なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第二部:伯爵と魔獣の森

不穏な話の共通点

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食事を終え、女将さんにお礼を言って、いったん部屋に引っ込んだ。

明日の朝は結局、ダンガたちも『星の日の市』に立ち寄ることになったから、本当のお別れを言うのはその時にだ。

一人になって、さっきケネスさんが言っていた『行方不明者の実在しない行方不明騒ぎ』のことを考えてみる。
まさか、食事の最中にこんな話題が飛び出すとは予想もしなかったけど、今更ながら、落ち着いて考え事のできる一人部屋を貰っておいて良かったな。

それにしても変な話だ。

まず、それ自体がわざとなのかどうかは分からないが、村人の目の前で森に入っていった人がいる。
そして、野良仕事が終わる夕暮れになっても、そっち方向から誰も戻ってきていない。
僻地の山村で旅人や見知らぬ人なんか通りすがるはずもない。
村に戻ってきてないのは誰だ? ってことになって調べると、みんなちゃんといる。

だったら、森に入っていったのは一体どこの誰だったんだ? っていうのが、不穏な噂の核心だな。

なんだろうな・・・俺が不穏さを感じたのは、旧街道地域の化け物騒ぎと同じように、証拠のなさというか『証拠のぶつかり合い』から生じた違和感に、似たような雰囲気があるからだ。
矛盾って言うのかな?
人に隠したいことなら、見られないようにすればいい。
わざわざ村の敷地から森に入る必要はないだろう。

かと言って騒ぎを起こしたいにしては『地味』なやり方だ。
不気味さはあっても、結果として村人に被害はないんだから大騒ぎにもならない。
被害がないから、地元の衛士隊や騎士団に訴えを起こすこともないし、せいぜい不穏な噂になるくらい、か・・・

まあ、今回はその噂が巡り巡って、治安部隊の遊撃班って言う一風変わった軍人たちにお鉢が回ってきて、その流れで俺やダンガたちがここで飯を食うことになったわけだ。

人の出会いなんて、ホントに一事が万事、こんなもんだよな。

うーん、それにしても実際の被害者はいないのか・・・

ん? 待てよ。
それって旧街道の化け物騒ぎと同じじゃないか!

ただ今回は、あれとは真逆だ。
『魔獣が出た』のではなくて『人が消えた』だからな。
共通しているのは、どちらもそれが事実だという証拠がないってこと。

いや、もう一度待てよ俺、『証拠』ってなんだ?

普通なら、魔獣が出ると騎士団や破邪が呼ばれるよな。
だけど魔獣や魔物の話でもなく、ただ不気味だけどよく分からないってだけなら、それで終わりだ。
証拠というか、実際の被害者がいないから騎士団も動かない。
でも、地元の人間たちは気味悪がって森に近づかなくなるだろう。

ひょっとすると、その噂が立ったあたりの森に人が寄りつかないようにしたかったっていう可能性があるんじゃないのか?
だから、わざと村人の目につくように行動した・・・そうやって気味悪がられて地元の噂にならないと、人避けにはならないからな。

旧街道に人が寄りつかなくなったのは、エルスカインの行っていた何らかの『実験』の結果だとしても、そこの森の場合は逆に、積極的に人を寄りつかせないためのことを仕組んでいたってことかもしれない。

そうなると、実はその奥に何かがあるんじゃないのか?
それも、勘だけどエルスカインに関わっているような何かが。

あー、でもこれどうすればいいんだろう?

ケネスさんたちにこれを話したら、何でそんなこと考えたんだって話になるよな。
せっかく消えた俺の怪しさが倍になって復活する感じじゃね?
どうしよう・・・

++++++++++

俺は士官室を出て、ダンガたちが借りている方の大部屋に行った。
軽く扉をノックして声をかける。
「ダンガ、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」
「おうっ、入ってくれ!」

部屋に入ると、板の間に三人が固まって座っていた。
明日からの予定というか、今後の方針でも話し合っていた雰囲気か。

「実は、ちょっと考えてることがあってな...それでお願いというか相談というか...もし、そんなことが可能なら? ってぐらいのゆるい話なんだけどな」

「う、うん。なんだい?」

「念を押すけど、昨日話したとおりに、俺はアンスロープ族のマナーとか礼儀とか全然知らない。だから、もし失礼なことを言っても怒らないで欲しいんだ」
「もちろんだよライノ。そんなことは全く気にしなくていいんだ」

