24 / 65
第24話 夢じゃない、朝のもふもふ
しおりを挟む
「……夢じゃない」
精霊王国エルメルの、アランの家に嫁いだ翌朝。
新しい自室のベッドの上で、ソフィアは寝ぼけ眼を擦りながら言葉をこぼした。
昨日まで、ソフィアの目覚めを出迎えるのは埃臭くて薄暗い部屋だった。
今ソフィアがいる部屋は広くて綺麗で、そして明るい。
天国と地獄のような落差に、現実感がない、が。
大きな窓から差し込むぽかぽかとした朝陽。
耳心地の良い小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。
それらは確かにソフィアの五感が捉えていた。
夢じゃない。
ただそれだけの事実に、ソフィアは深い安心を覚えた。
上半身を起こそうとすると、自分が枕にしていた物体がもふもふでふわふわなフェンリルな事に気づく。
実家の時のような小型犬サイズではなく、全身で堪能できる素敵サイズモードだ。
「ふふ……」
あどけなくて可愛らしい寝顔に、思わず笑みが溢れる。
きゅぴーきゅぴーと寝息を立てるハナコをひと撫で……で我慢できるはずもなく。
「ふふふっ」
起きるのは中断して、まずはもふもふを堪能する事にした。
もふんっと、ハナコの大きな身体にダイブする。
柔らかい、ふかふか、温かい。
「幸せ……」
その言葉に、ソフィアの感情が全て集約されていた。
「このまま二度寝……しちゃおうかしら」
二度寝。
それは、ソフィアが夢にまで見た甘美な所業。
実家にいた頃は朝早くから飛び起きて朝食の準備や掃除など何かしら働かされていた。
今、自分に与えられた仕事は何もない。
いっつあふりーだむ。
つまり、自由。
夕食まで時間はたっぷりあるのだから、もう一度心ゆくまで寝るのは誰にも責められない選択と言えよう。
……。
むくりと、ソフィアは上半身を起こす。
そしてきょろきょろと周りを見回し、誰もいないことを確認してから再びハナコにベッドイン。
「それじゃ……お言葉に甘えて」
誰に言われたわけでもないのにそう言って、いざ夢の世界へ再び……。
こんこん。
「ソフィア様、起きられてますか?」
「は、はい! どうぞ入ってくだ……じゃなくて、入っていいわよ」
「失礼します」
がちゃりと、クラリスがカートをついて入室してきた。
猫耳ぴくぴく、尻尾ふりふり。
今日もクラリスはもふ可愛い。
そんなクラリスは、ハナコに寄りかかるソフィアの姿を見て頭を下げた。
「申し訳ございません、起こしてしまいましたか」
「ううん、大丈夫! さっき目覚めたばかりで、そろそろ起きようと思っていたから」
二度寝を決め込もうとしていた事は咄嗟に伏せた。
なんだか反射的に、後ろめたい気持ちが胸に湧いたから。
「なるほど、そうでしたか。では、朝食の準備をさせていただきますね」
「ちょう、しょく……?」
生まれて初めて聞いた言葉みたいに言うソフィア。
クラリスが怪訝そうに眉を顰める。
「何故、きょとんとしているのですか?」
「三食もご飯を食べていいのですか……?」
「え……?」
ソフィアの反応に、流石のクラリスも面食らうのであった。
精霊王国エルメルの、アランの家に嫁いだ翌朝。
新しい自室のベッドの上で、ソフィアは寝ぼけ眼を擦りながら言葉をこぼした。
昨日まで、ソフィアの目覚めを出迎えるのは埃臭くて薄暗い部屋だった。
今ソフィアがいる部屋は広くて綺麗で、そして明るい。
天国と地獄のような落差に、現実感がない、が。
大きな窓から差し込むぽかぽかとした朝陽。
耳心地の良い小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。
それらは確かにソフィアの五感が捉えていた。
夢じゃない。
ただそれだけの事実に、ソフィアは深い安心を覚えた。
上半身を起こそうとすると、自分が枕にしていた物体がもふもふでふわふわなフェンリルな事に気づく。
実家の時のような小型犬サイズではなく、全身で堪能できる素敵サイズモードだ。
「ふふ……」
あどけなくて可愛らしい寝顔に、思わず笑みが溢れる。
きゅぴーきゅぴーと寝息を立てるハナコをひと撫で……で我慢できるはずもなく。
「ふふふっ」
起きるのは中断して、まずはもふもふを堪能する事にした。
もふんっと、ハナコの大きな身体にダイブする。
柔らかい、ふかふか、温かい。
「幸せ……」
その言葉に、ソフィアの感情が全て集約されていた。
「このまま二度寝……しちゃおうかしら」
二度寝。
それは、ソフィアが夢にまで見た甘美な所業。
実家にいた頃は朝早くから飛び起きて朝食の準備や掃除など何かしら働かされていた。
今、自分に与えられた仕事は何もない。
いっつあふりーだむ。
つまり、自由。
夕食まで時間はたっぷりあるのだから、もう一度心ゆくまで寝るのは誰にも責められない選択と言えよう。
……。
むくりと、ソフィアは上半身を起こす。
そしてきょろきょろと周りを見回し、誰もいないことを確認してから再びハナコにベッドイン。
「それじゃ……お言葉に甘えて」
誰に言われたわけでもないのにそう言って、いざ夢の世界へ再び……。
こんこん。
「ソフィア様、起きられてますか?」
「は、はい! どうぞ入ってくだ……じゃなくて、入っていいわよ」
「失礼します」
がちゃりと、クラリスがカートをついて入室してきた。
猫耳ぴくぴく、尻尾ふりふり。
今日もクラリスはもふ可愛い。
そんなクラリスは、ハナコに寄りかかるソフィアの姿を見て頭を下げた。
「申し訳ございません、起こしてしまいましたか」
「ううん、大丈夫! さっき目覚めたばかりで、そろそろ起きようと思っていたから」
二度寝を決め込もうとしていた事は咄嗟に伏せた。
なんだか反射的に、後ろめたい気持ちが胸に湧いたから。
「なるほど、そうでしたか。では、朝食の準備をさせていただきますね」
「ちょう、しょく……?」
生まれて初めて聞いた言葉みたいに言うソフィア。
クラリスが怪訝そうに眉を顰める。
「何故、きょとんとしているのですか?」
「三食もご飯を食べていいのですか……?」
「え……?」
ソフィアの反応に、流石のクラリスも面食らうのであった。
11
お気に入りに追加
2,962
あなたにおすすめの小説
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる