9 / 65
第9話 自由
しおりを挟む
『空を飛びたい』
それは、人であれば誰しも一度は抱いた夢だろう。
ソフィアも漏れなくそんな夢を抱いていたが、まさか生きている間に叶うとは思ってもいなかった。
「わあああああああああっ……!!」
雲に届きそうなほどの高さを飛行する、婚約者アランにして巨大な白竜の背の上。
人生初めてとなる空からの景色に、ソフィアは興奮しっぱなしだった。
青い空、煌めく太陽、流れ行く白い雲。
全身を包み込む風は涼しく心地良い。
まともに歩いたら走破に何週間もかかるであろう山脈が、眼下で物凄いスピードで流れていく。
その爽快感たるや、言葉に言い表せないほどだった。
ちなみに。
今、アランの背中に乗っているソフィアとシエル、そしてハナコは精霊魔法で風の加護とやらを施されている。
この精霊魔法をかけずにアランに乗って飛行したら、たちまち強風で吹き飛ばされてしまうとのことだ。
精霊魔法は知識でしか存在を知らなかったが、フェルミの魔法でいうところの身体強化に近いものなのだろうとソフィアは考える。
「空の旅はどう、ソフィアちゃん?」
後ろで優雅に紅茶を嗜むシエルが尋ねてくる。
「す、凄いです……!! 私、空を飛んでいます!」
「ふふ、気に入ってくれたようで何よりだわ」
庭先ではしゃぐ子供を微笑ましく眺めるような笑顔をシエルは浮かべた。
『きゅいきゅい!!』
ハナコも空を飛ぶのは初めてなのか、出発してからソフィアの肩から降りてアランの背中をせわしなく走り回っていた。
落ちないのかと心配になるが、風の加護を受けているから大丈夫とのこと。
「私、知らなかったです! 世界がこんなにも広いだなんて……!!」
無能の烙印を押されてから外聞を気にした両親は、ソフィアが人前に出る事を原則として禁じていた。
なので今までずっと、屋敷の狭い部屋の中に押し込まれて育ってきた。
毎日同じ光景、代わり映えのない日常、無機質な世界。
今、目の前に広がる光景は、そんな窮屈な世界から飛び出した象徴のように思えて、ソフィアの胸の中を例えようのない解放感で満たした。
清々しかった。
気持ちよかった。
そして何よりも、楽しかった。
こんなにも楽しいと思えたのはいつぶりだろうか。
例え、この先に待ち受ける運命が辛いものだとしても。
こんなにも素晴らしい光景を見せてくれたアランには感謝したいと思った。
「ありがとうございます、アラン様」
『何に対する礼だ?』
アランの声が頭に直接響くように聞こえてきてびっくりするソフィア。
「わわっ、聞こえてらっしゃったんですね」
『白竜だからな、当然だ』
ものすごい聴力をしてらっしゃる。
『それで、何に対する礼だ?』
「私に自由を見せてくれた事に対してですよ」
『ふむ……? よくわからんが、どういたしまして?』
そんな二人のやりとりを、シエルはうんうんと頷きながら眺めていた。
──どれくらい時間が経っただろうか。
山脈を、街を、川を、山を、海を、街を。
いくつもの土地を超え、最後に長い長い山脈を超えた先に現れた広い平野部。
「見えて来たわ」
一面に広がる白い建物、木々の緑、奥の海に繋がる幾本もの川。
そして何よりも目を引くのは、視界に収まりきらないほど大きな大きな大樹。
世界樹、という単語がソフィアの頭に浮かぶ。
今まで見てきたどんな木よりも大きくて逞しくて、美しい大樹だと思った。
「エルメルの首都、セフィロトよ」
「ここが……」
これから、自分が生きていく場所。
自然と調和したどこまでも広がる街を見て、綺麗だな、とソフィアは思った。
(まだまだ不安はたくさんあるけど……きっと、大丈夫……)
根拠なんてない。
でもそんな確信が、ソフィアにはあった。
──これは、無能と呼ばれ虐げられてきた令嬢が、精霊王国に嫁いでからその真価を見出される物語。
その始まりである。
それは、人であれば誰しも一度は抱いた夢だろう。
