172 / 922
第三部:王都への道
姫様の妥協案
しおりを挟むうーん・・・
もう、とにかく偉そうだけど押し通す!
「えぇっと...皆さんのお気持ちは有り難く...って言うか、そんな他人行儀な話じゃないですよね。俺も姫様たちに自分が認められて嬉しいです!!」
「有り難く、言葉もございません」
「はい姫様。それに、みなさんの気持ちも、ちゃんと受け取らせて貰いました。で、いまここにいるのはみんな俺の仲間です! いまから、全員で仲間同士として話を進めたいです」
「かしこまりました...では、気持ちを切り替えまして...」
姫様は、気を引き締めるように両手で自分の頬を軽く叩くと『ドラゴン対策』の話に戻った。
「いま、ライノ殿とパルミュナちゃん...の間で問題になっていることの一つは、仮にドラゴンの説得にライノ殿が向かうとなったら、お二人が離ればなれにならざるを得ない、ということがあると思います」
「ええ、まあ。こればっかりは如何ともし難いんで」
「ですが、その理由はわたくしたちを守ってくださろうとしていることではありませんか?」
「そりゃ、姫様やエマーニュさんがエルスカインの手に堕ちたら、俺たちの負けだって思いますからね!」
「であれば...わたくしたちもドラゴンの元へと、ライノ殿とご一緒したく思います」
「は?」
「ですから、わたくし共もライノ殿と一緒にドラゴンの処へと向かいましょうと」
「いやいやいや、なにを言ってるんですか姫様、なんでそうなるんです。みんな揃って危険を冒しに行く必然性なんて、これっぽっちもないですよ?」
「ですが、危険と言いつつもライノ殿には勝算があるのでは?」
そりゃ、あるけどさあ・・・
その根拠が『なんとなく、そういう予感がする』ってだけだから説明しづらいんだよね。
『きっと上手くいく』って囁くんだよ、俺の魂が!
それと『勝算』じゃなくて『合意』だからね?
戦って勝てるとは思ってないからね?
「うーん、勝算って言うよりも、なんとなく上手く事を運べそうな予感がするって感じなんですけどね...」
「納得する理由として十分かと思います」
「ええぇ? 本気ですか?」
「本当です。決して勇者様の意向に媚びているというわけではございません。ライノ殿のお考えは、そもそもドラゴンと戦いに行くわけではなくて、交渉するということですから」
「あー、まあそういうことになりますね...」
「交渉であるならば、お互いが相手の情報をどれくらい持っているかが勝負所になりますが、この場合、勇者としてのライノ殿もドラゴンも、相手の情報はほとんど無いと言って差し支えないでしょう」
「それはつまり、良くない状況なのでは?」
「お互いに持ってないのですから立場は互角です。決して武力での解決にせず、交渉で通すならば、こちらの勝算は十分あると思います」
うーん、そういうものなのか・・・
賛同されているはずなのに、どうも言葉がモニョモニョしてしまうな。
「だからと言って、姫様が一緒に来る必然性はないでしょう?」
「必然性はございます。守って貰う立場で生意気かもしれませんが」
「そういうのは関係ないですよ?」
「でしたら、わたくしどもが一緒にいることで、ライノ殿とパルミュナちゃんが離ればなれになる必要が無くなります」
それはそうかもしれないけど・・・
あと『わたくしども』って言ったよね。
確かに、シンシアさんやエマーニュさんをここに残していったら意味ないのか。
「先程ライノ殿は『手数が少ないのは自分たちだ』と仰いましたが、であればこそ、少ない手数を更に分けるのは悪手でしょう」
「そうなりますか?...」
「はい、そう思います。ここは皆で一丸となって動くべきかと」
姫様の怒濤のご意見が続く。
「パルミュナちゃんの仰るとおり、ライノ殿とパルミュナちゃんが離れてはどちらも危険になるだけ、と思います」
「分かるんですけど、ドラゴンに辿り着く以前に道中でエルスカインの手下に襲われる可能性もあるし、屋敷や王都で籠もっているよりも攻撃を受ける危険は各段に増えると思います」
「承知しております。ですが、そこはライノ殿の仰るとおり、ドラゴンに攻められたら何処に立て籠もっていようが関係ありません。ならば...ドラゴンを敵に渡さないことに注力すべきですし、その勝率を上げることに賭けるべきでは?」
「うーん、ですけど...それで姫様たちに危険が及んだら元の木阿弥なんじゃあ?」
