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第28話 一本角のモーリス

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「おや、貴方は……」
 
 唐突に響いた中性的な声に振り向く。
 視線の先に、すらりと細い男性が立っていた。

 クラリスが軽く頭を下げる。
 その姿を見るに、べらぼうに地位の高い者ではなさそうだと考えた。
 
 歳はソフィアよりもひとまわり上くらいだろうか。
 どこか少年ぽさを残した整った顔立ちに、ソフィアよりも頭ひとつ分は高い背丈。

 青みがかかった濃い色の髪は長めで前髪を両サイドに分けている。
 目元には知性を感じさせる眼鏡がかけられており、執事服のような黒いスーツを着用していた。
 
 そして何よりも目を引くのが……。

「ツノ……しっぽ……」
「はい?」

 相手が誰なのか、よりも先に人族にはついていないオブジェクトが気になった。
 
 額の上らへんから伸びている鋭い一本ツノ。
 腰からは筆先のようふさふさな尻尾が伸びている。

「ユニコーン?」

 一本ツノに尻尾。
 この二つが満たす生き物は、ソフィアの中ではそれしか思い浮かばない。

「そうですね、モーリス様はユニコーン族でございます」
「やっぱり……!!」

 ということは。
 擬人化モードを解いたら、それはそれはもう立派なもふもふに変身するに違いない。
 ソフィアのボルテージがグイーンと上がった。

「あの、自己紹介をさせていただいても?」
「あ、はい! お願いします」

 ソフィアが言うと、モーリスは眉を顰めながらも言葉を並べる。

「初めまして、アラン様の秘書を務めさせていただいております、モーリスと申します。以後、お見知りおきを」
「秘書……」

 言われて、色々と納得がいく。

 アランは一国の軍務を統括する多忙の身だ。
 むしろ雑務をこなしてくれる者がいない方が不思議だろう。

「失礼ながら、貴女はアラン様の奥様となられたソフィア様とお見受けいたします。合っておりますでしょうか?」
「はい。昨日よりお邪魔させていただいておりますソフィア、と申します。これからどうぞよろ……」
「ソフィア様、敬語」
「……よろしく頼むわ」

(うう~慣れない……)
 
 意識しないとすぐに敬語に戻ってしまう。

「……なるほど。噂通りのお方ですね」

 どこか愉快そうにモーリスが言う

(一体、どんな噂だろう……)

 気になっていると、クラリスが口を開いた。

「モーリス様、ソフィア様のご昼食の準備がありますので、そろそろ」
「なるほど、失礼いたしました。教えてくれてありがとう、クラリス」

 モーリスが微笑みを浮かべて言うと。

「お気になさらず、仕事ですので」
 
 心なしか、クラリスの声色の温度が低くなったような感じがした。

「ではソフィア様、私はこれで。引き止めてしまい申し訳ございません」
「構わないわ。ちょうど時間が空いたところだったの。お仕事、がんばってね」

 ソフィアが言うと、モーリスは一瞬驚いたように目を丸めたが、すぐに表情を戻して。

「身に余るお言葉でございます」

 恭しく一礼して、その場を去っていった。

(なんだか……掴みどころのない人だなあ……)

 そんな印象を、ソフィアはモーリスに対して抱いた。
 隙がない、とも言うべきか。

 軍務大臣の秘書ということで仕事はバリバリに出来るのだろうけど……それ以外の印象は、こちらもとんでもない美青年ということと、ツノと尻尾しか残っていない。

 なんとなくだけど……彼とはこれからも、どこかで関わり合うような気がした。

 そんなことを考えるソフィアにクラリスが言う。

「そろそろお昼の時間です。参りましょう、ソフィア様」
「わかったわ」

 先導するクラリスの後ろを、ソフィアはひよこのように付いていった。
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