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【第2章】赤い薔薇と白い薔薇
その50✤1460年12月30日 ウェイクフィールドの戦い
しおりを挟む※1460年12月30日ウェイクフィールドの戦いの舞台となったヨーク公リチャードのサンダル城。
この戦いはそもそも、その年のノーサンプトンの戦いの後、ロンドンにてヨーク派側の捕虜になってしまったヘンリー6世を、王妃マーガレットが奪回しようとランカスターに忠誠を誓う有力貴族達に呼びかけ、彼女に賛同した反ヨーク派の勢力が集結したことにより始まった。
彼女にとって夫であり、最愛の息子の父であるヘンリー6世をランカスター側に取り戻し、本来であればプリンス・オブ・ウェールズ(皇太子の意味)である息子エドワードを、なんとしても再び正式な皇太子という地位に戻さなければならないとマーガレットは強く思っていた。
しかも1月や2月は通常寒波で気温はもっと下がり、そう考えると彼女にとっては年が明けて春が来る4月くらいまで待てるというような事柄ではなかった。
「神のご加護で聖なるクリスマス前に、必ず我らに正義が下るはず」とも信じていた。当時「王」というのは「神に選ばれた者」と誰もが信じていたからだ。
マーガレットは思う。
「遠いフランスからわざわざこのイングランドまで嫁ぐと決まった際、フランス国王シャルル7世陛下は私になんと言われたか。
『そなたはイングランドの時期王妃、そしてそなたから産まれる者達は、未来永劫イングランドの国を統治する王になるのだ』
国王陛下はそのように私に言い、私の伯母であるマリー王妃もそれを嬉しそうに聞いていたというのに。それなのに夫のヘンリー6世は、エドワードの生まれた時からの特権である王位継承権を手放して、ヨーク公とその一族を王位継承者に指名したという。
このような不正が行われているということを、シャルル国王陛下になんと申し上げれば良いのというのだろうか。
何故ならこの決定は断じて夫ヘンリー6世の意志ではないに決まっているのだから!」
マーガレットはヨーク公リチャードが憎くて堪らなかった。
だいたい、フランス王家とイングランド王家両方の血を引く誰よりも高貴なエドワードが皇太子ではなくなるという決定に、どうやって承諾しろと言うのか、どう考えてもおかしいだろう。
それに、そもそもイングランドは元々フランスの属国という立場で、その上先の百年戦争にも大敗したというのに、フランス国王の親族であるこの私と、最愛の息子エドワードがこのような仕打ちを受けるのだなんて、神が許すはずがないではないか。
「神が必ずや正義の鉄槌(てっつい)を下してくださる。
そして当然、多くの貴族が我が陣営に駆け参じることでしょう」
マーガレットは“フランス女”とイングランド宮廷から嫌われていたが、それでも彼女のこの時の目算はあながち外れてはいなかった。
1455年5月の薔薇戦争最初の激しい戦いであった第1次セント・オールバンズの戦いにおいて、サマセット公エドムンド初め、ノーサンバランド伯ヘンリー・パーシーやクリフォード卿が殺害された。
またつい最近の1460年10月のヨーク家が大勝したノーサンプトンの戦いではバッキンガム公、シュルーズベリー伯ジョン・タルボット、イグレモント卿、ボーモン卿なども戦死。
これら多くのランカスター派の有力貴族達の親族や師弟達ももちろん、マーガレット妃同様ヨーク公を深く恨んでいたのだ。彼らは親族を殺されたばかりではなく、所領も取り上げられ、称号も役職も剥奪されていたのだから、マーガレット妃側に付くことは当然だった。
その上、スコットランドがマーガレットを支援したことも大きかった、
結局、マーガレットは15,000人の兵士を集め、ヨーク側は約4分の1程度の4,000人しか集めることができなかったのだ。
まともに戦えば結果は明らかだった。
それで最初はそのままサンダル城に籠城して、嫡男エドワードとセシリーの甥に当たるウォリック伯の救援を待つことにしたのが、12月20日。
ところが救援が着く前の12月30日に、何故かヨーク公リチャードは城を出て、敵軍と戦うという司令を出す。
一体、彼は何故援軍を待たずに先走った決定を下したのか。
一つには食料備蓄が底をついたたため。
あるいは、10月の大勝で驕慢になり、適切な判断をできなくなっていたため。
もう一つの可能性は誤った情報を信用し、敵の数を過小評価したせいとも言われている。
また大きな可能性としては、親族で腹心でもあったジョン・ネヴィルの裏切りがあったという説もある。
このサンダル城への集結を提案した、妻セシリーの甥に当たるジョン・ネヴィルという男を覚えておられるだろうか。
どうもこのジョン・ネヴィルが、続々と後からヨーク公リチャードの陣営に集まってきた8,000人の兵士達を、そのまま引き連れてランカスター派に寝返ったのだと言われてもいる。
これらのうち、一体何が真実なのかは実は未だに解明されてはいないのだが、理由は一つではなく、このいくつかの要因が重なったのだろうとしか考えられない程に、軍を引く将師としてはあり得ない、ヨーク公リチャードの痛恨の判断ミスであった。
そしてこの悔恨の判断ミスは、ヨーク公リチャード陣営にとっては、取り返しのつかない、致命的な悲劇となったのであった。
Copyright © 2022-kaorukyara
※今回、562年後のこの12月30日という日に、ウェイクフィールドの戦いをアップすることができたのは本当に偶然でした。この偶然に感謝します。
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