なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第五部:魔力井戸と水路

手紙箱とパルレアの服

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そして宴会の翌日。

驚いたことにパルレアはピクシーの小さな身体でエルフボディの時と遜色ないんじゃ無いかって言うくらいの量と勢いで酒と食事を楽しんでいたのだけど、どうやら前回のボディの感覚では取り込んだモノの魔力変換が追い付かなかったらしく、妙な状態になっていた。
言うならば『魔力二日酔い』なのかコレ?

特にコリガンの酒はエールじゃなくて、森で採れた果実を発酵させた甘い酒だったのが良くなかったよな。
口当たりが良くて飲みやすいからパルレアもアプレイスもガンガン飲んで、宴会の終わり頃には酔い潰れていたし・・・

結論として・・・予想通りにアプレイスは酒が弱いな。

そんな訳で、パルレアもアプレイスも微妙な顔をして部屋で横になっているし、シンシアは朝食後からすぐ魔道具製作に掛かりきりだ。
結果、独りだけ暇な俺は、昨夜屋敷に送った手紙の返事を岩場まで取りに行くことにした。

外廊下から地面に飛び降りると、間髪入れずにラグマとアロンとイペンが周囲に現れた。
様子を見るに、どうやら借りてる部屋の周囲を夜通し交代で警護してくれていたんだな? 
君たちだって宴会に出て飲んでたでしょうに・・・というか勇者とドラゴンと大精霊に警護とかいらないから!

いや・・・
ひょっとして酔い潰れているドラゴンと大精霊を見て警備の必要性を感じてしまったのかも・・・?

「おはようラグマ、アロン、イペン。ひょっとして夜番でもしていてくれたのかい?」
「ええまあ...」
「ありがとう。でも今夜からはいらないよ。ここで危険なことなんて起きると思わないし、これでも一応は勇者だからね」
「はい」
「俺はちょっと用があるから岩場の方に行ってくるよ」
「承知しました」

当然のように三人が俺の先導と殿を歩いてくれる。
断るのも無粋なので、そのまま三人からエンジュの森の話を聞いたりしながら岩場まで辿り着くと、キャランさんとパリモさんがすでにいた。
他にも数人のコリガン族とピクシー族もいる。

「おはようございます勇者殿、アプレイス殿がまた輿を使うと仰っていたので壊れたところがないか点検をしておきました」
「ありがとうございます。いまシンシアがウォームを追い払うための魔道具を作っているんで、それが出来上がったら南の山に向かおうと思います。ところでピクシーの人達はなぜここに?」
「昨夜は、ここに輿を置いたままだったので、それを警護していたそうです」

おっと、それは悪かったな。
警護と言ってもピクシー族の場合はデカい魔獣とか来たら危ないだろうに。
ラポトスさんもいたので声を掛ける。

「ラポトスさん、夜通しここを警護して下さっていたそうで、ありがとうございます」
「とんでもございません勇者様。それで昨日の夜、うちの者が見張りに付いている間に、地面が光ってアレが現れたそうでございます」
そう言ってラポトスさんが指差した場所には手紙箱があった。
そのままの位置で誰も手を触れてはいないようだ。

「ああ、実はアレを取りに来たんですよ俺」

早速、箱を開けてみると、中にはびっしりと姫様の字が書き込まれた手紙が入っていた。
内容は大方予想通りというか、パルミュナ復活の報を聞いて狂喜乱舞している姫様の姿が目に浮かぶ感じだし、屋敷にいる皆がどれほど喜んでくれているかと言うことも伝わってくる。
ダンガの傷もかなり快方に向かっているらしい。

さっそく革袋から紙とペンを出して、エルスカインの配下にあるらしき魔獣の情報を得たので、それに対処してから屋敷に戻るという返事を書いて手紙箱に収める。
そのまま送ろうとして、ふとあることを思いついた。

「キャランさん、ラポトスさん、ここへ来て下さい」
「は、なんでございましょうか?」

革袋から予備の手紙箱を二つ出して、それぞれキャランさんとラポトスさんに手渡した。

「これは精霊の魔法を使って手紙をやり取りする魔道具です。コリガンの里とピクシーの里に一つずつ預けておきますから、なにか大きな問題が起きたときは、コレで俺たちに相談して下さい。いまから使い方を説明するので見てて下さいね」

二人の前で実演を兼ねて手紙箱を屋敷に送ってみせる。
もしも魔獣の減り具合が予想よりも遅かったり、ウォームへの対処が想定通りに行かなかった場合は、これで連絡して貰えれば早めに次の手を打てるだろう。
魔石も少し多めに渡しておくとするか。