「そうか。助かる。で...今朝、レミンちゃんは妹の毛布についていた匂いで、俺と妹が本当の兄妹じゃないって分かったって言ってたよね?」
「え、ええ...はい、すみません...」
急にレミンちゃんがシュンと俯いて、耳もヘコってなってる。
本人には悪いけど、可愛い・・・

「いやいや違う。いいんだ、あれが不愉快なんて話じゃあ全然ないんだよ。逆に、それで思いついたことなんだよ。アンスロープ族は、他の種族でも人を嗅ぎ分けられるって考えていいのかな?」

「うん、絶対とは言えないけど、いままでの経験からすると、たぶん嗅ぎ分けられてると思う。人間族でもエルフ族でも、その人に特有の匂いって言うのはあると思うから」

「そうか。それで、森の中で何日も経ったあと、人の匂いの跡を追うことって可能かな?」

「そうだなあ...条件にもよるってのが正直なところかなあ。狩人として獲物を追うときと同じだと思うけど、雨が降ったり、地表の土が風で飛ばされたりしてると難しいよ。晴れて穏やかな気候の時なら、何日も後まで追えたりする」

「おお、そうか」
「ただ、俺たちは村の狩人だから、そんなに遠くまで獲物の跡を追っていったことはないんだ」

一冬も山にこもって換金するための毛皮を集めるような『猟師』たちと違って、俺の父さんやラスティユの双子のような『村の狩人』は、普通なら狩った獲物の生肉が持って帰れないほど遠くまで行くことはない。
ダンガの言う『遠く』というのがどのくらいか分からないが、せいぜい一泊か遠くて二泊の距離だろうな。

まあ、なんにしても今回の俺の目的には十分だ。

「そうか...じゃあ、モノは試しでひとつ相談があるんだけどな、ダンガたちの旅は期限があるわけじゃないだろう? だったら数日で構わないから、俺を手伝ってくれないか?」

三人が揃って、はっとした表情で俺の顔を見てきた。

「もちろん報酬も出す。破邪の手伝いなんだから危険もあるかもしれない。さっきケネスさんが言ってた不穏な噂ってやつな? あの話って、俺も破邪としての経験で凄く気になってな、依頼はなくても自分で調べてみたいんだ」

「そうだったのか。でも、だったら報酬ってライノが出すのか?」

「実はリンスワルド領の魔力の澱み具合や魔獣の気配を調査するって依頼は受けてるんだけど、それは俺個人が対象だし、この件は該当しないかも知れない。だから調査結果に関係なく報酬は俺個人が出す」

「待ってくれ、ライノは俺たちのボスみたいなもんだ。別に金なんか貰わなくても、来いって言われたらついていくさ!」
横でアサムとレミンちゃんがぶんぶんと音がしそうな勢いで頷いている。

「それは駄目だ。報酬はきちんと払う。これは、俺の職業上の矜持だから譲れないな。友人になったからって、なあなあで済ますって言うのは絶対にやりたくない」
「そうか、友人...うん、わかった。とにかくライノの指示通りにする」
「じゃあ、交渉成立ってことでいいか?」
「もちろんだ!」

俺が食事の前に少々考え事をしていたというのは、実のところ、この三人のことだ。

昨日と今日の会話の端々からも、どうも三人の路銀が心許なさそうだと感じてはいたんだけどな。
今日の昼食で、ケネスさんが『迷惑をかけたお詫びだ』と言って全員分を払ってくれたときの、三人同時のほっとした雰囲気に気づかない俺ではないぞ?
おそらく三人の財布は、革と革がくっつきそうなほどギリギリのところまでへこんでいるんだろう。

で、さっきアスワンから受け取った金貨で人を雇うという連想をしたときに、ダンガたちにも俺にもメリットがちゃんとあって、互いに納得できるお金の渡し方があるんじゃないかと、ふと思ったんだよね。

しかも、それが『アンスロープ族にしかできない』という必然性もあることなら、文句のつけようはないだろう?
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