なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第四部:郊外の屋敷

十三歳

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それにしても、シンシアさんって本当に十三歳なのかー・・・
驚きすぎてパルミュナ流に語尾を伸ばしたくなるな。

おおよそ、いま顕現してるパルミュナの『設定年齢」と同じくらいじゃないだろうか・・・でも俺は、驚いたと同時に奇妙な安心感というか色々な事が『腑に落ちる』感覚を得ていた。

「俺みたいな若造が言うのもなんですけど、今日のシンシアさんの振る舞いって、それこそ若さの表れじゃないですか?」
「つまり、シンシアの年齢相応であると?」
「ええ、年相応です。だから俺は、さっきのシンシアさんの言葉を聞いて、なんとなく安心もしたんですよ」
「安心、でございますか...」
「シンシアさんは若くて繊細な女の子です。凄まじい魔法の才能を持ってるけど、その中身は年相応の女の子です。それがちゃんと分かって俺は安心したんですよ」

「本人はそれを見せてしまったことを恥ずかしがっているようですが...」

「さっきも言いましたけど、俺は内心でシンシアさんが俺より年上でも全然おかしくないって、そう思ってたんです。だって、あの才能でしょう? 実年齢と見た目の一致なんてのは人間族固有の感覚だから、エルフ族に当て嵌めても意味がないですし」

「そこは、種族ごとの常識の違いのようなものですわね」

「もしも見た目だけで言うのなら、誰だって姫様のことを俺より年下に見ると思いますよ? シンシアさんとの間柄だって母娘と言うよりは姉妹に見える。だから逆に、ひょっとしたらシンシアさんは俺よりずっと年長で人生経験も豊富なのかもしれないと...」

「わかりますわ。シンシアの大人びた言動には、母親でさえドキリとさせられる事がしばしばありますので」
「ところがシンシアさんの日頃の言動って、凄く深い知恵や洞察を感じさせる時もあれば、妙に幼い振る舞いを垣間見せることもある。そのチグハグさを不安定に感じてたんですよ」
「一体どちらの年齢相応なのか、と?」
「まあそんな感じですね。シンシアさんが実年齢に相応な心を持った、単に『早咲きの大天才』なんだって分かって安心したんですよ」

「そうでしたか...どう扱うべきか判断に迷う対象であると、そのようなところでございましょうか?」
「ええ、でも実際に十三歳の女性なら、俺が自分の判断で勝手にシンシアさんを守る行動をとっても、本人に対して失礼とか出過ぎた真似だって事にはならないでしょう?」

「逆に、それを気にされるところがライノ殿らしいですわ」
先ほどからずっと沈んだ表情だった姫様は、ようやく微笑みを浮かべた。

「これは俺の一方的な思いなんですけどね...でもパルミュナも同じなんです。妹だけど大精霊ですよ? 逆でもいい、大精霊だけど妹なんです。そして俺が守るべき対象なんです。随分前に守るべきモノの話をしたことがあったじゃないですか?」

「もちろん覚えておりますわ」

「俺にとってパルミュナは守るべきものです。言ってしまえば、この世界...ポルミサリアと同じくらいに守るべきものなんです。実際にはあいつに助けられてばかりですけど、それでも俺が守るべきものなんです。分かって貰えますか?」
「心の持ちようであると?」
「そうです。あいつは本気で俺を家族として、兄として慕っていますから...二人きりの兄妹です。どっちの方が強いかなんて関係ない」

「わたくしも...そうですね...魔法についてはシンシアはわたくしを遙かに凌駕しています。それでも、わたくしは命に替えてもシンシアを守りたいと思いますわ。この世界を救うことと較べた優先度で云々では無く、純粋な気持ちとしてわたくし自身の命より守りたいものです」

「さっきシンシアさんは姫様に抱きついたでしょう? 母親を頼ったんですよ」
「そうなのでしょうか?」
「だって、辛い思いが浮かんだとしたら年齢的にも当然のことじゃないですか? 俺が言うのは僭越ですけど、それでいいんだって思うんです」
「いえ、僭越だなどということは...」
「でも、シンシアさんは頭がいいからこそ、日頃つい自分を抑えて役柄を演じてしまうんでしょうね」

「それは...母親の目から見ても気になるところではございました。あの子は、いつも気持ちよりも理性と申しますか、理屈の良し悪しで行動を決めようとしてしまいましたから」

