なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第三部:王都への道

魔道士と御者

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その場でレビリス宛てに、簡単な事情を説明しつつ出来ればここに来て手伝って貰えないかという相談の手紙を書いた。

もちろん、件の『魔獣使い』が絡んでいることや、実際に襲撃を受けたということを言い添えるのも忘れない。
レビリスに姫様関係の護衛を頼むつもりはないけど、それでもなにが起きるか分からないのが世の中だ。
良かれと思ってダンガ兄妹に調査の手伝いを頼んだものの、すぐに想像以上に危険な状態になって後悔したことは忘れたくない。

「この手紙を届けて頂きたいのですが...フォーフェンの破邪衆寄り合い所にいる『ウェインス氏』という、世話役の男性に渡して頂ければ、必ず友人の手に渡ります」

「かしこまりました。早馬はリンスワルド家からの公式な使者として行かせてもよろしいでしょうか? もし身元を伏せさせた方がよろしければそういたしますが?」

「いや、伯爵家の公式な使者という扱いの方が助かります」

レビリスにとっては『仕事』として引き受ける大義名分が付くし、ウェインスさんにとってもその方がいいだろう・・・

あ、そうか。
むしろ姫様に頼んで、公式な仕事にして貰うって手もあるな!

「姫様、一つ相談というか我が儘があるのですが...」
「はい、うけたまわりました」
「いやせめて、内容を聞いてからに...」
「クライス様からのご依頼です。わたくしに実行可能なことであれば、お引き受けしない理由などございません」
「あ、その、ありがとうございます..まあ無理のない範囲でお願いします。」
「かしこまりました」

「で、ですね。この手紙で俺の親友のレビリスをここに呼んで、ダンガたちの村探しとかを色々と手伝って貰いたいんですが、例えばそれを『リンスワルド伯爵家からの指名依頼』という形にして貰うことは出来ないですかね?」

「レビリス様ですね? 簡単なことでございます。すぐに書状を作成いたしまして、そのお手紙と一緒にお手元に渡るよう手配いたします。依頼内容は伯爵家の領地内での調査で、期限は完了までの未定とでもしておけば問題ございませんでしょうか?」

「ええ。じゃあ、それでお願いします」

俺の書いたレビリス宛ての手紙を受け取った姫様は、使者と書状の用意をすると言って本館に戻っていったが、その後メイドさんに入れて貰ったお茶を飲み干すかどうかという早さで、また戻ってきた。

「たったいま、フォーフェンに向けて使者を出立させました。クライス様のお手紙と一緒に伯爵家からレビリス様への指名依頼の書状を持たせましたが、念のために、世話役の方には口頭でもお伝えするように言ってあります」

「ありがとうございます! 助かりました」

「ところでクライス様、これから少々お時間を頂戴しても構いませんでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「では、昨夜の橋の事件の続きについて、ご意見を伺いたく思います。よろしければシンシアとコーネリアスも同席させたいのですが」

「そうですね。それに、この先のことを考えると、ダンガたちにも一緒に聞いて貰った方がいいと思うので、ここに来て頂くか、どこかの部屋をお借りするか...俺たちの方はいつでも大丈夫ですよ?」

「かしこまりました。それでは会議用の部屋を使いましょう」

姫様にそう促され、全員で本館に移動する。

会議室らしき広い部屋に入ると、すでにシンシアさんとヴァーニル隊長も待ち構えていた。
姫様の後ろにおいてある椅子にはエマーニュさんも控えているから、襲撃後の馬車の中で相談した時と同一の顔ぶれだ。
と言うか、昨夜の晩餐と同じか。

みんなが揃った時点でメイドさんたちは全員退出したので、ちょっと緊張感がある。

ダンガたちも少しオドオドしているな・・・
申し訳ないけど、ここは我慢して貰おう。

ダンガたちには、二年前に養魚場の橋で何があったかと、エルスカインがなぜ姫様とこの領地を狙っているのかをザックリと説明してあるが、昨夜の情報で考えたことはまだ伝えていない。

これは姫様たちと一緒に聞いて貰った上での、率直な意見が欲しいからね。

しかし・・・

服装も雰囲気もバッラバラな面子だけど、こうやって重厚なテーブルを囲んで座ると、それなりに会議っぽい雰囲気になるから不思議だ。
自分が過去に見たことあるのは商会の寄り合いとか、どこぞの領地の魔獣対策会議とか、せいぜいそんなもんだけどさ。

「クライス様。それでは是非お話の続きを伺いたく存じます」

「ありがとうございます。養魚場の橋の件で幾つか気になったこともあるんですけど、その前に...俺とパルミュナがどうしてエルスカインの存在を知ったのか、その経緯をみんなに聞いておいて欲しいんですよ」

ダンガたちにも姫様たちにも以前に説明してあるが、改めて一本のストーリーとして、パルミュナと二人でミルシュラント公国を歩き始めてからの出来事について話した。

山道で出会った破邪崩れの山賊とモヤのような魔物の話。
ラスティユ村付近に初めて出たウォーベア。
旧街道の不穏な噂を聞いたこと。
調査の依頼を受けてレビリスと旧街道に行ったこと。
ガルシリス城跡地下の魔法陣での出来事。
モヤのような魔物を操っていたエルスカインとの遭遇。

こういうのは、みんなが同じ話を聞いてるってのが大切だからね。
俺は、その後で養魚場の現場を見に行って思ったことをストレートに伝えた。

「ヴァーニル隊長も仰るとおり、馬車に仕掛けを施したのは内部の人間でしょう。端から見ても色々と不自然に感じたので」
「やはりそう思われますかな?」
「ええ、それが誰かは議論の余地があると思いますけどね...ところで、当時の魔道士が全員揃って辞職したというのはどういう経緯だったんですか?」

俺の質問には姫様が答えてくれた。

「お話ししたとおり、後ろの馬車に乗っていた三人の魔道士たちは全員、事故の前後を通じて魔法の気配に気が付かなかったと言いました。最初の主張は『あれは単なる事故である』というものです」

「ですが、事故ではないという証拠もなかったわけですよね? 逆に姫様はどうしてあれがエルスカインによる攻撃だと認識されたんですか?」

「外には秘密にしておりましたが、影武者の夫妻には防護魔法がかかっておりました。しかし、あの夫妻が負った怪我は、その防御を突破してきたのです。単に...と言うと語弊がありますが、馬車が橋から落ちた『だけ』であれば、あれほどの大怪我にはならなかったと思います」

「では、その防護魔法は誰が?」

「退任した筆頭魔道士です。彼以外はわたくしとコーネリアスしか知らなかったはずですし、あの時点でエルスカインが私のことを知っていれば、最初から私を狙ったでしょう」

ヴァーニル隊長は、その言葉に頷いた。
とすると、御者も防御魔法の存在は知らなかったことになるな。

「そこも含めての引責辞任ですか?」

「いえ、わたくしは責任を問うつもりはありませんでしたが、当の魔道士たちが『誰が裏切り者か分からない』と言い出したのです」
「それは三人のうちの誰かが裏切ったと、魔道士たち自身が考えてたって意味ですかね?」

「そうです。魔法を感知できなかったのは、封じ込められていたからだと思いますが、それを仕掛けたのが三人のうちの誰なのか、自分たちでは確かめようもないという事になりまして」

まあ、そうか。

「その結果、筆頭魔道士の一声で揃って辞職となりました」
「うーん、そうだとすると、宣誓魔法の効力さえ妖しくなってきますね?」
「仰るとおりです。一斉辞任と言うことで、大公陛下にお願いしてシンシアが戻るまでの繋ぎの魔道士を王室から紹介して貰いました。いまの家人は、その王宮魔道士によって宣誓魔法を受けております」

「でも元の魔道士たちだって、互いに宣誓魔法を掛け合っていれば、伯爵家を裏切る行動は取れないでしょう?」

「そもそもミルシュラント公国では、貴族家や軍において強大な力を振るうことが可能な魔道士は厳しく統制されております。領地持ちの貴族家に使える魔道士は、定期的に王宮魔道士による監査を受けなければなりません。にもかかわらず、誰も魔道士として役目を果たせず、挙げ句に誰が裏切り者かも分からない、という状況に陥ってしまったのです」

そうなると、『魔道士は誰も裏切ってない』というのが正解に思えるんだが・・・
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