なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第五部:魔力井戸と水路

魔力の吸収

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「それよりもさっきライノが、大精霊がドラゴンを捕らえる為の罠に吸い込まれたけど無事だとかなんとか言ってたのは、あれはどういう事なんだ?」

アプレイスがあからさまに話題を変えてきたけど、エスメトリス関係の話題でこれ以上シンシアの好奇心に晒すのも可哀想な気がしてきたので、あえて乗ってやる事にする。

「まあ大精霊って言っても、俺の妹なんだけどな」
「はあ?」
「いきなりそんなこと言われても分からないよな? 俺が勇者になる時に力を貸してくれた大精霊は二人いる。その一人はアスワンで、かつてライムール王国で生きていた俺に力を貸してくれたのも彼だ」
「聖剣メルディアを渡した奴か?」
「そうだ。で、もう一人の大精霊がパルミュナって名前なんだけど、この現世に顕現する時に色々と経緯があって、生まれて来れなかった俺の妹の魂をその身に取り込んだんだ」

「は? なんだか、ややこしそうな話だな...」

「ああ。今世でも俺の妹として生まれてくるはずだったのは、実はライムールの時代に俺の妹だったクレアという少女だ」
いにしえの勇者の妹が、今世でまた勇者の妹として生まれて来るってか? どんだけ強い縁だよ...っていうか凄い執念だな!」

「クレアはあの『悪竜』に殺されちまったけどな。そして今世での彼女は生まれ落ちる前、まだ胎内にいる時に母親と一緒に魔獣に殺されたんだ」

「そうか...茶化して悪かったライノ」
アプレイスのこういうところには、表面的な乱暴さを演じている言動の下にある、誠実な心根が垣間見える。

「気にするなよ。で、大精霊のパルミュナは俺の故郷を彷徨っていた妹の魂と偶然出会い、妹を俺に引き合わせる為に自らの中に取り込んでくれたんだ。だから、顕現したパルミュナの半分には俺の妹の魂が息づいていて、それ以来パルミュナは大精霊としてだけで無く、俺の妹としても一緒にいてくれた」

「なるほど、だったらそのクレアという魂はシンシア殿の妹でもあるって事か」
「いや、俺とシンシアには直接の血の繋がりは無いんだよ」

「そうなのか!? 精霊の気配がそっくりだったから、てっきり本当の兄妹だと信じてたぞ?」
「俺とシンシアは母方の出自が同じ家系だから、先祖を辿れば水のように薄い血縁関係ではあるけどな。ただ、それよりも互いの心と、二人とも大精霊アスワンの力を何某なにがしか受け取ってるって意味で、俺たちは兄妹なのさ」
「なるほどねえ...」
「だからシンシアは勇者そのものではないけど、俺と同じ精霊魔法が使えるんだ」

「えーっと、まとめるとライノの妹は三人いて...シンシア殿は遠い親戚で同じ精霊の力を承けたって妹。ライムール時代のクレアは血縁上の妹で、そのクレアの魂を取り込んだことで大精霊パルミュナは半分妹になったって、そういう理解でいいのか?」

「そういうことだ。ややこしくてすまんが」
「いや、分かりにくいだけで別に悪くは無いけどな?」

「前振りが長くなったけど、あの罠が発動した時に、パルミュナは肉体を失いながらも最後の力を振り絞って俺を助けてくれた。クレアの魂も守ってくれたけど、それで全ての力を出し尽くして小さなちびっこ精霊になっちゃったんだよ」

「それが、『死んではいない』という意味か?」
「まあな。で、いまもここにいる」
俺がそう言って腰の革袋を軽く叩くと、また少しこちらに顔を向けて半目のような表情を見せた。

「顕現していた肉体を失って小さな精霊に戻ったって言うなら、そのまま現世にはいられないだろう? 同じ場所にいても違う次元を漂ってるようなモンだ」

「この革袋は特別でな。大精霊アスワンが空間魔法を封じ込めてあって、その中にあるパルミュナの居場所は精霊界とも僅かに繋がってるんだ」
「へぇー、面白い事が出来るんだな!」
「ただ、もうパルミュナはほとんどの力を失っちゃってるから、抱え込んでいるクレアの魂を長くは保てないと思う。なんとかして早く顕現させられなかったら、パルミュナはともかく、クレアの魂は消失してしまうんだ」

「そうか...その妹たちを顕現させる為には何が必要なんだ?」

「べらぼうな量の魔力だな」

「...ライノ、一応聞くけど俺をバッサリやって魔力を抜き取ろうとか思ってないよな?」
「ちょっと頭をよぎったけどな」
「おい!」
「御兄様、冗談としてもあまり良くありませんよ?」
「ごめんごめん。俺が友を犠牲にして顕現させても、パルミュナもクレアも絶対に喜ばないさ。あいつらはそういう奴らだからな」

「...まあ殺るなら俺よりも姉上だな。魔力量は圧倒的に姉上のほうが多いし」
「アプレイスさん、そう言う冗談も良くないと思います」
「ああ、すまないシンシア殿。ちょっとライノのノリに合わせただけなんだ」
「俺か? 俺のせいか!」
「違うってか?」
「...すまん、悪かったよ二人とも」
くそう・・・アプレイスを弄るつもりでシンシアに怒られてしまった。
悪いのは俺だけど。

「まあ実際のところ、ライノが奔流から魔力を引き出すのが手っ取り早そうな気もするけど、さっき言ってたエルスカインの『罠』ってやつを逆に利用できたりはしないかな?」
「実は俺もそれは考えてる。いまの俺の実力じゃあ、直接、奔流から大量の魔力を引き出すのは難しいだろうからな」

リンスワルド領の岩塩採掘孔にずっと籠もってでもいれば、勇者の器を一杯に出来るのかも知れないけど、それじゃあクレアの救出が間に合わない。

「そうか。奔流からの魔力を得るってのは、どうやればいいってもんでもないからな...」
「ドラゴンは親から方法を教わったりする訳じゃ無いのか?」

「俺たちドラゴンは元々そういう風に生まれついてるってだけだからな。そもそもエルスカインだって人族だろ? 精霊でも無いのに、どうやって奔流の魔力を意図的に引き出してるんだろうな?」

「それは分からないんだよ。ただ、人族の魔法で転移門を使うにはべらぼうな魔力を消費するハズなんだ。仮にルースランドにエルスカインの本拠地があるとしても結構な距離だし、どこからだろうと何百匹って言う大型魔獣を送り込んできてるんだから、消費している魔力は半端じゃないだろうな」

「そういうことに魔力を供給するのも、エルスカインの魔力井戸と水路の役割なんでしょうね」
「魔力井戸? シンシア殿、なんだいそりゃ?」
「エルスカインがあちこちに造り上げてる仕掛けなんです。奔流の流れを曲げる『杭』と魔力を溜める『井戸』、それに井戸と井戸の間を結んで魔力を流す『水路』で、あの巨大結界を造り上げてるらしくて」

「へえ、じゃあ魔力を吹き出してドラゴンをおびき寄せる罠ってのも、それを使ってるのか?」
「ああ、多分そうだ」
「井戸は恐らくレンツの街の中にもこれから作ろうとしてるはずです。御兄様とパルミュナ御姉様が二人で現地を確認しているので間違いありません」
「レンツってのは?」
「アプレイスがいた山から近い街だ。罠のある牧場から真っ直ぐに、滲み出てる奔流を辿っていけば自然にレンツの街の上空を通るだろう」

「なるほど...でもそこにあるのがあからさまな罠じゃ無くて、ただの魔力井戸だって言うんなら、そっちを利用してみる手もあるか...」

「レンツの街は魔法陣の北端のサランディスと西端のリンスワルド領の、ほぼ中間にある。杭にしろ井戸にしろ役割としては大きそうな気がするんだけど、エルスカインの作ってる仕掛けの情報が少なすぎてな...どう利用すればいいか、まだ見当が付かないんだよ」

「そもそも、その井戸やら杭やらは、どうやって知ったんだ?」

「俺は以前、エルスカインに操られていた存在と言葉を交わした事がある。その時に井戸の存在が分かったんだけど、当時はまだ超巨大結界の事とか想像も付いてなくてな...」
「そりゃ仕方ないだろ。シンシア殿が見せてくれた絵図で思ったけど、あの大きさは普通の人間には把握できんぞ? 空を飛ぶドラゴンでさえも、ただ奔流を辿って飛んでるだけじゃあ気がつけないと思うね」

「だよなあ...あんなの思いつきもしなかった」

「それにドラゴンじゃなくてライノやシンシア殿みたいな人族でも、『生き物』に籠もった魔力なら互いに受け渡したり出来るだろう?」
「ああ、出来るよ」
「だけど奔流から滲み出てる魔力は、なんて言うかな...それとはちょっと質が違うよな?」

「そうだな、天然の魔力って奴だ。シンシアは生まれつき天然の魔力を直接視る事が出来るけど、俺は精霊の力を得るまで自分で視る事が出来なかった。存在は分かっても『色』みたいな感じには見えなかったな」

姫様やシンシア、もっと言うなら、そのご先祖のシルヴィア伯が天然の魔力を視る事が出来るのはリンスワルド家ならではの血筋によるものだろう。
俺やレビリスみたいなハーフエルフにも普通は視れないわけだし、たとえ純エルフだろうと、誰でも視れるって事でも無いだろう。

『視える』ことと『扱える』ことはまた別の話だろうけど、やはりリンスワルドの一族は特殊な能力を秘めていると、そう思える。

それはともかく、かつての俺には奔流から魔力を引き出す事が出来たとアスワンも言っていたし、なにか方法はあるはずだ・・・

早くそれを見つけたい。
手遅れにならないうちに。
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