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第四部:郊外の屋敷
エルスカインの気配
しおりを挟む「真っ当じゃ無いことかあ...実際に、領地にドラゴンが居着いていることを利用して出来る悪巧みってなんだろうな? 人を近づけない為だとしても、一体それがなんの為かだよね?」
「例えば叛乱伯みたいな陰謀とかさ?」
「レビリス殿、叛乱伯とは?」
そう言えば、この勝手に付けたヒドい渾名は姫様に教えたこと無かったっけな・・・
「ああ、ガルシリス辺境伯の事なんです。俺とライノは勝手に『叛乱伯』って渾名で呼んでてですね...」
「なるほど。それは言い得て妙という感じでございますね!」
姫様も納得か!
「でも、いまどきの一領主がミルシュラント公国への叛乱とか考えられないよな...」
「わたくしもそう考えます。昨今では、どこの領主も抱えている軍事力は治安維持のための騎士団がせいぜいで、かつての辺境伯のように諸外国からの侵略と闘う為の軍隊を自前で抱えている領主などおりませんので」
「じゃあライノ。嫌な予想だけど、やっぱりエルスカイン絡みってことになるのかい?」
ダンガが、いかにも気が進まないって感じで声を抑えぎみに口にするけど、その言葉を否定する意見は誰からも出てこない。
と言うか、みんなも『悪巧み』と聞いた時点で、それを思い浮かべていたことは顔に書いてあるな。
「ま、やっぱり話がそこに落ち着くよね?」
俺がそう言うと、全員が黙って頷いた。
「シーベル卿やギュンター卿のことを考えればさ、ここのヒューン男爵がすでにエルスカインに取り込まれてるかホムンクルスにされてるってのは、十分にあり得る話だよな?」
「そりゃあドラゴンを手に入れる為に地元の領主を取り込むってのは、戦略としてはあるかもしれない」
「だよね?」
「けどレビリス、それでエルスカインが具体的になにをどうするつもりなのか分からないんだよな」
「具体的って何がさ?」
「エルスカインは古代の『支配の魔法』でドラゴンを服従させて手駒にするだろうってのが俺たちの見立てだ。だけど、その支配の魔法とか服従の魔法とかが具体的にどんなモノなのか、実際は良く分からないだろ?」
「あー...今さらって気もしなくもないけど、そこはライノの言うとおりだな」
レビリスが顎に手をやって指でさする。
まるで、その仕草が疑問の存在を際立たせるかのように。
「言われてみるとさ、グリフォンどころかブラディウルフやアサシンタイガーだって、一体どうやって服従させてたのか謎だよな? って言うかグリフォン三頭や犀なんてどっから連れてきたんだよ...」
本当にあれだけ大量のブラディウフルにアサインタイガーやウォーベア、果てはグリフォン三頭に、南方大陸の犀までお出ましだ。
手懐ける魔法があるにしても、いったいどこで手に入れて、どこで飼ってるって言うのか・・・
「そうなんだ。魔獣達を操ってる事は明確だし、ホムンクルスを生み出す魔法とか空間を捩じ曲げて道を作る転移魔法とか、そういう魔法は現実に使われてるから、エルスカインが何者だろうと古代の魔法に精通してるのは間違いない。だけど、同じように『魔獣使い』を実現してる仕組みがまるで分からないだろ?」
「だな...ねえパルミュナちゃん、世界戦争時代の古代の魔法ってさ、大精霊でも中身は良く知らないんだよね?」
「うん、結局は人族の生み出した魔法だしねー」
「そもそも中身を知らなくて当然か...」
「だからアスワンも、エルスカインが操ってる術そのものは良く分からないみたいだしさー」
「そう言えば、アスワンはガルシリス城の痕跡を探った後に『自分が何百年も気付かなかった企みだ』って言ってたな」
「そーなの! エルスカインの動きってなぜだか貌を持って見えてこないのよね...」
まさに『闇の中』って存在だな。
パルミュナがいみじくも『貌』と言ったけど、実際に俺たちはエルスカインという存在の姿すら知らないのだ。
だけど、向こうはこっちの全員を見知っているはず・・・嫌な状況だな。
「なあライノ。仮にな、あくまで仮の話だけど、ヒューン男爵がもうホムンクルスにされているか懐柔されてるとしたらさ。それってなんでだろ?」
「ん? 『危険なドラゴン』って報告が大公家に上げられた理由か?」
「あ、いや違うんだ。不思議なのはそっちじゃ無くてさ」
「え、どっち?」
