278 / 922
第四部:郊外の屋敷
大公との謁見方法
しおりを挟む「うーん...そうなるとさ、近い方の暴れん坊か辿り着くのが大変そうな遠くの温和な方か、こりゃ確かに悩ましいな!」
「いやレビリス。遠い方のドラゴンが温和だと決まってる訳でも無いよ」
「え、そうか?」
「だって、徹底的に人族が嫌いだから近寄りたくも無いと考えてる可能性だってあるからな? そういうドラゴンだった場合は逆に、人族に対して欠片の情も持ってないと思う」
「おぉぅ...言われてみれば、それもそうか...」
「ライノさん、それだったら、わざわざ最初から遠い方を目指す理由も無いよね?」
「アサムの言う通りだな。姫様。やっぱり順当に、まずは近い方にいるドラゴンを目指して出発しましょう。途中で考え方を変える可能性もありますけど、『ドルトーヘンの街』あたりまでコースは同じですから」
「承知しました。では、なるべく早く出発の準備を整えたいと思います。新しい馬車もそろそろ仕上がってくる頃ですし、どのようにエルスカインの目をくらましつつ北部へ向かうかを決めて、周囲にもそれに合わせた行動を取らせる必要がございます」
「そうですね。新しい馬車は牧場に届けて貰うのがいいと思いますけど、そこら辺の段取りもなるべく早く決めてしまいましょうか」
「それからライノ殿にはもう一つお願い事が」
「なんでしょう?」
「大公陛下が是非ともライノ殿に謁見させて頂きたいと仰っております」
「あの謁見って...言葉が逆では?」
「そんなことはございません」
シーベル城の庭園で姫様が言ってた事を思い出すな・・・
「まあともかくとして、ドラゴンの情報も頂いたんだし、俺としてもお礼を言いたいです」
「それは大公陛下も喜びましょう」
普通なら大公陛下に謁見するのは、こちらが王宮に行って、俗に言う『謁見の間』で対面するというのが常識。
なんだけど・・・俺の場合はここで問題が出てくるんだそうだ。
大公陛下は俺が勇者だと分かってるからいいとしても、周りの家臣たちはそんなこと全く知らない訳で、『誰だこのリンスワルド伯の連れてきた若造は?』って事になるらしい。
別にそれでもいいんだけど、そういう正体不明の存在は並み居る家臣たちの間に興味と疑問を湧き上がらせ、一気に詮索というか、俺の身元調査が始まるだろうと言う。
それもまあどうでもいいんだけど、結果として色々な人が手を替え品を変え理由を付けて、リンスワルド家の別邸や本城に情報を得ようと押し掛けて来る事になりかねないと。
しかも、その中には大公家の親族やら侯爵だの公爵だの、姫様にとっても無碍には扱えない人達も大勢混じってくる事が予想されると。
出来るだけ別邸に籠もっているフリをしながら、隠密に王都を出て行程を稼ぎたい俺たちとしては、それは非常に困ることになる。
・・・と、姫様に言われたんだけど。
「いやあ貴族の人達が、たかだか俺みたいな若造一人に、そんなに興味を持つものですかね?」
「恐らく、ライノ殿が王宮に赴けば、馬車を降りた瞬間から一挙手一投足が見つめられ、行き帰りの廊下ですらも様々な方々から話しかけられて、根掘り葉掘り聞かれる事でしょう」
「お兄ちゃんってば人気ものだー! 旅芸人一座の『芸をする動物』みたいだよねー!」
「やかましいわ。勇者は珍しい生き物だから仕方ないだろ!」
「いえ、それは勇者と知られたからでは無く、わたくしと一緒にいるからでございます」
「は?」
「つまりその、リンスワルド伯が連れ歩いている若い男は誰だと。ひょっとしたら新しい恋人では無いのかと。そのような視線でございます」
「ええぇ...」
「もちろん、わたくし自身はそう言う目で見られるのであれば、むしろ嬉しいと申しますか光栄と申しますか...」
姫様はそこでわざとらしく、少しだけ俯いて頬に手を添えた。
これ絶対に演技だな。
「お母様?」
「シンシア、わたくしがそう思うのではなく、周りがそういう目で見るという話ですよ?」
「それであれば良いのですけれど。それであれば」
「いやもちろん俺だってそう見られて嫌って意味じゃ無くて、とにかく周囲の目を引きつけるのは困るなあってだけですけど」
「ライノ殿、王都で暮らす暇な貴族達が、どれほどゴシップや目新しい話に飢えているか決して侮ってはなりません。彼らの興味をかき立てる事は、結果としてエルスカインの密偵を増やす事になりましょう」
「なるほど...だったら、王宮に謁見に伺うって言うのは無いですね。でも、逆に大公陛下がそうホイホイと外に出られるものなんですか?」
「そこでパルミュナちゃんにご相談でございます」
「はーい、なあに?」
「屋敷に戻る為の転移門は、魔法陣を設置した術者だけしか移動できないものでございましょうか?」
「ううん、魔力さえ十分なら誰でも連れて行けるよー。それに、お兄ちゃんとシンシアちゃんはアタシと同じように転移門が使えるから、アタシがこれまでアッチコッチに置いてきた転移門も自由に使えるの」
「であれば...実はリンスワルド家はなにかと大公家に優遇されておりまして、王宮の中にも専用の居室を頂戴しております」
そりゃそうだろうな・・・
大公陛下は姫様の元恋人? であり、シンシアさんの父親だって言うんだから。
「わたくしとシンシアやエマーニュは自由に王宮に出入りできますので、まずは城内のリンスワルド家の居室に入り、そこでシンシアに帰還用の転移門を開かせて頂きます」
「おお?」
