なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

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第一部:辺境伯の地

賑やかなフォーフェンの街

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結局、俺たちは本街道に出てから正味五日をかけてフォーフェンの街まで歩いていった。

本街道に出て二日目以降の道程はエスラダ村長の書状のおかげで野宿することもなく、ルーオンさんの家をはじめ、どこでも気持ちよく滞在できたし、ある農家の人などは、滞在費用をいらないとまで言い出して渡すのに苦労したくらい。

日頃、エスラダ村長とラスティユの村の人たちが近隣に与えている印象が判ろうってもんだな。

++++++++++

フォーフェンは、二つの大きな街道が交差する場所にできた街だ。

ルーオンさんは、元々は『フォーフェン』という名前は、この四つ辻自体を指す呼び名だったと言っていた。

そして、リンスワルド伯爵の深慮遠謀でこの地域が発展し始めると、この四つ辻を中心に人やモノが集まり始めて、四つ辻の呼び名が、いつか街を示す呼び名へと変わって行ったということだ。
こう言う経緯は、なんだかポルミサリアという名前の生い立ちと似ている感じがして面白い。

『ポルミサリア』とは、いまはもう失われた古い時代の言葉で、『緑の平野』という意味だと伝えられている。
最初は人族の多く住む中央平原地帯を称して、かつて未開の地だった北部の山岳地帯や南部大森林などと対比して示す言葉だったのが、いつの間にか『人々の住むこの世界』というニュアンスになったそうだ。
いまでは南方大陸の人々でも『全世界』という意味でポルミサリアという言葉を使う。

地域の呼び名が世界の呼び名へ。
四つ辻の呼び名が街の呼び名へ。
スケールは全然違うけどさ。

コリンを経由してからは山道にそれたけど、俺がエドヴァル方面からずっと歩いてきた南北に伸びる本街道は、そのまま北上を続ければ途中で王都『キュリス・サングリア』を経て、北部地方まで繋がっているはずだ。

そして、東西に伸びる方の大街道は、東側ではエルフ系王家が治める『アルファニア王国』を越えてはるか東部の国々を繋ぎ、西側では『ルースランド共和国』のど真ん中を貫いて海まで伸びている。
俺が知る限りでは東側に明確な終点はないけど、西の終点はルースランド最大の港町である『デクシー』だ。
南方大陸からの輸入品も、最近は南の国の港だけでなく、陸路の運搬が楽なデクシーに陸揚げされるものが増えたと聞いている。

平たくいえば現在のフォーフェンは麦の産地であり、交易経路の要所であり、目下のところ発展著しい地域だ。
つくづく、橋を架けても通行料を取らなかったリンスワルド伯爵の深慮遠謀に恐れ入るよ。
きっと領地全体の経済的な発展と税収の増加とで、橋を架けた費用なんてあっという間に回収済みだろうね。

俺はフォーフェンに行くのは初めてだけど、大きな街には市壁のあるところも多く、そういうところでは大抵、街に入るのにチェックがある。
交易の盛んな自由都市なら、街の中で仕事をしたり商売をするつもりの人からは入市税を取るのも普通だ。

しかし、自然発生的に生まれた街であるフォーフェンには市壁がなかった。
そのまま街道を歩いていると、周囲は徐々に麦畑よりも建物が増えてきて、気がつくと街中を歩いている状態だ。

街道がそのまま街を突っ切っているのか・・・

いや逆か。
ここの場合は元々、いつ頃からか街道の四つ辻の周辺に市が立つようになって、それがそのまま根付いて街になっていったって話だったよな。
そこらへん、そもそも何も規制とかをしなかったのは、これまた領主の先見の明なのかもしれない。

あー、でも街道周辺の道幅はちゃんとキープされてて広いな。
全くの放任ってわけでもなさそうなところが逆に凄い。

「かなりでかい街だってことしか聞いてなかったけど、新しい街だから市壁がないんだな」
「そう言えば、あの双子さんもルーオンさんも、街に入る手間とか税のこととか何も言ってなかったもんねー」

「四つ辻の周りに人が集まって、そのまま住む人が増えて行ったって話だから、市壁なんか作ってる状況がなかったのかもしれんが」
「そーねー。人が増えてるってことは、街も広がってるでしょうし、必要かどうかもわからない市壁なんか作ってられないよねー」

俺の住んでたエドヴァル王国は古い国だから街も古く、領主や代官が住んでいるような、ちょっとした大きさの街なら市壁を持っていた。
と言うか、たいてい古くて大きな街というのは、領主の居城だとか修道院だとか、まず何か核になる建物があって、それを取り巻くように育っていくのが普通だ。

市街への出入りは自由な街でも、街の中心部にある市壁の内側に領主や貴族、上級市民が住んでいる区画があるような場合なら、何らかの身分証明や書状が必要だったりする。
身分証を持たない場合は、門番の詰所に武器を置いていかなきゃいけない、なんてところだってあるな。

