なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第一部:辺境伯の地

魔獣使いの噂

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「は? そりゃ、一体どういう意味...」

と言いつつ、俺はこの男が言わんとしていることが、なぜか予想できた。

「とりあえず、あとは飯でも食いながら話さないか? 言っちゃあなんだけど、この宿屋で飯を頼むより外で食べた方がいい。美味い店があるから連れてくよ」

「そうだな。じゃあ頼むとするか」

「よし、任せろ! じゃ、改めて俺はレビリスだ。レビリス・タウンド、よろしくな」
そう言って手を差し出してきた。
俺も手を出して握り返す。
「ライノでいいよ。エドヴァルの出身だ」

パルミュナも警戒は解いたようで、小声で『よろしくー』とかぼそっと言っている。
そのまま三人で少し歩いて、レビリスおすすめの飯屋兼酒場に着いた。

席に着いたら、俺とパルミュナは、まずはエールだ。
ブームだからな。
レビリスもエールを頼み、手慣れた様子でツマミも注文してくれる。

「ここの飯でおすすめなのは、肉と野菜の麦粥だな」
「麦粥?」

麦粥はいつでもどこでも普通に食べるものだけど、それを飯屋のおすすめと言われると、ちょっと面食らう。
脂の滴る炙り肉を食べようと店に入ったら、『この店では堅パンがおすすめです』と言われたような感じ?

「はっはっ、ライノが一瞬、眉をひそめたのが分かったぞ? まあ、麦粥がおすすめなんて言われたら、誰でもそうなるだろうさ。無理にとは言わないけど、騙されたと思って食べてみるのも一興だぜ?」

「そうか。まあ、そう言うんならせっかくだし頼んでみるかな」
「うんうん、もし口に合わなくても、他のモノもちゃんとおいしいから大丈夫だよ」
「分かった。じゃあ俺はレビリスおすすめの麦粥にするよ」
「あたしもそれでいい」

ほう、パルミュナが肉にこだわらないとは・・・

でも山道では、俺のつたない塩スープと堅パンやら、ただ茹でただけの山菜でも我慢してくれてたもんな。
遠慮する理由はないだろうし、本人がいいと言うなら、いいか。
エールあるしな。

すぐにエールと作り置きのツマミが運ばれてくる。
料理の注文はレビリスがまとめて頼んでくれた。
麦粥と一緒にナントカ焼きとかいう料理も頼んでたから、麦粥が口に合わなかったらそっちを食べろって感じなのかな?

エールは普通の奴だけど、このツマミがいいな。
これはカブを細切りにして酢と油につけ込んであるのか・・・うん、さっぱりしていて美味い。

「で、さっきの話の続きになるんだけどさ、俺たち破邪は人と戦うのは役目じゃない。無いとは言わないけど、それは野盗相手の立ち回りだったりでさ...まあ、兵士とか武人のように人を相手に戦う前提で鍛えてきたわけじゃないからな」

「それはもちろん、な。すると旧街道の調査に行くと、『誰か』と...『何か』じゃなくて、誰か人と戦うことになる可能性があるって思ってる訳か?」

「そういうことさ。ただまあ、こっから先の話は俺が勝手に考えてることで、フォーフェンの破邪衆寄り合い所の意見って訳じゃない。そこは汲んでくれ。きっとウェインスさんなんか、俺の話は欠片も信じないと思う」

「分かった」

「じゃあさ...ライノは『エルスカイン』っていう名前に聞き覚えはあるか?」

いきなり来た。
予感はあったけど、ここまでまっすぐど真ん中に矢が飛んでくるとは思わなかったな。
内心の動揺を抑えて何でもなさそうに答える。
「それは伝説の魔獣使いって言われてる存在だな?」
「ああ、そうさ」

「普通、使役できる魔獣は元々おとなしい種類の奴らだ。軍用の魔馬や魔犬だってそうだろう? 服従系の魔法で、人に懐かない危険な魔獣を使役するっていうのは、噂でしか聞いたことがないよ」

正確に言うと魔馬と魔犬は由来が違うらしいけど、そこは関係ないか。

「そうだよな...時々は耳にするけど、実際にエルスカインを知ってるだとか、なにかを頼んだなんて奴には会ったことない。って言うか、エルスカインってのが人名なのかどうかも知らないけどさ」

「そこはみんな同じだな。エドヴァルでも、エルスカインに会ったとか、やったことを実際に見たなんて奴は一人も知らん。酒の席での与太話みたいなもんだ」

「そりゃ、どんな凶暴な魔獣でも従わせられるって言うならさ、それこそ破邪になってくれよ?ってな感じだし」

「だよなあ。伝説の魔獣使いが破邪になったら、普通の討伐仕事は無敵だろ。服従魔法は知能のない『思念の魔物』には通じないとか、なんか制約はあるかもしれないけどな」

「うん、そう言うのはあるかもね。ただ、昨日ライノが寄り合い所に来て、あの山賊になっちまってたっていう五人の破邪の話をしたときにさ、俺はちょっとピンときたことがあって...もちろん、証拠とか確信はないんだけどさ」

