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【第2章】赤い薔薇と白い薔薇
その49✤ウェイクフィールド戦いの前夜
しおりを挟む※写真は筆記体でラトランド伯と刻印されている、中世の銀の指環。
結局、聖なる12月24日を親族で迎えることはできず、エドワードは一足先に、その後エドムンドも父ヨーク公リチャードと旅立った。24日から26日はヨーロッパ諸国ではクリスマス期間であり、通常は一族で過ごす大切な日なのだが、この時はそうも言っていられなかった。というのもヘンリー6世の王妃マーガレットがスコットランドと手を組み、兵を集めて奇襲攻撃をかけてくるという情報が、もたらされたからだ。
この城にいたら、一族郎党を巻き込むことになる。一刻も早く、カレーに帰国しているセシリーの兄のソールズベリー伯とその息子ウォリック伯とも合流しなければならない。父ヨーク公リチャードはエドワードとエドムンドを先にカレーへ行かせようとしたが、エドワードは父の言葉を無視してエドムンドを置いて先に出発してしまった。
あのベアトリスの部屋で起きた出来事以来、エドワードとエドムンドは一度も言葉を交わすこともなく、エドワードは明らかにエドムンドを避けていた。
エドムンドも兄と行動を共にするよりも、父といる方が気持ちが楽なのはお互いに同じだった。しかしこの時、この2人の関係が良好だったならば、薔薇戦争の結果はもう少し違ったものになっていたかもしれない。
ただこの時はまだ、ヨーク公側はマーガレット側の軍隊の数を過小評価していた。
ヨーク公リチャードは城を発つ時
「今年は聖なる日を一族で共に祝うことができなかったが、その代わり新年が開けたら我らの天下を共に祝おうぞ」と最愛の妻セシリーと見送りに出た子供達に意気揚々と宣言した。
この時は誰もがヨーク家の勝利を確信していたため、小さい弟のジョージもリチャードも大好きな兄エドムンドに
「僕達も戦場へ連れていって」と懇願していた。
「ジョージ、お前は今はまだ11歳だ、でも来年12歳になるのだね、12歳になればやっと初めて騎士の教育を受けることができるのだよ。来年私の元へ騎士の訓練に来られるように父上に言っておこう。
しかしリチャード、お前はまだ8歳。もう少し待つ必要があるな」と、2人の弟と談笑していた。
そしてマーガレットと共にエドムンドを見つめているベアトリスの側へ来て
「ベアトリス、マーガレット、また直ぐに帰るぞ。春はもうすぐだ。そして今年の春は我が一族にとっても今までとは違う春になるであろう」
「そして我らにとっても……」と最後ベアトリスに呟き、銀の指輪を自分の指から抜き、皆にわからないようにそっとベアトリスに渡した。
それはエドムンドが常にお守りのように身に着けていた3つの銀の指輪の一つで、3つ合わせると
「ラトランド伯爵エドムンド」と刻印されているとわかるものだった。
「エド、これはあなたのお守りよ」とベアトリスが言うと
「君は僕の守護天使だから、持っていてほしい」とエドムンドは小さな声でベアトリスに告げた。
こうしてヨーク公リチャードとエドムンドはラッパの合図と共に旅立っていった。
ところで、ヨーク家の軍は2つに分かれる必要があった。敵軍マーガレットを挟み撃ちにするのだ。
ソールズベリー伯とウォリック伯も計画を練り、ソールズベリー伯はヨーク公リチャードと、そして息子ウォリック伯はエドワードと合流することとした。
セシリーの一族の中でヨーク公リチャードの側近くに仕えているジョン・ネヴィル(セシリーのとっては甥に当たるが彼の父とセシリーは腹違いの兄弟)の勧めもあり、まずは一旦ラビィ城から130kmほど南東(ロンドンから305km程上部の)のウェークフィールドにあるサンダル城へとヨーク公リチャードとエドムンドは馬を走らせた。
そこはカレーからは約500kmという遠方ではあったが、船で近い海岸まで移動してから馬で到着したソールズベリー伯も合流し、サンダル城にてスコットランドから移動してくる王妃マーガレットを迎え撃つことにした。
エドワードも途中からは船に乗り、ウォリック伯の待つカレーへと急いだ。
そしてついに薔薇戦争の中でも熾烈な、そしてヨーク家運命のウェイクフィールドの戦いへと突入するのだった。
1460年、運命の12月30日はすぐそこまで来ていた。
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