華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語

伽羅かおる

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《Kaffeepause ☆カフェブレイク☆Cafépause》

【番外編】《兄弟・親族で殺し合ったヨーク家とは》その1

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※こちらは愛らしい2人の少年エドワード5世とその弟のリチャードの「塔の中の王子達」の有名な絵

 前回『血まみれ一族・チューダー家』というタイトルで書き、いかにもチューダー家が異常なほど残虐だと言わんばかりに述べましたが、実は私が一番最初に薔薇戦争において興味を持った逸話というのは、ヨーク家内の兄弟間のそれこそ残酷な抗争ぶりでした。

 セシリー・ネヴィルとヨーク公リチャードは子沢山で13人の子供が生まれ、その内4人の男子が成人しました。

 それが、エドワード4世、エドムンド、ジョージ、リチャード3世でしたが、天寿を全うしたのはエドワードくらいで、御存知の通りエドムンドは父リチャードと共に戦死、ジョージは兄エドワード4世に嫌疑をかけられ処刑され(しかも酒樽で溺死という惨たらしい死に方)、リチャード3世はヘンリー7世(あるいは彼の兵士)によって戦場にて殺害されました。無事最後まで国王として亡くなったエドワード4世にしても、彼の息子2人は、自身の弟であるリチャード3世によって暗殺されるという、なんとも悲惨な兄弟間の争いがあったように私は捉えていたのです。

「なんと異常な一族なのだろう」と思い、なので2人もの息子が夫の意志をついで国王になったものの、その一人の息子・エドワード4世によって自分の他の息子(ジョージ)、そして最後はもう一人の息子リチャード3世によって可愛い孫達(エドワード5世とその弟のリチャード)を殺害されたと知った時のセシリー・ネヴィルはどんな気持ちだったことだろうと考えていました。

 最愛の夫ヨーク公リチャード、次男エドムンド、そして三男ジョージ、孫のエドワード5世とその弟のリチャード、最後は四男のリチャード3世までも政敵やあるいは一族に殺害され、天寿を全うできず無念の内の亡くなった息子達ばかりで、そう考えると当時のセシリー・ネヴィルの胸の内は長い間、深い悲しみに沈んでいたことだろうと思っていたのです。

 しかも、可愛い2人の兄弟エドワード5世とその弟のリチャードを暗殺させたのが、叔父のリチャード3世だなんて、母として祖母として、これ程辛い事が起こり得るものなのでしょうか。

 
 別名「塔の中の王子達」とも言われる、長きに亘って信じられきた定説はこういうものです。

「兼ねてより兄の王位を狙っていたエドワード4世の末弟リチャードは、兄王の遺児である正当な跡継ぎエドワード5世とその弟のリチャードを邪魔に思いロンドン塔に監禁、その後腹心ジェイムズ・ティレルに指示して殺害させた。そして自分が王位を継承することに成功する」ということで、こう説明されると、いかにも「さもあらん」と誰もが納得する話となっているように思います。

 それにこの話はシェークスピアによって極悪人に描かれている「リチャード3世」のせいか、おぼろげながらたくさんの人が知っていた歴史的な本当の事件なのだろうと、私も最初はそのまま疑いもしなかったのですが、ある時私の22年来のスコットランド人の友人が
「リチャード3世が甥達2人を殺したなんて、あれはでっち上げだわ」と、説明しはじめたのです。

「シェークスピアは誰の治世に活躍していたの? チューダー朝エリザベス時代でしょ。それを忘れてはいけないのよ」と彼女は言いました。

 そう……確かに、シェークスピアは「ヘンリー6世」の中でもリチャード3世のことは野心家の非人情な人間として描き、一方でエリザベス女王の祖父に当たるヘンリー7世の少年時代のことをこのように書いています。

「顔つきには穏やかな威厳が備わり、頭は生まれながらに王冠を抱くために、手は王笏を握るために、そして体はやがて座る玉座を祝福するために作られている」
(ちくま文庫「ヘンリー6世」 松岡和子訳)

……そしてこれを読んだときに私は感じたのです、私の友人の話も一理あるに違いないと。

 シェークスピアの「ヘンリー6世」や「リチャード3世」の中の話全般に流れているのは、この異様なほどにヘンリー7世を大絶賛する技法なのです。

 それはそうでしょう、彼の時代はチューダー朝エリザベス女王の時代であり、その始祖を奉るのは当然です。
しかしそれでも私にはこの一文でも充分に大げさなお世辞の言い方だなぁ、と感じてしまいました。
「ヘンリー7世への賛美の心」は理解できますが、それでもこの書き方をみる限り「異様なほど」の心頭ぶりでは無いか……とは思いませんか?
 
……というのは、「ヘンリー6世」や「リチャード3世」両方を読んでも、ここまで褒めちぎられる人物というのはヘンリー7世以外には出てこないため、この部分だけが妙に浮いて見えるからなのですが……。
 
 それで私も少し本腰を入れて、私なりに少々考察してみることにしたのでした。

 次回に続きます。



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