「どうしてドラゴンを手に入れる為に、ここの領主を操らなきゃいけないんだって事さ」
「ん? それこそ、さっきレビリスが『有り得る話だ』って言ったんじゃないか。要は、この土地でなんでも好きなようにしたいからだろ?」
「それはそうだけどさ、グリフォンの時みたいにドラゴンを意のままに従える魔法があるんなら、さっさとドラゴンの処に行って術を掛ければいいだけじゃないのか?」
「そこはエルスカインがドラゴンの正確な位置をまだ掴んでない可能性が高いかな? あるいは支配の魔法を使うのもすぐには出来ないとか、準備に時間が掛かるとかって事情があるのかもしれない」
「でもそれってさ、ここの領主に関係あるのかな?」
「ん?」
「ドラゴンの居場所を探したり、支配の術を掛ける準備をしたりに時間が掛かるかもしれないってのは分かるのさ。でも、その事に領主が関係あるのか?」
「...ああ! そもそもドラゴンを狙うのに、領主を誑かすなんて面倒なことする必要が無いはずだってことか?」
「そうそう。ドラゴンが国内に飛来してる事は極秘事項だって言ってただろ? それでもエルスカインがドラゴン飛来の情報を掴んでるんだとすればさ、居場所については山脈に手下を送り込んで探させれば済む話だって思うのさ」
「それもそうだよな...」
「俺がエルスカインの立場だったらさ、ここの領主なんてほっといて、さっさとドラゴンを手中に収めて次の行動に出たいだろうって思うね。だってエルスカインはさ、ライノって『勇者』が現れて、虎の子のグリフォンを三頭まとめて討伐しちまうまでは、まさかドラゴンまで必要だとは思ってなかったっぽいだろ?」
「ああ、俺とパルミュナは奴にとって想定外の邪魔者だ。でも、ドラゴンを配下にしたら俺たちも排除できるし、その後はどこの領主も脅威じゃ無いはず...ん、つまり順序が逆なのか!」
確かにレビリスの言うとおりだ。
とにかくドラゴンを抑えるのが最優先のはずで、それを実現できれば後はなんとでもなるだろう。
「そういうことさ! 仮にリンスワルド領を欲しがってるみたいな理由でエルスカインがここの土地に目を付けてるとしてもさ、先にドラゴンを配下にした後でなら蹂躙し放題だろ? 領主なんかどうでもいいじゃ無いか?」
「そうだな...ドラゴンを連れてればどこにでも乗り込んで暴れられるから、ヒューン男爵を懐柔したり一月も掛けてホムンクルスにする面倒なんか必要ないはずだ。ここでもリンスワルド領でも、俺たちなんか無視してやりたい放題が出来る」
ドラゴンを使って攻め込まれたら、公国軍と魔道士を総動員したってなんとか追い返すのがせいぜいだろう。
しかもそれにどれほどの被害を出す事になるのか・・・
地方領主の騎士団や治安部隊でどうこうなる訳も無い。
「それにさ、奴がライノとパルミュナちゃんを倒す為には、どっちみちドラゴンを支配下に置く事は絶対に必要なんだ」
「だとすれば...もしもだけど...もしもヒューン男爵が懐柔されてるとかホムンクルスにされているとすれば、それはエルスカインにとって『先にそうする必要があるからだ』って事になるよな?」
「そう。それがさっきの俺の疑問さ! ドラゴンを手に入れる『前に』領主をどうこうする必要があるとしたら、それはドラゴンを手に入れる『為に』まず必要な事だって話だろ?」
「そうだレビリス! その通りだ! つまりドラゴンを操る準備の為に、領主を動かす必要があるって事だ」
「アスワンと屋敷で話したときのことを覚えてるかいライノ?」
「奔流の大結界のことか?」
「エルスカインが姫様を狙ったのは奔流をいじくる為で、あの土地で姫様にしか使えない『権力』を振るわせる必要があるからじゃ無いかってライノが推測してただろ? つまりアレだよ」
「ああ、この土地でも同じように領主の権力を利用しないと、ドラゴンを手に入れられない理由が何かあるってことか。だから、そっちの優先順位が上なんだな?」
「あくまで仮の話って言うかさ、仮定の上に仮定を重ねた感じだけどね。例えばだけど...あの時話してた、リンスワルド城の古井戸跡を掘り返して大工事するみたいなこととかさ? そういうのがドラゴンを支配する為に必要な準備なのかもって? それなら先にヒューン男爵を押さえる意味があるだろ?」
鋭いなレビリス!
正直言って、俺は全然そこに頭が回ってなかったぞ・・・
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