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第五部:魔力井戸と水路
コリガン族とピクシー族
しおりを挟むコリガン族の事情というかエルフ族に対する反応の由来は納得できるけど、アプレイスはピクシーに対しては辛辣なようだ。
「コリガンと違ってむしろピクシーぐらい小さいと、魔物とか伝説の妖精とかと間違われるかねないけどな」
「まあ、俺もさっきは『その大きさで大丈夫なのか?』とか言っちゃったからなあ...」
「そんなもんだ。人族は魔力の大きさよりも身体の大きさが基準で色々なことが決まるからな。ただ、同族同士で固まって住むにはそういうモノサシが必要なんだろうけど」
「ああ、人間族の街でピクシー族が暮らすのはキツいだろうな」
「真ん中を取るって訳にはいかないだろうから、結局は数の少ない方が多い方に合わせることになるさ」
昔、パルミュナとそんな会話をした記憶があったな。
個体としてはエルフの方が強くても、数は人間の方が増えやすいから世の中はどんどん人間中心になっていくって話だ。
これがエルフ族と人間族ならまだしも、コリガン族やピクシー族じゃあ言うに及ばずだな・・・
「しかし、コリガンやピクシーって、どう考えても人間族よりはエルフ族に近いだろ? ストレートに嫌ってるのはちょっと意外だったな。まあ、さっきの態度からしても、ピクシーがあまり他種族に好かれそうな雰囲気じゃないってのは分かるけど...」
初対面どころか挨拶前、見ず知らずの相手の正体も確かめずに後頭部をどついてきた相手である。
身体サイズは別としてもアレが標準的な態度だったら、街で他種族と協調して生きていくのは難しいだろう。
「彼らの方も周りを嫌ってるからお互い様だろ」
「おおぅ...」
「さっきのピクシーの長は、目の前にホンモノの大精霊がいたからライノとシンシア殿をただのエルフだと誤認したっぽいが、なんにしてもドラゴンが誇り高い友人として認めているのはコリガンだけだ。ピクシーはコリガンにとっての友人だから受け入れているに過ぎないんだよ」
辛辣というかドライというか、アプレイスがピクシー族に対してあまり良い印象を抱いてないことは分かった。
「アタシもいまはピクシーなんだけどー?」
台上のパルミュナ、もといパルレアが明らかに『異議あり』っていうポーズで手を上げる。
「御姉様、とっても可愛いですっ!」
「いやパルレアがピクシー族なのは今の肉体だけで、本質は大精霊なんだから関係ないだろ?」
「そーだけど、気分的にはちょっとビニュー」
「美乳じゃ無くて微妙、な。まあ分からんでもないが...それよりパルレアは、ずっとその姿のままって事になるのか?」
「ん? この姿は咄嗟の判断だし、緊急避難?」
「じゃあ、いったん革袋経由で精霊界に戻りさえすれば、また前に顕現したときの姿にも戻れるんだな?」
「前の顕現とは一回目? 二回目? ヤニス兄様のご趣味だったら一回目だと思いますが?」
「ご趣味って...誤解を招く言い方するなよクレア。俺にとってのパルミュナは二回目の姿に決まってるだろ!」
「へっへー知ってた」
「あと、クレアっていうかパルレアも今まで通りに『お兄ちゃん』って呼んでくれよ。ヤニスは古い名前なんだから」
「分かったー!」
「で、顕現し直せばどうとでも出来るってことでいいのか?」
「まー、身体の種族そのものを変えるなら顕現し直す方が確実かなー。現世にいるままで姿を変えられるくらい魔力が溜まったなら、その力で一度戻った方が確実で手っ取り早いし」
「そうなのか? 前に聞いたときの話だと戻るのが大変そうだったからな?」
俺としてはピクシーの身体と言っても、よく知るパルミュナの姿が以前の数分の一くらいの背丈に縮んだだけだし、綺麗な顔と輝く銀髪は完全にそのままなので、正直言ってなんの違和感も無い。
「まーねー。戻るのは大変って言うより面倒? でも魔力が十分だったら一気に押し込めるかも?」
「そうか。でもとにかく無理や危ないことはさせたくないんだ」
「うん」
「だから、パルレア自身が快適なら、ずっとピクシーの姿のままでも構わないと思ってるよ」
「アタシの場合、魔力で身体の大きさは変えられるから、ピクシーの姿で身体を大きくしたら、ほとんどコリガン族と見分け付かないと思うよー。それで羽を出さなきゃいいだけだし?」
「なるほど!」
「つまりパッと見ではエルフの子供に見えるだろーし、それに、どんな姿でも『お兄ちゃん大好きー!』は変わらないから大丈夫!」
「ありがとう。でも、そういうことじゃなくてだな...」
俺はもっと日常の過ごしやすさとか不便なことは無いかとか、そういう意味で聞いたつもりだったんだけど、アプレイスがパルレアの言葉を受けて俺を遮った。
「ただしライノ、どんな存在でも思考を持っていれば『姿』というか『貌』に引っ張られるところはあるからな? それこそ俺たちドラゴンや大精霊が考え事をするときに人の姿を取るみたいなもんだから、ある程度の影響が出てくるのは仕方ないと思うぞ」
「えっとアプレイス、それはひょっとするとパルレアもピクシーの姿をとり続けていれば、さっきの御仁みたいに無愛想になったりする可能性があるって事にならないか?」
「いやそれは無いだろうな。あのラポトスってやつは元々の性格のように思う。ただ、もっと一般的な意味でのピクシーらしさは出てくるかもしれん」
「なんだそれ?」
アプレイスに何を言われるのか、ちょっとドキドキする。
中身が大精霊だから他種族嫌いになるって心配ないとしても、人付き合いが上手く行かない性格になるとキツい。
もちろん、どうなってもパルミュナとクレアは俺の可愛い妹だし、そこは変わらず愛せると思うけど・・・
可愛い妹だからこそ周囲の人々にも好かれて欲しいんだよ!
