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第四部:郊外の屋敷

ウェインスさんの気概

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「まあ銀の梟亭じゃ気もそぞろになるって言うのはさ、分からんでもないんだけど...じゃあさ、騎士団の連絡所に行って会議室でも借りるか?」

「そんなところを自由に借りられるのか?」
「破邪衆はちゃんと申請すれば借りられるけどさ、ライノの場合はペンダントを見せれば不問だと思うぜ?」
「そうか!」

四人で騎士団の連絡所に行って、入り口を入ったところにいる立ち番の見習い騎士にペンダントを見せて、会議室が借りられるかと聞いて見た。
見習い騎士はペンダントを見てサッと顔色を変え、『確認致します』と言うと慌てて奥に引っ込んでいく。
この対応なら大丈夫そうかな? と考えていたら突然、思いがけずに大声で名前を呼ばれた。

「クライス様、クライス様ではございませんか?!」
「おっ!」
俺を呼んでいるのは見覚えのある若い騎士だ。
確かローザックという名前で、視察隊の最後尾の馬車を守っていたという話だったな。
リンスワルド邸では、離れにいきなり『お詫び』に来られてダンガたちが慌てふためいていたっけ・・・

「こんにちはローザックさん」
「クライス様、わたくしめにさん付けなど不要にございます。して、今日はいかがなされましたか?」
「ちょっと内密な話なんですけどね。ここの会議室を借りられないかなと思って相談に来ました」
「左様でございましたか、てっきりクライス様は姫君と一緒に王都に赴かれているものだとばかり思っておりました」
「ゆえあって一時的に別行動なんです。だから、俺がフォーフェンに来ている事は機密事項です」

「承知致しました...では、会議室へご案内致しますのでこちらに」
「それにしてもローザックさんは、こちらに来られていたんですね」
「はい、あの時の怪我が完全に治った後で、有り難くもフォーフェンの分隊長に任ぜられました」
「そうでしたか。ローザックさんの若さでフォーフェンの分隊長なら大出世じゃないですか?」
「恐縮でございます」

あの時ローザックさんはブラディウルフに引き倒されて、結構危ない状態だったらしいんだよな。
すぐにブラウン婦人に治癒を掛けて貰ったから大丈夫だったけど、ダンガとアサムが駆けつけるのがもうちょっと遅かったら手遅れだったのかもしれない。

ローザック騎士に連れられて二階に上がり、会議室へと案内された。
リンスワルド家の紋章と重々しい調度品に飾られている部屋で、まさに『騎士団』が軍議に使ってそうなイメージ・・・

「何名様で、会議をなされますか?」
「あと一人来るから四人です」
「承知しました。最後の方が見えられましたら四人分のお茶をお持ちして、その後この部屋には誰も入れないように致します」
「助かります」
「では、何か御用があれば奥の部屋におりますのでお声がけ下さい」

ローザック騎士が退室した後、レビリスが寄り合い所にウェインスさんを呼びに行った。
ウェインスさんの手が空いていてすぐに来て貰えればいいんだけど、こればっかりは向こうの都合に合わせるしかない・・・

とか考えていたら、速攻でレビリスがウェインスさんを連れて戻ってきた。
早いな!
ほとんど建物の間を往復した程度の時間じゃないか?

「おお、クライス殿、ご無沙汰しております!」
「お元気でしたかウェインスさん?」
「おかげさまで」

俺とパルミュナも立ち上がってウェインスさんを出迎え、互いにしっかりと握手をする。

「驚きましたよ。久しぶりにタウンドさんが寄り合い所に来たと思ったら、伯爵家様からの秘密の依頼を相談したいから一緒に来てくれと言われましてな!」
「急な話ですみません。でも、伯爵家からの正式な内密の依頼というのは本当なんです」
「ほう?」
「なので、もちろん話を聞いた上で断って頂いても構わないんですけど、今から話す内容は極秘に願えませんか?」

「そうなると、いまはクライスさんを伯爵家様の代理人と考えて良い訳ですかな?」
「そうなります。事情は後で話しますけど」

一応、ウェインスさんを安心させる為にペンダントを見せた。

「ふーむ、相当な事情がおありのようですな。承知しました。世話役の名誉にかけて秘密は守りましょう」

「ありがとうございます。ところで確認したいんですけど、ウェインスさんは故郷のシュバリスマーク...サランディスを出てそのまま南下して大山脈を越えられたんですよね?」