もちろん、大昔の戦争時代に作られた市壁がそのまま残っているだけで、とっくの昔に壁として機能してない、なんて場所もあるのだが、そういうところは少しづつ石垣の石を住民に持ち去られて崩壊が進んだりしている。

「あ、見てみて、あの看板!」

パルミュナが屋台と屋台の間にぶら下がっている看板を指差した。
そこには、明日、この街の外で武闘大会を開催するという看板がぶら下がっている。
こういう、いかにも賑やかさというか景気の良さを感じさせる催しも、街へ人を引き寄せる一因になっているのかもしれない。

「へー、武闘大会なんてやるんだな」
「ねー優勝賞金、大銀貨十枚だって! これに出てさー、賞金でエールの飲み比べにいこーよ!」
「エールどんだけ飲む気だ! っていうか何十日かけて飲む気だ!」
「ほら、エールによって魔力の変換具合がどう違うか、今後のためにチェックしておかないとー」
「そもそも勇者の力で戦うのはずるいだろ?」
「勇者の力は封印して、元々の力で戦えばいーんだよ。ハーフエルフの破邪なんだからそれでも十分に強いしさー」

「ほう、そんなことできるのか?」

「うん、ふつーライノの場合は右手に刀を持つじゃん?」
「そうだな」
「で、左手に生卵を握って戦う感じー?」
「は?」
「戦ってる最中に卵を握り潰さないようにしながら、力加減っていうかー、ムキにならないようにするっていうかー...そんな感じで」

「難しいこと言うなあ! 無理無理、ダメだダメだ」
「ちぇー」
「まあ、俺の持ち金の範囲でならエールぐらい奢ってやるよ」
「ホントー! なんか悪いねー」
「次の補給でもらう予定の金貨の前借りみたいなもんだ。結局はアスワンとパルミュナが出してくれる金で充当するんだから気にすんな」
「確かにそーか。じゃあアスワンからの手付けってことでー」
「行動に支障をきたさない範囲でな!」

大精霊にとって意味のない釘を刺しつつ、街の中を進んでいく。
街に入ったと認識してからもかなり歩いて、ようやく東西に伸びる街道と交差する場所に突き当たった。

ここまで通ってきた南北の本街道よりも、明らかに人や馬車の行き交う量が多い。フォーフェンとしてのメインストリートは、こちらの道になるのだろう。

「どうしてこっちの街道の方が賑わってるのかなー?」

「多分、エドヴァルとか南方大森林地方よりも、いまはアルファニアやルースランドとの交易の方が盛んだってことだろうな」

「なんでだろーね?」

「さあなあ...ただ自分の生まれ故郷を悪くいうのもなんだけど、エドヴァルってあからさまに人間中心な感じだし、種族間の公平を謳って、明確に差別を禁止してるミルシュラント公国とはソリが合わないってのはあるのかも?」

「そっかー。だったらルースランドやエルフ国家のアルファニアの方が、いっそ付き合いやすいかもねー」

「そんなもんだろうな、きっと。昔はミルシュラントとルースランドは犬猿の仲って言われてたらしいけど、それも古い話になってるらしいしな。南方大陸との交易も増えてる一方だそうだし、いまはどこの国も商売第一だろうよ」

「なんでミルシュラントとルースランドは仲が悪かったのー?」

「うーん、俺にとってはどっちも外国の話だから詳しくは知らないけど、ルースランドってちょっと変わった国でさ、王様はいるんだけど、王国を名乗ってないんだよ」

「どーゆー意味?」

「共和制って言ってな、市民の代表から選んだ議員たちが、国の政治を会議で決めるってのが建前なんだ。正式には国の名前もルースランド共和国って言ってる」

「面白い仕組みだねー」

「建前はな。それがうまくいってるなら凄いことなんだろうけど、実際は王家が実権を握っていて、結局はなんでも王様の言う通り、って話だ。だから中身は王国と同じようなものなんだけど、共和制を標榜して他の国々から移民を集めてたんだとさ」

「ん? それで自分のところの国民を引き抜かれたから気分が悪いとか、そーゆーこと?」

「いやあ、そんな単純な話じゃあないとは思うけど、ルーオンさんが言ってた辺境伯の事件みたいに、近隣の国の事件を裏で糸を引いてたり、密偵や暗殺者を送り込んで影から操ってたりっていう悪い噂が沢山あって、印象が良くなかったらしいんだよ」

「へー」

「まあ、それも昔の話で、いまはどこの国もそんなことに心血を注ぐよりも、貿易したり産業を育てる方が大切って時代だからな。結果として、ルースランド共和国とミルシュラント公国も、いまではガンガン取引しているってわけだ」

「えー、そんな悪い噂のある相手でも商売の相手になるんだ。なんだか、人って面白いねー」

ごもっとも。
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