「悪戯好きだ」
「は?」
「悪戯の好きな種族なんだよピクシーってのは」
「なんだそりゃ?」
「文字通りさ。森に入った他の人族を惑わして追い出すって言うのも、必要性だけじゃ無くて、奴らの娯楽っぽい側面もあるんだ。他にも色々やり過ぎて他族に大きな危害を加えてしまうことだってある」
「なるほど...」
「とにかく、ピクシー族は思いつきでとんでもないことをしでかす事があるから気を付けておけ」
「そっか...だけど、それなら大丈夫だよアプレイス」
「え、なんでだ?」
「元からパルレアもシンシアも突拍子も無いことをしでかすのがしょっちゅうだからだ。大精霊の悪戯好きはピクシー並だと思うし、俺もかなり慣れた」
「そういうもんかよ...ま、そこが大丈夫なら問題ないだろ」
「異議アリー! アタシはお兄ちゃんを困らせることは、あんまりしてませーん!」
パルレアのポーズは先ほどと同じである。
「うん、『あんまり』って付けたところが正直でいいぞパルレア。でも突拍子も無いことはしてるよな? 主に俺をハラハラさせる方面で」
「えー...」
「御兄様、私もですか?」
「違うと言うのかシンシア? 結構ハラハラさせてくれたよな?」
「はい...」
ちょっと俯いたシンシアに、俺はニヤッと笑って付け加える。
「だけどシンシアが俺の側にいてくれなかったら、何一つ上手く行ってないんだよ。姫様やみんなを守れたことも、アプレイスが俺たちの仲間になってくれたことも、いまここにパルレアが戻っていることもね」
「そこまでは...」
「シンシアは俺には思いつけない突拍子も無いことを次々に実行して俺やみんなを助けてくれたんだ。だから、お前の突拍子のなさは俺の支えなんだよ? ありがとうシンシア」
「はい御兄様!」
「アタシはー?!」
「パルレアの突拍子のなさは俺の癒やしだ。異論は認めん」
「えー、扱いがチョット違う気がするー」
「それは当山だと思うんだが? とにかくパルレアもシンシアも、お前たちはどんな姿で何をやらかしても俺の愛する妹だよ。だから俺が何かやらかした時は許してくれな!」
「ええ、私の敬愛する御姉様と御兄様です!」
「アタシもお兄ちゃんが好きー。シンシアちゃんも大好きー!」
「兄妹仲が良くって羨ましいぜ...」
アプレイスのセリフに思わずエスメトリスのことを突っ込みそうになったけど、まったく楽しい話題にならなさそうな予感がして直前で思いとどまる。
「えっ! エスメトリスさんも素敵な御姉様だと思いますけど?」
俺は先を見越して黙ったけど、やっぱりシンシアが突っ込んだか・・・
すまんアプレイス。
「まあなあ。別に姉上のことを嫌ってる訳じゃあ無いんだよ。頼りになるし、本質的には優しいしな...ただちょっと苦手なところが有るって言うかなんて言うか...」
意外なことに、アプレイスが素直に独白した。
「ええ、確かにアプレイスさんから回復術の話を伺ったときは、ちょっと辛そうだなって思いましたね」
「他にも色々あってな...」
「私は昔は姉妹がいなかったので、御兄様と御姉様のいる今が最高に幸せです。でも、最初から一緒に育つと違うのかもしれませんね?」
「そうだな。そんな感じだ...」
「ところでシンシア。まだ時間が早いけど先に屋敷に手紙を送っておかないか? 姫様達も心配でやきもきしてるだろうし、なるべく早くパルレアが復活できたことを伝えて安心させてあげたいんだ」
無邪気なシンシアがあまり深刻な話を抉り始める前に、咄嗟に話を変えてみる。
アプレイスがエスメトリスのことを話したいと思ったら、いつか教えてくれるだろう。
「そうですね御兄様! すぐに手紙を書きます」
「転移門はこの岩場に開いておこう。またここに来るかどうかはなんとも言えないけど、コリガンの里に開くよりも使い勝手がいいだろう」
「そうですね。転移門を開くのは私が手紙を書いてからやりますから、御兄様と御姉様はゆっくり休んでいて下さい」
「じゃあ頼むよシンシア」
俺も正直、魔力を使い果たす寸前でぐったりな感じではある。
パルレアが機転を利かせてくれなかったら、本気でちょっと危なかったかも・・・
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