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第六部:いにしえの遺構
宵闇のノイルマント
しおりを挟むなぜエルスカインは牧場の罠の時にドラ籠を使わなかったんだろうか?
牧場の罠には自信があって、とっておきのドラ籠を持ち出すほどじゃないと思ってたからか?
実はずっと持ってたんじゃ無く、最近見つけて掘り出したからか?
それとも他に何か理由があるのか?
「ねえお兄ちゃん、アタシたちの知らない大昔の何かが、ポルミサリアのアッチコッチに埋まってるとしてさー...いま、エルスカインがウォームなんかを使って地面の下からソレを掘り出してるとしたら、なんで?」
「なんでって、ドラ籠でも魔石でも、その力を使いたいからだろ?」
「じゃなくってさー、なんで、い、ま、さ、ら、ってこと!」
「ん?...今更?」
それこそ、さっきの会話の繰り返しじゃ無いのかと口にしそうになって、はたとパルレアが言いたいことに気が付いた。
ドラ籠の云々は関係なく、なぜエルスカインは『今になって』アチコチを掘り返しているのか?ってコトだな。
とうの昔にやっててもおかしくない事だ。
「ああ、そうか! 仮にだけどエルスカインが闇エルフの系譜で、太古の遺構の事を色々と知ってるとしたら...それを何千年も放置してたってことになるんだよな?」
「そーそー!」
「なのに、なんで今更慌てて掘り返してるのか?って」
「ね? エルスカインは、大結界を作るために四百年とか掛けて奔流を弄ってきてるけどさー、じゃーその前は? 何千年も寝てたのー? って...仮にそれでもさー、遺跡を掘るのぐらい何百年も前に済ませてて当然じゃん?」
「そう言えば以前...王都に着いた頃にもお前とそんな話をしたっけな...エルスカイン本人は太古からずっと生き続けていて、何百年かごとに目を覚ましてるとかさ?」
「あの頃は、それなら辻褄が合うねーって位の与太話だったけどー...」
「いまは現実的だな」
「そのほーが納得できる感じ」
「だな。だけどエルスカインが大昔から生き続けてるとしても、太古の全てを知っていない事は確かだ。南部大森林の魔石サイロが手つかずだったのは、その証拠だろうな」
もし知っていたなら、とうの昔に魔石を回収しているか、少なくとも横取りされないためにシンシアが施したような手段は講じていたはずだ。
「そーよね。エルスカインが太古の出来事全部を知ってる訳じゃー無いんだってアタシも思う。あのドラ籠だって最近やっと見つけたか、別のモノを探してて偶然見つけたか、なのかもねー!」
「あり得るな」
「アイツにだって知らない事は沢山あるのよねー...これまではエルスカインが知ってる事をアタシ達は知らないってだけだと思ってたけどさー、ホントはそーでも無いかも?」
「ああ。それに感情を持たないはずのエルスカインが慌て始めてる。俺はそう感じるんだ」
「感情が無いのに慌てるってどーゆーコト?」
「エルスカインが太古の事まで全ては知らないとしても、少なくとも数百年前から活動してるのは確かだろ?」
「うん」
「ソレなのに、最近は計画通りに物事が進まなくなって、稚拙な計画を出し始めてるってコトだよ。さっきパルレアが言ったモリエール男爵の中途半端なホムンクルスの一件だって、どうにもこれまでのエルスカインらしくないって思うね」
「あー、ポリノー村とかシーベル家みたいに一年も掛けて用意周到に準備してるとか、そーゆーノリじゃ無かったもんね!」
「俺たちが流したドラゴンの噂に、慌ててエルスカインが飛びついてきたのは狙い通りだった。その結果、エルスカインを『予定外』の行動に引き出せたのが、なによりの成功だったんだと思うよ」
「わかるー!」
エルスカインの動かす歯車が少しずつ噛み合わなくなってきている・・・モリエール男爵とドラ籠の一件で、俺はそんな直感がしたのだ。
「アタシやアスワンがエルスカインの存在に何百年も気が付かなかったのも不思議だけどさー。本人?はずっと眠ってて、奔流を弄る仕掛けだけが動いてたんだったら分からないでもないしー...いまはお兄ちゃんのせいで眠ってられなくなってるのかも?」
「だったら、このまま不眠症にしてやるさ!」
「おーっ!」
「あ、そう言えば、あれ以来アスワンは全然出てこないな?」
「たぶんー、アタシが罠に取り込まれたときにも無理に顕現して出てきたから疲れてる。いまは力を溜めてるとか? 結局アタシも顕現し直してから一度も精霊界に戻ってないしねー。ハッキリとは言えないかなー」
