宝物って言うコトじゃ無くて、エルスカインの居場所や正体のヒントになりそうなモノって意味だけど。
どの部屋も爆風で扉が吹き飛んでいるけれど、室内にそれほど多くのモノが置かれていた形跡が無い。
ホールの近くの部屋は控えの間みたいに、なにか大きな魔法を使う時の準備や一時的な待機とか待避の場所だったんだろうか?
「ホール側に扉のある...あった部屋は、これで全部見たかな?」
全ての部屋の扉が内側に吹き飛ばされているので、入り口がちゃんと扉で閉まっていた部屋は一つも無いのだ。
どの部屋を見ても、まるで室内を嵐というか竜巻が通り過ぎていったかのような惨状だった。
「壊れた道具が色々転がってるだけだったねー。ここは大きな魔獣なんかに術式を使うためだけの場所だったのかも? ドラゴンに限らず、グリフォンとか犀とかウォームとかさー」
「そうだな。エルスカイン一味が転移門でしか移動しないんだったら、この大広間が施設の『出入口』で、日常的な空間はもっと向こうにあっておかしくないよな...」
「だねー」
「よし、後は通路の奥を探ってみよう。きっとそっちが本命だ」
大広間の、俺たちが入ってきたのとは逆側に通路が続いている。
さすがに犀やドラゴンを通らせるのは無理だろうけど、移動は全て転移門だと考えればどうとでもなりそうだ。
むしろこの大広間は、あのドラ籠のようにドラゴンを一時的に閉じ込めておく場所として利用できるんじゃないか。
犀やドラゴンサイズだと、向こうの通路は物理的に通れなさそうだし・・・
大広間から通路へ入るところには更に下に降りるための階段が現れたが、ここに付いてたらしい両開きの扉はへしゃげて階段の下に転がっていた。
爆風が見事に扉を吹き飛ばしたのだろう。
階段を降りて吹き飛ばされていた扉を踏み越え、通路に踏み込む。
通路は本当に洞窟みたいで天井も壁も全体に丸っこい。
「暗いから両脇に隠し扉とか有っても、俺が気付かない可能性があるかも知れん。パルレアも注意してくれな?」
「もっと明るくすればー?」
「それは気が向かないなあ。万が一の遭遇戦を考えると、少しは目を暗がりに慣らしたままにしておきたいんだ」
「そー言えばお兄ちゃん、エンジュの森でウォームのトンネル歩いた時にもそーゆーコトを言ってたねー!」
「そうなんだよ...でも、あの時も結局はお前がウォームの口を見つけて...あぁそうか! ウォームか! この通路ってウォームに掘らせたんだな!」
「なーるほど。それで丸いのねー!」
「生臭さがしないのは随分昔に掘ったからだろうな」
「ねー、その最初のウォームって、どうやって地下に連れてきたの?」
「ウォームだって生まれた時から巨大な訳じゃ無いぞ。幼生を馬車で運んできて上の階段から運び入れたんだろうな。俺たちが瓦礫を掘り出して入った部屋は、ここが本当に城砦として使われていた時から有ったんだと思う。それをエルスカインが利用して後から掘り広げたんじゃないか?」
「あんなに深く? あの階段って、本来はなんのために掘ってたのかなー?」
「想像だけど、城主の脱出用に隠し通路を掘ってた途中とかかな? だってウォームに階段を作れるとは思えんし」
「作ってたら面白いねー!」
「どこの魔獣職人だよ。そんな特殊技能を持ってるウォームが使役できたら引っ張りだこだよな」
俺もパルレアも、少しは下らない話をする余裕が出てきたようだ。
「それにしてもエルスカインは、あんなに沢山の魔獣をどこで飼ってたんだろうな。ここじゃ無いとすれば、他にも大きな拠点があるって事になるだろうけど、まさか自分の本拠地で育ててたのか?」
「ここじゃ無いって思う理由はー?」
「さっきの話と同じさ。匂いだよ」
「あーそっか...獣の匂いも死体の匂いも漂ってないもんね」
「それに俺たちを襲わせてきた沢山の魔獣を育ててるとしたら相当な広さがいるぞ。いまの大広間は高さも広さも結構なモノだっただろ? その下を更に掘り下げてるとは考えにくいな」
「強度の問題で落盤するとかー?」
「大広間の天井は岩が崩れ落ちてたからな。もしも大広間の下にも広い空間がぽっかり空いてるんだったら、あの爆発で床って言うか地面の方も崩れてておかしくないよ」
「たしかにー!」
「だから、ここには魔獣がいないはずだと思う。この城砦は、さっきの大広間とかで魔法を掛けたり何かする時だけ、一時的に連れてくるための場所だったのかもしれないな」
そんなことを話しながら地下洞窟にしてはやけに長い通路を淡々と歩いて・・・
あれ?
いや待て待て待て、すでに俺たちは結構な距離を歩いてるぞ!
上に建ってる城砦のサイズから言うと、コレってもう敷地から出ちゃってるんじゃないのか?
って言うか、そのまま台地の大きさよりも外にはみ出たら、崖の途中から飛び出ちゃうよね?
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