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第五部:魔力井戸と水路
トンネル探索
しおりを挟む結局シンシアはたった一日で魔道具を両方とも完成させたので、宴会の翌々日にはウォームとの遭遇場所に行ってみることになった。
ピクシーの狩人に案内してもらい、ドラゴン姿のアプレイスに現地まで運んで貰ったが、森の狭間にあるどうと言うことのない草原だし、シンシアもアプレイスも、特に奔流が歪だとか不穏な気配は無いと言ってるから、ウォームがなぜここの地表に出てきたのかは分からない。
ピクシーの狩人が襲われかけてからは十日ほど経っているらしいので、もう近くにはいないだろうけど、地上に出てきたときの縦穴はあるはずだ。
そこから俺がトンネルに潜り込んでウォームを探して歩くことになる。
「ここは、なにか大きな獣が集まるような場所だったりするのかな?」
「はい勇者様。このあたりはエルクの繁殖地なのです」
ピクシーの狩人に聞いて見ると、ドンピシャな答えが返ってきた。
「えーっ、エルフの繁殖地?!」
「お前は何を言っとるんだ! 『エルフ』じゃない『エルク』だ。ヘラジカとも言うけどな。大きな鹿の仲間だよ」
「なーんだ!」
「なーんだじゃないわ。そもそも淑女がそんなこと口にするな。って言うか、どういう想像だよ!」
パルレアの突拍子も無い発言が続くなあ・・・シンシアは何食わぬ顔してるけど耳が真っ赤だよ。
「まあデカいヘラジカがウロウロしてたんで、その振動につられてウォームが餌を採りに地表まで上がってきたんだろうな」
「そこに狩人が降りたったって事か」
「そうです。それで、どちらが頭か分からなかったので、私ともう一人が適当に選んだ片端に近寄ってお声がけしたら、いきなり大きな口を開いて襲いかかって参りました。その際に牙が擦って相方が怪我を」
「とにかく縦穴を探そう。そこがトンネルの出入り口だ」
狩人が襲われたという地点に降り立つと、確かに大きな縦穴が口を開いていた。
南方大陸の牧草地なんかではこの穴に落ち込む獣も時々いて、それもまたウォームの餌になっているのだと聞く。
「この穴の直径がウォームの身体の直径だ。俺の背丈の倍くらい有るから、トンネルの中では背をかがめて歩かなくてもすみそうだな」
「本当にライノ一人で行くのか? ここを十日前に通り過ぎたウォームに出会うまで、どのくらい探すことになるか分からんぞ」
「西に向かって歩いて、次の縦穴にぶつかるまでにウォームが見つからなかったらいったん地上に上がるよ。逆に、その前に陽が沈んでしまいそうになったらシンシアが指通信で教えてくれ。地下じゃ分からないからね」
「承知しました御兄様」
「アプレイスはここでみんなを守ってくれ。もしウォームが出てきたら戦わずに上空に避難してから俺を呼んでくれればいい」
「了解だライノ」
「パルレア、コレが白く光るまで目一杯の熱を加えて貰えるか? 圧力は掛けなくていいから」
手の平の上に大きめの石つぶてを生成してパルレアに熱魔法を頼む。
もう自分でも出来るのだけど、身体の小さくなったパルレアに以前と同じ事が出来るのかも、ちょっと見てみたいと思ったからだ。
「はーい」
パルレアが返事をして手をかざすと、みるみるうちに石つぶては赤熱し、やがて魔石ランプのように白く輝き始めた。
パルレアの魔力も問題無さそうで何よりだ。
「うん、それぐらいでいいよ」
白く光る石つぶてを穴の底に落とすと、そこそこ落ちてから底にぶち当たるのが分かった。
生身の人間が落ちると命を落とす程度には深いけど、奈落と言うほどでも無いかな・・・この程度の深さなら、上がるときにもジャンプして壁を蹴って行けば問題ないだろう。
落とした石つぶての熱になにかが反応して動く気配も感じられない。
「じゃあちょっと行ってくる!」
「お気を付けて、御兄様!」
シンシアの作った魔道具を持って縦穴の底に飛び降りてみると、意外なことに壁の内側は、予想してたような『ヌメヌメ、ベトベト』では無くて、しっかりと乾いていた。
トンネルに入るまでは壁や天井からボロボロと粘液混じりの土くれが降ってくるような環境を想定していたので有りがたい。
縦穴の上から微かに差す光で見える周囲は真っ黒な岩肌で、地表の土とはまるで違う。
光を吸い込むように黒く、固くてザラザラした不思議な質感の岩だ。
やはり地表よりも各段に魔力が濃い感じがする。
いまもシンシアの作ってくれた魔力収集装置を身に着けているけれど、地面に寝転がっているよりもトンネルの中に座っている方が各段に効率が高そうな気配だな。
革袋から小ガオケルムと言うか脇差の方を出しておく。
まさかアスワンもウォームのトンネルなんか予想してなかったと思うけど、こんな狭い場所で長い打刀を振り回す気にはなれないから、脇差を貰っておいて本当に良かったよ。
暗闇に目を慣らしつつ西に向かって少し歩いてみると、ほんの少し進んだだけで、月の無い夜よりも真っ暗な世界になった。
ここで光魔法を使うのは悪手だ。
五感を研ぎ澄ませて、身体の周りを巡る魔力とトンネル内を吹き抜けていく魔力の流れを感じ取り、自分と周囲の空間を把握する。
しばらく待っていると目には見えていなくても周りの様子が分かってきた。
自分の感覚が一旦この状態になれば、暗闇の中で地面のでこぼこに躓くことも無くなるし、背後から無音で飛んでくる矢を避けることすら可能になる。
まあ破邪の修行中は暗闇でさらに目隠しまでさせられて、長らく師匠にボッコボコにされてたけどね。
このトンネルは右に左にと緩やかにカーブしつつも、全体としては東から西へと真っ直ぐに掘られている感じだ。
南北を山に挟まれた細長い盆地のようなエンジュの森の地勢を考えると、この辺りでは奔流の流れが東西に直線的になっていると考えるのが妥当か・・・
西側に向けて黙々と歩き続けていると、数刻ほどで前方になにかが見えてきた。
目に見えるということは光があるということだ。
用心しながら進んでいくと予想通りそこには次の縦穴が空いていて、トンネルの天井から光が漏れている。
穴の深さは俺が飛び込んだところと同じくらい。
同じウォームが掘ってるんだから直径も当然同じだ。
地面を蹴って跳び上がり、縦穴の土壁を左右に蹴り上がっていくと、森の中の小さな草地に出た。
ウォームが縦穴を掘って地表に顔を出すのは、基本的に大型の獲物が歩く振動を感じた時らしいから、自然と大木が密集して根を下ろしているような場所では無くなってくる。
南方大陸で牧場の家畜ばかりが被害に遭うのもむべなるかな、だ。
< シンシア、聞こえるか? >
< はい御兄様! >
指通信を起動してシンシアを呼び出すと、すぐに返事が返ってきた。
< シンシアの探知魔法で、俺のいる方向と距離はだいたい分かるよな? >
< ええ、大丈夫です >
< じゃあ、いまシンシア達がいる場所との位置関係を確認してくれるか? >
< 分かりました >
< それが済んだら、俺のいる場所までみんなで来てくれ。アプレイスが降りられる程度の広さは十分にある >
< 了解です御兄様! >
指通信を切ると、アプレイスは本当にすぐに飛んできた。
まあ馬車で七日は掛かりそうな距離を半日で飛べるんだもんね。
俺が歩いて数刻程度の距離は、飛び上がってすぐに着地するってな感じだろう。
「ウォームがいるのはまだ先か?」
「ああ。だけど、いそうな場所の目星は付いたよ」
「おっ? そうなのか」
「シンシア、さっきの縦穴とここの位置関係を、エンジュの森全体で現すとどんな感じになるかな?」
「そうですね...山裾に沿って、森の端を真っ直ぐに突き抜けている感じです」
「だよな。次はちょっとシンシアの目を頼りにして探してみようと思う」
「私の目、ですか?」
「ああ。ウォームはかなり真っ直ぐにトンネルを掘ってる。エンジュの森は奔流が東西真っ直ぐに直下を通っていて魔力が濃い。それに沿って進んでいるって考えるのが妥当だろう」
「そうですね」
「で、地下のトンネルの中は地上よりも圧倒的に魔力が濃い雰囲気なんだ。前の縦穴とこの縦穴を結んだ直線の先で鹿やヘラジカの集まりそうな草地の有る場所、そこに周囲よりも濃く魔力が漂っていたら、ウォームの縦穴が空いてる可能性が高い」
「なるほど! それは有るかもしれません!」
「シンシアなら、天然の魔力のちょっとした濃淡を見分けることも出来るだろ?」
「はい!」
「と言う訳で、アプレイスの背中から地面を見下ろしながら、そういう場所を探してみよう」
もし、しばらく飛んでも見つからなければ、やっぱりここに戻ってトンネルをひたすら歩くしか無いのだろうけど・・・ものは試しだ。
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