「なるほど...」
アスワンの顔を見れないのは寂しい気もするけど、まずは強い大精霊に戻って欲しいね。
なにしろ、ほとんど俺のために力を使い果たさせちゃってるんだから・・・
って言うか、色々すまないアスワン。
++++++++++
アプレイスの背に乗って空の散歩を楽しんだジュリアス卿と姫様は、日が落ちる頃になってから、それはもう『いい顔』をして戻って来た。
屋敷で俺とパルレア、そして人の姿にもどったアプレイスと一緒にテーブルを囲んで、なにが見えたか、どう感じたか、それがどれほど素晴らしい体験だったかを事細かに、そして興奮気味に語ってくれる。
語ってくれるのはいいんだけど、ジュリアス卿も姫様も互いに相手の感性や知識を持ち上げようとするあまり、第三者が聞くとタダの『惚気話』になってしまっている事に気が付いていないようだな・・・
ちくしょう。
とは言え、要約するとジュリアス卿は空の上から王都周辺の豊かな様子を自分の目で見ることが出来て、そのことが途轍もない満足感をもたらしたらしい。
大公・・・平たく言えば一国の王として、これまで自分がやって来たことに自信を持てたというか結果に安堵できたって言うか、そんなところだそうだ。
あと、さすがに二人とも『ポルミサリア全体が球体』だって事は理解していたね。
ジュリアス卿と姫様が王宮に戻った後、アプレイスは『ちょっと寝る』と言って部屋に引っ込んだので、俺はパルレアと二人でもう一度ノイルマント村に顔を出してみる事にした。
さっそく宵闇のノイルマント村に跳んで丘の上の転移門に出ると、すぐ目の前に難しい顔をして薄暗くなっていく村を見下ろしているアサムがいる。
転移前にからそこにいるのは見えてたけど、じっと佇んでいるように見えたのは、険しい顔をして村を見下ろしてたからだったのか・・・
どうした?
一体何があったんだ?
もちろん、アサムの横にはリリアちゃんがいるんだけど、リリアちゃんも声を掛けずに一歩引いてる感じだな。
でもアサムはすぐに俺に気が付いて、さっと笑顔を取り戻した。
「あ、ライノさんお帰りなさい!」
「お疲れアサム。どうしたんだ厳しい顔をして」
「俺そんな顔してた? ねぇ聞いてよライノさん! それがさあ、俺にノイルマント村の村長をやれって言うんだよ! 酷くない?!」
「は?」
それがヒドイ事なのかどうかはともかく、アサムの話してくれた顛末によると、切っ掛けはローザックさんの何気ない一言だったらしい。
『そう言えばノイルマント村の公式な村長は、皆さんがオババ様と呼んでいらっしゃる方で宜しいのでしょうか? 一応の事務手続きのようなモノですが、公領地の管理書類には代表者の名前を記しておく必要がありますので』と。
これを聞いたのがダンガだったら『そうですね』の一言で済んだような気もするんだけど、その時にローザックさんと立ち話をして居た相手はレミンちゃんとレビリスだった。
気を利かせたレビリスが一言、『オババ様に聞かずに勝手に登録しちゃ悪いんじゃないか?』とレミンちゃんに言い、レミンちゃんが『それもそうね』とオババ様の元へ。
ところがオババ様は、自分はあくまでも『アンスロープ族の長』的な存在であって、国が定めるような村長、つまり集落全体の責任者じゃあ無いと言いだし、『村長ならダンガにやらせりゃええ!』と断言したそうだ。
オババ様的には、リリアちゃんやフォブさんのような他種族も立派な村人だし、公式には住人では無いけれど、いま時点では騎士達やトレナちゃんのような人々も住んでいる。
なにより、ダンガの奥方様もレミンの旦那殿もアンスロープでは無かろうと言う事で、ノイルマントは決してアンスロープだけの村になる訳じゃあ無いと・・・それなのに自分が村長などやる訳にはいかないというオババ様の主張には、まあ一理はあると言えなくも無い。
だけど、そう言われて困ったのはダンガだ。
エマーニュさんとの結婚を控え、自分はいつからノイルマント村を出てリストレスの官邸で暮らすことになるのかなんて考えてたのに、辞退するためにはエマーニュさんの正体も含めて全部をバラさなきゃいけなくなる。
それはまあどっちみち時間の問題だとしても、すでにダンガは公式に狩猟地全体の領主である『ド・ルマント男爵』として叙爵されているから、自分の領地の村長を公式に兼任するなんて、まあ無いよな?
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