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第三部:王都への道
傭兵団の名付け
しおりを挟むなんとはなしに傭兵団の様子を眺めていると、幕舎を設置している連中から離れてスライがやってきた。
「ボス、ちょっと相談だ」
「ライノで良いってば」
「いや、建前でもボスって呼んだ方がいいんだよ。この傭兵団はバラバラな集団だからな? 誰が頭に立ってるのかはハッキリした方がいいし、軍隊ってぇのはそういうもんだ。仲がいいだけじゃ上手く動けねえ」
「それもそうか...俺ははっきり言って素人だから、そういう感覚はスライに頼らせてくれ」
「おうよ。で、相談だけどな。俺たちは元がバラバラな寄せ集めだ。他の連中に声を掛けて集めたのは俺だから、一応は見知った連中だけどよ」
「なんだ、スライが集めてたのか。俺はてっきりオットーの伝手かと思ってたよ」
「いや、俺もオットーに会ったのはここに来て初めてだ。オットーはハーレイの街にある商会からドゥノス傭兵団の事を聞いて連絡してきたらしい」
「商会から? 商会が傭兵の斡旋なんてするのか?」
「傭兵の仕事のかなりは、商会が外国から輸入した荷物とか、お偉いさんの遠征の護衛だぜ? さすがに金貨運びの護衛は専属の連中だけどな...なんにしても伝手は持ってる」
「なるほどな」
「で、元はみんな小さな団で俺のドゥノス傭兵団でも七人、後は四~五人だ。護衛仕事なんてそんなもんで事足りるのが多いからな」
「下手に人数が増えても小回りが利きにくくなるだろうしなあ」
「そういうこった。だけど今回は三十人ばかしが、同じ軍団だって気持ちで動く必要がある。分かるだろ?」
「まあ、なんとなく」
「勝手に考えて動かれちゃ困るんだ。みんな一蓮托生だって思ってないと上手くいかねえ...それで、二ヶ月限定かもしれねえけど、この団の名前を決めることにした」
「名前かあ...呼び名だよな」
「ああ。周りが俺たちのことをなんて呼ぶか、だ。騎士さん達だってその方が呼びやすいだろ?」
「確かに」
「で、考えたんだけどよ。『クライス傭兵団』って言うのは」
「ちょっ!」
「絶対にボスが厭がるだろうと思って却下した」
「脅かすなよ...」
「そうか? 俺はいいじゃねえかと思ったけどな? まあとにかく勇者に雇われてる傭兵団だ、不埒な名前は名乗れねえ。そんで、さっき思いついたのは『シャッセル兵団』だ。どうだ?」
「いいけど、由来はなんなんだ?」
「俺の地元の古い言葉で『狩人』って意味だ。なにしろ雇い主は魔獣と闘う勇者様だ。魔獣を狩るものって意味ならドンピシャだろ?」
なるほど・・・破邪に近い意味でもあるのか・・・
うん、面白い。
まあ如何に手練れでも、破邪と同じような修行を積んでいる訳でも無いただの兵士である彼らに、本当に魔獣の相手をして貰うつもりは無いけど。
これも気は心って奴かな?
「ああ、じゃあそれでいいよ」
「決まりだな。俺たちは今日から『シャッセル兵団』を名乗る」
「分かった。これからよろしく頼む」
「おう!」
スライはとにかく名前を早く決めたかったらしく、それだけ話すとまた傭兵団...もとい、シャッセル兵団の仲間達の処へ戻っていた。
それを見送っていると、今度はトレナちゃんがやってきた。
「クライス様、傭兵団の方々のお食事ですが、こちらで一緒にご用意させて頂いても構いませんでしょうか?」
「ああ、助かるよ。是非お願いしたいな」
「かしこまりました。では、準備が出来ましたらお声がけいたします」
「うん、それと彼らは『シャッセル兵団』って名前になったから」
「しゃっせるへいだん、ですか?」
「そうそう、今度からそう呼んであげて」
「かしこまりました。皆にも伝えておきます」
++++++++++
シャッセル兵団と親睦を深める為にも、今日の夕食は彼らと一緒に摂ろうと思っていたら、全員まとめて姫様からお声が掛かった。
今夜はリンスワルド家の一同とシャッセル兵団の親睦会を兼ねて、双方全員揃って草地で夕餉ということにしたそうだ。
ギュンター卿の屋敷の使用人達も揃って助っ人に来てくれているし、領地を出て以来なにかと親睦会続きだな。
で・・・
正直、始まるまでは、ちょっとだけ心配してたんだけど杞憂に終わった。
ヴァーニル隊長からの『お触れ』が有ったお陰もあるんだろうけど、騎士達も極めてスマートで、傭兵だからと見下したりするような言動は一切無いし、シャッセル兵団の連中もただの荒くれ者じゃなくて、スライが認めて集めたベテラン達だ。
『正規軍』との距離感にも慣れてるし、要するに自分たちの役どころをわきまえてるって言えばいい感じか・・・
ギュンター卿が蔵から出して届けてくれたワインをてんでに楽しむ頃には、スライや人当たりのいい傭兵なんかは幾人かの騎士に囲まれて、『傭兵仕事』がどんなものなのか、根掘り葉掘り聞かれてるって塩梅だった。
「そんなにしょっちゅう実戦有るのかい?」
若い騎士が興味深そうにスライに聞いてきた。
「さっきお宅の姫様にも同じ事を尋ねられたんですけどね、傭兵の仕事ってのはほとんどが少人数の護衛ですよ。護衛がいると分かってて襲ってくる盗賊なんて、まず、いねえもんです」
「盗賊側の人数が多かったら危なくないか?」
「いやあ、盗賊や山賊になる連中って長生きしねえんですよ。他で食い潰れて旅人を襲うくらいしか出来ないって奴らだし、何度もやってりゃあ討伐されるか、強い剣士や魔法使いなんかにブチ当たって全滅です」
「だよねえ...」
「ええ、酒場の話に出るような『大盗賊団』なんてのは、まずミルシュラントには存在できませんね。あんなのは東の果てや荒れてる外国の話です」
「なるほどなあ」
「だから、『ここに護衛が付いてるぞ!』ってアピールするのが仕事の九割ですね。戦闘なんて滅多にありませんよ」
「でも、滅多にないって事は、逆に言うと偶にはあるって事じゃないのかい?」
「護衛仕事でも偶にはありますね。そういう時って実は盗賊とか山賊とかじゃ無くて、貴重な積み荷だと知られてて商売敵から狙われてたりとからしいですけどね」
「ふーん、じゃあ、そういう時は傭兵同士で闘ったりするのかい?」
「いやいや、襲う側が傭兵ってことはまずありません。よく誤解されてんですけど、まっとうな傭兵なら違法な仕事は受けねえんですよ。一回でもそんなことに手え出したら、二度とまともな仕事が来なくなります。そう言う仕事を引き受けるのは街のゴロツキ連中ですね」
「それもそうか。そういうの良く分かってなかったよ...」
「逆に、盗賊やゴロツキの討伐に手助けで呼ばれることはありますよ。街の衛士隊じゃ戦力が心細いとか、騎士団の人達は忙しくて手を離せねえとか色々あるんで。そういう時は最初っから戦闘が前提ですね」
「何回くらい実戦ってやったの?」
これもさっきの若い騎士だ。
スライはニヤッと笑って答えた。
「数えてませんよ。十年以上傭兵やってれば、生き延びて見知った顔も減ってきますけどね」
「そうなのか...」
「結局、俺たちみてえな金で雇われる兵隊ってのは、闘うことでご飯が食べれてナンボですからね。騎士の方々みてえに人から尊敬される仕事じゃねえけど、退屈はしませんよ」
「いや、給金を貰って闘うという意味では騎士だって大して変わらんよ。少なくとも私はそう思ってる」
意外なところで口を挟んだのは、それまで静かにみんなの話を聞いていたシルヴァンさんだった。
「そうですかい?」
「そうだとも。騎士だって金を貰わなければ飯は食えんさ」
「そりゃあそうでしょうけど...」
「もちろん、騎士であることの誇りや矜持はあって当然だし、金の為に仕官をしている訳でも無いぞ。仕えたいと思う主君だからこそ騎士として仕えるのだ。が、だからと言って生活できなくていいという訳でもない。要は自分の働きが見合っていると主から評されているかどうか、給金はその一部が形になったものだ」
「はー、なるほどねえ...俺らもそういう考え方をすべきか...」
「スライは、ギュンター卿が実行取り消しになった日当も全額払うって言った時に、自分から『貰いすぎだ』って言っただろ? それが矜持じゃ無いのか?」
「ボス、あれは矜持なんて大したもんじゃねえ。ただの保身ですよ。その場の勢いで貰いすぎると後で揉めたりするもんなんだ」
「私はそれも矜持だと思うな。我らのような騎士とは違うかもしれんが、自分がやるべき仕事をしっかり考えているなら、それは矜持だ」
「そう言うもんすか?...」
さすが元遍歴騎士のシルヴァンさんが言うと、なんだか言外に重みがある。
やっぱり剣の腕だけじゃ無くって、色々と凄い人物だ。
++++++++++
そんな風にみんなでアレコレ話して盛り上がっていたが、ふと、しばらく前からパルミュナの姿が見えなくなっていることに気が付いた。
心配する必要は無いと分かっているけど、気にはなる。
ダンガとアサムを交えて盛り上がっているグループにもいないので、そこに混じっていたレビリスを捕まえて尋ねてみた、
「なあ、パルミュナ見なかったか?」
「ああ、パルミュナちゃんなら大分前に、レミンちゃんと抜け出したさ」
「え、レミンちゃんと? 何処に行ったんだ?」
まさか、月夜の牧草地を狼姿で駆け回るなんて事じゃないだろうな?
うっかりバルテルさんが目撃したらショック死するかもしれない。
「なんか屋敷の方に戻って片付けることがあるとか言ってたぞ」
「おおぅ...そうだったか...」
そうだ、屋敷の前庭には巨大な犀の魔獣とアサシンタイガー十匹の屍が転がってるままなんだった・・・
シャッセル兵団を雇うだなんだでテンパってたせいで、うっかり失念していたけど、宵闇に紛れてあれをどうにか片付けに行ってくれたのか。
デキる妹よ・・・抜けてる兄ですまん!
あと、きっと狼姿で付き合わされてるレミンちゃんもご免!
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