ソフィアも漏れなくそんな夢を抱いていたが、まさか生きている間に叶うとは思ってもいなかった。
「わあああああああああっ……!!」
雲に届きそうなほどの高さを飛行する、婚約者アランにして巨大な白竜の背の上。
人生初めてとなる空からの景色に、ソフィアは興奮しっぱなしだった。
青い空、煌めく太陽、流れ行く白い雲。
全身を包み込む風は涼しく心地良い。
まともに歩いたら走破に何週間もかかるであろう山脈が、眼下で物凄いスピードで流れていく。
その爽快感たるや、言葉に言い表せないほどだった。
ちなみに。
今、アランの背中に乗っているソフィアとシエル、そしてハナコは精霊魔法で風の加護とやらを施されている。
この精霊魔法をかけずにアランに乗って飛行したら、たちまち強風で吹き飛ばされてしまうとのことだ。
精霊魔法は知識でしか存在を知らなかったが、フェルミの魔法でいうところの身体強化に近いものなのだろうとソフィアは考える。
「空の旅はどう、ソフィアちゃん?」
後ろで優雅に紅茶を嗜むシエルが尋ねてくる。
「す、凄いです……!! 私、空を飛んでいます!」
「ふふ、気に入ってくれたようで何よりだわ」
庭先ではしゃぐ子供を微笑ましく眺めるような笑顔をシエルは浮かべた。
『きゅいきゅい!!』
ハナコも空を飛ぶのは初めてなのか、出発してからソフィアの肩から降りてアランの背中をせわしなく走り回っていた。
落ちないのかと心配になるが、風の加護を受けているから大丈夫とのこと。
「私、知らなかったです! 世界がこんなにも広いだなんて……!!」
無能の烙印を押されてから外聞を気にした両親は、ソフィアが人前に出る事を原則として禁じていた。
なので今までずっと、屋敷の狭い部屋の中に押し込まれて育ってきた。
毎日同じ光景、代わり映えのない日常、無機質な世界。
今、目の前に広がる光景は、そんな窮屈な世界から飛び出した象徴のように思えて、ソフィアの胸の中を例えようのない解放感で満たした。
清々しかった。
気持ちよかった。
そして何よりも、楽しかった。
こんなにも楽しいと思えたのはいつぶりだろうか。
例え、この先に待ち受ける運命が辛いものだとしても。
こんなにも素晴らしい光景を見せてくれたアランには感謝したいと思った。
「ありがとうございます、アラン様」
『何に対する礼だ?』
アランの声が頭に直接響くように聞こえてきてびっくりするソフィア。
「わわっ、聞こえてらっしゃったんですね」
『白竜だからな、当然だ』
ものすごい聴力をしてらっしゃる。
『それで、何に対する礼だ?』
「私に自由を見せてくれた事に対してですよ」
『ふむ……? よくわからんが、どういたしまして?』
そんな二人のやりとりを、シエルはうんうんと頷きながら眺めていた。
──どれくらい時間が経っただろうか。
山脈を、街を、川を、山を、海を、街を。
いくつもの土地を超え、最後に長い長い山脈を超えた先に現れた広い平野部。
「見えて来たわ」
一面に広がる白い建物、木々の緑、奥の海に繋がる幾本もの川。
そして何よりも目を引くのは、視界に収まりきらないほど大きな大きな大樹。
世界樹、という単語がソフィアの頭に浮かぶ。
今まで見てきたどんな木よりも大きくて逞しくて、美しい大樹だと思った。
「エルメルの首都、セフィロトよ」
「ここが……」
これから、自分が生きていく場所。
自然と調和したどこまでも広がる街を見て、綺麗だな、とソフィアは思った。
(まだまだ不安はたくさんあるけど……きっと、大丈夫……)
根拠なんてない。
でもそんな確信が、ソフィアにはあった。
──これは、無能と呼ばれ虐げられてきた令嬢が、精霊王国に嫁いでからその真価を見出される物語。
その始まりである。
14
お気に入りに追加
2,962
あなたにおすすめの小説
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる