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第六部:いにしえの遺構
贅沢すぎる武器
しおりを挟むラファレリアという街やアルファニア貴族との関連性はともかく、エルスカインが潤沢な魔石を保有しているとして、なお奔流を弄ろうと企む本当の狙いはいまだ分からない。
「まあ俺が思うには、エルスカインは奔流を弄って魔力を好き放題に汲み出そうとしてるし、大結界もその役目を担っていると思う。それ自体の最終的な目的な別としてな?」
「それはそうですね」
「でも高純度な魔石が潤沢に使えるんだったら、どうして奔流を弄り倒す必要があるんだろう?」
「あっ...そっか。魔石じゃ足りないんですね!」
「そうだな。あのサイロに何個分も高純度な魔石があったとしても、たぶんエルスカインがやろうとしてることには足りないんだよ」
「きっと転移門程度じゃないのですね?」
「仮に転移門を動かすためだとしても、魔石だけで千年も動かし続けられるかって話だったりしてな」
「千年ですか?!」
「だってエルスカインは恐ろしく長いスパンで行動してるからね。恐ろしく古くからの計略を受け継いでいるのか、エルフだろうが人間だろうが俺たち普通の寿命の人族じゃ発想が及ばないくらい遠くを見て計画してると思うよ」
「なるほど...つまりエルスカインにとって高純度な魔石は、単に旅をするための携帯食料みたいなものですね。食料を産み出す畑を作る訳じゃ無いから、食べ尽くしたらお終いだと」
「実際、世界戦争時代の人々は食べ尽くしてる訳だからな?」
「そーよねー!」
「だったらエルスカインも、魔石を食べ尽くして無くなった後のことを考えて動くと思います」
「ああ、そういうことだ。最終的には奔流を意のままに利用するしか無い...そこに辿り着くと思う」
確かにエルスカインは、グリフォンでも、犀でも、ウォームでも、それこそ数百匹のアサインタイガーでも転移門で移動させられる。
それは恐らく、高純度な魔石のストックが潤沢にあるからだろう。
だけど、もしも過去の資産を使っているだけならば、それは無尽蔵とは言えない。
魔石を作るというか魔力を込める魔法自体はあるけれど、それが一般的に広まっていない事には理由があって、『魔石に込めることが出来る魔力よりも、そのために消費する魔力の方が多い』からだ。
つまり、魔石に魔力を充填しようとすれば、必ず幾ばくかの魔力を無駄にする事になる。
効率的ではないから、普段はそこまでする理由が無いって感じかな?
現代では、あんな高純度な魔石が掘り出されることはないし作られることも無いだろうから、数百年、いや下手をしたら千年単位で活動してきたかも知れないエルスカインにとっては、将来を考えると潤沢だとはとても思えないに違いない。
まあそれはともかく、ちょっと話してる内にシンシアの表情も声も明るく戻ったので一安心。
そう言えば以前にも、自分が『普通』じゃないって事を気にして落ち込んだこともあったな。
多感な年頃だし、『世界の敵』って認識して戦ってる相手が、自分のご先祖と同系統というか、ひょっとしたら自分が血も涙もない非道な魔法使いの血を引いてるかも知れないと考えて、ネガティブになっちゃったんだろう。
++++++++++
ところで今日の俺が、散歩に出たアプレイスをほったらかしてパルレアと二人で家に籠もっていた理由は件の魔石だ。
こと『魔道具』に関してはすでにシンシアはパルレアを越えるところを見せているけれど、精霊魔法そのものの制御に関してはやはりパルレアに一日の長がある。
ただし、普段なら精霊は魔石を使わないらしい。
それはそうだろう。
そう言う世界で生きてはいないというか、そんなものに頼る必要が無い存在の仕方をしているというか・・・普通なら奔流の魔力をそのまま使っちゃうしね。
だけど使えない訳じゃないし、シンシアも転移メダルを魔石で動かせるように出来ると確信している。
だったら他の魔法でもって事で、パルレアと一緒に魔石を石つぶてに出来ないかと頭を捻っていたのだ。
以前に二人でグリフォンを討伐した時には、俺が生成した石つぶてにパルミュナが熱と圧力を押し込んでから撃ち出した。
だったら、代わりに膨大な魔力を貯め込んでいる高純度な魔石を石つぶてとして撃ち出して、なおかつその魔力の解放を自由にコントロール出来たとしたら、凄まじい威力を持つ石つぶてになるんじゃないだろうか?
