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第六部:いにしえの遺構
罠への対策
しおりを挟むそもそもエルスカインは、行商人だろうがカルヴィノだろうがヒューン男爵だろうが、はたまた昔のガルシリス辺境伯だろうが、手駒にした存在に対して事実を教えていないと思える。
彼らは、ただ報酬だの長命だの死者甦生だのといったエルスカインからぶら下げられた餌に食いついて、いいように動かされているだけだ。
『何故、その行動をさせられているのか?』については永遠に知らないままで・・・って、それはモリエール男爵だって同じハズだからね。
ホムンクルスがあるから不死身だとか、何度でも生き返れるとか、果てはドラゴンも支配できるとか・・・あの少年の知力なら、容易く信じ込ませて懐柔できるだろうな。
「そうなるとモリエール男爵への返事はどうするんだいライノ? 罠と分かってて行くなら間違いなく争いごとになるだろ? 俺としては、この村のためにわざわざ面倒事を引き受けてくれなくも良いと思うよ?」
「基本的には会おうと思ってるよ、ダンガ」
「えー、ほっとけばー?」
「そうはいくかパルレア。あの少年男爵が本当にホムンクルス化されてるとしたら、むしろ放置できないしな」
「勇者的には、それもそうか」
「ああ。まだ詳細は分からないけど、エルスカインが絡んでる事は確定と思っていい気がするからね」
問題は、モリエール男爵からの会談の申し込みがエルスカインの指示によるモノか、男爵の独断による復讐の為のモノか、と言う事だ。
エルスカインは、すでにドラゴンがルマント村に関わりを持っていることを知っているんだから、モリエール男爵を唆して、村人、いや村全体を人質に取らせようって位のことは当たり前に試みるだろうからね。
エルスカインが新しい『対ドラゴン用の罠』としてどんなモノを用意しているかもさることながら、さすがに村人達がいる状態で数百匹の魔獣を放たれたりしたら色々と辛い。
「ただ、背後にエルスカインがいる可能性を考えれば、俺としては安全策を取りたいんだよな」
「具体的には?」
「ルマント村の人達を『全員移転させ終わって』から男爵に会いたいんだ。相手の手の内が分からないから、守る対象は最低限に減らしておきたい」
「そりゃ、もっともだな」
「あまり日数を取れないけど...やれるかいダンガ?」
「わかった。任せてくれ!」
ダンガが力強く引き受けてくれたのでほっとした。
巻き込む人々さえいないのならば、最終的にはアプレイスにドラゴン姿で大暴れして貰う事だって出来るからね。
++++++++++
早速、エルスカインがどんな『ドラゴン用の罠』を仕掛けてくるかについて、みんなで色々と議論して対策を練ってみる。
みんなと言いつつ、主にシンシアの知力が頼りなのは申し訳ないけど・・・
「罠を起動させなければ、それがどんな罠か分かりません。だけど前回の様に、精霊魔法の魔力だけ放出すれば『罠が誤作動』して勝手に起動するというのは望み薄だと思います」
「当然、そこは対策してくるだろうな」
周辺の情報から考えると、前回のエルスカインはシンシアの魔道具によって手ひどい損害を被った可能性が高い。
アレが『どんな仕掛け』だったのかは爆発と同時に魔道具ごと消え去ってしまってサッパリ分からないだろうけど、受けた被害状況から『その力』は推し量る事が出来るだろう。
その上でエルスカインほど賢い相手が、何の対策もせずに同じ罠を設置するはずがないからな。
「ですから、罠を避けるという手が一つ。そもそもアプレイスさんが罠の有る場所に行かなければ良い話ですから」
「だよね?」
「それでも構わないのですけど、エルスカインにとっては不発という事になってしまいます。せっかく罠を張らせるように仕向けたのですから、出来れば今回もエルスカインにダメージを与えられると良いですよね?」
おお、意外とシンシアがアグレッシブだ。
いや考えてみると、以前から割とこんな感じだったっけ?
さすがはリンスワルド家、『武の血筋』だな!
「それは出来ればそのほうがいいと俺も思うよ。だけど、エルスカインを舐めてかかるのは絶対にダメだ。どんな罠が仕込まれてるか見当も付かない以上、アプレイスには、迂闊にドラゴン姿を披露させない方がいいんじゃないか?」
こちらから罠を仕掛けるように誘い込んだのだから相手のダメージを狙うのは当然だけど、無用な危険は避けたいからな・・・
ところが、そこでシンシアが出した提案は明快だった。
「ですので、アプレイスさんに、そこにいるフリだけして頂くという手はどうでしょうか?」
「えっ、フリ?」
「ふーん、俺が『そこにいるフリ』をするって言うのは、具体的にどうやるんだいシンシア殿?」
ドラゴンがいるフリって・・・なに?
「えっと、量産型転移メダルを鋳造する際には、私と御姉様の魔力を複製して、それを一種の『鋳型』にすることで効率的に転移メダルを製造する事が出来ました。魔銀メダルの一つ一つに手で魔法陣を溶かし込んで自分の魔力を込めていくという代わりに、判で押したかのように魔法陣と魔力を込めていったわけです」
「なんど聞いても凄いよな。良くそんな方法を思いついたし、思いつくのはいいとしても、ソレを実現できるのが凄まじいよね!」
「あ、はい。ありがとうございます」
「でも、アプレイスの魔力をその方式で複製してメダルに封じたとしても、それをアプレイスの『なに』に見せ掛けられるのかな? メダルでドラゴンの存在そのものを肩代わりさせる事は出来ないだろう?」
もちろん、この質問は自分の理解のためであって、方策の有効性に疑念を抱いてる訳じゃあない。
だって、そんな程度の事をシンシアが思い至ってないハズないからね。
「気配、ですね」
「気配?」
ちょっと想像の斜め上の答えが返ってきたぞ?
「不可視結界で姿を隠しているアプレイスさんの、その『姿を隠している様子』と言いますか...正確に言うと『完全に隠しきれずに気配が漏れ出ている様子』を模倣します」
「ヒドイな!」
「わー、ごめんなさい!」
「確かにそれって、俺にしか適用できない方法だよな! 姉上だったら完全に隠しきれるし!」
「まあ拗ねるなアプレイス」
うん、でも隠れてるのに気配が漏れ出てるエスメトリスなんて見たら、俺だってあからさまな罠だと考えるよな・・・
「ともかく、それで『隠れてるようで隠れ切れていない、でも隠れてるつもりの俺』を表現する訳か...なんつうかシンシア殿の頭の中って一体全体どうなってるんだろうなって思うよ」
「それは俺も思う」
「そんな、御兄様まで...」
「もちろん良い方の意味でだぞシンシア?」
「あ、はい! とにかく簡単に言ってしまえばそういう見え方を狙います」
これは俗に言う、『敵の手の裏の裏を読む』って言うヤツかな? ホントにシンシアはよくもまあ次から次へと色々な事をポンポンと思いつくもんだよ。
「リアルだよな。でも、その場合はアプレイス本人がそこにいちゃダメだよね? 気配が重なりそうだし」
「そこは、やり方次第じゃ無いかと思いますけど」
「そうかなあ? 初めてルマント村に来たときは、アプレイスの気配を感じ取って気絶しそうになってた村人が何人かいたよな?」
「まあ、俺もちょっと気を抜いてたのは認める」
「ちょっと?」
「良い天気で馬車に揺られて、ボケーッと雲を眺めてダラケてたのは認める!」
「正直でよろしい」
「ですけど村の方々もすぐに馴染んでましたし...最近では、魔獣から助けられた女の子がアプレイスさんの膝の上に座りたがるくらいには抑えられるようになっていましたよ?」
「だよな、シンシア殿!」
「ええ、真面目な話、いまのアプレイスさんは真剣にやればドラゴンの気配を完全に隠せると思うんです。その上で高原の牧場に行ったときのように、御兄様もアプレイスさんも精霊の気配を隠す魔道具を付けておけば万全じゃないでしょうか?」
「なるほどな...」
「なあ、俺は頼りになるだろライノ?」
「そうだけどアプレイス、なにも危険を冒さなくてもいいかなって?」
「なあライノ、まだ俺はエルスカインが送り込んできた敵と直接対峙した事がない。だから相手を知らないんだ。あのモリエール男爵がホムンクルス化されていて、その後ろにエルスカインの直下にいる奴が隠れているのなら、俺も一度は見ておきたいね」
「うーん、それもそうなのか...」
「そうともよ」
「そりゃあ、まかり間違って、そのままエルスカインと大規模な戦闘になる可能性を考えると、アプレイスも一緒の方がいいってのは確かなんだけどな」
「だろ? いつかは俺もエルスカインと向き合うんだし、早いほうがいい」
「ああ、わかったよ」
「よし!」
だけどそれでも、こちらの予想を超えた何かが出てくる可能性は常にある。
師匠の言うように『魔獣は一番思いがけないときに、思いがけない場所から飛び出てくる』モノだからな。
全てを予想し尽くすなんて出来ないと思っているべきだ。
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