なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第三部:王都への道

王都談義

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今日は俺一人でスライ達シャッセル兵団と夕食を共にしていた。
パルミュナは一人で姫様達のテーブルだ。
何故って、あっちじゃないと『デザート』が出ないからね!

「なあ、ギュンター卿の屋敷で魔獣に襲撃された時に、スライはダンガ兄妹のことを『普通じゃ無いアンスロープ』って言ってたよな?」
「ああ」
「って事は、変身したアンスロープを見たことあるのか?」
「そりゃ有るさ」
「へえ、傭兵にもアンスロープがいるんだ。確かに戦闘力は高いもんな」

「いや、いねえと思うよ。俺が見たアンスロープは傭兵じゃ無くて山の狩人とかだな」
「いないのか?」
「昔は大勢いたそうだぜ。それこそ大戦争の時代なんかはアンスロープの傭兵が各地の軍団に引っ張りだこだったそうだからな」
「じゃあなんで、今はいなくなったんだ?」
「大戦争が終わると、そんな激しい戦闘を傭兵が請け負うって事も無くなったし、なにより連中は騙されやすいからな」

「あー...分かる」

「アンスロープの連中は人を疑うってことを知らねえから、味方や雇い主にすら騙されちまう。上が規律のある軍隊だった時代は良かったんだろうけどよ...ずる賢い貴族や商人が傭兵を雇うようになると、ああいう純朴な連中が一番割を食うことになるだろ?」
「だろうな」
「だから、大きな戦争が起こらなくなってくると、すぐにアンスロープの兵隊達は消えていったそうだ。俺も連中には向いてねえって思うよ」
「なるほどな...」

「あの人らは上が...って言うか、ボスの友達だから大丈夫なのさ。そこらの貴族になんか雇われて見ろ、あっという間に端金はしたがねで使い捨てにされちまうぞ?」
「いまはほとんどのアンスロープが同族だけ集まった集落を作って暮らしてるって話も、そういうのが理由かもしれないな」

「だろうな...まあ王都ぐらいの街になると、それでも独立心の強い一匹狼みたいな奴とか、若い変わり者みたいなのが流れ着いて住んでるって言うけどな」

なにそれ!
『アンスロープの一匹狼』って、まさに文字通りな感じだな!

「ああ、その話は俺も聞いたことがあるよ。王都じゃアンスロープとエルセリアも仲良く暮らしてるって」
「そりゃ、あそこなら不思議じゃねえだろうな」
「スライは王都を知ってるんだろ?」
「護衛の目的地として何度も行ってるからな。ただ、王都の周辺は治安もいいし、護衛はその一つか二つ手前の街辺りまでで十分だって話も多い。金貨運びの連中は別だろうけどな」

「ふーん、王都ってどんな感じなんだ?」

「漠とした質問だなあボス。何と較べてどんなって言えばいいんだ?」
「まあ、特徴って言うか、他の都市に無い感じって言うか?」
「ボスはエドヴァルの生まれだっけか?」
「そうだよ。生まれは僻地のロンザ公爵領の外れだけど、首都のカシンガムには何度も行ってる」

「カシンガムは俺も通ったことがあるぜ。南方大陸からの品物はミレーナ王国の港のロレンタか、エドヴァルのヨーリントンから荷揚げされるってのが多いからな。どっちからでも、ミルシュラントまで北上する商隊はカシンガムを通る」

「そうだな。でも最近はルースランドのデクシー港まで行く船も多いって聞いたけど」
「南方大陸からデクシーまで行く航路はかなり遠回りだけど、代わりに山越えが無いから陸路が楽なんだよ。だけどデクシーはルースランドだから、荷揚げするだけで税金が掛かる」
「そうなのか」
「荷揚げ作業に課税されるから中身は関係ねえんだ」

南方からの輸入してくるものが『高級品』ばかりだった頃は構わなかったかもしれないが、綿や砂糖も輸入量が増えて安くなってきてるし、箱単位で課税されたら利益が減るだろうな・・・

「で。だったら、もうちょい頑張ってミルシュラント西岸のスラバスまで船を走らせようって荷主が増えてるらしいぜ? なんせスラバスなら荷揚げ自体は無税だからな。南北の本街道も東西の大街道も整備が進んでるし、どこを選ぶかは荷主次第だ」

「なるほどね、で、話を戻すとカシンガムと較べてキュリス・サングリアってどうなんだ?」

「一回り、いや街全体だと二回りくらいデカいかな? 大河が街の真ん中を縦断してて水路も多い。つうか、王都全体を網の目みたいに水路が走ってるな。王宮のあるとこが丁度流れ込んできた二本の河が合流するところでな、自然の島みたいな感じなんだ」
「三角洲とか、そんな感じかい?」
「ああ。だけど川幅が広いし洲も大きくて、川下から遠目に見るとまるで河の中に城が建ってるみたいに見える。実際は陸続きだけどな」
「天然の堀だな」
「そんな意図であそこに城を建てたんだろうな。カシンガムの王宮みたいな優雅さじゃないけど、広くて立派な城だ」

「へえー、キュリス・サングリアなんて名前も立派な感じだもんな」

「そもそもキュリス・サングリアってのは、大公家があそこを王都と定める前から有る古い呼び名だ。いまじゃ消えてっけど元々は『血の流れ出る水瓶』っていう、恐ろしい意味があるって聞いたことがあるな」

「なんだそれ。確かに恐ろしいっていうか、おどろおどろしいな!」

「そんなけったいな場所じゃねえ...っていうか美しい街なんだけどな。逆に、なんでそんな名前が付いたのか分からねえよ」
「古い時代に戦争で悲惨なことがあったとか?」
「まあ、そんなとこかもな。で、名前だけ残っちまったとか? とにかく水が多くて綺麗な街だ。住むにはいい処だろうなって思うぜ」

