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【第1章】幼き3人の姫君達
その10✤アリシア---妹のようなセシリアの誕生
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さて、その頃アリシアとベアトリスはどうしていたのだろうか。
マリーが4歳でまだ両親とエノー伯爵家の居城であったケノワ城で暮らしていた頃、アリシアはベアトリスと隠れるような生活を余儀なくされていた。
馬車に乗って逃げた先の、今度は小さな運河に囲まれた屋敷で、以前の森の中の屋敷で仕えてくれていた女官達が数人戻ってきたところを見ると、あの男達がベアトリスへ危害を加えるつもりだったのかどうかはわかないのだが、それでもベアトリスは以前に追ってきた男達に見つかることを極度に恐れていた。
そして7月の中旬の過ぎたある日、ベアトリスはついに赤ちゃんを産む。
実はアリシアの誕生した日は7月22日だったことは、ロザリオを入れる白い薔薇の刺繍が付いた袋に書かれているのだが、実はベアトリスの赤ちゃんが誕生したのもなんと同じ7月22日で、アリシアのみならず、女官もそしてベアトリスもこの偶然にはとても驚いてしまった。
「この子は思ったより早く生まれてきてしまったのね……でも誕生した日が全く同じだなんて、あなた達はなんだか本当の姉妹のようね……」と、ベアトリスは感慨深げに言い、
「この子のお姉様になってくれる?」とアリシアに聞いた。
赤ちゃんを見た時から、愛らしさにうっとりしていたアリシアは
「ええ、もちろん」と答えた。
そしてベアトリスはアリシアに聞く。
「名前はなんとつけましょう」
実はアリシアには既に想像していた名前があったのだが、それはベアトリスに言えないままだった。
するとベアトリスがぽつんと言った。
「セシリー……」
側にいる女官達が息を飲むのがわかった。
一瞬の静寂の後、ベアトリスはもう一度言う。
「セシリア……セシリアはどうかしら?」
なんということか、実はアリシアの望んでいたのはまさにその名前だったのだ!
自分が持っている木のお人形---どうやら自分の実母の名前が付けられたお人形---を前の屋敷に置いてきてしまい、再び女官が持ってきてくれたのだが、そのセシリーの名前と同じで、そして今現在の自分の呼び名になっているアリシアともよく似た響きのセシリア……そう考えるとセシリアはまるで自分の分身なのではないかというような気持ちになり、幼い頃からずっと親族がいない寂しさを味わってきたアリシアには、セシリアは本当に自分の妹だと思われて仕方なかった。
また、ベアトリスの美しい髪は栗色だったが、セシリアはやはりブロンドだった。
アリシア自身は髪も淡いブロンドだったのだが、セシリアの髪の色も自分に近いように感じていた。
そしてセシリアの目は、これまた不思議なことにアリシアの淡い目の色と似た目の色をしていたのだ。
生まれてすぐに屋敷の中のとても小さな礼拝堂で洗礼式を済ませ、生後3ヶ月が過ぎた頃、ベアトリスは女官達にお願いしてセシリアのロザリオと、そしてロザリオを入れる小さな布の袋を用意させる。
その袋にはもちろん彼女の誕生した月日と、そしてやはり薔薇の花が描かれていたのだが、それは少し変わった薔薇だった。その薔薇は白と真紅の両方の花びらを持っていたのだが、アリシアは未だかつて、こんな2種類の色がある薔薇の花というのは見たことがなかった。
「白薔薇と赤薔薇が一つになると、こんなにも美しいのね……」ベアトリスがそう呟いて哀しい表情をする意味は、当時のアリシアには何故なのか、それもまるで全くわからなかったのだ。
Copyright(C)2022-kaorukyara
マリーが4歳でまだ両親とエノー伯爵家の居城であったケノワ城で暮らしていた頃、アリシアはベアトリスと隠れるような生活を余儀なくされていた。
馬車に乗って逃げた先の、今度は小さな運河に囲まれた屋敷で、以前の森の中の屋敷で仕えてくれていた女官達が数人戻ってきたところを見ると、あの男達がベアトリスへ危害を加えるつもりだったのかどうかはわかないのだが、それでもベアトリスは以前に追ってきた男達に見つかることを極度に恐れていた。
そして7月の中旬の過ぎたある日、ベアトリスはついに赤ちゃんを産む。
実はアリシアの誕生した日は7月22日だったことは、ロザリオを入れる白い薔薇の刺繍が付いた袋に書かれているのだが、実はベアトリスの赤ちゃんが誕生したのもなんと同じ7月22日で、アリシアのみならず、女官もそしてベアトリスもこの偶然にはとても驚いてしまった。
「この子は思ったより早く生まれてきてしまったのね……でも誕生した日が全く同じだなんて、あなた達はなんだか本当の姉妹のようね……」と、ベアトリスは感慨深げに言い、
「この子のお姉様になってくれる?」とアリシアに聞いた。
赤ちゃんを見た時から、愛らしさにうっとりしていたアリシアは
「ええ、もちろん」と答えた。
そしてベアトリスはアリシアに聞く。
「名前はなんとつけましょう」
実はアリシアには既に想像していた名前があったのだが、それはベアトリスに言えないままだった。
するとベアトリスがぽつんと言った。
「セシリー……」
側にいる女官達が息を飲むのがわかった。
一瞬の静寂の後、ベアトリスはもう一度言う。
「セシリア……セシリアはどうかしら?」
なんということか、実はアリシアの望んでいたのはまさにその名前だったのだ!
自分が持っている木のお人形---どうやら自分の実母の名前が付けられたお人形---を前の屋敷に置いてきてしまい、再び女官が持ってきてくれたのだが、そのセシリーの名前と同じで、そして今現在の自分の呼び名になっているアリシアともよく似た響きのセシリア……そう考えるとセシリアはまるで自分の分身なのではないかというような気持ちになり、幼い頃からずっと親族がいない寂しさを味わってきたアリシアには、セシリアは本当に自分の妹だと思われて仕方なかった。
また、ベアトリスの美しい髪は栗色だったが、セシリアはやはりブロンドだった。
アリシア自身は髪も淡いブロンドだったのだが、セシリアの髪の色も自分に近いように感じていた。
そしてセシリアの目は、これまた不思議なことにアリシアの淡い目の色と似た目の色をしていたのだ。
生まれてすぐに屋敷の中のとても小さな礼拝堂で洗礼式を済ませ、生後3ヶ月が過ぎた頃、ベアトリスは女官達にお願いしてセシリアのロザリオと、そしてロザリオを入れる小さな布の袋を用意させる。
その袋にはもちろん彼女の誕生した月日と、そしてやはり薔薇の花が描かれていたのだが、それは少し変わった薔薇だった。その薔薇は白と真紅の両方の花びらを持っていたのだが、アリシアは未だかつて、こんな2種類の色がある薔薇の花というのは見たことがなかった。
「白薔薇と赤薔薇が一つになると、こんなにも美しいのね……」ベアトリスがそう呟いて哀しい表情をする意味は、当時のアリシアには何故なのか、それもまるで全くわからなかったのだ。
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