「やっぱりさー、魔石そのものに魔法を掛けないとダメかなー?」
「うーん、魔石を包むような魔道具を作れば行けそうな気はするんだけど、そうじゃなくて、魔石そのものを自分で制御したいんだよな」
「ちなみになんでー?」
「何かの偶然で、その魔道具が敵の手に渡った場合に、同じモノを作られて逆にこっちへの攻撃に使われてしまう可能性だってあるだろ?」
「精霊魔法なのに?」
「魔法そのものじゃ無くって、原理とかアイデアの話だよ」
「あー、それはそーね」
シンシアが恐ろしくバージョンアップした『結界隠し』の魔道具だって、元々はエルスカイン配下のホムンクルス達が使っていた魔道具をパルミュナが解析して精霊魔法に置き換えたものだ。
逆の事が起きない保証はないんだから、用心するに越した事はないさ。
「でも魔石一つずつに魔法を掛けながら撃ち出すことが出来れば、その心配はない。仮に魔法が発動しなくても、その場に残るのはただの魔石だ」
「ちょーお高い魔石だけどねー」
「それは不問なの! どうせタダで手に入れてるんだしな!」
「た、し、か、に」
「だから、なんとかならないかなパルレア?」
シンシアはいま転移門関係で手一杯だからな。
ここはパレルアに頼りたい。
「うーん、ちょっと考えさせてねー」
牧場の罠を・・・ひいてはエルダンの古城を吹っ飛ばしたらしいシンシアの魔道具は見事なモノだった。
あれは跡形も無く吹っ飛んでるというか、あれ自体が『爆発そのもの』という存在だったから、エルスカインとルースランド王家は、いまだに自分たちがどんな仕組みの攻撃を受けたのかちゃんと分かっていないだろう。
アレと同程度のモノを遠くの相手に撃ち出せれば、犀みたいなデカブツへの遠距離攻撃に最適なんじゃないかと思うんだけどね・・・
++++++++++
しばらくうんうん悩んでいたパルレアが導き出した解決方法は、案外にアッサリしたモノだった。
「原動力に魔石を使う魔道具ってさー、要は魔石に閉じ込められてる魔力を少しずつ吸い出しながら動いてる訳よねー」
「そうだな」
「でさー、エルスカインの転移門は魔石から魔力を吸い出して動かす訳だけど、それも魔道具の一種だよねー?」
「ん? 魔法陣そのものを魔道具とは言わんだろ?」
「ちっがーう! そーじゃなくって『魔法陣を刻んだ大地』って魔道具を使ってるってゆー事!」
「おお、確かに!」
パルレアが言っているのは、『魔法が動作した結果』として術式の魔法陣が目に見える形で浮かび上がるという話では無く、魔法陣を描いた・・・あるいは刻み込んだ媒質は魔道具と見なせるっていう意味だろう。
「つまりさー、魔法陣を刻んだ媒体が、魔銀とか紙でも布でも何でも魔力を通す素材だったらいー訳で、もちろん大地でもね?」
「うん、うん、分かる」
「じゃー、空は?」
「へ?」
「空って言うか空気? 魔力を通すでしょー?」
「そうだけど、空中にどうやって魔法陣を刻むんだよ。それこそ媒体か? 描く対象物にならんだろ」
「ホントに?」
「いやだって...普通は」
と言いかけて、パルミュナがガルシリス城の地下でレビリスを守る防護魔法陣を張った時のことが頭に浮かんだ。
あの時、エルスカインの正体も攻撃力も良く分からない状態で、パルミュナはレビリスを守るためにありったけの魔力で防護結界を張ったのだ。
確かにあの魔法陣は、その魔力の膨大さで空中に刻まれていた・・・
「そう言えばガルシリス城で見たよなあ...お前が空中に防護結界の魔法陣を描いたのを」
「でしょー?」
「あの時の俺は、お前の正体が大精霊だからってことで納得してた。当時の俺にしてみれば常識外れの魔力量だったからな」
「でも、いまのお兄ちゃんが、この高純度魔石を使ったら?」
「やれるか?」
「出来ると思うなー!」
「よし、試してみるか! で、具体的にはどうすればいい?」
それから俺はパルレアに制御を教わりながら少しずつ魔法を組み上げていった。
一回の攻撃に高純度魔石を二つ使うけど、一つは撃ち出す魔石を制御する魔法陣を維持するためだけに消費するから、実際に敵に撃ち込む魔石は一つ。
それでも凄い魔力量だから攻撃力としては十分だろう。
もう一つの魔石は、そのまま手のうちに握り込んで魔力を吸い取るんだけど、このこと自体が以前の俺だったら出来なかったよな・・・
シンシアの助けで牧場の罠から魔力を吸い上げて以来、自分の力がはっちゃけつつあることを自分自身でも感じているのだ。
ともかく、なんて言うか、この高純度魔石を使い捨てるって凄まじい贅沢だよな・・・
この高純度魔石と並の魔石を『金と岩塩』って比喩するならば、コイツは『純金の鏃』みたいな存在だよ。
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