「そこからいったんライノ殿の屋敷に戻り、今度は皆さんをお連れして一緒に城内の居室に戻れば準備万端。あらかじめ時間を決めて大公陛下に居室を訪問して貰うようにしておけば、邪魔が入る心配の無い場所でライノ殿に謁見させて頂ける、と。かような段取りはいかがでございましょう?」
「なるほど!」
相変わらず謁見という単語の向きが違うと思うけど、ここでゴチャゴチャいっても仕方が無い。
「それはいいアイデアですね、姫様! 城内に転移門を置けるんだったらなにも苦労が無いですよ。なんだったら大公陛下にアスワンの屋敷に来て貰ってもいいんですしね」
「はい、それも一案かと思います」
「なあ、ライノ?」
「ん、なんだレビリス?」
黙って俺と姫様のやり取りを聞いていたレビリスが不安そうに口を挟んだ。
「あのさ...王宮の中で勝手に強大な魔法を使って転移門の結界を開くってのはさ、もしも王宮の魔道士にバレたら大騒ぎっていうか...下手したら謀反の疑いを掛けられて極刑とかだってあり得る話じゃ無いのか、な?...」
「レビリス殿、たとえ表沙汰になっても陛下が制しますので問題ないかと思いますが...」
「いやでもバレたら...」
「心配いりませんレビリス殿。部外者に悟られなければ良いのですから...シンシアが少し上目遣いで『ダメですか?』とでも聞けば、陛下は二つ返事で許可するに決まっています」
ですよねー。
「それに精霊魔法だから普通の人族の魔法使いじゃ感知できないよー? だから、だいじょーぶ!」
「うん、まあそうなんだろうけどさ、シンシアさんだって頑張って勉強したら精霊魔法が使えるようになってきてた訳だろ?」
「まあな...」
「そりゃシンシアさん並みの天才なんて早々いないんだろうけどさ、だからって他に一人もいないって思うのも油断じゃ無いかな? バレても大公陛下と姫様の後ろ盾があるから追求されたりしないにしても、騒ぎが起きれば注目を浴びるだろ? さっき姫様も言ってた『あいつらは何者だ?』って視線だよ」
「ああ、それはレビリスのいう通りだな」
「だいたい、騒ぎになった時点で大公陛下に庇って貰う必要が出るしさ、ひょんなところからエルスカインに嗅ぎつけられたりする危険性が無いかってのも心配になってさ?」
「確かに...」
「あー、そっかー...よし、じゃあアレを作ろー!」
「アレってなんだよ?」
「エルスカインが使ってた魔道具。ほらー、ゲオルグくんの部屋とかギュンターおじさんの家に置いてたのがあったでしょー? 仕組みは分かってるから、アレを精霊魔法版の魔道具に作り替えて、その居室に置いとけば外から感知できないからダイジョーブ!」
「ホントに大丈夫か? それ」
「ダイジョーブだって!」
なんという大胆な解決方法。
「それなら問題ありませんわ、さすがパルミュナちゃんです! 転移門については、内密にわたくしの方から陛下に一報を入れておきます。陛下に会って頂く為に勇者様と大精霊様のなされる事に否と言うはずがございませんので」
「そうですね」
「むしろ、シンシアが精霊魔法を会得して設置したとなれば陛下は鼻高々でございましょう。シンシアには少し迷惑を掛けてしまうかもしれませんが...」
「え?」
「当然ですよシンシア。転移門があるならシンシアがいつでも王宮に来れるはずだと陛下が言い出すのは分かりきっている事でしょう? 場合によっては三日に一回でも顔を見せろとか、週に一度は食事を一緒になどと言い出しかねませんわ」
それを聞いてシンシアさんが急に不安そうな表情になった。
「絶対にバレないようにしましょう! パルミュナちゃんお願いします! なんとかパルミュナちゃんの大精霊の力で一時的に転移門を開いたという設定に!」
「わかったー!」
そう言う問題?
これほどの大国を治める大公陛下も、一人の父親としてみると結構不憫だな・・・
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
妖刀使いがチートスキルをもって異世界放浪 ~生まれ持ったチートは最強!!~
創伽夢勾
ファンタジー
主人公の両親は事故によって死んだ。主人公は月影家に引き取られそこで剣の腕を磨いた。だがある日、謎の声によって両親の事故が意図的に行われたことを教えられる。
主人公は修行を続け、復讐のために道を踏み外しそうになった主人公は義父によって殺される。
死んだはずの主人公を待っていたのは、へんてこな神様だった。生まれながらにして黙示録というチートスキルを持っていた主人公は神様によって、異世界へと転移する。そこは魔物や魔法ありのファンタジー世界だった。そんな世界を主人公は黙示録と妖刀をもって冒険する。ただ、主人公が生まれ持ったチートは黙示録だけではなかった。
なろうで先行投稿している作品です。
レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜
優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、
戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。
本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、
皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、
剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。
彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる