なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第三部:王都への道

姫様と共に王都へ

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なんだか急にバタついてきた気もするけれど、結界を張って三日後には無事にリンスワルド邸からの出立にこぎ着けた。

とりあえずパルミュナの結界によって館の安全が確保できたってことで、ヴァーニル隊長も王都までは同行することになったけど、そこから先は、最期まで行動を共にするキャラバンの面子も含めて、何もかも計画通りに行くとは思ってない。
編成もルートも途中の行動も、かなりその場の判断って言うか、アドリブが求められるだろうと思う。

ダンガたちは最初、哨戒活動を兼ねて狼姿で付いていくと言ってくれたのだけど、さすがにそれは止めて貰うことにした。
なにしろ今回の隊列は、ざっと見たところ人が乗る馬車の数だけでもポリノー村で陣を張ったときの倍以上あるし、馬に乗った騎士と従者の数も、あの時の二倍はいる。
これで王都への道中ですら、ダンガ兄妹の手を借りなければ一行を守れないほどの襲撃を受けるようであれば、もはや手遅れというか、エルスカインを見くびりすぎてたって言うことだろう。

それに正直言って、どのみち北部山脈へ向かうときにはダンガたちの力に頼りたいからな。
いまのところは、まだ力を溜めて貰っておく方がいい。

隊列では、馬車の一つを俺とパルミュナのためにあてがって貰えたから、てっきりレビリスも一緒に乗るかと思ったら意外や、ダンガたちの馬車に乗っていくからって笑顔で返されたよ。
まあ実はダンガたちの馬車の方が諸般の事情でデカいからね。

いやレビリス、ひょっとしてレミンちゃんにご執心か?

ダンガやアサムとも仲良くなってるから別にいいけど・・・
それに、単に外国の情報に貪欲なレビリスが、ミルバルナのお国話やダンガたちの旅のエピソードを聞きたいだけかもしれないけどな!

++++++++++

姫様が王都に出向いて大公陛下に謁見するのは珍しいことではないそうで、特に大袈裟な儀式や訓示などはなにも無いらしい。
だけどこのアッサリさは、一般的な貴族がやりたがる大仰な権威主義に対して、こだわりの薄いリンスワルド家の家風かもしれないな。
名より実を取るというか、見栄よりも経済というか・・・

ま、そうでないと、いくら護身術に自信があっても、初対面の破邪を馬車に呼びつけたりはしないだろうからね。

出発準備が進んでいる最中、道中のことをレビリスやダンガ兄妹と少しだけ再確認しようと話しに行ったんだが、三人の姿を見た俺は『あれっ?』と戸惑った。
三人とも、屋敷の中で最近身につけていたような貴族風の衣装ではなく、出会ったときと同じようなアンスロープ特有の変形する装束に着替えていたんだが、それに見覚えがない。
彼らが予備の服なんか持ってたはずないし、無論これも姫様のご手配だな。

それに、なんだか立派。
いや凄く立派。
ちょっとキラキラしてるし。

スタイルというか造りは元々彼らが着ていた装束と同じなのに、あの『いかにも民族衣装風な普段着』の見た目ではなく、なんと言うか高貴だ。
うーん、あえて言うなら、かぶいた貴族の狩猟服? あるいはどこぞの遠方を治める貴族のいくさ装束? とか、そんな感じ。
所々に鎧風の意匠を取り入れた金属のプレートが飾り付けられているから、余計にそう見えるのかもしれない。

「やあ、ダンガもレミンちゃんもアサムも、一段とカッコいいな!」

「ああ、ありがとう。これ、姫様が用意してくれたんだけど、いきなり届けられて驚いたんだよ」
「私たちが元々着ていた装束を、家人の方が洗濯してくれたんですけど、その時に服の素材や造りを全部控えてらしたんだそうです」
「凄いよね! 魔力を通さなくてもサイズがぴったりなんだもん。着心地もいいしさあ」

おお、三人とも喜んでるみたいで良かった。
まだリンスワルド領内にはアンスロープ族の村が無いって口ぶりだったけど、さすが姫様の手配力は半端ないな。

「なんだか三人とも貴族に見えるよ? アンスロープの貴族だな」
「いやあ、それならライノだって貴族に見えるさ」
「そうですよ! ライノさんも貴公子みたいでカッコイイです!」
「中身は『ゆ』の付くアレだけどな?」
「レビリスうるさい」

実は俺も今回は破邪の装束ではなくて、いつのまにか姫様が仕立ててくれていた貴族風の外出着を身につけている。
それにガオケルムもと言うか、フォーフェンで買った鍋からパルミュナの毛布まで、背負い袋の中身を一切合切革袋に収納して、身につけているのは腰の革袋とヴァーニル隊長が用意してくれた飾りの剣だけ。
もちろんこれは、破邪が同行していることを目立たせないための措置だ。
格好つけを優先しているわけではないのだよパルミュナ。

だ・か・ら、そういう笑いをこらえた表情でチラチラ見ないように!

そんなパルミュナもフォーフェンで買った街娘風の旅装ではなく、やはり姫様が届けてくれたシンプルなドレス姿だ。
ただ、ドレスと言っても姫様たちのようにガッチガチと言うか、刺繍やレースの入ってない箇所が何処にも見当たらないような超高級服地のドレスじゃないし、良くある貴族風ともちょっと違う。

滑らかで光沢のある上質な生地をふんだんに折り重ね、丁寧に縫い留めてドレープやカーブを持たせたドレスで、全体に柔らかな雰囲気を持ちつつ、動きやすさを損なわないように工夫されているのが分かる。
お姫様じゃあないけど、外国の貴族のようにも、大店おおだなのご令嬢のようにも、なにか特別な役職者の衣装のようにも見える不思議な感じだ。
まあ、どの解釈であっても妹としての可愛いさは同じだから問題はないがな!

パルミュナ曰く、『仮縫いもしてないのにサイズがぴったりー!』だそうである。
って言うか、精霊も服を新調するときに仮縫いとかするの?

泉で出会ったときは、一瞬のあいだに全裸マッパの状態からトーガをまとった姿に変わっていたから、あれは服って言うよりも魔法の一種なんだろうけど、『箱』から顕現したときは普通の服を着てたもんなあ・・・
売っちゃったけど。

あれ?
まさか、あの服はパルミュナから魔力の供給が途切れたら消失するなんてことないよな?
勇者が詐欺を働いたなんて事になったら洒落じゃ済まんぞ・・・

「え? あれはホントーに物質化してる服だからだいじょーぶ!」

ならば良し!

++++++++++

俺たちが馬車の脇に集まって談笑していると、シンシアさんがそれを見て近づいてきた。
おっと、久しぶりに見る『可愛い魔道士スタイル』のシンシアさん。
それにしても豪華なドレスの時よりも、厳めしいローブの魔道士姿の時の方が子供っぽさが増すのはなぜなのかね?
人の『見た目の印象』ってのは面白い。

それはともかく、件の対策会議以来、会話の機会が一番少なくなっていた人だが、エルスカインの襲撃があることを前提にした今回の道程では、シンシアさんの協力は欠かせない。

「シンシアさん、後で声をかけようと思ってたんですけど、道中の防護結界は王都に着くまでシンシアさんにお任せで良いですか?」
「はい。もちろんです。王都にも少し滞在することになると思いますから、向こうでの行動中は私が『姫様』とご相談しながら対応していきます」

あ、そうか。
シンシアさんはこの屋敷を一歩出たら、あくまでもリンスワルド家の筆頭魔道士『シンシア・ジットレイン』なんだよな。
俺も言動に気をつけないと。

敷地に綺麗に並んだ隊列の馬車が出発準備を整え、最後にエマーニュさん、姫様、シンシアさんが乗り込むと、大声が飛び交うこともなく静かに出立した。
城に残る人々は、ほぼ全員が見送りに出てきているようだ。

まずヴァーニル隊長が率いる騎士団が隊列の先陣を切り、その後に馬車の列が続く。
騎乗した護衛の騎士を所々に挟みながら伸びる隊列の中央付近に白い姫様のお召し馬車とその随伴車と言うのか、ポリノー村の広場で陣を張ったときに連結されていたっぽい馬車や、お付きの方々が乗った馬車が続く。

俺とパルミュナの乗ってる馬車はそのグループのすぐ後ろに位置し、そしてダンガ兄妹とレビリスの乗った馬車が続く。
俺たちの正体が実質的な姫様の護衛だってことを知らない人が見たら、いくら客人とは言え、なんでそんな位置を占めているのか謎だろうな・・・

すでに先遣隊は朝早くに出発して、今夜の泊地の下準備をしているそうだ。
その先も、旅程の宿泊予定地はすべて決まっていて、宿の手配や物資補給の段取りもすでに終わっているとのこと。
さすが伯爵様ご一行。
って言うか、それが当たり前か。

普通、襲撃のある可能性を考えると、あからさまに予定が周知されているのはよろしくないことなんだけど、今回ばかりは心配しても仕方がないと思ってる。
王都までは大きな街道の一本道だそうだし、向こうが本気で待ち伏せする気でいるのなら、ここを出発したことさえ知っていれば、後は予定を知っていようが知っていまいが、どうにでも襲撃予定を立てられるだろう。

受け身にならざるを得ない俺たちとしては、こちらの目的をエルスカインに覚られる前に、とっとと王都に着いて大公陛下からドラゴンの居場所を聞き出すしかないな。

エルスカイン側が体勢を立て直すのと、こちらがドラゴンと交渉するのと、どちらが早いかの勝負になるかもしれない。
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