「ええ、そうです。今では懐かしい思い出ですがね」

「前にその話を伺った時にも大変な冒険だと思ったんですけど、実際、山脈を越えるのも、その先の森林地帯を抜けるのも、並大抵の事じゃなかったでしょう?」
「そうですな...大変と言えば大変でした。まあ成功したので気軽に話していますが、途中で死んでいてもおかしくはない道のりでしたな」
「普通の人ならきっと死んでますよ」
「いや、そこまでは...しかし、そのことが何か関係を?」

「はい。これは本当に極秘なんですけど、いまミルシュラントの北部大山脈には二頭のドラゴンが住み着いています。俺たちは、そのドラゴンを探して会いに行くつもりなんです」

「は?」

ウェインスさんは、きょとんとした顔をして俺の顔を見つめた。
表情に『まるっきり意味が分からない』と太文字で書いてある感じだ。

「まあ聞いて下さい。細かな事情は後で説明しますけど、俺たちはそのために北部大山脈に行かなくちゃいけません。運が良ければドルトーヘンの街からまっすぐ山に向かって行けば済みますけど、場合によってはアルファニア・シュバリスマークとの三国国境の間近にある大森林地帯を抜けて、その北の一番高い山の中腹まで登る必要があるかもしれない...それこそ、ウェインスさんが通り抜けてきたところでしょう?」

「なんと...」

「だから、ウェインスさんの力を借りたいんです。ドラゴンを見つけるまで付き合ってくれなんて言うつもりはありません。ただ、大山脈や森林地帯を通り抜ける為に必要な知識も経験も、俺やレビリスにはありません。単刀直入に言います。ウェインスさん、俺たちと一緒に来て貰えませんか?」

「ドラゴンを探す為に?」
「そうです。馬鹿な話だと思うかもしれませんけど事実です。俺は本当にドラゴンと会って話し合わなきゃいけないんです」

「ドラゴンを見つけ出して話し合うために北部大山脈に乗り込もうと?」
「ええ、実は...」

と、そこまで言ったところで俺は言葉に詰まった。
ウェインスさんがまるで自分の膝を覗き込むかのようにうつむいてしまったからだ。

えっと・・・
やっぱり馬鹿な話だって思うよな? って言うか危険すぎるよな。

ウェインスさんだって、わざわざ王都を出てフォーフェンまで来た理由があるんだろうし、家族のことかどうか分からないけど、それなりの事情があったんだろう。
いまはここで世話役としてここで安定した立場にいるんだし、なにが悲しくて『ドラゴン探し』なんて酔狂な馬鹿話・・・いや自殺行為に付き合わなければいけないのかって言うと、必然性はゼロだ。

だけど、ウェインスさんは旧街道の一件で俺のことを買ってくれてたから、断るための言葉を探しづらいって感じなんだろうなあ。

どうしよう・・・

「いや、ウェインスさん。これはまあ、そんな方法もあるかな? くらいの軽い気持ちで伺ったことなんで! あんまり気にしないで下さい。僕らは全然大丈夫ですから!」

「よもや...」
「はい」
「よもや、そんな話が...」
「ええ、ですから軽い気持ちでお声がけしたんですよ」

「よもや、こんな年齢になってから、そんな心躍る冒険に誘って頂けるとは!!! これほど嬉しいことはありませんっ!」

「は?」

「いや、今日は破邪になって以来の最高に良い日ですよ! 私も気持ちは現役のままとは言え、実際は寄り合い所の世話役として交渉、折衝、談判の日々、このまま街中の暮らしに骨を埋めて行くのかと、内心忸怩たる思いでいたのです」

「え、そうだったんですか?」
「ええ、ええ、そうですとも! しかし、ここに来てクライスさんからこのお話とは! いやはや天にも昇る気持ちとはこのことですよ」

そんな大袈裟な。
いやでも、これって喜んでくれてるってことで、つまり、引き受けてくれるって流れだよね?

「じゃあ、ウェインスさん、今の話を引き受けて下さるんですか?」

「当然でしょう! お断りする理由が何処にあるんですか。いやあ、まさかこんな楽しそうな冒険の話が湧いて出てくるとは、クライスさんと知り合えて本当に良かった!」

楽しそう?

ドラゴンを探しに北部大山脈に乗り込むって話のどこが楽しそうなの?
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