「それは逆でございましょう。例えわたくしたちが斃れても、ドラゴンを押さえられればライノ殿は最終的にエルスカインに勝てます」
「ですから、それじゃあ意味がないって...」
「いいえ。先ほどの話の逆です」
姫様の目に固い決意が伺える。
「わたくしは臣下ではなく友として、ライノ殿にこの世界を守って欲しいのです。例えわたくしたちが今回を生き延びたとしても、エルスカインが生きてライノ殿が消えた世界に希望があるとは思えません。わたくしは、わたくし自身の子孫も、領民たちの子孫も、そんな暗鬱な世界で過ごさせたくはないのです」
「お母様...」
「分かって貰えますね、シンシア?」
「もちろんです、お母様。ライノ殿の友として命を賭すことになんの躊躇いもございません」
「無論わたくしもですわ!」
「言うまでもありませんな!」
シンシアさんの宣言にエマーニュさんとヴァーニル隊長も力強く賛同した。
うーん、俺はエルスカインがドラゴンを操れる可能性を誇張しすぎたのかな?
だけどなあ・・・
「ライノ殿の心配は、ドラゴンとの対峙以前に道中の安全ということも大きいですわね?」
俺の不安そうな顔を読み取ったのか、姫様がそう水を向けてきた。
まあ、パルミュナにも『顔に出やすい』って散々言われてるもんな。
「姫様の言ってることは分かるんだけど、ここで固まってるならともかく、僻地の大森林なんか移動してるのがエルスカインにバレたら、間違いなく途中で襲われると思いますよ。それこそ、身代わりの影武者でもおかない限りバレるのは時間の問題でしょう」
「そこは、わたくしも同意致します。とは言え、犠牲になる可能性が高い影武者を置くつもりはありません」
「だったら、いつか必ずこっちの目論みが露呈して襲撃を受けます」
「はい。それでも皆で一緒に動く方が良いと思います」
「うーん...」
「ライノ殿。リンスワルド家は武人の家柄です」
「は?」
そりゃ、馬車の中で話したときに、嗜んでいる武芸も相当なレベルだとは思ったよ・・・
でも、リンスワルド領の経済的な発展具合と、それを支えた巧妙な施策を考えると、『武人の家柄』なんて一番遠いイメージなんだけど?
「大戦争のおり、リンスワルド伯の名を賜った初代様は大公陛下の親衛隊に所属する一人の騎士に過ぎませんでした。しかし、勇猛果敢に先陣を切ろうとされる大公陛下を、その知略と武勇をもって幾多の戦場でお守りし、時には身代わりとなって重傷を負いながらもお助けして参りました」
「そういった功績で叙爵されたんですよね」
「はい。ある時には、和睦を装った敵の卑劣な罠に囲まれた大公陛下に付き添い、五百の敵兵の陣を突破して無事にお救いしたこともあったそうです」
そりゃ凄まじいな初代伯爵・・・
言葉通りの『一騎当千』か?
さすが『銀の梟』なんて二つ名をもつだけのことはある。
「ライノ殿、それがリンスワルド家の血筋でございます。わたくしもシンシアも、そしてエマーニュも...こんな見てくれではございますが、己が信ずるもののため、そして友のために命を賭すことはリンスワルドの誉れにございます」
姫様の宣言に、またまたシンシアさん、エマーニュさん、ヴァーニル隊長が力強く頷いた。
『こんな見てくれ』って・・・いわんとする意味は分かるけど。
お三方とも、およそ戦闘とは縁の無さそうなって言うか、むしろ芸術方面のビジュアルだもんね。
見た目だけなら『美』とか『雅』とかの世界に住む人であって、血生臭い戦いとは対極にある感じだ。
でも参ったな・・・反論できないや・・・
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜
優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、
戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。
本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、
皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、
剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。
彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる