なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

文字の大きさ
上 下
405 / 922
第五部:魔力井戸と水路

暇な破邪衆

しおりを挟む

夕食までは各自が勝手に過ごすということで解散し、いったんダイニングルームを出たものの、まだかなり時間がある。
キッチンの方を覗いてみると、トレナちゃん達三人が鬼気迫る勢いで料理に取り組んでいて、とても声を掛けられる雰囲気じゃ無かった。

パルレアはあのままレミンちゃんが抱っこして姫様と一緒に談話室に行ってしまったし、アプレイスはシンシアとアサムが屋敷の内外周辺を案内中。
ダンガとエマーニュさんは当然のように二人揃って二階に引っ込んだので、つまり俺を含めた破邪三人衆だけがヒマである。

なんとはなしに三人で屋敷の外に出て、前庭をぶらつきながら話をする。

「しかし、本当にドラゴンを連れてきちまうとはさあ...ライノのやることには度肝を抜かれるよ」

「全くですな。クライスさんからドラゴン探しに声を掛けて頂いたときには驚きましたが、今日はそれ以上に驚きましたとも。生きてて良かった」
「大袈裟ですねウェインスさん!」
「いやいや、驚きがあってこその人生ですからね」
「まあ、確かに」
「ライノの場合は単純な驚きって言うよりも、ドキドキハラハラが多すぎる気もするけどな?」
「なんだよレビリス、俺が失敗するとでも思ってたか?」
「上手く行っても説得成功ってくらいだと思ってたからさ、まさか仲間にしちまうとはな! フツーはそんなこと想像もしない」
「まあ、色々と運が良かったんだよ」
「運てっヤツにも限界が有ると思うぜ? やっぱ凄いよライノは」
「ですなあ」
「あんがとさん!」

「ところでクライスさん、『ドラゴン探し』の任務はこれで終了した訳ですが、私はこれからどうしましょうか? お役御免と言うことであれば転移門でフォーフェンに送って頂いても有り難いのですが、折角なので少し王都を見物してのんびりフォーフェンに向かおうかとも思っています」

「いやウェインスさん、そこはご相談なんですけど...特に急いでフォーフェンに戻りたい理由がないのであれば、もう少しお付き合い願えないですか?」

「それはもちろん喜んで! ですが、今後も私でお役に立てることが何かありますかな?」
「レビリスと一緒にお願いしたいことがあるんです」
「ああ、あっちの件かライノ?」
「そうだ。エルスカインとの戦いはまだ続く...って言うか、ここからが本番だけど、だからと言ってダンガ達の村の話をいつまでも宙ぶらりんにしておきたくないからなあ」

「つまり、新しいルマント村の場所探しですな?」

「そうです。ウェインスさんとレビリスには、新しいルマント村の候補地探しを進めて欲しいんです」
「アサム殿から沢山の話を伺っておりますよ。それにダンガ殿、レミン殿、それぞれに違う視点もあって大変興味深い調査案件です」
「じゃあお願いできますか?」
「もちろん、言うまでもありませんとも!」

「良かった。ダンガの傷が治り次第にでも、俺はアプレイスと一緒に三人をミルバルナ王国まで送っていこうと思います。向こうで村の移転準備を進めるにはかなり時間が掛かるでしょうから、その間にこちらで候補地を探す猶予は十分に有るでしょう」

「承知しました。喜んでお手伝いさせて頂きましょう」

「なあ、アプレイス殿の背中って何人ぐらい乗れるんだ?」
「結界があるから何人乗っても落ちないよ。長旅でも十人やそこらならゆとりを持って好きな場所に寝っ転がっていられるな」
「なら大丈夫か...」
「なにが?」

「いやあ、俺とウェインスさんと二人で場所探しを手分けしてもいいんだけどさ...ここんところずっとウェインスさんもアサムと話し込んでたし、俺も三人の意見を色々聞いてて、村の場所について一番深く考えてるのはアサムだって思う訳さ」
「うんうん」
「で、だったら...むしろ俺とウェインスさんで手分けして色々と違う場所を当たるよりもさ、アサムの考えを沢山聞いてるウェインスさんが一緒に選ぶ場所の方がいいんじゃ無いかって思うんだよね?」
「なるほど...確かにそれは一理あるか」

「だったら俺は手として余るからさ、三人と一緒にミルバルナに行って移住の手伝いをするって言うのもアリかなー、とか...」

なるほど!

・・・ようやくレビリスの言いたいことが分かった。
つまり、レミンちゃんと離れたくないと。
なにかと心配だからミルバルナまで付いていきたい、と言うか、行き帰り一緒にいたいと・・・
そういうことだなレビリス?

「あー...レビリス」
「うん?」
「お前の下心、もとい、真心は分かった」
「ひどいな」
「とにかく、ダンガ達とウェインスさんがそれでいいんだったら、俺には別に反対する理由は無いよ」

「そうか!」
レビリスがパッと明るい顔になる。
ウェインスさんが隣で苦笑気味だぞ。

「それで、もう一人アプレイスに乗れるかって事だった訳だな」
「いや、もう二人かな?」
「ん、なんで?」
「ダンガの傷が完全に癒えるまでって言ったら、まだかなり時間が掛かるだろ? でも、先に村の移転準備をさせるんだったら早めに移動して貰った方がいいし、そうなるとエマーニュさんも付いてくぜ?」
「えっ、まさか?」
「マジだ」
「いや、いやいやいや...」

確かに、俺たちを出迎えに来てくれた時の様子や、ダイニングルームでもダンガの横にへばりついてサポートしていたエマーニュさんを見て『なるほど...』とは思っていたけど、それはエマーニュさんを助けるために大怪我をしたダンガを気遣ってのことと言うか『恩に報いる』的なことだろう。

いくら恩を感じてると言っても、さすがにキャプラ公領地長官のフローラシア・エイテュール・リンスワルド子爵が、『村の引っ越しのお手伝い』に行くって言うのはどうなんだ?
ありなのか?

「まあそれは置いといてだな。ルマント村移設の件についてはあくまでもダンガ達が主体だろ。俺は出来るだけ彼らの希望通りにしたいと思っているけど、一つ問題がある」

「なんだよライノ、問題って?」

「エルスカインとの戦いが終わってないんだ。きっとダンガは最後まで俺に付き合おうとするだろ? いまはエルスカインのことは忘れて村づくりの方に専念して欲しいって事を、どうやって納得して貰えばいいかな?」

「う...それはそれで難問かもな...」

++++++++++

悩んでいても始まらない。
それにこういう事は、グズグズ引っ張ったり搦め手で話を持っていこうとするよりも、ダイレクトに話した方がいいって言うのが俺の信条だ。

レビリスとウェインスさんは夕食まで遊戯室のボードゲームで時間を潰すというので、俺は一人で二階に上がってダンガの部屋を訪れた。

ダンガはベッドに横になってる可能性があるから、軽くノックをして自分でドアを開けようと思っていたら、室内から軽やかな返事がしてエマーニュさんがドアを開けた。
二人きりで部屋にいたのか・・・そうですか。

「えっと...ちょっとルマント村の件でダンガと相談したいことがあったんですけど...」

内心の動揺を悟られないように、なんとかそれだけ口にすると、エマーニュさんはいつもの薄桃色の薔薇のような笑顔をパァっと咲かせて俺を中に招き入れる。
完全に、客を室内に招き入れる主の振るまいだな・・・いいけど。

「それでは、わたくしは下で配膳の手伝いをして参りますわ。どうぞごゆっくり」

配膳?
エマーニュさんが配膳の手伝い?
なにそれ?

しかもダンガの部屋を訪れたのに、エマーニュさんから『どうぞごゆっくり』とか言われてしまったよ?

俺がカウチに寄りかかっているダンガに近づくと、ダンガは誰もいないことを確認するかのように、ちょっと周囲を見渡してから小声で言ってきた。
いやダンガたちの目と耳なら、室内はおろか廊下にも誰もいないこととか把握済みだろ・・・見回す必要なんか無くない?

「なあライノ、ちょっと聞きたいって言うか相談したいことがあるんだけど?」
「ああ奇遇だな。俺もだ」
「ん? なんだい?」
「いや、ダンガから先に言ってくれ」

「そうか...で、俺たちって貴族さまの風習とか仕来りとか全然知らないから、どういうことか分からない事があってな...」
「うん」
「エマーニュさんが俺を助けてくれた時に着ていたドレスが、俺の血でべっとり汚れて酷い有様になってたらしいんだけど...そのな...エマーニュさんが二度と着られないほど汚れたドレスを浄化も洗濯もしないで、そのまま自分の部屋で壁に掛けてるそうなんだ」

「へぇー、なんでだろ?」

「いや、だから俺もなんでか知りたかったんだよ。なんか俺、エマーニュさんに失礼なことしたとか、俺に回復を掛けたのが原因で大切なドレスが浄化出来なくなったとか、そんなことだったら申し訳ないし...」

確かにあの時、ドレスを浄化しようとした姫様の手をエマーニュさんは断ったんだよな。
振り向いたエマーニュさんの表情はとても優しくて、だけど決意に満ちたような毅然とした雰囲気を纏わせてもいた。

あれは、どういう心の内だったんだろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜

優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、 戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。 本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、 皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、 剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。 彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

処理中です...