「おっさんたちが魔物に取り憑かれて操られてたって話か?」
「ああ、変な話だろ? だってさ...」
「魔物に取り憑かれたのに、五人が互いに殺し合わなかったことがか?」

「それっ、それだよ! それそれ! 俺が言いたかったのはさ!」

「やっぱり変だよな? 普通に考えれば、一度に何人も魔物に取り憑かれたら、すぐにその場で殺し合いを始めそうなもんだよな?」
「そうなんだよ! おかしいんだよ!」

レビリスは、俺と同じ疑問に行き当たって、それで俺たちを追いかけてきた訳か。

「だけどさ、その五人は実際に魔物に取り憑かれてた訳だし、それでも互いに殺し合わなかったことも、山賊みたいになって山の中を半月もうろうろしてたのも本当だろ? だったら、その魔物自体からして『誰かに操られてた』っていう可能性もありうるじゃないか?」

「で、それが出来るとしたらエルスカインじゃないか? ってことか」
「まあね。俺にはあり得ない話じゃないように思えるのさ...」
「と言うと?」
「さっきライノが、服従魔法は知能のない魔物には通じないかもしれないって意味のことを言ってただろ?」
「ああ、普通は人に取り憑くような思念の魔物には、『知恵』とか『思考』とかないからな。従えようにもその中身がない」

「じゃあ逆に言うとさ、もし『知能とか精神のある思念の魔物』がいたら、そいつは服従魔法で従えることが出来るのかな?」

俺が、ぐっと返答に詰まっていると、レビリスは慌てて弁解するように言いつのった。

「いや、分かってるんだ。馬鹿なこと言ってるって思われてるのは! でも可能性としてさ、もしもそう言うのがいたら精神魔法で操れるんじゃないかって思ったわけよ。そりゃ実際、それがなにかは分かんないんだけどさあ!」

「あー、レビリス。いま俺が驚いた理由はな、俺とおんなじ考えをしてた奴がここにもいたってことに、なんだよ」

「え、じゃあ?」

「ああ、俺も可能性として、それはありうると思ってる。というか、正直に言うと、そういう何かが旧街道に隠されてるんじゃないかって思ってる。だから調査依頼を引き受けたんだよ」

「そうかあ! そうだったかあ...やっぱり話して良かったよ。実は夕べ、ライノたちに話してみるかどうか結構悩んだんだけどなあ」

「まあ、普通なら白い目で見られそうな気はするよな?」

「ああ、一応は俺もフォーフェンを根城にしてる破邪だからさ、あんまり変なことを口走って『コイツに仕事を依頼して大丈夫か?』みたいに思われるようになったら困るって気持ちもあったしな...」

「いや、破邪が麦角のせいで狂って山賊になったとか口走る方が、よっぽど変なことだろ?」

俺が誰のことを言ってるのかレビリスにも分かって吹き出した。
しばし二人で大笑いする。

「ともかく、分かって貰えてホッとしたよ...でさ、ライノも、ガルシリス辺境伯の叛乱話は聞いたって言ってたよな? その中に、辺境伯が凶暴な魔獣たちを手懐けて王都に放とうとしてたって噂があったのを知ってるかい?」

「ああ、聞いてる」

「それが直接、この話につながってるかどうかは置いといて、だ。仮に、仮にな? もしも、いまでもそういう悪い企みをしてる一味が旧街道のどこかに隠れていたりするとしたらさ、それって、場合によっちゃあ対人戦になりかねないだろ?」

「さっきのはそういう意味か...」

「ああ、ライノは肝が据わってるからいいとして、妹ちゃんは人を相手に魔法の攻撃を放てるのかな?って。相手が死ぬと分かってる魔法を打てるのかなって? 昨日そう思って心配になったんだよ」

俺は・・・
いや、俺もパルミュナも、だな。
このレビリスという男を誤解していたらしい。
『若くてハンサムで、モテモテなんだろうコイツ! 女の子のことばっかり考えてるんじゃねえよ! それがたとえパルミュナでもだ』
みたいな?

正直、すまなかった。
俺は心の中でレビリスに謝った。

「でも、それが出来なかったら自分が殺されるか、凄く酷い目にあっちゃうんだ。ライノだって、戦えない妹ちゃんを守りながらじゃ、全然力を発揮できないだろう? それが心配でさ、フォーフェンに残ればって言ってたんだ。でも、その理由は上手く伝えられないしなあ...だから心配になって追い掛けてきた」

俺は改めて、レビリスの目を見ながら礼を言った。

「ありがとうレビリス、俺とパルミュナのことを心配してくれて。それが分からずに邪険にしてすまなかった」

そう言うとレビリスは照れ隠しのようにちょっとニヤけながら言った。

「まあ、妹ちゃん、すっごく可愛いし、もしもお近づきになれたら...って下心もあったさ。さっき諦めたけどね」

俺とレビリスは、お互いの顔を見合って大笑いする。
パルミュナも横でクスクス笑ってたから、同じくレビリスの言いざまが面白かったらしい。

「それに、俺自身にも理由はあるんだ」

レビリスは俺の目を見ながら、そう続けた。
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