「だけどドラゴンキャラバンが出発して、シンシアさんは一時的にリンスワルド家の魔道士という立場から完全に離れたんですよ。自分に課した役目っていうものから、ですかね?」
「そうですね...ここにはシンシアを『筆頭魔道士』と言う目で見る人は誰もおりません。それから解放されたことは確かでしょう」

「だから、それでさっきは日頃の緊張の糸がぷっつりと切れたんじゃないかと思いましたよ」
「緊張の糸?」
「ええ」
「それは、心の重荷が産み出していたものでしょうか?」

「あー、いや、そんな大袈裟なモノじゃなくて、自分を奮い立たせてる矜持のような感じですよ。そうでありたい自分、素敵な母親を支える筆頭魔道士としての自分、リンスワルド家の跡取りとしての自分、そういう役目って言うか、自分で自分に任じてるようなことじゃないですか?」

「左様でございますか...確かにわたくしは、あの子に頼りすぎていたのだと思います。橋の件でアルファニアから呼び戻したことも含めて」

姫様は、再び顔を俯かせながらそう言った。
もしも、自分の采配が娘を辛い立場に追いやっていたのだとしたら、母親としては忸怩じくじたる思いだろう。

「橋の事件で呼び戻した事は必然だったと思いますけど、姫様がシンシアさんに頼っているかどうかは俺にはなんとも言えません。だけどシンシアさん自身だって、尊敬する母親から頼られてることは、決して悪い気分じゃなかっただろうなって思いますけどね」
「そうでしょうか?」
「日頃を見てるとそう思いますよ。彼女は筆頭魔道士としての自分に誇りを持っていたし、役目を楽しんでもいたと思いますから」

「楽しんでくれていたのでしょうか...そうでしたら良いのですけれど、リンスワルド家には秘密が多いということを口実に、なんでもあの子一人だけに頼ってしまっておりました。この旅から戻りましたら、魔道士の件も改めてジュリアに相談してみようと思います」

「慌てなくていいと思いますよ。いまも、このキャラバンの中なら彼女は『筆頭魔道士』じゃなくて構わないんだし...だって大きな屋根でしょう? 世間での肩書きは関係ないって、みんなでそう決めたじゃないですか?」

「はい。確かにそうです」

確かに俺もパルミュナも、シンシアさんの魔法の才能には期待してる。
だけどそれは、彼女の人物と活躍に期待してるんであって、魔道士という役柄に期待してるのとは違うんだ。

「だからシンシアさんにも肩書きを忘れてのびのびと振る舞って欲しいし、さっきは、その気持ちを押し込めずに吐露してくれた...俺はそれで、むしろ安心したってことなんですよ。乱暴にまとめちゃうと、そう言う話です」

別に自分より年下だと分かったから『じゃあ年齢相応に扱おうか』とかって話じゃないんだよな。
さっきのシンシアさんの反応と姫様との一連のやり取りは、実は俺自身にとっても、これまで微妙に接し方が分かりづらかったシンシアさんとの距離感が一気に縮まった思いのする出来事だと感じられる。

シンシアさんにそこはかとなく感じていた矛盾というかギャップというか不安定さというか・・・その理由が分かって安心したし、さっき感情を溢れさせたことで、今後はシンシアさんが良い方向に向かうだろうって確信出来たんだ。

++++++++++

翌日、幕営地を出発してしばらくしてからのこと、俺の横に座っていたパルミュナが不意に立ち上がると、体を捻って馬車の後方を覗き込んだ。

「ねー、やけにシンシアちゃんの声が聞こえると思ったら御者台にいたー!」
「そうか。まあいいから座れ。急に揺れることもあるから危ないぞ?」
「はーい」

この馬車はどんな仕掛けがしてあるのか、スライが感心していた通り、これまで乗ったどんな馬車と較べても各段に乗り心地が良いのは確かだけど、それでも揺れない訳じゃない。
それに、車輪を轍や溝に取られたりすれば急にふらつく事は防げない。
御者台から放り出されても、イザとなったらパルミュナはグリフォンを討伐した時みたいに空に浮かぶことが出来るのかもしれないけど、そんな、どうでも良いことで無駄な魔力を使わせたくもないからな。

「で、シンシアさんは、御者台でウェインスさんと話し込んでたのか? 中に座っているのも飽きたのかな」
「ってゆーか、シンシアちゃんが手綱を握ってたよー!」

「えぇっ?!」

姫様達の馬車を動かすのはウェインスさんにお願いしてるんだけど、今日はその横にシンシアさんが一緒に並んで座っているって言うか、シンシアさんが手綱を握っているらしい・・・

なんでまた?
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