「なあ、名前はともかく、ちょっと気になったんだけど、王都に入る時に揉めたりしないよな?」
「なんでだ?」
「いや、騎士団とかならともかく三十人も私兵を連れてるんだぞ? 王都に入る時に誰何すいかされたら面倒だなって思ってさ。悪いことしてる訳じゃ無いけど、俺の身元を探られるのは避けたい」

「まあボスの身元がばれると大騒ぎだろうからな!」

「大精霊からも、あんまり人に注目されるって言うか人心を集めるような事は控えた方がいいって忠告されててな...出来るだけ目立たずにひっそりと行動したい」
「...ボス、言ってることとやってることが一致してねえ」
「そうか?」
「リンスワルド伯爵家の大行列と一緒に行動してるんだぜ。人が沢山いるから却って紛れてるとか思ってんだったら大間違いだからな?」

「えっ、ダメなのか?」

「当たり前だ。貴族ってのは一歩居城を出たら、四六時中誰かに見られてる存在なんだ。リンスワルドの一族は滅多に人前に姿を現さないことで有名だろうけど、だからこそイザ人前に出てきたときには、一目でも見ようといろんな連中が押し掛けてくる。そんなもんだぞ」

しかも、ギュンター卿とシャッセル兵団までが加わった大行列。
言われてみれば、途中の街を通り過ぎる時なんて、街中の人が面白がって見物に出てくるくらいの規模だ。

「ううぅ...人のいる処じゃ馬車から一歩も出られないってことか」
「まあ、そんな感じだろうな。街中で馬車から出た途端に百人くらいからボスに視線が飛ぶぜ? アイツは何者だって」
「くそぅ、迂闊だったか...」

とは言ってもなあ、姫様と共同戦線を張った時点で他に選択肢は無かったんだし、王都に着くまではどうにも仕方ない。
向こうに着いてからの行動は、よくよく考えた方が良さそうだけど。

「だけどまあ、王都に入るからって揉めたりはしねえよ。伯爵様と名誉子爵の隊列だぜ? 因縁付けてくる馬鹿な衛士なんかいる訳ねえからな」

「フォーフェンだけじゃ無くって王都も通行自由なのか?」

「大きな街道の門には衛士が立ってるけど、そこで検問する訳じゃ無くって、ただの治安部隊だ。もの凄い人数が毎日出入りしてるのに一々調べてなんかいられるもんか」
「それもそうか。フォーフェンでも街道を通る怪しい奴はチェックするけど、別にそれでどうこうしたりしないんだよな」
「そんなもんだろ」
「フォーフェンも歩いてたらいつの間にか市街に入ってた、って感じだったからなあ」

「そりゃ王宮の辺りに入ろうとするなら別だし、貴族街とかには門があったりするけど、その気になればどっからでも市街に入ってこられるし門番なんかする意味ねえよ」
「なら心配いらないか」
「ミルシュラントは通行自由、居住も自由ってのが大原則だからな」
「リンスワルド領だけじゃなくて他でも自由なのか?」

「ああ、大公陛下の命で、国民に移動と居住の自由を保障してんだ」
「へえ?」
「他所の国の『農奴』みたいに農民を土地に縛り付けるのは禁止されてんのさ。何処の領民でも余所に出たくなったら出れる...行った先で受け入れてくれるかどうかは別だけど、出ること自体は禁止されてない」

「それも凄いな」

そう言えば、レビリスにリンスワルド領とキャプラ公領地の間で転居が自由だと聞いて驚いたことを思い出すな。
ミルシュラントはどこも似たような感じなのか。

「だから、どこの領主も圧政を敷かないんだ。各地の税率も似たような感じに落ち着く。勝手に縛り付けようとしたら大公陛下の勅命に背くことになるし、生活が厳しくなったら領民は出て行っちまうだろ?」

「いい仕組みじゃ無いか!」

「ま、建前はそうでも、庶民の暮らしは言うほど自由には行かねえもんだけどよ。そんなホイホイ自分の慣れ親しんだ土地を出れる奴は少ねえし、農地の小作に雇われてるとか借金があるとかで離れられない奴は当たり前にいるからな。そういうのは実質的に農奴と変わらねえ」

「なかなか建前通りには行かないもんか」
「領主だって人だからな。アコギな奴もいりゃあ、民の金を掠める事ばかり考えてる奴だっているさ。それでもよ、他の国に較べりゃあマシな方だと思うぜ?」
「結局、評判の悪い領主の土地は長い目で見れば衰退していくからか?」
「そういうこった。人が集まらなくなる」
「だよな。そりゃ農民は土地があるから移動が難しいけど、街なんか如実だろう」
「ああ、だから大きな街でも入市税を取ったりしねえのさ。シケた税金集めるよりも、その街での売り買いが賑わった方が、結果、領主も儲かるからな」

「って言うか、入市税を取る街と取らない街があったら、みんな取らない方に行っちゃうだろ?」
「もちろんだ。だから街に入るだけで金を取るなんて処はない。住むなら人頭税、商売するならモノの輸出入や売り買いの税金と場所代を払えってのが普通だな」
「なるほどね...やっぱりうまく出来てるって思うな」

「だからミルシュラントの貴族は大抵が商売とか事業に手を出す。昔のどっかの国みたいに『貴族は商い禁止』なんてやったら立ちいかねえよ。逆にミルシュラントの大商人ってのは貴族の縁故絡みも結構多いのさ。それだけに別の面倒ごとも多いけどな」

リンスワルドの一族が商売上手なのもむべなるかな、か・・・

いや、それでも姫様の経済的な手腕は他の貴族達よりも、頭二つか三つ分は抜き出てる気がするけどね。
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