自分たちが如何に感謝して感動しているかという言葉を矢継ぎ早に浴びせてくる二人の長を押し留めつつ里に戻ると、アプレイスも起き出していた。

「まだ顔色が良くないぞ? もうちょっと寝てればどうだ?」
「そうだな...そうするか...」

もう一度倒れ込むアプレイスを放置して、隣の部屋で魔道具に取り組んでいるシンシアに姫様からの手紙を渡し、コリガンとピクシーの長にも手紙箱を預けたことを伝えておく。

「パルレアは何処かに出かけたのかな?」
まだピクシーの身体になったばかりだし飛び慣れてもいないだろう。
里の中だけならいいけど、あまり遠くに行かれると心配だ。

「パルレア御姉様なら、御兄様が出かけた後でピクシーの女性が来て、仮縫いした衣装を確認したいからと言って昨日の集会場に連れて行きましたよ」

仮縫い!
そんな単語を耳にするのは姫様に服を誂えて貰っていたとき以来だな。

「それにしても、昨日の今日で、もう仮縫いしてきたのか」
「ピクシーの人達も、とっても気合いが入ってるみたいですね! 御姉様がピクシー姿で顕現した上に、自らピクシーの作る服を所望されたので嬉しいのだと思います」
「そういうものなんだ?」
「そうですよ。昨日のピクシー族の長のラポトスさんでしたっけ? あの人もピクシー姿の御姉様を見たから我を忘れて舞い上がってしまったと言ってましたよね?」
「ああ、言ってた言ってた!」

「私もアプレイスさんから、どうして大精霊が人の姿を取っているかを教えられたから納得しましたけど、普通はドラゴンや大精霊のように力ある存在が、自分たちの種族と同じ姿で現れたら、それは『自分たちのために姿を変えてくれたのだ』と考えてしまっても不思議は無いと思います」

そう言われてみると、俺も初めてアスワンとパルミュナに会った時には、彼らが人の姿をしていて人の言葉を話す『からこそ』、大精霊なのだと受け止めていた気がする。
逆に言えば、『大精霊は人族の姿をしていて当然』という固定観念が有ったとも言える訳だ。

あー、俺もピクシー族のことをとやかく言えないなあ・・・

「確かに人族がドラゴンや精霊の姿になることは無理だもんな...」
「ですよね」
「単に『支配』するだけなら弱い方が強い方に従うだけだけど、『庇護』するなら逆に強い方が弱い方に合わせる必要があるって話か...難しいなあ」

そんな話をしていたらパルレアがすーっと飛びながら戻って来た。
しかも、早速新しい衣装を身に纏っている。
飾りの少ないシンプルなワンピース。
なんというか、可愛い少女らしさがあって良い感じだ。

「あれ? さっき仮縫いに連れ出されたって聞いたのに、もう出来たのか? 可愛くっていい感じだけどな!」
「ありがとーお兄ちゃん。でもコレは仮の服なんだってー」
「仮?」
「うん、さっき仮縫いで当ててきたのは別の服。もっと色々複雑だったから、これから細かく縫うんだってさー。それまでコレを着ててくれって」
「へー、手を掛けてくれてるんだな。後でちゃんと御礼をしないと」

「そーだねー! ねえ、お兄ちゃんは『山絹』っていうの分かるー?」

「森で取れる天然の絹だろ。確かラキエルとリンデルがいたラスティユの村の特産品の一つじゃ無かったか? 凄く数が少なくて繭を集めるのが大変だから貴重だとかなんだとか...」
「それ! ピクシーの人たちって指が小さいからさー、山絹の繭から引き出した一本ずつの細糸を、撚って太くせずにそのまま糸として扱って縫ったり編んだり出来るらしいのよねー」
「じゃあ他の人族が作ったものより繊細なモノが作れるってことかな?」

「うん、その山絹で作った肌着も貰ってきたのー!」
そう言うとパルレアは、ワンピースの裾をガバッと捲り上げて俺とシンシアに肌着を見せた。
「何やってんだパルレアっ!」
「可愛いーでしょー? 信じられないくらい柔らかで滑らかな手触りだよー。布地がツルッツルー!」
「いいから仕舞え! じゃなくて裾を降ろせ!」

兄妹としていつも同じ部屋で寝泊まりしてたんだからパルミュナの肌着姿なんて毎日のように見てたし、加えて今のピクシーサイズのパルレアだと、俺にとっては『妹の似姿をした人形の肌着姿』に等しい。
ちょっとややこしいけど、そんな感覚だ。

それに他にはシンシアしかいないから、この部屋にいるのは兄妹三人だけだといえばそうなんだけど・・・
そうなんだけど、それでも淑女としての振る舞いには大きな問題があるんだよ!
身体が小さいから構わないってもんでもないんだよ!
シンシアも目が点になってるぞ!

ああ、そうか・・・
ピクシー族ならではの『突拍子も無い振る舞い』っていうのには、こういうのもあるのか・・・

ちょっとだけ先が思いやられる気分。
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