なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

文字の大きさ
上 下
111 / 922
第二部:伯爵と魔獣の森

革袋で豪華な晩ご飯

しおりを挟む

背負い袋からみんなの分のカップを出して、具だくさんのスープって言うか、もう細切れポトフって感じだなこれ・・・を満たしてパンと一緒にみんなに配る。

パンも携行用の堅パンじゃなくてちゃんと発酵させてある、いい飯屋で食べるようなふんわりしたパンだ。
なにしろ荷物の重さもさることながら『嵩張り』を気にして無くていいって言うのは、パンのように軽くても嵩張るせいで、沢山持ち歩くのに難儀する食べ物も、いつでも自由に食べられるってことだ。
パルミュナだったら、干しイチジクのケーキを山ほどつっこもうとしかねないな。

炙り肉も、じんわり中まで火が通っていて柔らかく、脂の甘みにピリッと塩が合わさって絶妙だ。
内心で、これはひょっとするとラスティユの村で食べた熊肉焼きに匹敵するんじゃないかと自画自賛する俺。
今日は熊肉じゃなくて鹿肉なのはこの際無視する。

「美味しいなあ、このスープ...」

ダンガが感慨深そうに言うけど、君、一昨日の夜の簡単なスープも同じ感想だったよね?
まあ、あの時は最愛のレミンちゃんの容態が良くなってホッとしたって言うのが、一番の味付けだったのかも知れないけど。

「なあ、兄貴、俺、こんな美味いスープ食ったのって、生まれて初めてかも」
「それは大袈裟だろうアサム。お前たちだって狩人なんだから、他の村人よりは肉を食ってたはずだぞ? うちもそうだったからな」
「え、ライノの実家って狩人なのか?」

「ああ、父親は村の狩人だったよ。狩りに出ないときは、村で色々な修理や作業を手伝ったりして、便利屋みたいなこともしてたけどな」

「あー、俺たちと似たような感じかも知れない」

「ところ変われど、かな? 親父が取ってきた獲物でも、村に配れない中途半端なのは家族で食べてたから、農夫だった他の家よりも肉を沢山食べてたとは思うね」
「そうか、親父さん狩人なのか...いまでも元気か?」

「いやあ、それが八年前に迷い込んできたブラディウルフに殺されちまってな、ま、それが俺が破邪になった切っ掛けなんだけど」
「あ、す、スマン! 軽率なことを」
「そんなことないって。もう八年も経つんだからな。気にする必要もない」
「そ、そうか。それなら良かった」

自分の振った話題に慌てているダンガとは対照的に、アサムがすっと暗い表情を見せる。
「なあ、じゃあライノさんは、やっぱり魔獣を憎んでるのか?」
「いや全然?」
「そうなのか? でも、その親父さんはブラディウルフに...」

「正確に言うとブラディウルフに殺されたのはお袋も一緒の時だったんで、両親揃ってだ」
それを聞いてレミンちゃんがはっと息を飲んだ。

「でも別に魔獣の存在を憎んじゃないよ。破邪になった切っ掛けではあるけど、復讐するために、とかって訳じゃあないんだ」
「そっか。どうして破邪になったか聞いてもいいかい?」

「ああ、偶然なんだけどな。俺の両親を殺したブラディウルフを仕留めるために破邪が呼ばれたんだけどさ、結論から言えば、俺はその人に拾われて弟子になったんだ」

「親の仇を取ってくれたから?」
「いいや。魔獣を仕留める罠を掛けるときに、俺は自分から手を上げて囮役になったんだ。正直その時は、そのブラディウルフに仕返ししたいって思ってたしな」
「それは...当然だろうな...」

「だけど、その罠が上手くいって討伐が終わった後、師匠は俺の度胸を褒めてくれてな。で、俺の方は、村のみんなに感謝された師匠を見てて、心の底からカッコいいなあって思ってな。それで弟子にして貰った」

「え、師匠が格好良かったから破邪になったのか!?」
「そうだよ?」
「うわー、意外だぞ、それ!」

「えっそうかあ? ブラディウルフを仕留めた師匠の姿もカッコ良かったし、その後、村のみんなに感謝されて照れてる師匠が妙にカッコ良く見えてなあ...俺も、あんな風に人から感謝されるカッコいい男になりたいって思ったんだ」

「ああ。なんか、そこまで聞いて分かった! やっぱりライノさんらしいや!」
「いや、破邪なんて酔狂な仕事を選ぶ奴は、みんな似たようなもんだと思うけどね」
「昨日も、ケネスさんにそう言ってたよな」

「俺はさあ、なんか、ここ一発!って感じで人に喜ばれるのが嬉しいんだよ。自分の役目を実感できてさ」
「ここ一発、なのか?」
「だって、本当に世の中を良くしたいとか、とにかく人を幸せにしたいなんて考える奴だったら、コツコツ孤児院の経営でもしてるんじゃないかな? でも俺にはそんなの絶対にムリ」

「うーん、ライノって、どっちかというとそういう人っぽいけど」
「ないわ。俺って別に困ってる人を自分から探したりしてないもん。親しくなった相手にだけ、出来ることをしてるわけだしな」

「それにしても、ライノさんは魔獣が憎くて破邪になったってことじゃないんだね?」
「うん全然。狩人だって熊みたいな獣が村人を襲ったら山狩りするだろ? 俺は狩人じゃなくて破邪だから、討伐するのが人に害為す魔獣や魔物だってだけだ。魔獣を倒したら肉を食うしな」
「そっか。だったら良かった...」
さっきからアサムは、俺が魔獣を憎んでいるのかを気にしているな。
なんか、思うところあるんだろうか?

「ライノさんは、破邪の修行の中で料理を覚えたんですか? このスープも、甘くてとっても美味しいです!」

レミンちゃんって、賢いって言うか機転が利く子だな。
なんだか、いまはアサムの気にしてる話題を続けない方が良さそうだ。

「いやあ、破邪の食事なんて普通は質素なもんなんだよ。今回は手に入らなかったから持ってきてないけど、塩で練ったミンチを板みたいに干して固めたのを持ち歩いて、それをお湯に混ぜ込んでスープにして終わり! って感じだよ」

「あ、でも、始めた会った日に飲ませて貰った腸詰めのスープも凄く美味しかったです!」
それって、かなりの部分が精霊の水のおかげのような気もするが、ネタはバラしちゃダメだよね、きっと。
実はこのスープもそうだけど・・・

「腸詰めもモノによって味が全然違うから、味付けが運次第ってところもあるけどね。昨日ケネスさんたちとも話したけど、フォーフェンあたりは、どれも食材レベルで美味しいから嬉しかったよ」

「さっきのデュソート村の店や市でも、並んでるものがどれも美味しそうで、わたし目移りばっかりしてました!」
「分かる分かる。似たようなものが並んでると、どっちを買おうかめちゃくちゃ悩む。昔は、そんなことなかったんだけどなあ...俺もミルシュラントに来てから贅沢になったっていう自覚はあるよ」

「野菜でもなんでも、まず売ってる種類が多いですよね?」
「それそれ! このスープにも入れたけど、根っこの太いフェンネルとか、こっちに来て初めて見たし、他にも見たことなかった材料とか色々と目につくもんね」

「このスープも、味が濃くて、トロッとしてて本当に美味しいです」
「このスープのとろみと甘みはパースニップだけど、南部の方だとあまり使わなかったかい?」
「パースニップは使いますけど、ここまで強い甘みじゃなかったですね。甘さが欲しいときには単純にビートを使います」

「エドヴァルでもビートはよく出てくる野菜だな。それこそ、煮ても焼いてもスープでも何でも。あと、砂糖の原料になるんだっけ?」
「らしいですね。ただ、砂糖にするには凄く量もいるし手間が掛かるから、南方大陸から輸入した砂糖の方が値段が安いって聞きました」

「最近は砂糖も安くなってきたって言うし、そんなものかもね」

そんなことを話しながらも食事が大分進んで、炙り肉もスープも品切れになってきたので、背負い袋から『とっておき』を出すことにする。
みんなで手分けして買い物をしてる最中に見つけて、こっそり仕入れておいたのだ。

「じゃあ、きっと甘いものが大好きなはずのレミンちゃんにこれを」

さっとレミンちゃんの顔色が変わる。
さすがアンスロープの女の子だ、革袋から壺を出した瞬間に匂いに気がついたか?
「こ、これってもしかして...」
「イチゴのジャムだよ。こいつを柔らかいパンにたっぷり塗って食べてみてよ。絶対に美味しいから!」

「わーっ!!!!!」

それを聞いたレミンちゃんの目がお星様のように輝いた。
パルミュナが初めてイチゴのタルトを食べたときに、それはもう幸せそうな顔をして、瞳からキラキラと星屑が溢れてきそうだったことを思い出す。
違うのはレミンちゃんの場合、バッサバッサと音がしそうな勢いで尻尾が振られていることだな。

やっぱり女の子に甘いものって文句なしの相性だよね!

「そして、ここにこれを入れる...」
さっき、火に掛けておいた小さい方の鍋のお湯に、フォーフェンで買っておいた茶葉をパラパラと落とし込む。

「なんですか、それ?」
「南方のお茶の葉だよ。いまフォーフェンで流行ってるんだけどね...カップに掬って飲んでみてごらん。きっとジャムを塗ったパンと、合うと思うから」
「うわぁ、すごくいい香りです!」
鍋から立ち上るお茶の香りに、レミンちゃんがうっとりした顔をする。

「ダンガとアサムも拗ねるなよ? 二人にはこれがある」
そう言って俺は、革袋からエールの小樽を三つ、次々と引き出した。
こんなもの、アスワンの革袋がなかったから、とてもじゃないが持ち歩く気にはなれん!

「おっ、おおおおおぉっ!!!」

二人の感嘆の声が凄いボリュームだ。
あえて食事の終わる頃にエールを出す俺のことを『策士』と呼んでくれて構わない。

もちろん、ツマミがないのは俺も嫌なので、腸詰めをたっぷり切って、そこに瑞々しい葉野菜と塩を添える。
ぶっちゃけ、『銀の梟亭』の定番おつまみの模倣である。

模倣でもいいじゃない、美味しいんだもの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

魔王は貯金で世界を変える

らる鳥
ファンタジー
 人間と魔族の争う世界に、新たな魔王が降り立った。  けれどもその魔王に、魔族の女神より与えられしギフトは『貯金』。 「母様、流石に此れはなかろうよ……」  思わず自分を派遣した神に愚痴る魔王だったが、実はそのギフトには途轍もない力が……。  この小説は、小説家になろう様でも投稿しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...